奥空アヤネの先輩と先輩でない男   作:Bar_00

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「時間は無情で、誰も待ってはくれない。」
- サミュエル・バトラー





6.「もう一つのレジスタンス(2名)」

 

 

区立アビドス中学校は昔のアビドス高校に従する形で創立された。

 

アビドス中学校は今や廃れていく最中だった。その立地の悪さから生徒は次々に転校し、数十人まで減っていた。

 

出席率も悪い。ブルーレイを授業とすれば点数は付くし、出席する意味はなかった。籍だけ入れている人がほとんどだった。出席者は片手で数えられた。数年もすれば、おそらくは廃墟となる。

 

アビドス中学生徒会は二人しか属していない。一人は前地リクだ。彼は出席する唯一の中学三年生であった。

 

前地リクは生徒会長として仕事人のように日々校内を清掃し、───それを見る人が殆ど居ないが───、そして砂漠化を研究していた。

 

かつてあったオアシスはどこに消えたのかを思考し、砂漠化が進むアビドス砂漠に一人植林した。

 

複数の測定により、多くの状況を定期的に測定し、砂漠化のメカニズムを分析した。

 

昔のものから最新のものまで論文を読み漁り、アビドスでの日々を数値と共に過ごした。

 

彼の性はまさに研究者であった。

 

アヤネは入学から前地リクが失踪するまでの一年間の中で、最も多くの時間を共有した。生徒会役員の一人だった。

 

入学式の式典で、前地リクは入学生に言った。「私はアビドスを復活させたい。」と。幾つかの夢想を語った。

 

できるはずがない、入学生は口を揃えてぼそぼそと言った。彼は言った。「私は本気だ。」

 

彼は「興味があったら生徒会室においでね」と言い、素早く入学式を終えた。私はそこに行った。

 

 

幼馴染のセリカと中学校を別にしてアビドス中学校に来たのは、彼の噂を聞いたからだった。

 

彼はアヤネの幼稚園で、先輩クラスに属していた。その幼稚園にはセリカもいた。

 

アヤネとセリカは交流会で遠目にリクを見たことがあった。絵本に夢中な彼は、もちろん性別の違いによる距離もあって、私たちに興味がなかった。

 

アヤネとセリカは同じ小学校に通い、彼はまた別の小学校に通った。

 

彼は中学の生徒会室でアヤネと会った時、初めましてと言ったが、アヤネもまた初めましてと言った。

 

 


 

 

11/21

 

その日は、冬にしては珍しい。雲一つない青空だった。太陽は燦々とアビドスを照らし、その日は手袋が要らなかった。

 

その日はアヤネの誕生日で、先輩が家庭科室で、パフェを作ってくれた。そして、数十冊もの共有したい文庫本も。

 

幾つかは本当に面白いお下がりで、ほとんどは今話題の本で、()()未読のものだから、見せてほしいと言ってきた。

 

「先輩が見てから渡せばいいのに」、と言って、二人で笑い合った。

 

そして量の多さについても冗談を言った。

 

「こんなに持ち帰れませんよ」

 

「アヤネに会えたのは、奇跡みたいなものだね。その分だけ送りたかったんだ。」

 

「じゃあ、これからもっと本が多くなっちゃいますか?」

 

「ふふ、なかなかプレッシャーを掛けるね…。」

 

そんな日が訪れる事はないというのに。笑い合っていたのだ。

 

 


 

 

秋が終わり、冬が始まっていた。太陽はすぐ落ちて、夜が長くなった。雪が降るようになった。

 

砂漠化の実地研究は気候の影響で中断された。

 

二人で室内を過ごすことがほとんどとなり、仲を更に深めていった。セリカには先輩のことを教えなかった。ただ存在を仄めかし、アビドス高校に入るまでは独占しようとしていた。

 

 


 

 

「人間は現象に原因を見出す、システム化能力を持っている。認識可能な規模を超えた現象のシステム化は…人間は神を認識する。」

 

「俺は、ちょうどイースターに生まれた。少なくとも書類上は。信じられるか?復活祭(イースター)は移動祝日だが、その日にちょうどだ。」

 

「俺は神の万能性を信じない。幽霊も魔法も、科学によって理論化できるものだと信じている。克服できるものだ。ただ───これは…」

 

「俺にはヘイローが無いんだ。」

 

 


 

 

キリストは

神のかたちでありながら

それに固執せず

自らを空しくした。

 

- フィリピの信徒への手紙 2:6–7

 

 


 

 

12月25日。クリスマス。外は雪がちらつき、街灯に照らされる雪の結晶が静かに舞い落ちる。冬特有の冷たい空気が校舎の廊下に忍び込み、アビドス中学校の古びた木の床は冷たく、足先まで寒さが届いた。

 

太陽は昼前に雲間に隠れ、あっという間に落ちた。長く静かな夜が街を覆い、雪の反射で微かに明るさを帯びた外の景色を、窓越しにぼんやりと眺めていた。

 

私は生徒会室の机に向かい、手元の文房具や書類を整理していた。そこに置かれた小さなクリスマスの飾り、赤と緑のリボン、いくつかのキャンドル、それだけで室内は暖かい雰囲気を漂わせている。

 

でも、心の奥では期待と不安が入り混じっていた。今日もまた、先輩と一緒にこの空間で過ごすはずだった───それをずっと楽しみにしていたのだ。

 

スマホを手に取る。画面には先輩の名前が表示されている。送られてくるメッセージを、何度も何度も確認した。

 

「やるべきことがある。」

 

その文字を見た瞬間、私は胸がきゅうっと締めつけられた。いつもの軽口や冗談ではなく、冷静な文字列。

 

時計の針は刻一刻と進む。私は息を殺して待った。静かな生徒会室の中、共に自作した暖房のかすかな音だけが聞こえる。

 

雪の積もった校庭の向こうで、子どもたちの声や遠くの車のエンジン音も、今は届かない。

 

心の中で、「きっと来る」と思いたかった。胸の奥には、嫌な予感も芽生えていた。やっ、とドアを開ける姿が見たかった。

 

時間は過ぎ、返信に既読はつかない。呼吸を整え、机の上の小さな交換用のプレゼントに目を落とす。手に触れたその感触を味わう。

 

窓の外、雪は静かに降り続ける。生徒会室から発せられるオレンジ色の光が、グラウンドに積もった白い雪に反射して、まるで夜空に無数の星が降ってくるように見えた。

 

私はそっと目を閉じ、深く息をついた。

 

「先輩…」

 

言葉はそこで途切れた。返ってくるはずの声はない。静寂だけが、冷たい冬の夜を支配していた。

 

そして、私はそこで初めて、自分がどれだけあの人に依存していたかを痛感する。孤独、喪失感。

 

それらが、重く胸にのしかかる。クリスマスの祝福も、雪の美しさも、今は全て遠いものに感じられた。手元の恋愛小説をぎゅっと握りしめ、私はそっと呟く。

 

「…何で、連れていってくれなかったんですか」

 

外の雪は止むことなく、夜はさらに深まっていった。その予感は当たる。彼は帰ってこない。翌日、また翌日にも。遂にアヤネは生徒会室を出た。

 

返信は無い。既読もない。永遠に。

 

生徒会室の飾り付けは、誰にも片付けられない。

 

 


 

メモ: 相関関係12/24発見

 

アビドス砂漠、砂嵐、周期と規模が変?

 

記録済みの季節毎の風速、砂の状態、太陽放射の強さ。発生に必要なエネルギー量、簡易しきい値に満たない年あり。しかし発生。←しきい値の誤り?

 

自然現象ではない人為的?それぞれの発生周期と規模が比例。ハズレ値は5年前と13年前だけ。

休憩期間?機械、生き物のサイクル。何の為?

 

周期が空き過ぎている。いままでにないほどに。どうにかする必要がある。いつ起こるか分からない。暗闇の中で死ぬ。誰かがやらなければ。その為に俺は男性という儀式要素を持つのか?

 

参照: ここ二十五年の資料。

 

 

 

 

 






「自然は常に簡潔な法則に従う。」
- アイザック・ニュートン



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