「ギルガメッシュ王」
ワタシの呼びかけに、アーチャーのギルガメッシュは驚愕と嫌悪と珍獣を見るような顔と、レモンを口に含んだ時の表情をすべて足したような顔で返した。すごい顔芸じゃんね。
「……なんだ?」
地に響くような、不機嫌が形になったような声音。しかし、ワタシはここで引くわけにはいかないのだ。
こんなお昼時、食堂でスパゲティに舌鼓を打っていたところ悪いとは思う。思うが、これは神霊として、非常に重要なことなのだ。
「あなたが神を嫌っているのは重々承知です。ですが一つ、相談をお願いしたいのです」
「断る。誰が好き好んで神の裁定に口を出すものか。そうさな、相談相手が欲しいのであれば太陽のにでも頼むがいい」
「いいえ、あなたが適任なのです」
たらい回しにされまいと食い下がる。
「ワタシの真名は、偉大なるザヴァングなのです」
「……偉大とは、大きく出たものだな。我の先達として、それなりの敬意こそ払うが……神らしくこの我に頭を垂れよ、とでも申すつもりか?」
ギルガメッシュが殺気立った。その殺気に当てられてか、数名の戦闘系サーヴァントが身構える。
しかし、それでもだ。神霊として、これだけは聞かなければいけない。
「いいえ。威厳というのは、どうしたら身につくのですか?」
「…………は?」
時は、しばらく前にさかのぼる。
食堂でエミヤ謹製の紅茶をキメていたときのことだ。
「あなたって、神霊なのに威厳ってないのよね」
相席していたメディアさんが、そんなことを言い出したのだ。我、神霊ぞ?
神なのに威厳がないとはこれ如何に。天草四郎退去事件こそあったものの、その後は何も問題を起こしていない。むしろ神秘の獲得もあって、素材収集に出られるようになったくらいなのだが。
「……それ、ギリシャの女神に同じこと言ってみてくださいよ」
「絶っっっっ対に嫌よ」
「ワタシ、結構頼られてると思うのですが。そう、頼られるというのは信仰と同じなのでは?」
素材周回、子供の相手、細かな備品の手入れやスタッフの手伝いまで幅広く。
おかげでダストンとかソリアとも仲がいい。ムニエルはたまにお菓子をくれるので好きだ。あれ、あいつワタシのこと子ども扱いしとらんか?
「まあ、間違ってはいないわね。でもそれって、威厳があるのとは関係がないんじゃないかしら」
「まさか、そんな馬鹿な……」
ショックで紅茶を取り落とす……前に、テーブルに置く。
「……では、ギリシャの神々は威厳があると?」
「意地悪な質問はやめてくれないかしら。確かに私の師匠に威厳があるかといわれると、言葉に窮するところはあるけれど……」
「神話ではオデュッセウスを誑かしてズッコンバッコンしていたのに」
「その話はやめなさい」
そんな師匠でも威厳があるなら、ワタシにもちょっとくらい威厳とかないだろうか。
いや、他者を妬んでも意味がない。他人を下げたところで自分が上がるわけではないし、そんなことをする奴こそ程度が低いのではないか。反省しなければ。
「では、出会った頃のイアソンにも威厳があったのですか?」
「なんで、あなたってたまに人の嫌がる部分を的確に突くのかしら……。あってほしくなかったわよ」
そんなこんなで、分からず終いだった。
「……威厳って、結局何でしょう?」
「と、いうことがありまして。威厳に満ちていると評判なギルガメッシュ王に相談に来たのです」
ワタシの説明、そんなに面白かっただろうか。
ギルガメッシュは肩を震わせ、笑いを抑えている。もう抑えずに楽になっちゃっていいと思うよ。
プルプルと震える手でフォークを皿の端に置いてグラスに手を伸ばし、ワインを呷ってむせ返った。
「ックク、神霊が、威厳か……」
小声だが、キッチリ聞こえている。流石にちょっと失礼なんじゃないですかね。イシュタルあたりならこれだけでも致死性の呪いを飛ばしそうだ。
ただ、それに自分を選んだところが琴線に触れたのか、なんだか先ほどとは打って変わって機嫌がよさげだ。
「なるほど、その目端の良さは誉めてやろう。気が変わった、少しばかり付き合ってやる。食い終わるまで待て」
ギルガメッシュの向こう側、厨房でエミヤが肩を震わせている。下手に笑うと財宝が掃射されるのがわかっているだけに、あちらは堪えるのに必死だった。
ブーディカさんが食器を下げてくれて空いた席に失礼する。
「ザヴァングといったな。早い話が威厳というものは尊敬と畏怖を引き起こすものだが……我と貴様では性質が違いすぎる。我は尊敬はもちろんだが、貴様と違って畏怖される存在でもある」
「畏怖される」
「そうだ。貴様の行いは耳に入ってくる。雑種に施し、授ける行為は尊敬を集めることはあれど、畏怖を覚えることはあるまい」
つまり、私は前者はあるが後者はないということか。
畏怖される、というのはちょっとイメージが湧かない。畏怖というのは、つまり近寄りがたいアレだ。
「そうさな。そもそも貴様は威厳を求められる類ではなかろうよ」
そう言って、グラスに残っていたワインを飲み干した。
「あの女狐に何を吹き込まれたかは知らんが、神というのは求めてくる以上に求められる存在だろう。貴様を崇める連中は今の貴様を求めているのだ、無理に変わる必要もなかろう」
「そんな……役に、立たなかった……」
「貴様、存外失礼だな? いや、神にしては礼儀正しい方か」
どことなく呆れた様子を醸しながら、ギルガメッシュは席を立ってどこかへ行ってしまった。
ただそれでも糸口はつかめた気がする。敬意と畏怖、敬意はいつもの自尊心を満たすルーチンでたぶん集まっている気がする。あとは畏怖である。
「あー、お節介だとは思うがね。君はそのままでいいのではないか?」
厨房から出てきたエミヤが、ワタシの前に紅茶を置いた。
「これはどうも。とはいっても、現代の神格にもトレンドがあるのですよね。兵法も威厳がないということを聞かない、とも聞きますし。原始人とは違って、現代人は同格と見做せますからね」
「……なんだ、唐突にすごいことを言い出すな君は」
ワタシは、自分の性格がいいとは思っていない。どころか非常に性格の悪い話だが、原始人は格下――動物だと思っていた。
確かに同族ではあったものの、思考能力が明らかに違うのだ。知識や考え方を覚えることはできるが、新しいことを思いつく能力に乏しいというのだろうか。教えたことは確かにすぐ覚えたし、俺よりもうまく扱った。しかし自分たちで新しいものを作ることは稀だったし、それも既存のパッチワークだと分かるレベルのものがほとんどだ。確かにたまに、ウッソだろお前……みたいなものは出てきたが、まず偶然の産物だった。
おそらくそれは、現生人類が登場してここまでの時代のほぼすべてが石器時代だったのと同じ理由だ。発想力というのは、どこかのタイミングで人類が進化することで手に入れた能力なのだろう。
俺の時代、俺の種族は、俺以外に発想力を持つ個体がおそらく存在していなかった。だから与え続けるだけで神として祭り上げられるに至ったのだろう。
「頭の出来が違いすぎたので、仕方ないのです」
もらった紅茶を口に含み、香りを楽しむ。これもおそらく、飲み下して終わりだ。
匂いがする、味がする、おいしい。以上。それをこうして楽しむという発想ができる個体はほぼいなかった。
「けれど今の時代は、ワタシと同格かそれ以上の人々がいますから。神というレッテルが貼られているのに、人に劣っていたら格好がつかないじゃないですか」
ハッキリ言って今の自分は謎の権能と腕力しかない存在だ。だからこそ、何か支えになるものが欲しい。
尊敬が、認証が、肯定が、評価が、ほしい。
そんな言葉に、エミヤは大きくため息をついた。
「……なるほど。そんなもの、とうに持っているじゃないか。胸を張りたまえよ、君はカルデアの一員だろう?」
謎丸風味は題材がかみ合わないとむつかしすぎて無理です
働いてるときは次々案が出るのに、帰宅すると忘却するタイプのカマソッソ
書き始めが出てこないともう時間がかかって仕方がない……
メディアさんのいう威厳は畏怖方面の意味合いが強いです
理不尽の権化ギリシャ神話出身なので……
真名については天草あたりが真名看破で調べてくれました。ということで
現実準拠の掲示板回について
-
要る
-
要らない