「つまり、当時はいわゆるSDGs社会だったと……」
『そりゃなあ、魚も採ってりゃそのうち枯渇するし。ミールワーム*1は便利だぞ』
食堂から自室に戻る途中。談話室にて、トンチキドラゴンことヴァンとマシュが何やら話し込んでいた。
内容としてはおそらく、生前当時の暮らしや社会構造に関する話だろう。といっても、これと言って特筆するような内容など無いのだが。
精々、何でも食べるミールワームが食糧生産と有機物処理にめっちゃ便利くらいのものである。自分はその気になれなかったが、おやつのように直接食べるやつもいたあたり、食料としてもたぶん消費されてたんじゃないかな……。
果樹を育て、出たゴミでミールワームを育て、育てたミールワームを餌に魚を養殖する。
ミールワームは柑橘の皮以外なら本当になんでも食べるので、木くずや生ごみの処理から魚の餌までこの上なく便利な存在だった。なんならダメになった服を処理するのにすら使えたほど。加えて成虫になっても碌に飛びもしないため、扱いやすさが半端ではない。
糞もほぼ砂のようなもので、死骸とまとめて適当に肥料にすればいいし、無駄になるところが何もない。すごい。
『あと他は、そうだなあ。行政、といってもそんな大層なものじゃないけど、それらの記録は粘土板に刻んでたね。月一で1枚、たまに何かあったら別途で粘土板作って刻む感じで。あと趣味の資料とかも』
「ということは、当時の人々は文字が読めたのですか?」
『うん、文字自体は俺が考えて教えた。元ネタはメソポタミアだから、偉大なのはあっちだけどね。それに、原始人っていうけど思いのほか賢いんだ。発想力っていうのかな、それが無いだけで記憶力はすごくいいし』
「他には……そうですね、あの独特な言い回しなどはなにかそういった文化だったりするのでしょうか」
『あー……、あれに関しては正直反省してるから触れないでもろて。俺のが移ったんだよ、ザヴァングも結局は俺だし。あの見た目で語録使うのはなあ……正直めちゃくちゃ後悔してる。あとあの性癖刻んだあれは完全に風評被害だから。ドラゴンと車が何かしてたとかないんで……。そんなことより俺の見た目、これね
それなりにまじめな話かと思ったら、割とどうでもいい話だった。
そのまま通り過ぎ、自室へ戻るとそこには珍しい来客がいた。
「フォーウ」
フォウくんである。
今まではなぜか遭遇することがなかったのだが、どういう風の吹き回しだろうか。
この犬とも猫とも栗鼠ともつかない謎生物。その正体は災厄の獣なのだが、こうしてみると可愛いもの。正直そんなことどうでもよくなりますね? かわいいは正義だった。
「いらっしゃい。珍しいですね、フォウくんがワタシの近くに寄ってくるとは」
「フォウフォウ」
「何を言いたいのかはわかりませんが、折角です。お菓子でもいかがですか?」
「フォーウ!」
言いたいことはわからないが、どうやら言葉は通じているらしい。
棚からビスケットを取り出し、いくつかに割って皿に並べると嬉しそうにかじり始めた。かわいい。
「急にどうしたのですか、いつも私のこと避けていると思っていたのですが」
そんな問いを投げるが、ビスケットに夢中なのかフォウくんは何も答えない。
カリカリサクサク。フォウくんがビスケットをかじる音をなんとなしに聞いていると、扉がノックされる音。
「どうぞ」
「やあやあ、おじゃまするよ。すまないね、キャスパリーグの面倒を見てくれて」
「ヴォェ!」
「……キャスパリーグ、その鳴き声はいろいろと汚いからやめなさい」
そこにいたのは花の魔術師、マーリンだった。
ワタシをメソポタミアから出禁にした元凶である。だからといって何をするわけでもないのだが、実際に対面すると何とも言えない人を食ったようなものを感じる。
「よし! なぜだかすごく歓迎されていない気がするから、単刀直入にいこうか」
「なぜもなにもないと思いますが、別に何もしませんよ。ワタシは」
フォウくんに視線を向けると、ものすごく嫌そうな視線をマーリンに向けていた。
噂程度には知ってたけど、エグいくらい嫌われてますやん。
「ヴゥゥゥゥ……」
「それはよかった。キャスパリーグ、ちょっと今から大事な話をするから唸るのをやめてくれるかな」
「フォウくん、ビスケットは口の中が乾くでしょう。ミルクはいかがですか?」
「フォーウ!!」
「現金だねえ……」
フォウくんにミルクを用意しながら、マーリンに顔を向けた。相変わらず、彼は胡散臭い笑みを浮かべている。
「どうぞ、フォウくん。……それで、何か御用ですか?」
「それじゃ遠慮なく聞かせてもらおう。……ロマニ・アーキマン」
その名に対し、体が強張った。
次に続く言葉、そして問われる内容。それは、私も答えが出ていない。
「彼の行いに横槍を入れるつもりだったりするかい?」
彼はこのまま放っておけば、すべてを天に返して死ぬ。だからと言って感情に任せてそれを邪魔するのも無責任な行いだ。
どうせサーヴァントは過去から投影された影法師。数多のサーヴァントが集うであろう終局特異点において、ワタシが宝具を放てば、おそらくすべてが解決――否、解消するだろう。そこで死んだところで、サーヴァントは所詮座からコピーされただけの存在なのだから。だから或いは、彼に歩み続ける
「……いいえ。ドクターに生きていてほしいという感情は、否定しません。しかしそれは、彼の覚悟と戦いに泥を塗る行為でしょう。あなたが欲しい答えを返すのは、非常に、それはもう非常に癪ではありますが」
「そうか、それは何より。そこで君に暴れられたら先が読めなくなってしまうからね。ああ、これでも悪いとは思っているんだ。そんな顔をしないでくれたまえよ」
目の前のこいつはまったく悪びれた様子もなく、そんな言葉をのたまった。うっかり拳が出そうだ。
「いやあ、怒らせてしまったようだね」
頭を掻いて、如何にもな『やってしまいました』アピール。感情の機微にも疎いのだろうか。
この短時間、わずかなやり取りで既に彼のことを嫌いになりつつある自分がいた。
流石によくない方向に進んでいると感じているのか、彼はポケットを漁ると一本のリボンを取り出した。
「お詫びと言っては何だが、これを君に譲ろう。君、人理修復の旅の先を知っているんだろう?」
「人理修復後の話ですか。知ってはいますが、それについては何も言いませんよ。あのトンチキドラゴンもおそらく同様です」
「いいや、それでいい。むしろ言いふらすようなら、ここで私が刺し違えてでも君を止めなきゃいけないところだ。さて、このリボンだが……込めた魔術はただの防御魔術だ。強度としては自動小銃を数秒しのげるくらいかな」
そういうと、テーブルの上にそれを置いた。そして、視線をこちらに向ける。
「君の思い浮かべている人物に渡すといい」
「いいのですか? 同僚の死に彼女が罪悪感を感じることがなければ、後の盤面の変化が大きくなるかもしれませんよ?」
「それこそ杞憂さ。カルデアの職員が一人多く助かるくらいなら、抑止力が動くことはないだろう。しかし、見えているのか知っているのか、本当に未来がわかるんだねえ」
マーリンのそんな言葉に、ワタシはここにきて、失態を悟る。
あまりにナチュラルな誘導に、内心で毒突いた。そうだ、この男は現在を見渡す事しか出来ないんだった。
「……いつから気付いていたのですか?」
「それは内緒だよ。さて、怖い保護者が来そうだし、そろそろ私は退散させてもらうとしよう」
そういうと、マーリンはそそくさと撤退していった。
「フォフォフォフォーウ」
ビスケットを平らげたフォウ君もなにやら意味ありげな鳴き声を上げ、その後を追うように部屋から出て行ってしまった。実は仲がいい……というわけでもないか。
その後しばらくすると、廊下からトンチキドラゴンの声が聞こえてくる。
『ザヴァング、思ったんだけどさ。俺ってオリオンとキャラ被ってねえ?』
「そうですか? 珍妙具合なら圧勝だと思いますが」
『ちょっとそれ辛辣過ぎない? 本来の俺ってデカくて結構格好いいのに……』
本来なら一話目で投げるはずのものを無理に引き延ばしてるもんだから、そろそろつらみを感じるお年頃
次回、終局特異点やる予定です。アンケートにあった掲示板回の存在を忘れていたので、実装時と終局特異点後結局見せ場なかったね回の2回くらいやったら次章という流れを考えています。次章からは連載を意識して書くので、ここまで皆勤賞だった淫夢語録はクソデカ当たり判定に引っかからない限りは出てこなくなると思います
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はよ本編書け
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ギャグ回でお茶濁せ