冠位時間神殿にて英霊たちが戦いに身を投じる中、ワタシはカルデアの外延に居た。
少し考えさせられる。
ゲーティア。彼らは永遠を求め、新たな霊長のために今の人理を清算しようとしている。
それが正しいのか、間違っているのか。ワタシにはわからない。
ヴァンと明確に分かたれたことで、理解したこともある。
ワタシは現生人類の神ではない。わかりきっていた話だが、もはや歴史のどこに消えたかもわからない、小さくか弱い生き物の神。
遥か時の果て、人類史の更に前。身長も120センチ程度しかなく、導かれることでしか文明を築くことができなかった霊長に足らぬもの。霊長と認められぬものたち。その神であり、彼らから生れ出たその時代、きっと唯一の霊長。それが俺。
既に俺は人理から断絶し、失われている。
ワタシはその先にいる。永遠を得る手立てがあったなら、ワタシは手を伸ばしただろうか……。
カルデアを破壊しようと魔神柱が迫りくる。しかしその肉体がカルデアに触れる直前に、その気勢が大きく削がれた。まるで粘度の高い液体に取り込まれたかのように、その動きは瞬く間に緩慢になっていく。
神秘溢れる世界を泳ぐ彼らを、科学文明という陸地に叩き上げることができる。
こんな巨大で重厚な体を動かして、形を保って支えられるものかと、現代というテクスチャは否定する。抗うように、緩慢な動きでカルデアに取り付こうとするそれを蹴り飛ばし、排除する。
マスターは放っておいても勝つだろう。数多の英霊に背を押され、今まで積み重ねたすべてを擲ってでも、勝利を掴みに行くだろう。
ワタシのような異物が顔を出してしまうと、何が起こるかもわからない。
来るべき未来に、あるべき結末を。いまここで彼を先導するべきは導きの御旗であり、古びた星図ではないのだから。
食い下がる魔神柱を踏みつぶし、突き崩し、切り飛ばす。大振りで、緩慢らしいワタシの攻撃が面白いように当たる。
どうせこれは八つ当たりだ。死ぬとわかっている人を、助けることができない八つ当たり。
そこまで世話になった相手ではないし、特別仲のいい相手でもない。カルデアの医療スタッフ、それだけだ。
けれど、わかっているのなら助けたいと思うのは自然な心理ではないだろうか。
「うわあ、なんだこれ。……そうか、君か」
「……ドクター。座標が明確な以上、レイシフトで向かうものだと思っていたのですが」
なぜ、直接カルデアの外に出てきてしまったのですか?
「カルデアを守ってくれた人に感謝を伝えるのはそんなにおかしいかな?」
感謝なんていらない。本当に感謝しているのなら、今からやろうとしていることをやめてほしい。
言葉が出てこない。ワタシはこんなにも、臆病だっただろうか。生前に兄弟が死んだとき、俺はどのような顔をしていただろうか。
「……これまでの会話でそんな気はしていたけど、未来がわかるんだね。そうだよ。僕は今からやろうとしていることをやめる気はない」
「止めませんよ。止めていいのなら止めますが」
今、ワタシはどんな顔をしているのだろう。
なぜ、偉大なるザヴァングは顔も与えなかったのだろう。すべてが機械になってしまえば、素知らぬ顔で送り出せただろうに。何も知らぬ顔で、心にもない言葉で、それはお前の役目だと突き放せたに違いない。
「……いいえ、やっぱりやめませんか。ワタシが前に出て、宝具を使えばきっとすべてが解消します。この特異点もろとも、あらゆる全てを消し去って。犠牲は顕現したサーヴァントがすべて座に戻るだけです。手段があるのに、苦しむ必要なんてないでしょう」
だからお前は、喋るんじゃない。他人の覚悟を汚すな。
全ての命には終わりがある。そして、俺たちのそれは終わったはずだ。その続きを享受している奴が何を言っているんだ。もう終わったやつが、どんな顔でそんな言葉を吐き出している。
全てのものは滅びるのだと、身を以て知ったじゃないか。神なんて分不相応な座に祭り上げられたワタシが、他人にそれを求めるな。
求めるな。
施しの神が聞いて呆れる。強欲で醜い本性じゃないか。
ワタシは女神になれない。結局はすべて自分のためだ、だからこんな言葉が口から垂れ流される。
ドクターがどんな顔をしているのか、視線を上げられない。
「苦しいのならやめていいなんて、やっぱり神霊とは思えないほど優しいね、君は。改めて、責任者としてカルデアを守ってくれたことにお礼を。僕はこれからゲーティアを止めに行く」
運命が決まっているなら、行くべき先があるのなら。
至るべき未来に、あるべき結末を。なら、ワタシが見るべき未来は一つだけ。
ワタシが欲しい未来でなくとも、現代を生きる人のために消費されるべきなのだ。
「そう、ですか。いいえ、はい、ワタシの言葉は忘れてください。この一帯はすでにワタシの
だからせめて、あなたの最期にご一緒してもよろしいですか?
「道行の護衛くらいはさせてください。万全の状態でドクターを送り届けますので」
「そりゃ頼もしい。頼むよ、ザヴァング」
私は、永遠を求めない。
思ったよりも時間を食ってしまったから、間に合わなくなったらどうしようかと実をいうと内心焦りがあった。
「貴様の気持ちは理解できる。その貧弱なヒトの拳で、我が体に触れて死ね」
「望むところだ……!」
ドクターが、ワタシを追い抜き前に出る。
「いやいや、そこはちょっと落ち着こうよ。藤丸君」
マスターが、驚いた様子で振り返った。
「玉砕は君らしくない。ここはもう少し、力をためておいてくれ」
「ドクター……なんで。ここには、レイシフト適性がないと……」
ドクターは驚くマスターの横を抜けて、ゲーティアに向き合う。
「ロマニ・アーキマンだと? 貴様……その霊基は……後ろに控えるその、怪物は……!」
「警戒しなくとも、ワタシはただの送迎係ですよ。ドクター、あなたの道行きに祝福を」
「ああ、ありがとう。最後においしいところを持っていくようで悪いけどね」
手袋を外したそこには、一つの指輪。
「十個目の指輪。……まさか」
目を見開くゲーティア。ここまでの道程を口にするドクター。
ワタシは口を開かない。置物に徹して、何もしない。
そしてドクターの、ソロモンの宝具詠唱。ゲーティアの拳が、ソロモンの、ドクターの胸を貫いた。
「訣別の時きたれり。其は世界を手放すもの――
「不思議な話だ。同じ視点を持ちながら、同じ玉座に座りながら、同じ時間を過ごした。なのに僕とお前は正反対の結論に達した」
「これでいいんだ。この選択を、僕に君とマシュが教えてくれた」
ドクターの言葉に、私は耳を塞ぎたくなった。
後に託すといえば聞こえはいいが、残される側のことも考えてほしい。
「これを、愛と希望の物語という」
そうしてマスターとの別れを終えて、ドクターはその輪郭を失った。
踵を返し、ワタシは来た道に足を踏み出す。
「フン、最後まで他人任せの男だった。そこの古き神も同様だ、サーヴァントの居ないマスターに加勢することもないとは。貴様の存在は、今後の再誕における最も大きな障害の一つだった」
「あなたの相手は、そこにいるでしょう。藤丸立香、カルデアのマスター」
振り返り、視線をゲーティアに向ける。
「あなたは彼に負ける。如何な魔神を操ろうと、あなたはここで、彼に負ける」
これは、私の我儘。この再誕の偉業、すべてを台無しにする予言。
汎人類史の結末は、ここで確定した。
「ゲーティア。あなたの運命は決まっていたのです」
ここにいる、ワタシのように。あなたのいる
最後の「私」は誤字じゃないです
大きいもの、強きものと小さくか弱い生き物。そうだね、でかつよとちいかわだね
不安になって調べたところ身長に関しては幅が大きかったので戻しました。後に平均身長が分かったときに覚えていればそちらに合わせます
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はよ本編書け
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ギャグ回でお茶濁せ