超古代の施し系TSオリ主の話   作:全手動創作Bot

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しばらくはマスターサイドです


序章:霊長の境界_02

 先日、異聞帯の切除から帰還してしばらく。次の異聞帯へ赴くまでの少しばかりの小休止。

 どのみち次の異聞帯が海洋異聞帯であるために、シャドウボーダーの改修を行わなければいけないという都合もある。

 

 そんな折、カルデアのマスターこと藤丸立香はトレーニングに励んでいた。

 

 兵士の仕事は大部分が走ること、疲れたまま動くことだとどこかで聞いた気がしたが、今までの戦いでも実際にそうだった。常に急ぐ必要があり、最後には疲れ果てた状態で気力を振り絞り勝利してきた。

 その勝利を僅かでも手繰り寄せるためと思えば、スパルタとケルトの混合訓練などという非常に頭のおかしなトレーニングも耐えられた。

 

 「……いや、やっぱりつらいものはつらいよ」

 

 気がしていただけで、弱音が口から洩れる。

 そんな中でのわずかな休息。休息も結局は肉体を鍛えるトレーニングであるあたり、鍛えることがつらさを忘れるための手段になりつつある。

 

 ゆっくりと瞳を閉じ、そして不意に目を開くとそこはどこか見た覚えのある街の中だった。

 

 公園のベンチだろうか。そこに倒れこんでいた体を起こし、周囲を見回せば、そこにはいつの日か見た日常があった。

 子供が追いかけっこをしている。それを横目に会話をする母親がいる。そのすぐそばを自転車が通り抜け、そして停車している車を見て――違和感を覚えた。……どこか見覚えがある気はするものの、見たことのないデザインだ。メーカーのロゴもない。

 まるで日本の日常風景のよう。しかし注意してみれば、随所に違和感を覚える。

 

 黒髪黒目、身長も割と日本人に近い。けれど顔をよく見れば顔つきが日本人ではない。

 あるいは遠目に見ればおかしくはないが、ある程度注意してみれば誰も彼もがどことなく猫背だ。

 

 極めつけは、誰も声を発していない。

 

 賑やかな景色だというのに、誰の声も聞こえない。それに気づいてから背筋に悪寒が走った。

 自分は何かおぞましい夢を見ているのだろうか。

 

 ベンチから立ち上がり、服についていた埃を払う。

 

 形容しがたい違和感。しかしそれでいて非常に見た覚えのある景色。

 ビルが立ち並び、車が走る。学生らしき集団が並んで道路を歩いている。

 今までのすべてが長い夢だったのではないか、という淡い期待をその違和感が否定する。

 

 「どうなってるんだ……」

 

 誰も言葉を発していない。

 日本文化のように見えて日本人ではない人種。

 また知らぬ間に特異点へ迷い込んでしまったのだろうか。

 

 「ああ、見つけた。無事かい、マスター?」

 

 しばらく当てもなく歩いていると、不意に後ろから声をかけられた。

 

 「エルキドゥ。よかった、なんだかいつにも増して心細くて」

 

 そこにいたのは緑色の長い髪を揺らし、嫋やかな笑みを浮かべる美しいひと。エルキドゥは安心したように立香を抱きしめた。

 抱きしめたまま、耳元で囁くように言葉を続ける。

 

 「マスター、落ち着いて。声を出さないように聞いてほしい」

 「エルキドゥ?」

 「この街にいるのは人間じゃない。人間によく似た別の生き物だ」

 

 エルキドゥの言葉が、違和感を覚えていた思考にカチリと嵌った感じがした。

 そうだ、そういうことなら理解できる。何か言語化できなかった一番の違和感はそれだ。

 

 「どうも彼らには口頭での言語が存在しないらしい。ほら、見えるかい?」

 

 エルキドゥの指し示す先で、学生らしき二人組が向き合って会話しているように見える。

 しかし口はほとんど動いていない。しかしよく見れば、代わりに手元を目まぐるしい速さで動かしていた。

 口頭での言語がないという特徴に、何か引っ掛かりを覚えるが今考えることではないだろう。

 

 「手話を使って会話している……?」

 「そんな中で声でコミュニケーションをとるのは目立つよ。現状、周囲にマスター以外の人間はいないからね」

 

 いつにもなく饒舌なエルキドゥにも違和感を覚えるが、しかし彼/彼女が誰かに成り代わられていたならもうお手上げだ。なるようにしかならないだろう。

 

 「それともう一つ。……見たほうが早いかな、ついてきてくれるかい」

 

 その言葉に促され、ビル群へと足を進める。

 すると徐々に人影がまばらになり、摩天楼を見上げられる場所までくれば群衆どころか人一人いない。

 先導していたエルキドゥが足を止め、周りを見回し建物の蔭へ。そしてしばらく待てば、遠くで何かが崩れるような音が聞こえた。

 その音は断続的に、そして徐々に近づいてくる。金属のぶつかる音、怪物の咆哮、そして誰かが喋る声。

 

 「これは想定外だ。気配を消して。息を殺して、薄く延ばすように。そう、上手だよマスター」

 

 気配を消し、待てばそれが姿を現した。

 飛竜に跨った人影がまるで空を跳ねるように追い縋る相手にハルバードを振りかざす。対する相手はそれを打ち返し、返す刃で飛竜を狙う。

 何やら檄を飛ばしあっているようだが、距離と戦闘音で聞こえない。

 

 数度打ち合ったところで飛竜が鉤爪を振るい、追っていたサーヴァントを蹴り飛ばした。

 事態が膠着した直後、さらにそれは現れる。

 

 唐突に頭上からの襲撃。第三者、それも非常に巨大な影が辺りを覆う。

 

 鬣のある大猿、あるいは獣の特徴を有する巨人。そんな風貌の怪物が、まるで隕石のように降り落ちる。

 エルキドゥが手を回し、体を支えてくれなければ横転していただろう。強烈な衝撃波があたり一帯を大きく揺らした。

 

 『小さい! 愚鈍!! そして弱い!!!』

 

 大地を揺るがすような、低く響く声。その体躯を見上げれば、優に20メートルを超える。

 

 『楽園で争う愚者どもよ! その代償を払う時だ!!』

 

 そして、言葉を操っている。

 巨人が腕を伸ばした。飛竜を掴み、握りつぶす。

 するとそれは見慣れた光の粒子となって空に消えた。おそらくあれはサーヴァントの類だろうと当たりをつける。

 

 「困ったな、まさかバーサーカーまで来るなんて。想定が甘かった」

 「……エルキドゥ?」

 「ごめんよ、マスター。ちょっと荒っぽいけれど、我慢しておくれ」

 

 いうが早いか立香はエルキドゥに横抱きにされ、抱き上げたエルキドゥは即座にその場から離脱を図る。

 視界の先の推定サーヴァントたちがこちらの気配を察知し、一斉に顔を向けるがその陰すら踏ませぬ勢いでその場を離脱した。低空飛行をする形で揺れを抑えてくれたようだが、それでも背後から飛んでくる攻撃を避けるためにアップダウンを連打され、三半規管が悲鳴を上げている。

 

 敵を振り切り、無人の摩天楼を突っ切って、更にその先へ。

 

 駆け抜け、開けたその場所は――遥か空の上。

 

 視線の先には地平が広がり、星の形が明確に視認できるほどの高さ。

 

 「大丈夫かい? マスター」

 「なんとか、たぶん、ちょっと待って……」

 

 エルキドゥの腕から降ろされ、口からキラキラしたものが流れ出そうなのを抑え込むように蹲る。三半規管を鍛えるにはどうすればいいんだろう。そんなことを考えながら、吐き気が収まるまでしばらくかかった。

 

 そしてゆっくりと顔を上げると、そこには港があった。人々が行き交い、帆船から荷物を運び出している。

 ただ……掛け合いは獣染みた鳴き声だが。

 

 その帆船が空に浮かんでいなければ、活気のある港だと思えただろう。しかし現実は非常なり。

 これでもかと異常な光景を視界から脳に叩き込んでくる。今までの特異点や異聞帯とは明確に違う。現代なのかファンタジーなのかハッキリしない世界。いつぞやのロンドン*1のほうがまだ統一性があったぞ。

 

 「エルキドゥ、ここはいったい……」

 「ごめんよ、僕にもよくわからないんだ。詳しい人が来るから少し待とうか」

 

 エルキドゥ曰く、日夜この場所でサーヴァント同士の殺し合いが行われているという。

 しかし妙なことに、聖杯の気配がそもそもない。そのうえで自分が召喚されたのも魔術師によるものではなく、何かのカウンターとして召喚されているとのこと。

 

 聖杯戦争に介入する外部サーヴァントはルーラーであるはずだが、そういった調整もなくランサーのままと謎だらけ。そもそもこれは聖杯戦争なのか、と考えていたところで自分の気配を感じて迎えに来たという。

 その気配察知もこの空の上であるせいか、かなり範囲が狭まっているらしい。それでも半径数キロはカバーできるという時点でさすがは神々の宝具というべきか。

 

 「つまりサーヴァント同士が戦ってるのに聖杯戦争をしてるわけじゃない?」

 「その認識でいいと思う。殺し合いが目的のように見えるね」

 「でも本来なら聖杯戦争で脱落したサーヴァントは聖杯が回収してリソースにするはず……」

 

 冬木の聖杯戦争の話を聞いたとき、そんなことをダ・ヴィンチちゃんが言っていたはずだ。

 どうにも自分には特異点の原因という印象が強いそれだが、元は聖杯戦争という魔術儀式で生み出される万能の願望機。それを使って根源に到達するため、魔術師たちがあらゆるものを擲ってでも手に入れようとする一級品の聖遺物という話。

 聖杯戦争という魔術儀式で聖杯を作り、脱落したサーヴァントをリソースに転用して聖杯を満たすことで願いを叶えるという仕組みだったはずだ。

 

 「ええ、その認識で、合ってますよ。ただこの世界、この時代には、聖杯、という概念がない、ようです」

 

 聞こえてきた声の主に顔を向けると、そこには意外な存在がいた。

 

 「……ティアマト?」

 「はい。母です。母はここにいます」

 

 メソポタミアで僅かに対話した存在。それをもう少し幼くしたような風貌のティアマトが、そこにいた。

 

 「藤丸。あなたの疑問、母が答えましょう。母は物知りなのです。むふー」

 

 それが胸を張り、ドヤ顔をしている。あなた、そんなキャラでしたっけ……?

*1
レディ・ライネスの事件簿




ティアマトってガイア側でしたっけ、違ったら違ったで別の理由ひねり出すので良いのですが。できればガイア側であってもろて……

お気に入り数が1万件を超えていたようで、皆様ご愛読ありがとうございます

最近知ったのですが、お気に入りが伸び切ってると更新直後に減るんですね。それで気づいたのですが、面白くて人気もある小説がなんか途中で急にエタっちゃうあれ。もしかしてこれが原因なのかなと
そんなわけで面白いと思ったら積極的に感想書こうと思いました。私も感想もらうと強欲な壺みたいな顔して喜ぶのでちょっとは効き目がある、といいなあ
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