「さて、何が何やら。御使い殿が儀式への横やりを入れたと言うと、まさか要に手をかけたと?」
大男に対し、小柄な老人が飄々と返す。
大男は今にも殴り掛からんばかりの怒気を発しているが、それでも会話をする理性は残しているらしい。
「とぼけんじゃねえよ爺さん。まだボケてねえだろ」
「よしてくださいバッカス。殴り掛からない理性は評価しますが、万が一その品性のなさが種族全体へ伝播しては困ります」
「ンだとナイア。テメェから先に片してもいいんだぞ?」
一触即発。そんな雰囲気が立ち込め、周りで見物していた群衆も徐々に距離を取り始めた。
「エルキドゥ、何かしたの?」
「僕の主張が必要なら、そうだね。……人違いかな? 召喚されたときにイシュタルによく似た気配を感じたものだから、これはチャンスかと思って」
「あー……」
顎に手をやり、困ったように首を傾げた。美人だからものすごく絵になるな……。
つまり、はぐれとして召喚された直後にイシュタルっぽい気配を感じて、即座に亡き者にしようとしたと。……殺意高すぎない?
何にせよ実際に殺気立って殺しにかかったなら、それはもう言い逃れしようがないね?
「儀式への部外者の干渉はご法度。掟はどうした掟はァ」
「しかし、セモス司祭のいう御使い殿に関しては少々事情が異なる案件です」
「お前も爺の肩を持つのかよクソッタレ」
あちらはあちらでどんどんヒートアップしていっているのだが、肝心のエルキドゥはどこ吹く風といった様子。ティアマトがはらはらした様子で見守るが、残念ながら自分たちにできることは何もない。
「バッカス殿、まず儀式への横やりに関しては戦闘開始後に関する規定はございませんぞ。あくまでこれは、事前の準備期間に対するものですな」
「セモス司祭の言う通りですが、それ以前に御使い殿に関しては当代のザヴァングが召喚しています。よって無関係ではありません」
その割に、話は何かと許されそうな方向へと流れて行っていく。完全に置いてきぼりを食らっている。
しかし、気になるワードだ。当代のザヴァングということは、歴代のザヴァングが居るということになる。つまりハサンと同じような襲名制の肩書なのだろうか。
「ハン、ザヴァングねえ。あいつが起きてるところなんぞ見たことがねえ。が、神官長、事実か?」
「偉大なる方に誓って」
「…………ならいい。そこの御使いに関してはどう対処すりゃいい、殺していいのか、殺したら何かあるのか」
バッカスと呼ばれた大男がエルキドゥを睨んだ。
それに対しエルキドゥが微笑みながら手を振ると、バッカスは青筋を浮かべた。
「それに関しましては追って通達をしますので、正式なものは数日お待ちください。公式ではありませんが、仮に御使い殿に襲撃を受けた場合、当然ながら自衛は許可します。殺害も、同様に」
神官長、ナイアは淡々とそれに対して返答を返した。
そして、視線をエルキドゥに向ける。その視線は『頼むから大人しくしていてくれ』と言っている気がした。
「そうかよ、まあいい。ここは神官長の顔を立ててやる。どうせその頭のおかしな御使い殿はどういうわけか、俺を殺したくて仕方ねえって様子だ」
その言葉はあまりにも正論だった。心当たりがないのに殺しに来た相手を排除できないと思えばこの態度も納得できる。むしろかなり理性的と言っていい。
「うちのエルキドゥが申し訳ありません、何かあったら令呪を切っても止めますので……」
「令呪が何か知らんが、あの化け物の手綱を握ってるのが木っ端かよ。まあいい、期待はしねえし、無理でも責めはしねえよ」
流石にこちらに非があると思い謝罪をすれば、バッカスは毒気を抜かれたようにため息をついた。
この人、さっきからずっと『ならいい』とか『まあいい』と口癖のように言ってる当たり、口と態度に反して実はかなり懐が広いのでは……?
「どのみち俺が最強なのに変わりはねえ。邪魔したな、次会うときは儀式の場だ」
「まったくです。はやくお行きなさい」
去っていくバッカスに対し、しっしとばかりにナイアは手を振った。今にも塩を撒き始めそうな勢いだ。
「……さて、粗暴な輩が失礼しました。セモス司祭、そちらが面会希望のティアマト殿、エルキドゥ殿、フジマルリツカ殿でよろしいですか?」
「ええ、ザヴァングの知人とのこと。少しばかり、粗相をするかもしれませんがご容赦ください」
セモス司祭の言葉に、ナイア神官長は顔を顰める。
「つまり、あなたはそれを理解して彼らをお連れになったと?」
「無論です」
そして彼女は額に手をやり、頭を抱えた。
如何にもそれは面倒ごとを持ち込んだセモス司祭に対するもので、それをセモス司祭も理解している様子。
「何かあった場合の責任は貴殿に問いますので、そのつもりでお願いします」
そして、捻りだすようにそんな言葉を口にする。
「勿論、そのつもりですのでご心配なく。では行きましょうか」
「あ、ちょっと、まって……いいえ、なんでもありません。行きましょう」
何やら感じ取れる不穏な空気。しかし努めてそれを無視する。
それを察してか、ティアマトが手を握った。
「藤丸。この先にあるのは、とても、受け入れがたいものだと、思います。でも、母がいます。不安なら、深呼吸しなさい」
「……ありがとう」
二人の後を追うように、三人で教会に足を踏み入れる。
礼拝堂を通り、中庭を抜け、教皇庁の大聖堂へ。そして促されるままに関係者用通路を通り抜ける途中、それはあった。
どこかで見た覚えのある石碑。それも砕けていない完全なものが通路脇に鎮座していた。
「……フジマルリツカ殿、それの内容については触れないでいただけますか。私の数代前に居たとされる千里眼の保有者が彫ったのですが、その……」
「藤丸でいいですよ。神官長様」
「なるほど、フジマルですか。わかりました。私のことも公の場でなければナイアで構いません」
曰くザヴァングが伝えたとされる、特殊な性癖を満たすようなアレソレが刻まれた石碑で間違いないらしいかった。
実のところ、この時代の文字は読めないのだが、反応的に性癖云々に関しても彫られているらしい。
ただこれカルデアのザヴァングというか、ヴァンは全力で否定してるんだよな……。
「中々愉快な石碑でしょう?」
「セモス司祭、ソレに触れるのはおやめなさい。割と教会の威信に関わる内容なのですよ」
「威信など、あの方は気にしませんよ」
「偉大な方が気にしなくても、我々がするのです」
いい加減にしなさい。そんな副音声が聞こえた気がした。
「あの、ところで気になっていたのですが、偉大な方とザヴァングは別なんですか?」
「フジマル殿も稀人でしたね。そういった疑問に答えるのも我々の役目ですので、遠慮なくお聞きください」
ナイアさん曰く、偉大な方というのは知識を刻んだ無数の粘土板を残し、この文明を立ち上げた人物を指している。対してザヴァングはその偉大な方の後継であり、有体に言えば現人神に対する巫女のようなものだという。
「それだと、この偉大なるザヴァングというのは?」
「それは初代ザヴァング、或いは偉大な方のどちらともつかないものを指しておりますな。共同だったのか、あるいは忘れられてしまったのか」
「しかし驚きましたね。そこに気が付く者は中々いないのですよ、嘆かわしい話ですが……」
ナイアは石碑の足元にあった目隠し布をさっと被せ、それを隠した。
「胡乱な部分はともかくとして、予言は人目に触れさせるべきではありませんから。さて、ザヴァングの元へ向かいましょう」
強引な話題変更。セモス司祭が面白そうに笑っている。
ナイアは足早に先を急ぐ。
「マスター。あの石碑、意図しているかはわからないけど魔術儀式だよ」
「さっきの石碑が?」
「セモス司祭が言っていたように、偉大な方とザヴァングを同一視させるものだね」
エルキドゥが言うには想像以上にすごい代物だった。
しかも、それはきっと成功している。なにせカルデアに居るザヴァングの真名は『偉大なるザヴァング』だ。偉大なものでも、ただのザヴァングでもない。
正体不明なサーヴァントの詳細がいろいろと判明していくこの感じは興味深くて面白い。
そう、思っていた。それを見るまでは。
「こちらが、当代のザヴァングです」
ナイアさんがそう言って指したのは棺で眠る、猿の面を被せられた何か。その、あまりの悍ましさに体が強張り、息を飲んだ。
手足はなく、首から下、胸から体が大きく切り開かれ、心臓以外の臓器が見当たらない。まるで器のような様相のそれを満たすように、血ではない何か、見るからに不吉な赤黒い液体を湛えている。心臓が鼓動を刻むたび、その液体に波紋が揺れる。
一見して眠っていると認識したが、瞼が開き、その視線がこちらを向いた。
「おはようございます、お加減はいかがですか?」
「…………さいあく」
ナイア神官長の問いかけ。
掠れた、小さな声だというのに、それが嫌に耳に残る。
「珍しいですね。ようこそ、お客人。すまないね、無様な姿で……」
生贄、或いは人柱。そんな単語が脳裏をよぎる。
「それでいて、名乗れる個体名はなくてね。ザヴァングと、呼んでくれるかな」
カルデアに居る姿からは想像ができないほど、凄惨な姿の彼女がそこに居た。
メタトロニオスがまだ途中なのですが、なんかすでにメタトロンの存在と私がやろうとしていた内容との被りを察してしまっていてあぁ^~……
というわけで既に書いてしまった内容ですが、宝具名をエ・ドゥル・テムンからクムシュ・トゥル・テムンに変更します。あと空の大地の数は現在が25個目なので24に修正しました
内容も予定から大幅変更しますが、ペースは変わらんと思います
問題はモチベじゃないんや。体力と気力と時間なんや……
正当防衛から人違いに修正しました
細かな答え合わせは次回します