「皆さん、マスターがレムレムしているからと言って押しかけてこないでください!」
意識を失ったマスター、押しかけるマスターLove勢、絶叫するマシュ・キリエライト。そして延々とマスターの頬を叩き続けるフォウくん。時とともに状況は混沌としていく。
どこかの特異点に夢からレイシフトしてしまっただろうマスターのマイルームにて、マスターの近くという物理的な居場所を巡る熾烈な争いが繰り広げられていた。
「しかし、マスターが意識を失ったと聞いて心配で食事ものどを通らず……」
「安珍様が危篤と聞いて、ここはわたくしが看病せねばと……」
「マスターが倒れたと聞いて、護衛は必要かと……」
などなど。
迫りくるサーヴァント達をマシュが捌き、追い出していく。見世物としてはなかなか面白い。静謐ちゃんはちょっと、ほかのスタッフの危険が危ないからごめんね……。
そんなこんな。ダ・ヴィンチちゃんが持ち込んだ機械がマスターのバイタル変遷を描く中、私はその部屋の端で椅子に腰かけお茶をしばいていた。
「ところで、大人しくしていたので気にしませんでしたが……ザヴァングさんは何をしているのですか」
「お茶飲みながら見物」
「そんな呑気な!?」
正直に白状するなら、マスターの現状に対する心配はほとんどない。人理焼却を阻止して異聞帯を3つも剪定し、表向きだけでも五体満足でいる信頼というのは厚いのだ。
確かに、マシュが置いて行かれているというのは不安要素だ。けれどトレーニング中だったのを加味するに、着込んでいた簡易召喚に必要な礼装は持ち込むことができているだろう。カルデアからも数名のサーヴァントがどこかに召喚されているあたり、彼らはマスターの元に居ると見ていい。それを考えれば戦力的な不安もあまりない。
加えて精神的な攻撃に対しては廃棄孔に後方彼氏面巌窟王が陣取っているのだから、現状で心配する要素はそれこそゼロだろう。
「呑気で良いんですよ。それこそマスターはきっと平気ですから、一番守るべきは物理的な肉体だと思うんですよね。今見た限りだと貞操とか」
その言葉に少しばかりの気まずさを醸しながら、マシュが顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。まさか……。
プライバシーに関わるので言及はしないが、もしやこのマシュはマスターと夜のデンジャラス・ビーストしていたりするのだろうか。実はビースト適性を持っていたりするのだろうか。流石にLove勢も夜間は気を使って距離を置いているようだし、真相は闇の中だが。
「確かにそうなのですが……」
言い淀むマシュ。察する私。
「よし、マシュがそう言うなら重湯でも作ってこようか」
「やめてください!」
「いや冗談です冗談……」
カルデアに来て以降、初期のやらかしでイメージが固まってしまったのだろう。少し空気を換えようとしたのだが、予想以上の全力で拒否されてしまった。
それもあってマスターに構われるせいか、Love勢からの視線はやや冷たい。まあ、ある意味では危険物もいいところなので対応としては非常に正しいのだが。
こういうとき、実情がそれに見合うかは別として古い神性という肩書の便利さを実感する。あの頼光さんですらこんな、なんちゃって神霊に一目置くのだから肩書というのはすごいものだ。
「なんにせよ、問題になりそうな要素はマシュ、あなたが同行していないくらいのもの。それでもマスターには常に自分がついていないと、と思うほど信用がないわけでもないでしょう?」
だから信じて待つくらいしか、やることがないんですよ。
そう言って、煎茶を口の中に流し込む。美味。
「なんといいますか、ザヴァングさんはマスターに好意を持っている方々の中でも毛色が違うのですね?」
「自分の伴侶に、自分の何かに、という意味であれば自分のマスターだと思っていますよ? でもあなたがまず居ますし、私は一歩引いて甘やかすくらいの立ち位置でいいかなと」
自分の好みというよりも神格の影響だろうとは思うのだが、人が喜んでいるのを見るのが単純に好きなのだ。
どちらかというと使命を果たすとか、そちら方面のほうが自分の人格としては向いている気がするが。神として何かをした記憶がない以上、考えても仕方がない話だ。
「なるほど、都合のいい女というやつですね?」
「おうこら誰だマシュにそんな概念教えたやつは」
「マーリンさんです」
それは被っていた猫がズレ落ちる程度に衝撃的な発言だった。
おのれマーリン。許さんぞ、後でランスロットをけしかけてやろう。
「ともあれ、マシュとマスターの間柄を否定することはありませんから安心してください」
「いえ、私とマスターはそのような関係では……」
「子供はいつごろになりそうですか?」
その言葉に、顔を真っ赤にしてマシュは黙ってしまった。かわいいね。
「ザヴァングさんにはそのようなお相手はいらっしゃらなかったのですか?」
仕返しとばかりにマシュがそのような話を振るが、残念だったな。原始人相手に恋愛なんてできるとでも?
というか君、私が男だったこと忘れとらんか?
「居ませんでしたが、強いて言うならそうですね……」
尻を追いかけてくる奴なら居たな。
もう大分、原始人生活に慣れたころだったか。年齢的には20を過ぎたくらいに生まれた集落の子供で、やたら懐かれていた覚えがある。
小さく、賢いものと呼ばれていたっけな。尻を追ってきたのは身長差で視線が向いていたのか、はたまた何か拗らせたホモだったのかはわからないが。
「懐かれることはありましたが、あなたとマスターのようにこう、なんて言いますか。そういう間柄の個体はどうしてもいませんでしたね」
「私と! マスターは!! まだ清い間柄です!!!」
顔を真っ赤にして反論するマシュ。ニヤニヤする私。
またまた、そんなこと言ってハロウィンじゃあんな衣装でマスターの横に居たくせに。……永久に擦れるなこのネタ。
改めて夏とハロウィンは私も気を付けよう。何か不思議な力*1でタガが外れておかしな行動をするかもしれない。*2
「なんですかその顔は」
「いえ、マシュはかわいいなと。まだ、そう、まだ、ね……」
「ザヴァングさん!?」
マシュはかわいいですね。彼女の混乱混じりの羞恥に染まった表情からしか摂取できない栄養がある。
しばらく彼女をからかっていると、不意に部屋の戸が開いた。
「まだやっとるのかね君たちは。もういい時間だぞ」
「新所長もマスターのお見舞いですか?」
そこにいたのはサンドウィッチを乗せたトレーを持ったゴルドルフ所長。時計を見ればそろそろ夜中に差し掛かる頃合いだ。
「そこの疫病神はともかく、マシュくんはデミ・サーヴァントとはいえ生身なのだから無理はいかんよ。ほれ、藤丸が倒れてから食事をとっておらんだろう」
「えっと、ありがとうございます」
「疫病神って酷くないですか。これは遺憾の意を示さざるを得ませんね」
マシュが所長謹製のサンドウィッチを受け取ったのを見て、ストレージからヤカンと湯呑を取り出し、二人にお茶を押し付ける。
「おっとありがとう。それはそれとして、どうして君はこうもジャパニーズな挙動と言動をとるのかね……?」
「ありがとうございます。本当に何でも出てきますね、それ」
「流石に惚れ薬とか若返りの薬は出てきませんよ」
なぜか感心した様子のマシュと、得体のしれないものを見る所長。
本物の
「前に聖杯や幻獣種が出てきたとも聞いたが、流石にそれは誇張だよね?」
「いえ、それが実際に出てきたことがありまして……」
「嘘でしょぉ!?」
なんだか賑やかになってきましたね、私の仕出かしが話の種というところが非常に遺憾ですが。
でも魚に関しては私悪くないと思うんですよ。エミヤが悪いんですエミヤが。
「おっと、そうだった。ザヴァング、技術顧問が探していたぞ。資料室にいるはずだから、早いところ向かってくれるかね」
「技術顧問がですか。わかりました、湯飲みはテーブルに置いておいてください」
椅子から立ち上がり、自分の湯飲みをストレージに放り込んだ。
技術顧問ということはダ・ヴィンチちゃんだが、要件は何だろうか?
一人称の違いでの書き分けですが
俺 1話時点での生前主人公、今はヴァンと名乗ってるトンチキドラゴン
私 前の話で出てきてたザヴァングを主としたザヴァング達の集合体
ワタシ 神として定義されたザヴァング(俺 + 私の混合物)
という想定で書いてます
2、3話くらい必要な情報をギャグ回風味で落として藤丸サイドに戻る予定です
メタトロニオスを完走しました
内容はネタバレあるので触れませんが、やっぱり型月のライター陣は腕の良さがすごい(語彙力)