「それで、どう思う?」
検証が一通り終わり、ザヴァングと別れた後。
マスターこと藤丸立香はダ・ヴィンチちゃんとマシュを伴って管制室のドクターのもとを訪れていた。
報告の内容は言わずもがな、ザヴァングのことだ。味方であるのは間違いないが、信用するにしろ、運用するにしろ、あまりにもわからないことが多い。
「僕としては信用できると思っているけど、実際に立ち会った3人の意見を聞かせてほしい」
仕事モードなのか、まじめな様子のドクターが数枚のプリントを取り出した。ついさっきまでマギ・マリにうつつを抜かしていたとは思えない変わり身の早さだった。
そこにはザヴァングというサーヴァントのステータスが記されている。その中で特に目を引くのが筋力のA+++という項目。この値は現状のカルデアにおいて文句なしのトップだが、おそらくあの宝具による瞬間的な出力に由来するものだろう。
このスペックのサーヴァントが何かしらの影響で制御を外れた場合、その被害は計り知れない。サーヴァントは分類上は使い魔とはいえ、ほとんど人間と変わらない存在だ。
そして『英雄と呼ばれる人種はどいつもこいつも腹に一物ある存在だ』とエルメロイ二世は言う。
「俺は……なんていうんだろう、なじみやすい人? だと思いました。言葉遣いとか、丁寧なんだけどたまに崩れるところとか。まだあまり他の神霊サーヴァントのことも知らないけど、らしくないなって」
「確かに、どことなく先輩と近いものを感じます。ちょっと、言語化するのは難しいのですが……」
確かにそうかもしれない。丁寧でいようと努力しているけれど、ボロが出ているような感じだ。言葉の仕様が違うと言っていたし、そこも関係しているのだろうか。
「レオナルドはどうだい? なにか些細なことでもいい」
レオナルドと呼ばれたことに不満顔で抗議するダ・ヴィンチちゃん。
かわいいのに、かわいいと思うとどこか負けた気がする。
「私はそうだねえ、だいたい藤丸くんに同意かな。ただ、いくつか引っかかるところがある」
「引っかかる、というと?」
「ほかに確証はないから、石碑を彼女の由来として考えると"魔法を知らない"のはおかしいんだ。神秘というのは時をさかのぼるほど濃くなるからね、それこそ彼女の生きた時代は魔法文明なんてものが存在してもおかしくない」
なのに、魔法も魔術も知らない。確かにそれは矛盾する。
自分の名前もわからなかったのだから、そのあたりの知識も欠落している可能性もゼロではない。ただ、だとしても記憶にある行いが刻まれていると当人が証言している以上、まず間違いなく彼女はその時代の人間だ。
「確かにそれは僕も気になってはいた。ただ、こう考えることもできないかな。あって当たり前の"魔法を魔法と認識していなかった"っていう風にさ」
「だとすると、現代とのギャップがあるはずだよ。その割にすぐ順応した、というよりももうすでに順応していたのは不自然だ」
「実際にステータスの魔力がEだからなあ、もうわかんないや」
参った、お手上げ。そんな様子でドクターは両手を上げた。
本来なら魔術に縁のない自分でも、神秘は昔のほうが神秘性は凄かったという話は聞いている。神秘という概念がどういうものかはまだ少しよくわかってはいないものの、『古いほうが確実性が揺らぐから誇張されたりしてすごい』という解釈をしていた。
そしてサーヴァントは伝承によって、その在り方が決まる。
本来所持していない武具や能力でも、後の物語で与えられて一般化すると『持っていた』事になる。そういう話なら槍に関しては恐らく原始人だからという説明を付けられるはずだ。
ただ、彼女に関してはその逸話は知られていない。仮に知られていたとしても規模の小さなオカルトの域を出ないはずだ。
「原始人だから原始的、とかじゃないんですか?」
「まー、それも確かにあると思うよ。原始人が毛皮の服を纏って、石槍を掲げてウホウホ、っていうのは現代人のステレオタイプだからね。サーヴァントは信仰される内容に寄って実態から変化するはずだ」
原始人というイメージがそのままサーヴァントになったのであれば、確かに信仰という部分はクリアできるかもしれない。けれど今度は別の問題が浮上する。
「その槍が金属製どころか、本人がアンドロイドになっちゃってますね……」
「マシュの言う通りで、矛盾がありすぎるんだ。人柄に関して言えば私も信用していいと思うよ」
「現状では考察の余地なし、か。仕方ない、何かあれば高度な柔軟性を維持しつつ適切に対応するしかないね」
「ドクター、それって結局行き当たりばったりなんじゃ……」
三人寄れば文殊の知恵とはいうが、流石にカルデアの知識人二人が揃っても判断材料がなければわからないままだった。
結局そのままブリーフィングはお開きとなり、ドクターの言う『高度な柔軟性を維持する』結果に落ち着いた。あの人、日本人みたいなこと言うなあ……。
「コーヒー、そう、これ、これです。うん、美味しい! ワタシの時代のは濾過して薄まってぼんやりしたプーだったから、この澄んだ味がたまらない……!」
「ぼんやりしたプーとやらはよくわからないが、喜んでもらえたようで何よりだ」
そんな益体もないことを考えながら軽食でも貰おうと食堂に行けば、エミヤとザヴァングが親し気にコーヒーをすすっていた。
濾過して薄まってぼんやりしたプーってなに……?
「おや、マスターか。ちょうどいい、ブリーフィングが長引くようだったら持っていこうと思ってたところだ」
「あ、エミヤ、ありがとう」
管制室へ持ってきてくれるつもりだったらしい、押し付けられた籠に入っていたサンドウィッチを口に運ぶ。
英霊にはいろいろな特技や側面があるというけれど、エミヤの特技は弓とかじゃなくて料理なんじゃないかと常々疑っている。だってすごく料理美味しいし。
実はマスターだったりしない……? 喫茶店とかの。
「それで、マスター。ブリーフィングどう? なにか成果はありましたか」
「それが全くなくて。ザヴァングは何か覚えてないの? こう、なにか信仰集めるようなことがあったとか」
席に座ると、エミヤが黙ってコーヒーを差し出してきた。こういう姿しか知らないとエミヤがアラヤの守護者だなんて思わないよな……。
いまも皿を拭き始めてるし、何よりそれが妙に様になっている。
「信仰ですか。現代人に信仰されるような心当たりはありませんね、石碑に関しても測定ミスとかオカルトの扱いのようですし」
「そっかー……?」
その時、脳裏に電流走る。
『現代人に信仰されるような心当たり』がない。つまり、現代人でなければあるということでは?
「じゃあ、生前当時とか」
「それなら……ありますねぇ。ほら、ワタシって文明を興してますし、現代人的な言い方をすると神に該当しうるのは否定できません。基本的に与える存在でしたから。頼られていたのを信仰と表現するなら、とてもされていましたよ」
つまりザヴァングの姿は現代人ではなく、当時の人々が作り上げたものということだろうか。
それも、現代の原始人というイメージを覆すほどの何かがあるような信仰。もしかするとこれは、本人が思っているよりも根が深いのかもしれない。
「だとしても、まさか現生人類のサーヴァントとしてセカンドライフが始まるとは思ってませんでしたけど。しかも生前と姿が変わってますし」
マグカップを傾け、彼女はコーヒーをすする。
見た目がこんなに未来の世界のアンドロイドでも、生前はやっぱり原始人な姿だったのだろうか。
「姿に関してはエミヤもだいぶ違うらしいからねえ」
「そのことについてはノーコメントだ。アラヤの守護者になって以降のことだから、理由が知りたければアラヤに聞いてくれ」
どことなく厭そうな雰囲気を醸しながら、ぶっきらぼうにエミヤが言う。
聞けるものなら聞いている、とツッコミをいれるべきだろうか。
「ただ、彼女に関してはアラヤが関係しているということはないだろう」
「そうなの?」
「少なくともアラヤの生存させるべき対象は現生人類だ。旧人類の彼女はそこに含まれない」
エミヤの言葉に、ザヴァングが首を傾げた。
「え、でもワタシのことを冬木に召喚したのはアラヤでしたよ?」
そう言った本人はちょっとアラヤメン? などとおどけているが、その言葉で余計に謎が深まった。
結局彼女は何者なのだろう?
アンケートを閉じました。どこかのタイミングで折を見てステータス差し込んでおきます
楽園実験、言い当てられてて驚きました。ただまあモチーフというだけなのでセーフ(自己暗示)
誤字訂正等々、ありがとうございます
類人猿を原始人に訂正しました。類人猿だとゴリラやオランウータンになるそうで、想定している種族は正確には原人でした
現実準拠の掲示板回について
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