ダンジョンでモンスターと戦うのは間違っているだろうか   作:アイル123321

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小さな大きい決意と修行パート

「わあ……! リリちゃん、すごい! 魔法で姿を変えられるんだね」

 

テリーが目を輝かせてリリの周りをくるくると回る。ベルもまた、感心したようにその耳を見つめていた。

 

「はい。これで変装すれば、ソーマ・ファミリアの人間や、リリを狙っていた連中にも気づかれません。しばらくはこの姿で過ごそうと思います。……あ、あの、ベル様? そんなに見つめられると……」

 

「あ、ごめん。……これ、本物みたいだね。ちょっと触ってみてもいい?」

 

ベルが無邪気に手を伸ばし、リリの尖った耳の先にそっと触れた。

「ひゃぅっ!?」

リリの体が跳ねるように震え、顔が一気に林檎のように赤くなる。

 

「ちょっと、ベルさん! 何やってるの!」

すかさずテリーが間に割って入り、ベルの手をペシッと叩いた。

「女の子の耳なんて、そんなに簡単に触っちゃダメだよ! デリカシーがないっていうか、すけこましっていうか……」

 

「ええっ!? ご、ごめん、つい興味本位で……」

慌てて謝るベルに、リリは真っ赤な顔のまま、もじもじと指を絡ませながら呟いた。

 

「い、いえ……お二人なら、リリは、その……嫌ではありませんから」

 

「ええーっ!? いいの!?」

テリーが驚いて叫ぶと、今度はテリーが興味津々といった様子でリリの耳に手を伸ばす。

「じゃあ私も触る! わ、本当だ、あったかくて柔らかい……!」

 

「テ、テリー様まで……ふふっ、くすぐったいです」

 

三人の間に、昨日までの重苦しさは微塵もなかった。

リリは少し真剣な表情に戻り、自分の耳をそっと押さえた。

「しばらくの間、普段の顔を見せなければ、リリはあの場所で死んだと判断されるはずです。そうすれば、執拗に追い回されることもなくなるでしょう」

 

「……リリは、それでいいの?」

ベルが少し心配そうに尋ねる。名前も、姿も変えて生きることに、寂しさを感じていないだろうか、と。

リリはベルを見上げ、それからテリーを見て、穏やかに微笑んだ。

 

「はい。ベル様とテリー様に、本当のリリのことを覚えていてもらえれば……リリはそれだけで、大丈夫です」

 

その言葉には、偽りのない心からの満足感が宿っていた。

 

 

三人はその足で、ベルとテリーの本拠地である廃教会の地下へと向かった。

主神ヘスティアが、二人のサポーターになったリリに会いたいと言っていたからだ。

 

「神様、ただいま戻りました! 連れてきましたよ」

「ただいま、ヘスティア様!」

 

ベルとテリーの声に、奥からヘスティアが姿を現した。

「おかえり、ベル君、テリー君! ……ふむ、君が例のサポーター君だね?」

 

ヘスティアの鋭い視線がリリを射抜く。リリは緊張に背筋を伸ばし、「リリルカ・アーデと申します、ヘスティア様」と深く頭を下げた。

 

「神様、僕は下でお茶を入れてきますね。テリーちゃん、手伝ってくれるかな?」

ベルが気を利かせてそう言うと、テリーも「うん、わかった!」と頷いた。

二人はわざとらしく、足早に下の階へと降りていった。ヘスティアとリリ、二人きりの空間を作るために。

 

沈黙が流れる。

ヘスティアはリリの前に歩み寄り、腕を組んでじっと彼女を見つめた。

 

「サポーター君。……君に、覚悟を問いたい。君は、僕のベル君とテリーを騙し、絶望の淵に突き落とした。それは事実だね?」

 

「……はい」

リリは逃げることなく、ヘスティアの瞳を見つめ返した。

 

「もう二度と、同じ過ちを犯さないと言い切れるかい?」

 

「はい。誓います」

 

リリは震える声ながらも、はっきりと答えた。

 

「ベル様に、テリー様に、ヘスティア様に……何より、自分自身に。私はお二人に命を救われました。どん底にいた私に、初めて手を差し伸べてくれたのはお二人です。そんな二人を、もう二度と裏切りません。裏切りたくないんです!」

 

その言葉に宿る熱量。ヘスティアはそれを黙って聞き届け、ふっと息を吐いた。

 

「わかった。その覚悟、本物だと受け取ろう」

ヘスティアは少しトーンを落とし、本音を漏らした。

「……正直に言って、僕は君のことが嫌いだ。可愛い僕の子供たちを騙し、傷つけたんだからね。今さら取り入ろうとしているようにさえ見える」

 

リリが肩を震わせる。だが、ヘスティアは続けた。

 

「でもね。あの二人が君を信用している。本当に仲間だと思っている。だから、僕は何も言わないことにしたよ。僕は、僕の眷属(こどもたち)を信じることに決めたんだ。……だから、あのお人好したちの面倒を見てやってくれ」

 

ヘスティアは、少し困ったように、けれど誇らしげに笑った。

「あの二人は放っておくと、まーた変な奴に騙されるかもしれない。君のようなずる賢い知恵を持った子が隣にいてくれた方が、僕も安心できる」

 

「……っ、ありがとうございます!」

リリの目から涙がこぼれ落ちる。ヘスティアは彼女の頭にぽんと手を置いた。

 

「というわけで、サポーター君。君のパーティ加入を許可するよ。励むがいいさ!」

 

リリが感激に浸っていると、ふと彼女は先日の光景を思い出し、ずっと抱いていた疑問を口にした。

「あの……ヘスティア様。一つお聞きしたいことがあるのですが」

 

「ん? 何だい?」

 

「テリー様のことです。昨日、ダンジョンで絶体絶命の時に……テリー様が、モンスターを呼び出して戦っていたんです。あれは、一体……」

 

ヘスティアは少しバツが悪そうに頬を掻いた。

「ああ、やっぱり君の前で使っちゃったんだね。あれはね……」

 

「お待たせしましたー!」

「お茶、入りましたよ!」

 

ちょうどその時、ベルとテリーが湯気を立てるカップを持って戻ってきた。

「ちょうどよかった」とヘスティアがテリーを手招きする。

 

「テリー君。君のスキルと魔法について、サポーター君にも教えてあげておくれ。これから一緒に戦う仲間なんだからね」

 

「あ、そういえば昨日、リリちゃんの前でルゥたちを出しちゃったんだっけ」

テリーは「えへへ」と笑いながらリリに向き直った。

「いいですよ! リリちゃんには隠し事したくないし」

 

テリーは自身のレアスキル『モンスターマスター』と、召喚魔法『ゲートオープン』について説明した。

モンスターを心を通わせて仲間にできること。その仲間は普段は別の空間にいて、魔法でいつでも呼び出せること。

 

「今は、コボルトのルゥと、フロッグ・シューターのフロッピーが私の仲間なんだよ」

 

「……モンスターを、ですか?」

リリは驚きに目を丸くした。通常モンスターのテイムは調教をしていう事を聞かせるものが多い。

心を通わせて仲間にするというのが信じられなかったのだ。さらにそれを10歳の少女が手懐けている事事態、常識では考えられない。

 

「驚きだよね。僕も最初は腰を抜かしたよ」

ベルが苦笑いしながら口を添える。ヘスティアも「まったく、うちの子たちは規格外ばかりで困るよ」とため息をつきつつ、どこか嬉しそうだった。

 

リリは改めてテリーを見つめ、心からの感嘆を漏らした。

「素晴らしい力です、テリー様。その力があれば、これからの探索の幅が劇的に広がります」

 

 

説明が一段落し、和やかな空気が流れた。すると、ヘスティアが突然ベルの右腕をギュッと抱きしめた。

 

「というわけで、改めてサポーター君! 『僕の』ベル君をよろしく頼むよ。僕の、ベル君を、ね!」

ヘスティアが「僕の」という部分を強調しながら、リリに対してマウントをとるように言い放つ。

 

リリは一瞬驚いたが、負けじとベルの反対側の左腕をギュッと掴み返した。

「もちろんです、ヘスティア様。ベル様にはいつも、リ・リ・に優しくしてもらっていますから。この前だって、私を抱きかかえて……」

 

「なっ、抱きかかえただと!? ベル君、それは聞いてないぞ!」

「あ、あれは助けるために仕方なく……!」

 

「いいえ、ベル様の温もり、リリは一生忘れませんっ!」

リリが挑発的な笑みを浮かべ、ヘスティアがキーキーと地団駄を踏む。

 

「あああああ! 離れろ、このパルム! ベル君、どっちがいいんだ、僕か、この耳の生えた子か!?」

「わあぁぁ! 二人とも、引っ張らないで、腕が抜けちゃう!」

 

二人の女性に挟まれ、顔を真っ赤にしてパニックになるベル。

「ご、ごめんなさい! ギルドでエイナさんに会いに行かなきゃいけないのを思い出した! 行ってきまーす!!」

 

ベルは限界に達したのか、無理やり二人を引き剥がすと、脱兎のごとく地上へと駆け上がっていった。

 

取り残されたテリーは、そんな三人(二人の女性と、逃げた一人の少年)を見て、深くため息をついた。

「……やれやれ。お姉さんたちの戦いは怖いなぁ。ルゥ、私たちも行く?」

さっき説明のために召喚したルゥが、同情するように「ワフッ」と鳴いた。

 

「ベルさんがいなくなった後でもまだ言い合ってるし……。私はちょっと街を見てくるね。リリちゃん、ヘスティア様、ほどほどにねー!」

 

テリーは呆れ顔で、言い争いを続ける二人を置いて廃教会を後にした。

 

 

その頃、ギルドに駆け込んだベルは、運命的な再会を果たしていた。

そこにいたのは、彼の憧れであり、目標である『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタイン。

 

アイズは、たった数日で10階層まで到達したというベルの異常な成長速度に興味を抱いていた。

「……どうやって、あんなに早く強くなったのか、知りたい」

アイズのその言葉から、話は意外な方向へと進む。

 

「……君に、戦い方を教える。それで、いい?」

 

アイズからの提案に、ベルの心臓は飛び出さんばかりに跳ね上がった。

彼女が所属する【ロキ・ファミリア】は、近々大規模な遠征を控えている。その準備期間の間、早朝の時間帯だけベルの特訓につきあってくれるというのだ。

 

翌早朝。

まだ街が深い眠りについている時間。ベルは誰よりも早く起き、アイズとの待ち合わせ場所へと向かった。

 

一方、その気配を感じてテリーも目を覚ましていた。

(ベルさん、朝からどこに行くんだろう……なんだか、すごく気合が入ってる)

 

テリーはベッドの中で伸びをした。眠気はない。

ベルが強くなろうと必死に足掻いているのを感じると、自分もじっとしていられなくなった。

(私も、ベルさんに守られてばかりじゃダメだ。モンスターマスターとして、もっと経験を積まないと)

 

テリーは一人、準備を整えてダンジョンへと向かった。

「今は一人だから、行っても3階層まで。ルゥ、フロッピー、お願いね」

 

早朝のダンジョンは、冒険者の姿がほとんどない。

テリーはルゥとフロッピーを召喚し、1人と2匹で探索を開始した。

「ルゥ、右からゴブリンが来るよ! フロッピー、足止めを!」

 

テリーの指示は、日を追うごとに鋭さを増していた。

ルゥはさらに素早く、フロッピーの舌の精度も上がっている。

「よし、今の連携、すごく良かったよ!」

テリーが褒めると、二体は誇らしげに鳴いた。

ベルがアイズから戦技を盗んでいるのと同じ頃、テリーもまた、自分なりの戦術を磨き、仲間たちのレベルを少しずつ、確実に高めていたのである。

 

 

ベルがアイズと模擬戦をし、テリーが仲間モンスターと一緒に強くなっている頃

 

ダンジョンの中層ベルやテリーが普段活動している階層よりもさらに奥深く。

一人の男が、暗闇の中で静かに佇んでいた。

【フレイヤ・ファミリア】の団長、オッタル。オラリオ唯一のレベル7。

 

彼の前には、二体のミノタウロスが立っていた。

通常の個体よりも一回り大きく、その瞳には野性以上の知性が宿っている。

 

「……拾え」

 

オッタルが足元に放り投げたのは、巨大な鋼鉄の大剣だった。

ミノタウロスたちは困惑しながらも、主人の命令に従い、その重厚な剣を手に取った。

 

「戦い方を教えてやる。それが、あのお方に選ばれた少年少女の『糧』となるまで」

 

オッタルの剣が閃く。

ミノタウロスたちは咆哮を上げ、大剣を振り回して最強の戦士に立ち向かっていく。

主神フレイヤの命により、ベル・クラネルをさらなる高みへと引き上げるための「試練」が、闇の中で着々と鍛え上げられていた。

 

地上で特訓に励むベル。

ダンジョンで仲間と絆を深めるテリー。

そして、新しく加わったリリルカ。

 

平穏に見える日常の裏側で、巨大な嵐の予感だけが静かに色濃くなっていく。

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