文豪ベイバトル   作:はるきすと

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ベイが回る、その向こうに母がいる/銀河まわりのベイに乗って

夕方の廃校のグラウンド。

焼けたタイヤの匂いが空に漂っている。

誰もいないはずのスタジアムの中央に、ひとりの少年がいた。

 

制服のボタンは外れ、靴紐はほどけ、髪は風にまかせたまま。

だけどその目は、まっすぐすぎて、少し怖かった。

 

「おまえ、……誰?」

 

「修司。詩と手紙を書いてる」

 

「ここ、バトルフィールドだよ」

 

「知ってる。でもこれは、母への決闘でもあるんだ」

 

そう言って彼は、ベイを掲げた。

そこには、小さく折り畳まれた手紙が、糸で巻きつけられていた。

 

「それ、ルール違反じゃない?」

 

「俺の人生がもうルール違反だから、しょうがないんだよ」

と、修司少年は笑った。

 

僕は、なんとなく負ける気がした。

でも、逃げるわけにはいかなかった。

 

3、2、1、ゴーシュート。

 

彼のベイは、投げ捨てるように飛んだ。

地面を跳ね、削れながら、それでも回っていた。

詩のように不器用で、演劇のようにドラマチックだった。

 

「母さん、見てろよ……これが俺のファイトだ」

彼の声は、ベイに向けられていたのか、空に向けられていたのか、わからなかった。

 

僕のベイは、正しい軌道で、冷静に回っていた。

だけど、なぜだろう。彼のベイに触れたとたん、そっと止まってしまった。

 

まるで、それが筋書きだったみたいに。

 

「勝った?」と修司。

 

「わからない。でも、届いたんじゃないかな」

 

修司は黙って手紙をほどき、それをポケットにしまった。

 

「じゃあ俺、母に手紙を出しに行くよ。ポストじゃなくて、この世界にね」

 

夕焼けが、グラウンドを赤く染めていた。

彼の背中が消えるまで、僕はベイを抱えたまま立ち尽くしていた。

 

 

■■■

 

 

放課後の原っぱに、風が吹いていた。

虫の音、遠くの牛の鳴き声、麦の実り、そんなすべてを感じる静かな場所。

 

そこに、白い帽子とマントをまとった少年がいた。

草の上に正座し、手を合わせて、空に向かって小さく呟いていた。

 

「まわってください、まわってください、

きちんときちんとまわってください……」

 

僕は声をかけた。

 

「それ、ベイに言ってるの?」

 

「うん。この子は宇宙の一部だから、ちゃんと回してあげないと、星が悲しむ」

 

「それ、公式ルール?」

 

「ちがう。だけど、ほんとうのルールだよ。」

 

賢治少年は、そっとポケットからベイを取り出した。

それは、夜空のような藍色。中央に小さな金色の星が埋め込まれていた。

 

僕も、無言で構えた。

なんだか、勝ち負けじゃない気がしたから。

 

3、2、1、ゴーシュート。

 

賢治のベイは、静かに、まるで祈るように回った。

不思議と風が止み、虫の声も遠ざかった気がした。

 

「これはね、祈りと理科と農耕のまわり方なんだよ」

 

僕のベイは、いつも通りに速く、美しく回った。

でも、賢治のベイの周りでは、何も勝てなかった。

空気すら、彼のために調和していた。

 

「……それ、反則じゃない?」

 

「ううん。これは調和。

怒って回ると、ねじれるでしょ?でもね、優しく回ると、音楽になるんだ」

 

僕のベイは止まり、

賢治のベイは、まるで天の川の粒のように、ゆっくり静かに回りつづけた。

 

やがて、星がひとつ、空に灯った。

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