TRANSFORMERS:INVASION OF THE SPRITS   作:Kyontyu

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第九話「赦し」

 

 

 真那は行くあてもなく街中を歩いていた。

というのも、ただ暇なだけなのだが。

「ん……? あれは……?」

 視線の先には二人の男女が映っていた。一人は見覚えが、というか兄の士道だ。そしてもう一人の何処の馬の骨かも分からない女は、なんだか見覚えが……

「! まさか!」

 真那はすぐさまAST用の携帯端末を取り出し、精霊の項目を開く。

「これは……」

 識別名〈プリンセス〉、先日現れた精霊だ。しかも真那は二度も会敵している。だが、一体何故士道の隣に精霊がいるんだろうか。本来ならASTにすぐさま連絡すべきなのだが、巻き添えにはしたくない。

 真那は別の端末を取り出し、士道に電話をかけた。

『……あ、真那? どうしたんだ急に』

「いえ、兄様……あの、今どちらにいやがります?」

『ああ、キナパンの前だけど……』

「もしかしてでいやがりますけど……誰かとデートしやがっています?」

『え!? いや、えっと……ちょっと……』

 ドンピシャ。それだけでも既に真那の心はズタズタにされていたが、それを表に出す訳にはいかない。

「まぁ、どうでもいいでいやがりますけど、今すぐその女から離れやがって下さい」

『お、おい……ちょっ――』

「――いいですか? これは命令ですよ?」

 そう言って電話を切った。次は、天宮駐屯地に戻って観測員にこの事を知らせる必要がある。やるべきことは多い。

「……急がないと」

 真那は額に汗を浮かべ、駐屯地へと走り始めた。

 

◆◇◆

 

 眼下に地球の大地が広がる広大な宇宙空間で、静止軌道上に存在する人工衛星の一つ。他の物とは全く別の形をした衛星があった。しかし、これはただの人工衛星ではない。人工衛星に取り付いたディセプティコン、サウンドウェーブだ。

 地球の情報を探っていたサウンドウェーブはそこで興味深い物を見つけた。

 精霊に関するデータだ。以前からこの生命体の事は知っていたが、そこまで脅威でないと判断して深く調べていなかったのだ。そして今見た情報によればその精霊は日本にいるらしい。細かな座標も特定出来ている。天宮市と呼ばれる場所だ。

 そういえばここは一人のディセプティコンの戦士が力尽きた場所でもある。名前はノックバック。彼の残した情報によればエネルゴンに似たエネルギー波が感知されたようだ。

 興味深い。サウンドウェーブはほくそ微笑んだ。

「こちらサウンドウェーブ。メガトロン様。地球にて面白い物を発見しました。私の部下たちに出撃の許可を」

 すると地球のある場所から了承の返事が返って来た。

 サウンドウェーブのパーツが分離し、何やら鳥のような形にトランスフォームした。それにはコンドルという名があった。偵察用のトランスフォーマーだ。

 コンドルは両翼のスラスターを起動させると地球へと降下していった。サウンドウェーブは自分の体を人工衛星から分離させると宇宙船にトランスフォームし、自らも地球に降下を始めた。主に会い、これから分かるであろう結果を報告するためだ。

 

◆◇◆

 

 天宮駐屯地に到着した真那は観測室でそこのオペレーターと話していた。

「だから! 言っていやがるでしょう!?」

「そんな! 聞いた事もありませんよ! 空間震も無しに精霊が現れるなんて!」

「何何!? 何やってんの!」

 観測室に遼子が入って来た。

「精霊が現れやがりました。天宮市のほとんど中心です」

「それは本当?」

「ええ」

 遼子は訝しそうに眉をひそめた。

「にわかに信じがたいけど……」

「本当でいやがります。調べれば一発」

「……頼めるかしら?」

 遼子は観測員の方を向いて言った。

「分かりました。やってみます」

 そう言って頷くとキーボードを叩き始めた。目の前の大型ディスプレイに天宮市の地図が表示される。

「市内の霊波探知機は普段は動かしていません。通常は空間震の際にしか使用しませんからね」

 探知済みのエリアが赤で塗りつぶされ、最後に一つのエリアが緑で表示された。

「反応……ありました」

 オペレーターの手がわなわなと震えた。警戒していない街中に強大な戦闘力を持つ精霊が野放しにされれば住民は一瞬にして灰にされてしまう。

 遼子は落ち着いた様子でヘッドセットの電源を入れた。

「全AST隊員に通達。総員出撃準備。街中に精霊が出撃した模様。繰り返す、総員直ちに出撃準備」

 真那はそれを聞くなり走って観測室から出ていった。

「対象を見失わないで」

「了解」

 遼子は頷くと観測室から出ていった。

 

◆◇◆

 

「シドー、お腹がすいたぞ」

 商店街の喫茶店の前で十香がふとこちらを向いて言った。

「え゛ でもさっき――」

「――お腹がすいたぞ」

「……ああ、分かったよ。でもあんま頼み過ぎないでくれよ?」

「む。なぜだ?」

「さっき十香が大量に頼み過ぎたせいでお金の残量が少ないんだ」

「……善処する」

「………」

 士道は頬を掻いた。嫌な予感。

 とりあえず士道は十香の食欲の赴くままに喫茶店へと入っていった。

 

◆◇◆

 

「嘘でしょ……」

「ん? どうしたんだ琴里……」

 令音もつられて後ろを見た。

「――ばんなそかな」

 しかも隣にいる少女は先日出現した精霊だ。

「驚いたわね。まさか空間震無しで現界できるなんてね」

 琴里は司令官モードになって呟いた。

「で? どうするんだい」

「決まってるわ」

 琴里はそう言ってインカムのスイッチを押した。

「ポイントD-24に精霊を発見」

『了解……捕捉しました。パターン0010。識別名〈プリンセス〉です』

「了解。機関員を総動員してタスク05のオプション00を発動。ASTが来ないうちに決めるわ。アクセルに作戦要項を送信して」

 琴里は令音とアイコンタクトして頷くと令音は立ちあがってレジの方へと向かった。琴里は士道に気づかれないように立ち上がると喫茶店の外へと出た。〈フラクシナス〉に回収してもらうためだ。

 

 街中を疾走していたアクセルは〈フラクシナス〉から送信された情報を見るのと同時にその場でタイヤを鳴らして半回転した。

「やっぱり精霊だったのか……」

 そう呟くと自分に指示された場所に向かい始めた。

 

 こうして士道の気づかぬ間に壮大な作戦はスタートしたのである。

 

◆◇◆

 

 士道が喫茶店での会計を済ませようとレジの前に立った時、士道は目を疑った。目の前にいたのは喫茶店の制服を着た令音だった。

「え、あの……」

「会計を」

「すみませ……」

「会計を」

「………」

 察せ、という事なのだろうか。士道は財布からお金を出して会計を済ませた。すると令音がレシートを差し出すのと同時にそれを裏返した。

『気にせずデートを続けたまえ。サポートは我々がする』

 そしてウィンクした。なんだか、似合わなかった。

「どうしたのだシドー?」

「あ、いやなんでもない。じゃ、外に行こうか」

 

 〈フラクシナス〉の環境で足を組んで琴里は艦長席に座っていた。

「機関員、配置完了」

「遠隔観測機、感度良好」

「監視対象のバイタルサインは安定しています」

「周囲に随意領域(テリトリー)の反応なし」

「キューピドゥは?」

 琴里がオペレーターの一人に訊ねた。

「現在、コード0010の情報を入力中の為、使用不可能です」

「……分かったわ。どちらにせよ、士道がインカムを持っていない以上、直接的なアドバイスは送れないわ。成功のカギを握るのは私たちの誘導と、士道の力のみ。作戦成功に全力を挙げなさい!」

『はい!』

 

 外に出ると赤い法被を着たティッシュ配りのお兄さんが士道にポケットティッシュを渡した。

「あちらの方で福引を行っております! 是非ご参加下さーい!」

「福引……?」

 士道がお兄さんの指を指す方を向くと、そこには抽選機と、その抽選に並ぶ人たちが見えた。しかもどれも〈フラクシナス〉の中で見た事ある顔ぶれだった。『サポート』、というのはこういうことらしい。

「し、シドー。なんだあれは」

「ああ、あそこでくじを引くんだ」

「くじ?」

「当ると景品がもらえる、ゲームみたいなものかな?」

 ちゃんと伝わっているだろうか。士道は心配になった。彼女にとって、この世界は未知の世界だ。

「おお! なんだか分からないがとにかくおもしろそうだな!」

「じゃあ、とりあえずやってみるか」

 

 並ぶこと数分。士道達の番が回って来た。

「これを回せばいいのだな?」

「ああ」

「……よし」

 十香がハンドルを握る。その真剣な表情にあたりは静かになった。

(え? ここまでマジになってやるの?)

「いざ、参る!」

 そう叫ぶと残像が残るほど早く、ハンドルを回し始めた。

「うおおおおおっ!?」

「はあああああああああああっ!」

 そして抽選機から何かが飛びだし、係員さんの額に当って木製の皿に落ちた。

 赤だ。

「残念。それはポケットティ――」

「――大当たり!」

「えっ」

 額を押さえながら係員さんがよろよろと立ち上がるとそう宣言した。

「おお! すごいなシドー!」

「え、あ、そうだな……」

 目を輝かせる十香の後ろで商品ボードの一等の色を赤マジックで塗りなおされているのを見て士道は苦笑した。

「おめでとうございます! 一等はドリームランド完全無料ペアチケットです!」

「ドリームランド……そんなとこあったか?」

 チケットを手渡された十香はなんだか嬉しそうだ。

「裏に地図がありますので、今すぐにでも、ね?」

 係員さんが顔をずいっと寄せてそう言った。

「っ、あ、はい……」

 士道はその様子に少々気圧されながら地図の示す元へと向かった。

 

「す、すごいぞシドー! こんな所に立派な城が!?」

「う、うわぁ……」

 そののっぺりとしたいかにも作りものっぽい城にはドリームランドという看板と、『ご休憩・お二時間お四千円~ ご宿泊・お八千円~』という垂れ幕が。

 まぁ、つまり、あれだ。まだ早い。

「俺ってばうっかりさんだから道間違えちゃったやべー」

「む? シドー、ここではないのか?」

「うん。ちょっと間違えたから違うところ行かないか?」

「でも私、ちょっと入ってみたいぞ」

「いやいやいや、ちょっと今日はやめとこう!?」

「むぅ……そうか、分かった」

 十香は少し残念そうに目を伏せた。士道は胸をなでおろした。そして空の彼方で見ているであろう妹に睨みをくれてやってから再び歩き始めた。

 

「あそこまで行って引き返すとか。マジへタレダワー」

 琴里はつまんなさそうに背もたれに寄りかかった。

「……ハードルが高すぎたんだ。無理もあるさ」

 艦橋下部のコンソールを叩いていた令音が言った。

「親としても心配してたでしょ?」

「………」

 その問いに令音は沈黙で答えた。

「ま、キスまで行ってくれれば『詰み』なんだけどもね……んじゃ、現時刻を以ってオプション00を破棄。オプション03を発動」

「了解。総員、オプション03を発動」

 

◆◇◆

 

 その後、デートは順調(?)に進み、いつの間にかに夕暮れになっていた。

 夕暮れの血のような赤が照らす高台の公園に、二人はいた。

「シドー」

「ん? なんだ?」

「私はずっと、寂しかった。ずっと一人だった」

「………」

 風に吹かれる彼女の夜色の髪にふちどられた顔を、士道は見た。

「今日、私はいろんな事を知った。おいしい食べ物。いい匂い。気持ちいい音。私は、こんなにも美しい世界を壊してしまっていたのだな」

「……十香……」

「私は……悪い、奴だろうか?」

 十香が心配そうな顔でこちらを見た。初めてあった時とは違う、穏やかであり、悲しそうな顔だった。

「そんなことないよ。ヒトは、他人を許せる心を持ってる。いくら間違えたって、またやりなおせばいいさ。だって――」

 その時、妙な既視感を覚えた。振り返ってみると、何かがキラリ、と光を放った。

「十香!」

 

 士道は意識するよりも早く十香を押し飛ばした。

 

 世界がスローモーションに見え、なんだか、お腹の辺りが熱かった。

 

「なにを――――」

 士道を見た十香の目が見開かれ、顔が硬直した。

「え……? な、に……」

 血反吐を十香の右頬の辺りに吐くと、そのまま十香にのしかかるように倒れた。

「し、シドー……?」

 十香は体を起き上がらせると士道の肩を揺らした。反応はない。その目は固く閉ざされ、はた目からは眠っているように見えるが、その体に空いた穴を見れば分かったはずだ。

 士道であったものは、もうただの肉塊になっていたのだ。

「分かってた……」

 いつもこうだ。私は壊し、壊されるモノでしかないことを。だったら……

「壊してやる……」

 十香はよろよろと立ち上がった。右頬には士道が残した赤い温もりがある。それに触れた。

「……壊してやる壊してやる壊してやる壊してやる壊してやる壊してやる壊してやる壊してやる壊してやる――」

 そして目を見開き、血の色に染まった空に向かって叫んだ。

 

 

 

「――全部ッ! 壊れてしまえェェェェェェェェェェェェッ!」

 

 

 




十香の感情表現は極端になっちゃったかな? でも、これぐらいでいいと思います。前々から初期の十香の感情は暗めにしておこうと決めていたので。
暗い十香もいい味出てます。
では次回、一章完結です。
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