TRANSFORMERS:INVASION OF THE SPRITS   作:Kyontyu

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第十話「祈り」

『〈ハウンドドッグ〉、最終狙撃ポイント到達』

『〈ギュゲスの指輪〉、結界濃度正常』

『リアライズ・コイルと〈ペネトレイト〉の最終確認急げ!』

『内部電圧全て正常。最終安全装置を〈ハウンドドッグ〉に譲渡します』

『了解。〈ペネトレイト〉の砲身冷却終了。陽電子加速器を始動』

 血のような夕暮れ空が照らす山の斜面に、CR-ユニット〈ハウンドドッグ〉を着込んだ真那が巨大な狙撃銃を構えてうつ伏せになっていた。彼女の両脇には顕現装置(リアライザ)を使って瞬間的に超高圧電流を発生させるリアライズ・コイルが六つと、その後ろには陽電子を加速させる為の円形のユニット。さらにその後ろには結界内の対象物を不可視化する〈ギュゲスの指輪〉が配置されていた。

 陽電子加速砲、〈ペネトレイト〉。接触した際の対消滅によって対象がこの世界に存在する物質なら一瞬で蒸発させる威力を持つ現行のエネルギー兵器の中でも最強の兵器。

「照合結果は、99.1パーセント、コード0010と一致……ね」

 真那の傍らに立つ遼子はホロHUDが表示する結果を見つめながら言った。

「もちろんでいやがりますよ」

「警報も無しに、しかも民間人が近くにいるときた。上に何があったのかしら……今回の件といい、学校の件といい、ね」

「まぁ、私は奴をこの世から消せれば何でもいいでいやがりますよ」

 真那はそう言って撃鉄を起こし、ヒューズを装填した。

「……外さないで」

「……愚問でいやがりますね」

 スコープを覗いた。陽電子のビームは磁気や重力によって射線が安定しない。そのため、誤差の修正は顕現装置(リアライザ)の演算核(コア)を用いる必要がある。つまり、これを撃つ瞬間は狙撃手が無防備になるというわけだ。しかも、陽電子砲は一度撃つと再度撃つまでに多くの時間が必要となる。誤射は許されない。

 真那のホロHUDに計算された弾道が表示される。愛する兄の隣にいるには真那が絶対に許さない人物。

 絶対に消してやる。

 安全装置を解除して、短く息を吐いた。

 

 そして、引き金を引いた。

 

 〈ペネトレイト〉の砲口から光る亜光速のエネルギー弾が発射される。同時にリアライズ・コイルの赤熱したコイルが排熱のために上に伸びた。

 誰もが当った、と思った。我々は初めて精霊に勝ったのだと、誰もが直感した。しかし、それは精霊の目の前に現れた少年によって打ち消された。

「――――え」

 スコープの先、精霊のいた場所に、士道がいた。狙いは外れる事無く飛んだ。ただ、対象が変わっただけだ。

 わき腹に穴を開けた士道がその場に崩れ落ちる。

 真那は思わずグリップを放して自分の手の平を見た。震えていた。

「わ、わ、私が――」

 左手で震える右手を押さえる。

 いや、違う。

「そうだ……全部あの女のせいなんだ……」

「真那!?」

 遼子が振り返って叫んだ。しかし、その声は真那の耳に届いていなかった。

 立ちあがって腰にマウントされた超高出力レイザーブレイド〈ライオットリッパー〉を引き抜いて、光刃を出力した。

「ヒトの形をした悪魔がァァァァァァァァッ!」

 大空に鬨の声を上げた。

 

 〈ラタトスク〉艦内は沈黙に支配されていた。最後の切り札である少年――祟宮士道の死。それは結果的にどうなるのかは分からない。だが、自体が好転していない事だけは確かだ。だが、琴里だけは余裕の表情を浮かべていた。

「『こんな事があろうかと』って言いたげな顔ですね。司令」

 神無月が苦笑しながら言った。

「ええそうよ。目の穴かっぽじって良く見ておきなさい」

 モニターには撃たれた部分が燃えている士道が映し出されていた。神無月がモニターに目を移した瞬間だった。

『うおっ! あっちい!?』

『!!』

 クルーの目が驚愕に見開かれる。

 その様子を見た琴里はニヤリと笑って言った。

「残機は無限よ。士道」

 

「――全部ッ! 壊れてしまえェェェェェェェェェェェェッ!」

 目から生ぬるいしずくが零れる。そして黒と白のプラズマが十香の体と地面を這うようにバチバチと音を立てる。その一瞬後には十香は霊装を纏っていた。

 右手には大ぶりの剣、精霊の最強の鉾、天使――〈鏖殺公(サンダルフォン)〉が握られていた。頭部にエンジェル・ハイロゥが現れ、甲高い音を発し始める。

 山の方から叫び声が聞こえたその時、目の前に真那が迫っていた。エネルギーとエネルギーが接触し、火花を散らす。

「撃ったのは――貴様だなッ!」

「テメェこそ、何者でいやがるですッ! 兄様に何をしやがったんですッ!」

「知った……ことかァッ!」

 真那を吹き飛ばすと右手からエネルギー弾を連続して発射する。真那は飛んでそれを回避する。エネルギー弾に当るたび、遊具や建物が吹き飛んでは、無くなっていく。

 このままでは埒があかない。そう考えた真那は急旋回して十香に肉迫する。脚に血が行きすぎないように、腿の気嚢が膨らむ。〈ライオットリッパー〉で地面に線を描きながら十香に向かって逆袈裟に振り上げた。その一撃は十香の霊装の一部を引き裂いた。しかしその瞬間、真那の脳内に戦慄が走る。

 近すぎた。

 体中が粟立つ。焦って後ろに近づいたのが間違いだった。十香の天使がテリトリーに触れる瞬間、自分の意識の範囲が一気に狭まった。つまり、テリトリーが破壊されたのだ。

「ああッ!」

 リアライザの逆負荷によって真那の脳が悲鳴を上げる。なんとかその場から離れて地面に着地するも、頭を押さえてよろりと膝をついた。テリトリーの再展開は不可能。

 絶望的だ。

 十香は浮かび上がって、天使を目の前で構えた。エネルギーが迸り、剣はその形を変え、巨大化していく。同時にエンジェル・ハイロゥが赤く光り、その半径を広げていく。

「消えろ」

 冷たく、そして淡々と真那に言い放った。それは神が罪人に罰を与える場面のように見えた。原罪への罰だ。

「くっ……」真那は思わず歯ぎしりした。

 

◆◇◆

 

 戦闘区域の一歩手前、アクセルは足止めを喰らっていた。目の前にいるのは〈キュプクロス〉だった。

「そこをどいてくれないか?」

〈それはできない〉

「俺の仲間がいるんだ」

〈私にも、仲間がいる〉

「じゃあ、お互い傷つかない為にも……」

〈あなたは、私の敵ッ!〉

 肩のミサイルポッドが展開され、無数のミサイルが放たれる。

「ちっ……」

 アクセルは足をタイヤに変形させ、地面を滑走しながら両腕の機銃でミサイルを撃ち落とすも、撃ち損じたミサイルがアクセルの体に直撃した。

「グアァッ!」

 吹き飛ばされたアクセルは地面を転がる。真上に〈キュプクロス〉の刃の切っ先が見えた。転がって回避し、バック転して立ち上がった。しかし、間髪入れずに機銃がボディに穴を空けていく。ダメージが蓄積され、体の関節やらなんやらが悲鳴を上げていた。立つだけでも内部システムを組み替えて何とか立っている状況だ。

 このままでは負ける。

「くっ――そォォォォォォオ!」

 玉砕覚悟で足をタイヤに変形させて一気に肉薄する。〈キュプクロス〉の放ったミサイル群が右肩に直撃し、右腕が吹き飛んだ。想像を絶する痛みに歯を食いしばって耐え、左腕を銃剣に変形させる。そして爆発の勢いを利用して一回転し、〈キュプクロス〉の右胸に突き刺した。

〈――!〉

「でいやぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 そして左腕の弾薬を全て炸裂させた。まばゆい光と爆炎が辺りを包み込んだ。

 

 煙が晴れると、そこには両腕を失ったアクセルと、右半身が無くなり地面に倒れた〈キュプクロス〉が残っていた。

 アクセルはがっくりと膝をついた。その瞬間、山の方に巨大な光球が膨らんで爆発して、斜面を全て削り取った。爆風を体に受けながら、アクセルの言語機能が言葉を絞り出した。

「し、ど……」

 システムが全て閉ざされ、アクセルは地面に倒れこんだ。

 

◆◇◆

 

「あちっ、なんだこれ……」

 士道がそう言った瞬間、一瞬の浮遊感とともに周りの景色が変わった。どうやら転送されたらしい。

「気分はどう? 士道」

「え? ああ――」

 その時、巨大な轟音とともに〈フラクシナス〉が揺れた。

『戦闘区域で結界炸裂を確認!』

『艦体下部、損傷!』

『ダメージコントロール急げ! 手の空いている者は消火作業だ!』

『結界密度に異常発生! 急浮上します!』

「……なんかいろいろヤバそうだな」

「ええ、あんたが死にかけたもんだからお姫様は激オコプンプン丸よ。全く、ナイト失格ね」

「ああ、そうだな……」

 脇腹をさすってそう呟いた。

「あら、意外と冷静ね」

「ハッ、琴里だってそうじゃないか。なんかあるんだろ?」

「正解。さ、早くお姫様救ってハッピーエンドにしましょうよ」

「……そうだな」

 士道は立ち上がってズボンの埃を払った。

「で? なにすればいいんだ?」

「簡単よ。あなたが落ちて、空中で十香をキャッチ、そしてそのままキスしなさい」

「は、はぁ? なんでキスを――」

 琴里は士道の言葉を遮るように士道の口に人差し指を当てた。

「――時間がないの。彼女を救いたかったらやりなさい。いや、絶対やりなさい。これは命令よ」

 そう言うと踵を返して転送室から出ていった。

「あの優しい妹はどこ行ったんだか」

 その言葉を聞いて琴里は立ち止った。

「戻るわよ。これが終わったら、ね」

「琴里……」

「絶対に、帰ってきてね……おにーちゃん」

「ああ、当たり前だ」

 琴里が視界から消えるのを確認すると、両手で頬を叩いた。

「よし。やってやるか」

 

◆◇◆

 

 十香の視界の下には黒焦げになった巨大なクレーターがあった。その中心点には同じく黒い人影が熱さのあまり体をよじらせていた。

「フンッ、生きていたか……〈最後の剣(ウルティムス・グラディウス)〉」

 その文言を呟くと、天使の刃が黒いプラズマを迸らせ始めた。

「やめて!」

 どこからか女の声。振り向くと、衝撃波で動けなくなっていた隊員の一人だった。顕現装置(リアライザ)を動かそうとしているようだが、霊装結界の中では無意味だった。

「全て無に帰れ」

 剣を頭上に掲げる。空から雷が落ち、剣に膨大なエネルギーが蓄積されていく。

 

 その時だった。

 

「十ォォォォォォォォォォォォォ香ァァァァァァァァァァァァァァ――――ッ!」

 

 空を見上げた。そこには、士道がいた。

「シ、ドー……」

 涙が零れた。落ちた涙が天使の放つプラズマで蒸発した。

「十香ッ! 手をッ――!」

「シドー!」 

 十香が手を伸ばし、士道の腕を掴んだ。

「よし、キャッチ! んで――」

 最後をする前に、十香の瞳を見た。とても澄んだ瞳だった。

 そして一気に引き寄せて抱きしめると、唇を重ね合わせた。十香の体から光鱗があふれ出し、あたり一面を真っ白な光に染めた。

 

 

 光の中に、誰かがいた。

 小さな人影だった。誰かは分からない。でも、見覚えがある。

 

〈やっぱり忘れちゃったんだ〉

 

「忘れたんじゃない……錆びついてしまったんだ。長い時間のせいで」

 

〈そうだね。長い長い時間だったもの。宇宙規模でも長いと言えるくらいね〉

 

「俺は……思い出せるかな……?」

 

〈もちろん。だってお伽噺はいつだって、ハッピーエンドだもの〉

 

 小さな人影が笑ったような気がした。

 俺も微笑んだ。

 

「そうだよ……だってこんなに、幸せなんだもの」

 

 

 気づくと地面に着地していた。なぜか十香は全裸になっていたが、士道はあまり気にしなかった。

「シドー……」

 十香は士道を抱く腕に力を込めた。

「……ありがとう」

「ああ、良かったよ。生きてて」

「お願い、してもいいか?」

「いいよ」

 十香は士道の胸に顔を沈み込ませた。

「ずっと、私のそばにいてくれ」

「ああ、一緒だとも。絶対離してやるもんか」

 血のような夕暮れに虹がかかった。

 

◆◇◆

 

 割れたショーウィンドーのガラスに、少女が映っていた。少女は士道たちの姿を見ると、その場に掻き消えるようにして消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                《次章予告》

 

              最初の精霊を封印した士道。

  

             間髪入れずに発生する謎の事件。

 

            付近では少女の姿が目撃されていたという。

  

            はたして彼女は精霊なのだろうか。

 

            それと同時に動き出す、紅きヒーロー。

 

            そして物語は本筋と異なる道を歩き出す。

 

         次回、

 

                             

 

               「彼女は一体《誰》なのか」

 

 

 

 

 

 

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