TRANSFORMERS:INVASION OF THE SPRITS   作:Kyontyu

15 / 18
PART4

 

 

 ユリが目を覚ますと、視界に士道の顔が映った。

「士道……ずっと、いたのか?」

 それを聞いた士道は、はっとしてユリの手を握った。

「あ、ああ……それよりも、ユリは大丈夫なのか?」

 ユリは息を吐いて、自分の体をベッドに沈み込ませる。

「優しいんだな。お前は」

「へ?」

「私はお前に迷惑をかけてばかりで、何もできてない」

 そんなことない、と言おうとしたが、彼女の頬の傷を見て士道は言葉が詰まった。

「もう私はここにはいれない」

「……どうして……」

 ユリは徐に自分の服をまくり上げて、腹を見せた。

「これって……!」

 ちょうど脇腹のあたりが裂け、そこからケーブルの配線や機械のようなものが見えていた。

「そう。私は人間ではない。過去に精霊として『造られた』が、精霊でもなくなってしまった……今は自分が誰なのかすら分からない。が、一つ言える事は、私は人の生命エネルギーを吸うただの化け物だということだ」

 「違う!」と士道は立ち上がった。

「確かに、いろいろ迷惑をかけられたし、君のことは何も知らない。でも、それでも……君はユリだ!」

 目を大きく開いたユリは、少し驚いているように見えた。そして目を伏せ士道と反対方向に寝返りをうった。

「士道。もし明日、私がここにいたなら、連れて行ってくれないか」

「どこに……?」

 

 

「そうだな……どこか、楽しいところに」

 

 

 そして次の日の朝、ユリはそこにいなかった。

 

◆◇◆

 

〈なぁ、進之介。いつまでここにこだわるつもりなんだ? 奴はもう、ここには来ないと思うんだが〉

 進之介とベルトさんは、ショッピングモール近くの駐車場でトライドロンに乗っていた。

「いや、必ずここに来る」

〈どうしてそんなことが言える〉ベルトさんは少し呆れ気味に言った。

「刑事の勘だ」

 ベルトさんはため息をついた。

〈私には分からないよ……〉

「ああ。俺にも分からないことがある」

〈それを私に言われても……〉

「なぜ、彼女はこの場所に固執するのか。この事件の被害者全員が、ここで襲われている。それには何か、意味があるはずなんだ」

〈意味か。たとえば、誰かを待っているとか……?〉

 その時、重加速の波が二人を襲った。しかし、進之介は腰につけていたシフトカーの力で影響を受けなかった。

〈! 進之介!〉

「ああ。行こう! ベルトさん!」

 そして進之介はベルトさんを掴むと、ドアを開けて外に走り出た。

 

 昨日二人が戦った場所のちょうど真ん中に、彼女は立っていた。

「私には分からない」ユリは言った。

「なぜ、彼は私を恐れないのか。なぜ、彼は私を嫌わないのか」

 進之介はベルトを腰に巻き、キーを回した。

 ユリは右頬のガーゼを?ぎ、それを投げ捨てた。醜く化膿した傷が美しい顔に刻まれていた。

「私は精霊として作られ、ロイミュードになり、ヒトに近づこうとして人を殺した……そんな私を、私は分からない!」

 黒いオーラがユリから吹き出し、辺りを覆っていく。そして傷を隠すように、彼女の顔に、面が現れた。白と黒の面だ。

「クッ……」オーラに気おされて進之介は後ずさる。

〈進之介! タイプトライドロンだ!〉

 進之介はシフトトライドロンを取り出して、スイッチを押した。

〈Fire all engine!〉

 シフトトライドロンをシフトブレスに装填し、レバーを引いた。

〈ドライブ! タイプトライドロン!〉

 進之介は、トライドロンをモチーフにしたドライブタイプトライドロンに変身した。その時、急に甲高い音が周囲から聞こえ始めた。まるで空間が悲鳴を上げているかのように。それと同時に町中にサイレンの音が鳴り始める。

「まさか……空間震!?」

 甲高い音が更に大きくなり周囲の窓ガラスを一気に割った瞬間、ドライブは空間震によって吹き飛ばされた。

「グワッ……!」

 吹き飛ばされたドライブは後ろの瓦礫に体をぶつけ、その場に崩れ落ちた。立ち上がろうとするも、足がよろめいて上手く立つことができない。変身が解けなかっただけ幸いと言うべきか、命に関わるようなダメージではなかった。それでも、かなりのダメージではあったのだが。

 ユリの周りをえぐる様にして発生した空間震は、ショッピングモールを瓦礫に変えた。

「妥協はなしだ!」

 何とか立ち上がったドライブはシフトブレスに装填されたシフトトライドロンの、二つ目のボタンを押す。

〈カモン! フレア スパイク シャドウ!〉

 左腕にマックスフレア、ファンキースパイク、ミッドナイトシャドーのタイヤが巻き付く。

〈タイヤ、カキマゼール! アタック ワンツースリー!〉

 三つのタイヤが一つになり、三つの特徴が合わさったようなタイヤになった。

 そしてレバーを引く。

〈アタック ワンツースリー!〉

 ドライブが四人に分身し、ユリを囲む。左腕から発射されたスパイクは、ユリの近くに着弾すると、爆炎とともに爆発した。

「……ッ」

 ユリが、かすかによろめくのを見逃さなかったドライブは飛んできたトレーラー砲を掴み、大砲モードに変形させたあと、シフトスピードを装填した。

〈スピード、ホーウ!〉

 シフトトライドロンをトレーラー内部に突っ込み、表示が「FULL」になったのを確認して、砲口をユリに向けた。

〈フルフルスピード ビッグ ターイホーウ!〉

 ドライブが引き金に指をかけた瞬間、目の前に人影が飛び込んできた。

「止めてくれ!」

「ッ! 君は……」

 ドライブはトレーラー砲を構えるのを止めた。

「俺は祟宮士道! あいつの友達なんだ!」

 それを聞いたユリがピクリと反応する。

「でも、ここは危険だ! 君は早く離れて――」

「――分かってます! でも、俺は、彼女を助けたいんです!」

 士道の叫びが、瓦礫の山に響く。しばらくの沈黙の後、ドライブは変身を解除した。

〈!? 進之介!?〉

「本当に、やれるんだな?」

「もちろんです。やってみせます」と士道は頷く。

 進之介は笑って、「じゃあ、行って来い」と言った。士道は再び大きく頷いてユリのもとへと走った。

〈進之介……〉

「大丈夫だ。ベルトさん。彼ならやってくれるよ」

〈しかし……危険が大きすぎる!〉

「人間と分かり合えるロイミュードだって、いるはずだよ。チェイスや、072のように」

〈…………〉

 

「ユリ!」

 士道がそういって駆け寄ろうとしたとき、目の前で小さい爆発が起きた。

「近寄るな!」右手のひらを士道に向け、「近づけば、お前を殺す」

「なんで……なんでそんなこと言うんだよ! ユリ!」

「私はユリじゃない! 私には何もない! 何も……何も……ッ!」

 ユリから黒いオーラがさらに吹き出す。士道はその黒い感情に飲み込まれないように歯を食いしばって、ユリを見つめた。

「何もないなんて……悲しいこと言うなよ!」

 面を被ったユリの顔が、前を向いた。

「ユリはユリだ! 少なくても、俺にとっては! それに、何も無いなんて言うなら、俺がユリの『何か』になってやる!」

 ユリの面が揺らぎ、薄くなり、消え始める。

「士道……」涙が溢れ、零れ落ちる。

「だから……ッ! 来い!」

 士道が手を伸ばす。ユリもそれに合わせて手を伸ばす。

「し――」

 ユリが何か言いかけた瞬間、オーラの噴出が止まり、ユリの顔も硬直した。そしてその場にいた全員が目を見張った。

 

 

 ユリの腹部を、一本の腕が貫いていた。

 

 

「はっ……」

 ユリは自分に起きた出来事を確認しようと、下を向くのと同時に腕が引き抜かれ、ユリは倒れた。

「え……」

 ユリの後ろにいたのは、黒いコートを着たどこか士道と同じ雰囲気を漂わせる黒髪の青年だった。

「いやはや、お疲れさまでしたっと」

 青年が言い終わるやいなや、少年の後ろに拳を構えたアクセルが現れる。しかし青年がニヤリと笑うのと同時に、アクセルは見えない『何か』によって吹き飛ばされ、瓦礫に自分の身体を埋め込ませた。

「貴様……ッ!」

 アクセルが腕をパルスランチャーに変形させ、青年に照準を合わせる。しかし、青年が指を鳴らすと、再び『何か』によってアクセルの身体に無数の孔が開いた。アクセルはガタガタと音を発すると、完全に沈黙した。

「アクセルッ!」

 士道は叫ぶも、アクセルはただの鉄塊のように沈黙したままだった。

「そんな……」

 気づくと、目の前に青年が立っていた。

「また会おう。五河……いや、祟宮士道」そういうと、その場に掻き消えるように姿を消した。

 士道は膝から崩れ落ちた。そして、叫び声を上げると自分の拳で地面を叩いた。進之介はその様子をただ見ているだけしかなかった。

 

 真っ白で、何もない空間。そこに旗幟は立っていた。

「ああ……もしかして死んじまったのか? 俺は……」

 自分の身体を見下ろしてみた。トランスフォーマーではない、自分が人間だった頃の身体だ。

「いや、まだだ。死んではいないよ」

 旗幟は後ろを振り向く。そこにはユリが立っていた。右頬の傷は無くなっていた。

「お前は……」

「アクセル、いや、正岡旗幟。お前に頼みたいことがある」

「頼み?」

「ああ。そうだ」

 ユリはそう言いながら旗幟に歩み寄ると、肩に手を置いた。

「お前に、士道は守ってもらいたい」

 旗幟は深くため息をつくと、ユリの手をどかした。

「いや、駄目だ。俺のシステムは崩壊しかけている。メモリを保持するのに精一杯なんだ。たとえ回収されたとしても、脳髄がもうボロボロになってるかもしれない」

「だから君に頼んでいる」

「いや、だから何言って――」

「――私の全メモリーはあの男が持って行ってしまった。今の私は残留思念にすぎない。しかし、私の身体はまだ動く。自己修復機能が備わっているから、しばらく休めば自由に動けるようになる」

「と、いうことはつまり……俺がお前の身体に入れってことか?」

「そうだ」ユリは無表情のまま頷く。

 旗幟はしばらく黙った。そして、口を開いた。

「……分かった。そうしよう」

「正岡旗幟。最後に一つ。言いたいことがある。半年の内に、もう一人の人柱が現れる。士道の代わりとしてここに送られる。全て最初から計画されていることだ。注意しろ」

「人柱って、誰のことだ?」

 ユリは肩をおろし、ため息をつく。

「言えない。少なくとも、私の口からは。ブロックされているんだ」

「そうか……分かった。注意しておく」

 「頼んだぞ」ユリがそう言うのと同時に視界にノイズが走り、ユリの姿が消えていく。

 

 そして目の前が真っ暗になった。

 

 全ての感覚が鋭敏になって自分の身体をチクチクさせる。目を開けようとするも、光が強すぎて中々開けることができない。音はさまざまな雑音が混ざり合って不協和音を奏でている。誰かのすすり泣く声。

 『ユリ』は目を開けた。視界に映ったのは士道の顔。両頬には涙の跡が見えた。

「おかえり……ユリ」

 『ユリ』は朦朧としかけている意識の中で反射的に答えた。

「ただいま」

 

 夕焼け空の下、瓦礫の山の中。抱き合う二人の姿が炎に照らされている。

 

 太陽は沈み、夜になって、新しい『何か』を引き連れて朝日は昇る。

 

 『何か』は人にとって様々だが、それは何かしらの出会いを作り出す。

 

 予期された『何か』が彼の前に現れる。雨を操る精霊。

 

 その名は――――

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。