TRANSFORMERS:INVASION OF THE SPRITS   作:Kyontyu

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皆さま、お久しぶりでございます。すいません。一か月も(多分それ以上カモ……)音沙汰無しになってしまって……まぁ、いろいろプライベートで起こりましてね。まぁ、それよりも、劇場版は見てきましたでしょうか? ぶっちゃけOVAでよかったと思います(あくまで個人的な感想です)。
では、張り切ってどうぞ。


第十一話「心に刻まれるモノ」

 

 

 その景色は、灰色に染まっていた。

 空には灰色の雨雲、灰色の瓦礫、黒煙を上げる装甲車。

 しかし、一か所だけ、色鮮やかな場所が存在した。緑色のパーカーを着た幼い少女。左手のうさぎのパペットは、返り血を浴びたかのように真っ赤に染まっている。そしてその周りにそびえる氷柱。氷柱の中には薄っすらと人型の影が見える。

 雨は全てを流してしまう。建物、命、少女の涙さえも雨粒に隠れて判別できない。

 少女はただそこに立ちすくんだままだった。そして、しばらくすると風景に溶け込むようにして姿を消した。それと同時に雨がやみ、街に静寂がやってきた。

 数時間前まで活気のあった街は、ただの廃墟になってしまった。

 

 ◆◇◆

 

「なるほど、街一つがまるごと崩壊とは。穏やかじゃないわね」

 琴里は国際顕現装置管理委員会、通称IRAC(アイラック)から送られてきた書類に目を通しながら呟いた。

「ええ。現地には大勢の死傷者にがでてます。それに、精霊を目撃した者も多いと」

 そう言ったのは神無月だ。二人は〈フラクシナス〉の艦橋で話していた。

「なら、なおさら急ぐ必要があるわね。そのうち精霊のことが表向きにされれば精霊を排斥しようとする運動が高まるでしょうね。そうなればラタトスクも危うい」

「そのせいで円卓の老人たちは計画を早めようとしてますし、焦りが見え始めましたよ」

「まぁ、なるようになるわ。私たちは少なくともあと八体の精霊を封印しなければならないしね」

 琴里は資料を置いて立ち上がる。目の前の巨大モニターには緑のフードを被った少女が映し出されていた。

 

 ◆◇◆

 

 ユリの事件の翌日だというのに、登校日は容赦なく襲い掛かる。教室で士道は一人考え事にふけっていた。

 十香が現れてからというもの、士道には休む間もなかった。次から次へと問題が起こり、肉体的にも、精神的にも、辛い。

 そういえば、キスしたのって、生まれて初めてだったけ……? そう思いながら人差し指で唇に触れてみると、あの時の十香の感触が一気に蘇って、士道は一瞬身震いした。

 人差し指を見つめながら呟く。「……初めてじゃない気がする……」

 徐に教室のドアの方を向くと、そこにはちょうど入ってきた折紙がいた。いつも通り、制服を着た折紙。何とも言えない異様な違和感を感じつつ、士道は椅子の背もたれに寄りかかった。

 折紙が隣の席につくのを見ると、士道は折紙に質問を投げかける。

「なぁ、折紙。最近怪我とかしなかった?」

「? そんなことは、ない」

「あ、そう……」

「どうしたの? 急に」

 士道は照れ隠しをするように頬をかく。

「いや、なんだか、その……デジャヴ、というか……うまく言葉にできないけど、奇妙な感覚でさ……」

「なら一度、医者に診てもらったほうがいい。むしろ私が診てあげる」

「あ、いや、いいよ別に。知り合いに医者がいるから」

 それを聞いた折紙は特に顔色を変えることもなく「そう」と言うと、カバンから〈どんと来い、超常現象〉を取り出して、それを読み始めた。

 そして教室のドアが再び開き、タマちゃん教諭が入ってきた。

「はぁーい! それじゃあホームルーム始めますよー」

 士道はため息をついて、教科書を開く。

 

 

 昼休み。士道は学食で和風定食を食べていた。というのも、今日はお弁当を作っていなかったのだ。十香、ユリの件と立て続けに起きた一連の出来事に、士道は疲れ果ててしまった。朝も、いつもより三十分も寝坊してしまっていた。

「相席、よろしいですか?」

 少女の声。正面を向くと、長い黒髪の少女が立っていた。六月だというのに、ブレザーを着て、左目は長い黒髪に隠れている。

「え、あ、どうぞ」

 少女はにっこり微笑んで席についた。制服を見る限り、士道と同じ学年のようだ。

「祟宮士道さん、ですわよね?」

「そうだけど……何で俺の名前を……」

 フフッ、と少女は笑う。

「まぁ、いいじゃありませんの。わたくしは時崎狂三。以後、お見知りおきを」

「あ、こちらこそ」

 その時、狂三の頭にある黒猫の髪留めが光を浴びて煌めいた。傷だらけで、彼女に似つかわしいようにも思える。

「ああ、これが気になりますの?」

 狂三が髪留めに触れる。士道は慌てて首を振った。

「あ、いや、そういうわけじゃないけど」

「これは、大切な人にもらったお守りなんですのよ」

 ふーん、と士道が髪留めに目をやると、ふと『ずれた』感覚が押し寄せた。

 

 ――黒い……

 

 ――目に見えない……

 

 ――時計塔……

 

 そして士道は一気に現実に引き戻された。

「どうかいたしました? 顔色が優れないようですけど」

「あ、いや、ちょっと最近疲れが溜まってるのかな~って」

「そうですか。お気を付けくださいまし」

「うん。ありがとう。じゃあ、俺はこれで」

 士道は軽く会釈すると、おかずが半分以上残ったトレーを持ち上げ、その場を離れた。

 

 ◆◇◆

 

 五河家付近の住宅街にて、十香とユリが、並んで歩いていた。ユリの右手には、買い物袋が握られている。

「悪いな。付き合ってもらって」ユリが言った。

「全然そんなことないぞ? むしろ楽しかったくらいだ!」

「ありがとうな。ホントに」

 ユリは自分の手を見た。昨日まで金属の身体だったことが信じられない。質感とか、完全に女の子のそれだった。十香に買いものに付き合ってもらったのは、この体にまだ慣れていないというのもあるが、なんだか恥ずかしかったというのが大きなウェイトを占めていた。

「で。前まで着てた黒いワンピースは着ないのか?」

 急にそんなことを言われて、ユリはびくっ、とした。

「え。あ、いやね……その……ホラ、す、スカートには、まだ慣れんのよ……アレ」

 今のユリの恰好は、全て士道に借りたものだった。黒いワンピースも一度着てはみたものの、恥ずかしくて死にそうになった。

 ポツリ、と水滴が十香の鼻に落ちる。

「冷たっ……雨か?」

 ユリは空を仰ぐ。雲が濃く、黒くなってきていた。そして一気に土砂降りの雨が降り注ぎ始めた。

「うわっ、急ぐぞ! 十香!」

「あ、ああ!」

 二人とも、常人とは思えないスピードで、雨の中を駆け抜けていった。

 その二人を先ほどから見つめ続ける影が一つ。

「やっぱり、ここにいたんだ……」

 瞳の奥には、消えぬことのない憎しみの炎が揺らめいていた。

 

 ちょうど十香とユリの二人が超高速で家に駆けだした頃、士道は下校途中であった。もちろん土砂降りの雨は彼に容赦なく襲い掛かる。

「くそっ……なんだって急に……」

 そう悪態をついた瞬間だった。地面が濡れていたため、士道は足を滑らせて転んでしまったのだ。効果音をつけるとすれば、ビターン!

「あが……」

 服は完全にびしょ濡れ、着衣泳をした後のようになっていた。心の中で雨雲に中指を立てつつ、士道は顔を上げる。そこにはいつの間にかにいたのか大きな緑色のフードを被った少女が立っていた。

 しかも位置の関係で、士道にはそれが見えてしまっていた。

 

 そう……スカートの中である。

 

「あ……」

 少女と目が合った。深い藍色の瞳はよどんでいるようにも見えた。士道の一番嫌いな顔を、していた。

『ねーねー? 今、君見たでしょ?』

 すると、急に左手のウサギのパペットが口をパクパクさせて喋り始めた。

「いや、いやいやいや! み、見てません! 何も見てません!」

 士道は慌てて立ち上がると、手を振りながら後ずさり始めた。

『ホントー? 実は見えてたんじゃないの~?』

 少女がパペットを突き出し、士道の顔に寄せる。

「本当です! 本当に見てません!」

 パペットが身を引く。

『そぉーおー? ま、ならいいんだけどさ。次、四糸乃に手を出したら、容赦しないからね~♪』

 と、手を振るような仕草をすると急に雨が酷くなって、少女は雨の中に消えてしまった。

「なんなんだ……って、こんなことしてる場合じゃなかった!」

 士道は我に返ると、急いで走り出した。

 

 ◆◇◆

 

 士道が家に帰ると、士道の寝巻を着たユリがソファーに座っていた。

「あ、士道。借りてるぞ」

 ユリはバスタオルと着替え一式を士道に投げてよこす。「すごい雨だったろ?」

「あ、ああ。風呂は入れるか?」

「いや。今は十香が入ってる。やめておいた方がいいだろう」

 士道は頷く。

「そうだな」

 髪を拭きながら士道は着替え用の寝巻に着替え始めた。

「なぁ士道。少し、話していいか? オレの昔の話だ」

「もちろん」

 ユリは深く息を吸うと、ソファーの背もたれに寄りかかって話し始めた。

 

「十年前、当時のオレは自衛官で、茨城の方に行っていた。オレには、三人の家族がいた。父、母、そして、ちょうどお前と同じ年頃の妹だ。三人は東京に住んでいた。離れてはいたが、仲のいい家族だった。そして、忘れもしない、六月九日……それは、起きたんだ」

 

 復興作業が続く都心に、甲高い音が響き渡る。世界が、啼いている。そして、まばゆい光が東京を覆った瞬間、音と爆風が地表を這い、全てが終わった頃には、東京が消滅していいた。

「東京、大空災……」士道は息を呑んだ。

「そうだ。みんな消えた。文字通りにな。遺品なんてものは無かったよ。あったのはバカでかいクレーターだけ。それからオレは、ASTに入り、東京大空災について調べていくうちに、一つの答えにたどり着いた。起こした奴の正体だ。その名は……識別名〈プリンセス〉」

「ッ‼」

 士道は驚愕に満ちた表情で、後ずさった。

 

「おーい。ユリ、出た……ぞ?」

 バスタオルに身を包んだ十香が声をかけようとするも、部屋の空気はなんだか重い。そして、十香はユリから発せられた言葉に、戦慄を覚えた。

 

「そう。つまり十香は、オレの家族を、殺したんだ」

 

 十香はショックを受けた様子で口を押えると、音もたてずに階段を上がっていった。

 

 ユリは言葉を続ける。

「士道。過去は消えないんだ。深く刻まれた怨念は、人の心にいつまでも残る。正直、オレは十香が憎い。殺してやりたいぐらいにな。でも、それをしないのは、信じているからだ。士道を」

「俺を、信じる……」

 ユリは立ち上がり、士道の肩に手を置いた。

「だからどうか……ガッカリさせないでくれよ」

 そう言うと、ユリは階段を上がっていってしまった。士道は、ユリの手が置かれた場所に、自分の手を置いた。

「怨念、か……」

 

 ◆◇◆

 

 気付くと、士道は教室に立っていた。

「なんだここ……ハッ!」

 地面を見渡すと、血にまみれたクラスメートたちの姿があった。

「ひっ……」

 窓側の壁は全て破壊され、ちょうどその真ん中あたりに、霊装を纏った十香が浮いていた。その霊装も血にまみれている。奥には黒煙を上げる建物が見えた。

「十香! 何やって……ッ!」

 今度は後ろの壁が破壊され、そこからアクセルと、その手のひらに乗るユリ、そしてその両脇にはASTの隊員たちが浮かんでいた。

「士道!」ユリが叫ぶ。

「お前を信じたオレがバカだったんだ!」

 その顔には憎悪が浮き彫りにされている。

「ユリ! 一体何が起こってるんだよ!?」

 その時、十香が掠れた声でつぶやいた。

「全て、邪魔だ。消え失せろ」

 十香の両隣りに黒い球が形成され始める。

「十香! 止めてくれ!」

 士道の必死の叫びも届かず、球はASTの方に飛んでいき、まばゆい光と共に炸裂した。それと同時に大量の肉片と鮮血が飛び散り、士道の制服を、朱に染める。士道は両ひざから崩れ落ちる。

「十香! お前だけはッ……絶対に許さない!」

 ユリが鬨の声を上げ、アクセルと共に殴りかかるも、十香が作り出したエネルギーの壁にあっけなく吹き飛ばされてしまった。後方で爆発音が響き渡り、風が士道と十香の髪を揺らした。

「止めてくれ……止めてくれよ……」

 十香が、天使を持って歩み寄る。士道の目から涙が零れ始める。

「なんで、なんで、分かり合えないんだよぉ……」士道は項垂れる。

 十香は、士道を見て、冷たく言い放つ。

 

「それが、我々の、本質だからだ」

 




四糸乃って、なんかアズールめいたアトモスフィアを感じません? ああそうですか感じませんか。
では、また次回。
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