TRANSFORMERS:INVASION OF THE SPRITS   作:Kyontyu

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第二話「ファースト・コンタクト」

 高校に士道が着いたのは、八時十五分を回った頃だった。

「二年――四組か」

 士道は昇降口に張られていたクラスの割り振りを見て、士道は呟いた。

 三十年前の空間震の後、東京都南部から神奈川県、つまりは空間震で更地になってしまった一帯は、政府の再開発によって様々な最新技術のテスト都市になっていた。最新技術と言ってもシェルターの数がやたら多いくらいしか最新の部分は無いが。

 士道は、校庭の端に立つ黒いポールのような物を見た。学校の四隅に配置されているその黒いポールは、『エネルゴン探知機』と呼ばれる機械である。

 二年前のミッション・シティで起きた『トランスフォーマー』と呼ばれる金属生命体達の戦いの後、世界各地で出現するようになったトランスフォーマー達に対応すべく、米国の一部等で試験運用されていたエネルゴン探知機を取り入れることを、政府は決定した。そして、まず最新技術のテスト都市である天宮市に配備することになった。

 ちなみに天宮市では一度もエネルゴンを探知したことは無い。

 士道は新しいクラスにドキドキしつつも教室に入った。

 まだホームルームまで時間があったが、結構な人数が揃っていた。

 何気なく教室を見回してみる。机に突っ伏す者、友達と楽しく談笑し合う者、ただ一人ぼーっとしている者、反応は様々だが、士道の知っている顔はあまり見えない。

 座席表を確認しようと黒板を見る。

「――祟宮士道」

 その抑揚のない機械のような少女の声に背中に悪寒が走った。

「はい!?」

 びっくりして素っ頓狂な声を上げてしまう。新しいクラスの面々はこちらを向いてなにやら話していた。一日目から見世物状態になってしまった士道は、最悪だ、と心の中で溜息をつくしかなかった。

 士道は振り向いた。

 後ろに立っていたのは細身の少女で、肩をくすぐるほどの長さの白い髪は陽光を反射して光を放っているかのように見えた。

 その時、目の前にノイズがかかったかのようにテレビの砂嵐が一瞬駆け抜けた。と、同時に頭の中を複数のヴィジョンが浮かび上がる。

 

 降り注ぐ黒い槍。

 

 黒い月。

 

 そしてその中で胎動する少女。

 

「!?」

 思わずたじろいだ士道は目を瞬いた。

 何だ……今の……?

「どうしたの?」

「えっ、いや、俺?」

「そう」少女は頷く。

「会ったこと、ありましたっけ?」

 額に一筋の汗が流れる。

 違う、会ったことはある。でもそれが何処で、いつなのかが思い出せない。まるで記憶に鍵がかかっているようだ。

「覚えてないの?」

「あ、ああ」

 違う! 俺の言いたいことはそれじゃない! なんで勝手に口が動くんだよ!?

「そう」

 少女は大して気にもしてなさそうに呟くと自分の席について何やら本を読み始めた。

 タイトルは、『どんと来い、超常現象』。表紙には阿部寛似のイケメンが挑戦的な笑みを見せている。

「な、何だ……一体」

 この少女といい、この体といい、分からなすぎる。

「とうッ!」

 腹部に鋭い一撃。

「グフッ!」

 体をくの字に折り曲げて腹を抱える。

「なにしやがんだテメェ!」

 犯人は見なくても分かる。殿街宏人だ。

「おう、元気そうだな。セクシャルビースト・五河士道」

「いやなんだよその二つ名は!?」

「セクシャルビースト――つまり淫獣。しばらく見ない間に色気つきやがってこのやろー。どうやって鳶一と仲良くなった? ん? 答えろよ」

「鳶一? 誰それ」

「とぼけんなよ。今さっき仲良く話してたじゃねぇか」ニヤニヤしながら顎で先ほどの白髪の少女を示す。

 視線を感じたのか、少女がこちらを向いた。先ほどのヴィジョンと重なってしまい、士道は目を逸らした。

 それに反して殿街はなれなれしく手を振る。しかし、少女は特段の反応も示さず、手元の本を読み始めた。ちなみに、ちらりと見えたのだが、あの本、字が大きすぎる。絵本の文字よりも大きい。

「ほら見ろ。いつもあんな調子だ。この学校で最高難易度と呼ばれ、しかも購買のパンも必ず手に入れる超能力も持ってる。おまけにあの美貌だ。恐らく鳶一に恋しなかった男子は今までいなかったとも言われている」

「は、はぁ……」

「だが、さっきも言った通りこの学校の中では間違いなく最高難易度。来禅のマヒャデドスとも呼ばれているんだぞ? 一体どうやって」

 ドラクエの呪文が使われているくらい凄い堅物のようだ。

「いや、あんま良く分かんねぇや。ちょっと気分が悪いんだ。しばらく話しかけないでくれよ」

 士道は溜息をついて自分の席に着く。殿街は「あぁ、そうかいそうかい」と不愉快そうに言うと、教室から出ていった。士道はふと、隣が気になって隣を見た。

 視線が、ぶつかった。

 隣にいたのは、鳶一だった。士道はすぐさま目線を前に戻し、下を向く。

……何かが、違う。

 この何とも言えない『ずれている』感覚は士道の頭の中にくっついて離れなかった。

 

◆◇◆

 

 灰色のTOYOTA FT-1――アクセルは法定速度ギリギリの速度で高速道路を走っていた。両端のドアには斜めに入った白いストライプと白い文字で『TYPE-0』と書かれている。

 子供を沢山乗せたバンを運転する男は右側を追い越していく珍しいスポーツタイプの車を見て、「運転手は誰だろう?」と疑問を抱いた。

 運転手が窓越しにエンジンを唸らせながら走るアクセルの運転席を見ると、そこには青いジャケットを着た無表情の青年が乗っていた。

 男は、ただの甘やかされた坊ちゃんだろう、と思って別に何も気にせずに走り続けた。しかし、よく見れば気づいた筈だ。アクセルの運転席に座る青年は目の錯覚を応用した三次元映像だということに。

 

 アクセルは不思議な感覚のまま、この『新しい体』を操作し続けていた。操作、といってもラジコンのように機械を介しているのではない。自分の意識で動かしている。しかし、この新しい体に慣れていないせいでそう感じるのだ。

 目線は目の前の道路に向けられていたが、意識は過去に飛んでいた。この新しい体になってしまった時の事だ。

 

「あなたは、『トランスフォーマー』になったのよ」

 自分の上司であるアジンは、確かにそう言った。

「どどどどど、どういう……」

 アジンは溜息をつく。

「簡単に言うと、あなたは先のミッション中に死んでしまったのよ」

「!」

 予想外の展開に旗幟――アクセルはレンズを広げた。

「そして、あなたの新鮮な脳を回収して、今のその躯体、人工トランスフォーマータイプ・ゼロ、開発ネーム『アクセル』の中に入れた、それだけよ」

「それだけって……」

 人を部品みたいに扱うなよ……と少し項垂れた。

「で、しょっぱなから悪いけど、ミッションを頼みたいの」

「ミッション? 拒否権ってあります?」

「残念ながら無いわ。今はとにかく時間が無いの。だから単刀直入に言うけど、ある民間人の守護を頼みたいの」

「民間人、ですか……」

 秘密組織である〈ラタトスク〉が民間人の守護を依頼するとは、かなり重要な案件なのだろう。

「その民間人の名は、祟宮士道」

「日本人?」

「ええ、日本の司令官には伝達済みよ。今すぐここを発って。何があっても民間人の守護が最優先――」

 そして、アクセルのレンズをしっかり見据えて、言った。

「――たとえ、自分の命を捨てることになっても」

「……了解」

 

 すると、車内に警報が鳴り始めた。

 空間震だ。

 アクセルはタイヤを軋ませながら左折した。その真新しい緑色の看板には『天宮市』と書かれていた。

 

◆◇◆

 

 空間震警報が鳴ったと言うのに、未だファミレスの前で反応を示すGPSの座標を目指し、一目散に校門前の坂道を駆け下りる。

「ったく、何やってんだよ……あのバカ!」

 士道がそう悪態をつき、坂道を下り終えると、目の前に灰色のスポーツカーが止まった。ドアには白い文字で『TYPE-0』と書かれている。アクセルだ。

 急に現れた車に士道は驚いて尻もちをついてしまう。

 ドアが開く。奥には青いジャケットを着た無表情の青年が座っていた。高性能スピーカーから男の声が聞こえた。

 

 

「乗りたまえ、少年。一緒に妹さんを助けに行くぞ」

 

 

 士道は考える間もなく、その車に乗った。

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