TRANSFORMERS:INVASION OF THE SPRITS 作:Kyontyu
どうしよう?
士道は車に乗り込む。それと同時にエンジンが唸り、タイヤを鳴らしながら急発進した。
「あ、あの、あなたは?」
「何も知らずに乗り込んだのか」
青年の呆れたような声。だが、運転している青年は表情を一切変えず運転していた。
「えぇ、まぁ」
「……オレはな――」
その瞬間、進行方向の風景が球状に光り輝き、キィィィィィンとい甲高い音を発しながら『何か』が炸裂した。
「!」
士道の乗り込んだ車はまるで映画のワンシーンのように回転しながら後方に、飛んだ。
グルグル回転する車内の中で士道は必死に意識を途絶えさせまいと歯を食いしばっていた。
そして車のエンジンフード部が地面に突き刺さったかと思うと後ろに倒れて止まった。
「ふ、ふぅ……」
士道は放心したようにシートにもたれる。
「大丈夫ですか?」
隣の青年はいつの間にか消えていた。
「一体なんだ……空間震?」
ドアノブに手をかけ、ドアを開こうとするも、歪んでしまったのか、開く様子は無い。仕方なく士道は上の手すりを掴んでドアに蹴りを加えた。ドアは意外と簡単に開いた。
外に出ると破砕されたコンクリートの粉末が漂っていて、視界が白に染まっていた。
そして視界が晴れると――
「何、だよ……これ……」
――さっきまで存在していた街が、『無くなって』いたのだ。それも跡形もなく、きれいに吹き飛んでいた。爆弾が爆発したのとは違う。円形にくりぬかれたドーム状の跡。爆風によって割られた窓ガラス。
ここにもし人がいたら……?
そう想像した瞬間、背筋に悪寒が走った。
すると後ろに殺気を感じた士道はとっさに振りかえる。
「――――!」
そこに立っていたのは、少女だった。しかも、彼女は明らかに普通ではない。右手に持った幅の大きい両刃の剣。紫と金で装飾された金属のような重厚感を放つドレス。頭部にはエンジェル・ハイロゥのようなものが輝いている。
そして――
――――尋常ではないほど、美しかった。
「今回は、お前か」
少女がそう呟くと、剣を縦に大きく振りかぶって、一閃した。
「い゛ッ……!」
となりを閃光が駆け抜けていったかと思うと、後ろの建物が爆発音を響かせながら倒壊した。
チ、と少女は小さく舌打ちし、もう一度振りかぶる。
「ああ! いや! ちょっと待ってくれ!」
士道は彼女を説得しようとした。生きる為というのもあるが、士道には他の事で頭がいっぱいだった。
――なぜあんな影の差した表情をしているんだ……!
いつ頃からかは良く覚えていないが、士道には、『ある感情』を敏感に感じとる能力があった。
その感情とは――すなわち、『絶望』。
それを感じ取るといつも助けたくなってしまう。それが士道という人間だった。
「なんだ。人間」
「いや、君は……?」
とりあえず名前を確認しようとした士道だが、それは誤算だった。
少女は横に一閃。すると今度は後ろの建物全てが士道の背の高さと同じになった。
「……!」
「名、か――そんなものは、無い」
少女は目線をおとしてそう言った。暗かった表情に更に影が増す。
恐ろしかった。とにかく怖い。次失敗すれば確実に殺される。
不安も多いが、士道はそれ以上に助け出してやりたいという思いの方が強かった。
「あの――」
「――殺すぞ。貴様」
「ッ」
剣の切っ先がこちらに向けられる。少女の顔はさっきとはうって変わって憎しむような表情になっていた。
「ちょ、ちょっと話ぐらい聞いてくれよ!」
「なんだ、なれなれなれしい!」
もちろん、もちろん、助けてやりたいのだが、一つ、言いたいことがあった。
「『なれ』が一つ――」
「――絶対殺してやる」
剣を持つ手に力が更にこもる。まさに起爆一秒前。かなりヤバい。
『離れなさい! そこの民間人!』
女性の声が上から響く。二人が声が聞こえた方を向くとミサイルが放たれた。その瞬間、顔を黒いマスクで覆った少女がちらりとこちらを向いた気がした。
「えっ!」
しかも、誤射か、数個のミサイルもこちらに向かってくる。
「やッ!」
その瞬間、後方からエンジンの咆哮が聞こえたと思うと、先ほどまで士道が乗っていた車がこちらに迫りながら形を変え始めた。
フレームが畳まれ、パーツがねじれ、車はその姿を変えていく。そして一通り姿を変え、人型に変形(トランスフォーム)した車――アクセルは跳び上がる。
世界がスローモーションになる。
「うあぁぁぁぁぁぁ!」士道は叫ぶ。
跳び上がったアクセルはちょうど士道の真上にくると、手を伸ばし、士道を掴んだ。そしてきりもみ回転しながら再び変形(トランスフォーム)する。
灰色のスポーツカーとなったアクセルのシートには恐ろしさのあまり気絶してしまった士道が収まっている。
アクセルはとりあえず安全そうな場所に向かって走り始めた。
後ろに戦う少女たちを置いて。
◆◇◆
――ああ、やっと会えたね。
どこかで聞いたかもしれない声が響く。
――君は覚えていないんだろうけど、私はちゃんと覚えてるから。
覚えている。でも、それがなんだったのか、思い出せない。
――じゃ、時間がないから、また会おうね。
会えるのか。また。
――うん。絶対に会えるから。その時、また話そう。それまでゆっくりお休み。
士道は目を開けた。
クリーム色の天井と、長細い蛍光灯が見えた。少なくとも士道たちの家では無い。
「ああ、目ざめたかい?」
声の方向に向くと、そこには眼鏡をかけた老婦人がこちらに向かって微笑んでいた。
「あ、あなたは……」
「ん?」老婦人は眼鏡を外す。
「私は、犬養 純子よ。一応医者だから」
純子は再び微笑んだ。なんだか、安心させられるような笑みだった。
「で、ここは一体……?」
士道は起き上がって辺りを見回した。頭が重い。
「ここは――」
純子がそこまで言った所で、壁にかけてあった有線電話が鳴った。
「――あら失礼……はい、医務室……え? 彼をここに?……無茶ですよ。だって彼はまだ……分かりました。信じますよ。では……はい」
電話を戻す。
純子は溜息をついた。
「士道君……ちょっと、来てくれるかな? 司令が、君に会いたいそうよ」
『司令』? なんだそれ。
「あ、はい」
士道はベッドから降りて、純子の手招きする方へ歩き始めた。
しばらく廊下を歩いていると奥の大きなドアの前で止まった。純子がドアの横にある機械にネームプレートのICと、網膜を認証させる。
プシューと音を立ててドアがスライドする。
「なんじゃこりゃ……」
そこに広がっていたのはSF映画とかでよく見る戦艦の艦橋のような場所だった。複数のオペレーターが何やら端末を操作し、目の前には巨大なモニターが配置されていた。部屋は薄暗く、モニターの明りが主な光源だった。中心には艦長席と思われる他の椅子より一回り大きい椅子がある。
「連れて来ましたよ。全く、無茶させて」
「ご苦労様です――ですが、大丈夫ですよ。司令の判断は間違えませんから」
艦長席の隣に立っていた長い金髪の長身男が言った。
「おっと、申し遅れました。副司令の、神無月恭平と申します」
「は、はぁ。初めまして」
にっこりと微笑む恭平が士道に手を差し出した。士道はその手を握り返した。
「やっと来たのか。シン」
「えッ……?」
声の方向に振り向くと、そこには白衣を着た令音が立っていた。
「か、母さん!? なんでここに……」
「まぁ、かくかくしかじかってことさ」
「全然分からないよ!」
「全く、文句ばっかね。文句製造機」
「ん? この声ってもしかして」
艦長席がグルリと回転する。
「ここの司令の……って、ミジンコ程度の知能しか持たないあなたでも、さすがに分かるわよね」
「まさか……琴里!?」
艦長席には足を組んで大仰な態度をとる琴里が座っていた。口にはチュッパチャップスが収まっている。
琴里はニヤリと笑った。
「ようこそ。〈フラクシナス〉へ」