TRANSFORMERS:INVASION OF THE SPRITS 作:Kyontyu
「どんなもんじゃぁーい!」
拳を突き上げ、歓喜のポーズをとった。
ギャルゲー訓練初日から十日後、士道はやっとゲームをハッピーエンドで終わらせる事が出来たのだ。
……そのせいで、思い出したくもない古傷を何度も抉られたが……
「んー、まぁCGはフルコンプしたようだし、とりあえず及第点ってトコかな……でもまぁ、相手は所詮二次元で、シミュレーションだし」
「……ん、そうだな。そろそろZ軸も加えていくか」
「そうしましょ。時間も押してるし」
やっと訓練を終えて達成感に浸っていた士道の背後から琴里と令音の声。
嫌な予感。
「――それで、士道。次の訓練だけど」
「いや、全然気が進まねぇんだけど、なんだ」
琴里はそこまで言うと、「誰がいいかしらねぇ……」と顎に手を当てた。その横で令音がコンソールを操作し始める。モニターに映っているのは学校内の様子だ。一体いつの間にこんなものを……と士道は内心溜息をつく。
「彼女はどうかね?」
「?」
士道がモニターを覗きこむ。そこに映し出された静止画は我らが担任の岡峰教諭だ。
「絶っっっっ対にいやだ!」
一応母親だろ。
◆◇◆
「ああ……死にたい」
士道は既に真っ白に燃え尽きていた。それも、先ほどの岡峰教諭を口説き(結局やらされた)、しかもその後鳶一折紙嬢までも口説いたのだ(なんだかんだでうやむやにしてきたが)。
『ハァ、ホント、情けないわね』
右耳のインカムから呆れたような琴里の声。
「うっせぇ……」
その時、超特大の警報が耳をつんざいた。
ウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――!
「!」
周囲の生徒たちがシェルターに向かって一目散に走り始める。
「空間震……」
もしかして、と何か予感がした時、琴里の声が飛びこんで来た。
『今すぐ外に出て! 〈フラクシナス〉で回収するわ。発生場所は……来禅高校!?』
「えっ!?」
そして甲高い音が響く。
「やっ――」
逃げ出そうと走った瞬間、教室で『何か』が炸裂した。
衝撃波によって士道の体は軽々と吹き飛ばされる。
飛ばされた士道は窓ガラスを突き破り、外に飛び出した。
地上三階。
砕けた窓ガラスがキラキラと輝く。
落ちたら死。
全身に当る風が強くなる。
恐怖で目を瞑った時、体を妙な浮遊感が包んだ。
目を開けると、そこは〈フラクシナス〉内の転送室だった。
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」
士道は荒く息を吸う。そこに入り込んで来た純子が手に持った酸素吸入器を士道の口に当てる。酸素が肺を満たす。
「ゆっくり、深呼吸して」
士道はその言葉通り、自分を落ちつけるように深く息を吸って、吐いた。
「あ、ありがとう、ございます……」
「ええ、これぐらいどうってことはないわ……それよりも――」
「――実戦よ。士道」
純子が言葉を続けようとしたところに、琴里が部屋に入ってくるなり、そう言った。
「でも――!」純子が反論する。
「多分無いと思うけど、もし精霊が殺されるような事態になればここまでしてきた意味がないのよ。立ちなさい。士道」
「あなたッ!」
純子は怒りのあまり立ち上がる。
「犬養さん、俺は、大丈夫ですから」
純子の白衣の裾を引っ張って、士道は弱弱しく言った。
「そんな様子じゃ……」
「無茶は承知です。でも、俺にはやらなきゃいけないことがあるんです。これで助けられる命が、ありますから」
埃を払って立ち上がる。
「士道君……」
「さすが私のおにーちゃん。そうでなきゃ」
「ああ、で、何すりゃあいいんだ?」
ええ、と琴里は腕を組んで話し始めた。
「現在、来禅高校に現界した精霊は、校舎内を動いてないわ。その外にはASTが待機してる。万が一の時に備えて、アクセルも隠れさせてるわ。で、今は凄くチャンスなのよ」
「と、いうと?」
「ASTの基本装備である戦術的顕現装置(コンバット・リアライザ・ユニット)は閉鎖環境での戦闘に適してないのよ。で、今は精霊が出て来るのを待ってるってワケ。ASTが動いてないうちに、さっさと恋させちゃなさいよ」
「………」
額に汗が流れる。頭では理解していたつもりだが、実際やるとなるとさすがに緊張して来た。
「何よ? もしかしてビビってる?」
「いや、そういうワケじゃ――」
「んじゃ、いってらっしゃい」
琴里が壁のスイッチを押し、士道は来禅高校内に転送された。
横を見ると足場は無かった。先ほどの空間震で吹き飛んでしまったらしい。
たまらず口を押さえる。なにぶん、急に転送されたものだったから、ヤバい奴がいますぐにもドロップアウトしそうなのだ。
どうにか吐き気を飲み込み、士道は精霊の元に歩み始めた。
◆◇◆
『出てこないわね』
遼子の声が、通信機を通して聞こえてくる。
「そうでいやがりますね」
真那のCR-ユニット、〈ハウンドドッグ〉のバイザーにはしっかりと目標が捉えられているというのに、屋内での戦闘は不利だという理由で屋外で待機していた。
眼下には大口径ガトリングガン〈ヘルペイン〉を構える〈キュプクロス〉の姿も見える。
『まぁ、あまり復興部隊の仕事も増やしたくないし、このまま消失(ロスト)してくれればいいんだけどね』
「………」
沈黙が外を支配していた。
◆◇◆
教室の中に、その姿をとらえた。長い夜色の髪。そして頭部に輝くエンジェル・ハイロゥ。
「あ、あの――」
口を開いた瞬間、すぐ横に穴が空いた。
「い゛ッ……」
「動くな。人間」
低く押し殺したかのような声が教室をこだまする。
「ちょ、ちょっと待てよ!」
精霊がこちらを振り向く。乱れた髪が前に垂れている。その髪の間から見えた水晶の瞳は憎悪の色で染まっていた。
「お、俺は敵じゃない!」
両手をあげ、一歩ずつ精霊に迫る。頬に一筋の汗が垂れる。
「そこで止まれ」
「ッ!」
士道はビクッ、と震えて、そこで立ち止まった。
精霊が右手のひらをこちらに向ける。
「お前は今、私の攻撃範囲内にいる――まずいくつか質問させろ。お前の生死は、そこで判断する」
緊張で体が粟立つ。質問の答えを間違えれば、一瞬でアウト。
「お前は、何者だ?」
「俺は――」
答えようとした時、右耳のインカムから琴里の声が聞こえる。
『待ちなさい。士道』
「さて、どうしたもんでしょーね」
琴里は艦長席で足を組んでモニターを見た。そこにはバストアップで映された精霊、画面には精霊の状態を示したいくつかのパラメータが表示されている。これは、まさに『ギャルゲー』だ。
そして今、そのモニターには、三つの選択肢が表示されていた。〈フラクシナス〉に搭載された恋愛シミュレータを持つ人工知能、〈キューピドゥ〉がこの場に最適な言葉を提示しているのだ。
①「俺は五河士道! 君を救いに来た!」
②「通りすがりの一般人ですやめてください」
③「人に名を訊ねる時にはまず自分から名乗れ」
「総員、選択ッ!」
琴里のディスプレイに集計結果が表示される。
最も多いのは――③番。
「みんな私と同意見のようね」
その言葉にクルー達は頷いた。
「①は王道ですが、逆に相手に不審な印象を与えてしまうし、②は論外ですね」
よし、と琴里はマイクに口を近づけた。
「士道、こう言いなさい――」
「『人に名を訊ねる時にはまず自分から名乗れ』……ッ、て」
言った後で後悔の念が押し寄せた。
背面の壁に風穴が空く。
「貴様、死にたいか?」
精霊の右手のひらから硝煙のようなものが立ち上っている。
「お、俺はッ、五河士道だ! 攻撃する意思はない!」
精霊が士道をねめつける。
「そういえば貴様、どこかで見た事があるな」
「あ、ああ!」
士道は思いっきり頷く。精霊は士道に近づくと、髪を掴んで持ち上げた。
「ぎッ……!」
「貴様、何が目的だ? 私を殺すのか? ん? なんだ、答えてみろ」
なぜ。
士道は分からなかった。
なぜ、『殺さない』という言葉を信じることが出来ないのだろう。信じることが出来ない環境にいたのか。
この世界に来て、命を狙われて、戦って。信じられるワケも無いのだろうか。
それが、たまらなく気持ち悪かった。
「人間はッ――」
「?」
「――お前を殺そうとする奴らだけじゃ、ねぇ!」
「………」
精霊の瞳に一瞬、迷いが見えた。
「お前が会ってきた人間は、分からないけど、少なくとも、俺は違うッ!」
「そうなのか……」
精霊の瞳が見開かれる。
「ああ! その通りだ!」
精霊は右手で髪を掻きあげ、手を後ろに回す。
「では、聞こう。私を殺すのではなく、貴様は何しにここに来た?」
「っ、それは……」
言葉に詰まる。
『士道。選択肢よ』
またもや琴里からの通信。
「え?」
〈フラクシナス〉の艦橋のメインモニターには先ほどと同じように選択肢が表示されていた。
①「君に会う為さ」
②「なんでもいいだろ、そんなの」
③「偶然だよ、偶然」
「んー、まぁ②はさっきの反応を見た限りダメっぽいわね……総員、選択!」
各々のコンソールを叩いた音が響くと、ディスプレイに結果が表示された。
今回は①だ。
「士道、言ってみなさい」
『き、君に会うためさ……』
『……? 会う為? 何をする気だ』
再び選択肢。
①「君に興味があるんだ」
②「君と、愛し合うためさ」
③「君に、聞きたい事がある」
今度は数が割れた。
「うーん、精神状態は安定してるようだし……思い切って②で行きましょう――士道」
『ま、マジか……』
「当然」
『………』
返って来たのは沈黙。その後、意を決したのか、息を吸う音が聞こえた。
「……き、き、君と……愛し、会う、ため……」
次は黒板が綺麗に半分に分かれた。
「冗談はいらん」
士道はこのミッションを成功させる以外にも、やりたいことがあった。
「俺はッ、君と話をするためにここに来たッ!」
「話、だと……?」
精霊が訝しげに士道を見た。暗かった表情にさらに影が差す。
「ああ、そうだ! 俺は君と話す為にここに来たんだ! 内容なんて関係無い。つまらなかったら無視してくれたっていい!」
表情が驚きへと変わる。いける……士道は乾いた唇を舐める。
「俺は――君を否定しない」
「!」
精霊が、なんだか一瞬うれしそうに顔をほころばせた気がした。
その時、無数の銃弾が士道と精霊の間を引き裂いた。壁に無数の穴をあけていく。
「逃げろ。同胞も撃たれることになるぞ」
「でもっ!」
再び銃弾の嵐。
「大丈夫だ。必ず、また会おう」
精霊が、こちらを向いて、一瞬笑いかけた。
その時、見た事も無いはずの光景が、頭をよぎった。
「待ってくれ! と――」
精霊は、その場から掻き消えるように風景に溶け込んでいった。
『逃げなさい! 士道!』
「ああ、分かってるよォッ!」
立ち上がり、廊下に出た。
「まずいな」
路地裏から見届けていたアクセルは呟いた。
「司令、相手にはトランスフォーマーがついてる。しかもかなりの高火力武装だ。出撃の許可を」
『分かったわ。でも出来るだけ被害は最小限に、士道が逃げるまでの時間を稼いで』
「了解」
エンジンに火が入り、排気管が唸りをあげる。そしてタイヤを鳴らして来禅高校の校庭に向かった。
『精霊は?』
「まだ、出てきていやがりませんね」
霊波の観測は出来ないが、熱シグネチャーが人型の生物がいることを示していた。
「ですが、ここままなら……ッ」
ガトリングの弾を吐きださせながらそう言った。
アクセルは校庭に入るや否や、変形(トランスフォーム)を開始した。そして両腕にガトリングガンを装備する白と黄色のトランスフォーマーを押し倒した。
「!」
単眼式のセンサーがこちらを捕捉した。
アクセルは右、左、右、と殴り、頭を地面に打ち付ける。ガンガンと金属が鳴る。
周りの隊員たちは未だ校舎に弾丸を放ち続けている。
その時、キュプクロスの両肩が展開し、ミサイルポッドが現れる。それを危険と判断したアクセルは宙返りした。眼前を複数のミサイルが通り過ぎた。
「ちっ……」
アクセルは悪態をついた。
銃弾吹き荒れる校舎の廊下。士道は地面を這うように進んでいた。今や制服はぼろぼろに裂け、傷口から血が垂れている。
「く……」
額に汗が伝わる。
このまま逃げていても、いつか撃たれる。その前に、なんとかして外に出なければ。
その時、左前方に精霊が限界してすっぽり無くなった教室が見えた。天井まで穴があいている。
これなら……
「琴里! 聞こえるか!」
『ええ!』
「今俺の場所、ちゃんと捕捉できてんだろうな!?」
『もちろんよ!』
「だったら、今から俺は、あの精霊が来た場所に飛びこむから、そこから転送してくれ!」
『ええ、分かったわ!』
士道は目的地を見据える。もし運悪く弾があたれば一発アウト。ハチの巣にされてしまう。だが、士道はここで死ぬわけにはいかなかった。
「フッ――!」
走りだした。
すぐ横を弾丸が通り過ぎる。
眼前に弾が迫り、過ぎ去って行く。
士道は高くジャンプした。
「行っっっっっけぇぇぇぇぇぇぇ!」
一瞬の浮遊感。
士道は無事に転送されると同時に、意識を失った。
着地する前に、足をローラーに変形させ、両腕から高熱を放つブレードを引き延ばす。そしてクルクルと回転しながら立ち上がったキュプクロスの背後に迫り、左腕を切断。その勢いで胴体にブレードをねじ込んだ。スパークが迸り、キュプクロスは力を失って倒れた。
『アクセル。士道を回収したわ。今すぐ帰還して』
「了解」
ASTを両腕の銃で牽制しつつ、ビークルモードに変形(トランスフォーム)すると、来た道を帰って行った。
校庭に、再び沈黙が訪れた。
そういえば、トランスフォーマー/ロストエイジのDVDが発売された……よね?(不安)
作者はまだ買ってませんが、もし、見逃してしまった人がいれば、買うことをおススメします。個人的に面白かったと思います。
ダイノボットが活躍するシーンはダイナミックなので。(もちろん、オプティマス達の活躍も見てね!)
ではでは、また次回。