シャーリー全部君のためなんだよ   作:ななななななな7

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出会い

お腹が空いた。

そう思ってから一体何時間経ったのかな

偶々盗みが上手くいって食べ物にありつけたのは一体いつのことだっけ…。

盗みに失敗し、体が上手く動かなくなるくらい殴られたのって昨日だっけ?一昨日だっけ?

何でこんなに寒いんだろう…。ああ、昨日は大雨だったからか、そう言えば服もびしょびしょで気持ちが悪い。

 

お腹が空いた。

そうだ、昨日は大雨だったから、きっと何処かに水溜りが出来ている。その水で少しでもお腹を満たそう。

そう思い足に力を入れるも上手く立ち上がれない。変わりに激痛が走った。

なんでなんだろうと足を見て見たらおかしな方向に足が曲がっていた。

それに膨らんで、腫れているのか…、冷やせばきっと良くなるだろう。

足が動かないのなら仕方ない。腕を動かして水溜まりを探す。大丈夫水溜りくらい直ぐ近くにあるだろう。

その後は酒屋の裏口を見に行こう。きっと残飯は取り合いになっててありつけないだろうけど、匂いを嗅ぎつけた虫やネズミも腹の足しになる。それに貧民街の連中で殺し合いに発展していたらその肉だって…。

 

とにかく何でもいい。何か口にしたい。

生きたい、生きたい、生きたい。

 

生き残ればきっと迎えに来てくれる。

 

だって、子供には必ず親がいるのだろう?

大通りを楽しそうに歩く子供は常に親と一緒だった。

その小さな両手を覆うように守るように親の大きな手で包み込まれていた。

 

そうだ。親は子供を守ってくれるのだろう?

だから、待っていればきっと俺のお父さんとお母さんも……。

 

「…あなた、大丈夫?」

 

頭上で声が聞こえた。

女の子だ。俺よりも大きい。

もしかして、お母さん?

 

「……残念だけど、あなたのお母さんではないわ。」

 

声に出していたらしい。

少女は眉を下げると謝ってくる。

 

 

でも、そっか、お母さんじゃないのか…。

ならいつ迎えに来てくれるんだろう。

 

それまで生きないと…そう思っているのに何故か俺の瞼は自然に閉じていた。

 

目が覚めた時、水溜りが枯れてないといいんだけど…

 

☆☆☆

 

ふわふわしててあったかい。

雲の上だろうか?お母さんとお父さんが迎えに来てくれたんだろうか?

お母さんとお父さんは雲の上にいたから、中々迎えに来てくれなかったんだろうか?

ならきっと目を開ければお母さんとお父さんがいる筈。

 

「おはよう」

 

けれど、そこにいたのは俺の両親じゃなくて眠る前に見た少女だった。

 

「シャーリー?」

「私の名前を知っているの?」

 

何故か自然と口から零れた言葉はどうやら彼女の名前のようだ。

いや、そうだ彼女はシャーリー。

シャーリー・ヴァン・ガンエデン。

 

このエデン皇国の第3王女だ。

でも、何故そんなことを知っているのか?自分でも分からず首を傾げてしまう。

すると、まだ体調が良くないと判断したのかシャーリーが俺のおでこと自身のおでこをくっつける。

 

「熱はなさそうだけれど…体調は余り良くないようだから無理をしないでね!今お粥を持ってくる」

 

そう言うと彼女は部屋から出て行ってしまう。

 

皇女様なら使用人が身の回りの世話をしてくれるんじゃないだろうか?そう疑問に思ったのも束の間。

そう言えば彼女の屋敷は聖なる導きの門と呼ばれる秘術で邪な考えを持つ者、過去に一度でも家主に危害を加えようと考えた者は絶対に家に辿りつけず場所も特定出来ないという結界が張られているのだったか。

 

だから彼女はこの家を拾ってきた子供達と共に管理しているんだ。

 

けれど、何故そんなことを知っているのだろう?

 

いや、そうだ。確か、確か、確か…げぇむ。

げぇむとは何だろう?身に覚えのない単語が脳裏を過った。

 

でも、そうだ。げぇむで知ったのだ。

天翼世界ガンエデン。

すりぃでぃーこまんどあくしょんげぇむ。

 

それには未来に起こることが記されている。そう漠然と理解できた。

つまり、俺は未来を知っているのだろうか?

とはいえ、天翼世界ガンエデンと言う言葉とシャーリーの名前以外何も頭に浮かんでこない。

そもそも、そんなもの…一体何の役に立つというのだろう。

 

そんなものを知って意味があるのだろうか?

 

俺が考え込んでいると扉が数度ノックされる。

 

「入るよ。」

 

シャーリーが部屋の中に入ると同時、ミルクと小麦の匂いが鼻を擽った。

口の中が自然と涎で一杯になる。未来だのげぇむだの、そんな下らない思考が一瞬で吹き飛んだ。嘘だ。一杯になるどころか口の中に納まりきらずに口の端から涎が垂れてしまう。それを急いで服の裾で拭う。

 

汗と雨で臭くなった服。

その筈なのに口を拭った瞬間に太陽と洗剤のいい匂いがした。

それに、自分の服とは思えないくらいふわふわだ。

自身の着ている服の裾に視線を向ければやたらとひらひらとしていて可愛らしい柄をしていた。俺の着ていた服じゃない。

 

「その服、私が幼い頃に着ていた古着なのだけど気に入ってくれたかな?

あなた用に服を買っても良かったのだけど、女の子なら私の古着でもいいかと思ったんだ。私の服はそこら辺で買える者よりもよっぽど品質が良いし」

 

その言葉に俺は両手で頭を触る。

髪も短く切っているし、俺くらいの年齢なら性別なんて一目で分からない筈。少なくとも今まで出会った人間は誰も俺を女だと気が付かなかった。

 

「なんで、分かったの?」

「ごめんなさい。体を拭う時に気が付いたの」

 

そうか、言われてみれば体がすべすべしている気もする。

それだけじゃない。髪に関しては明らかに綺麗になっているのだ。まともに洗うことも出来ずにべたべたしていて時々虫が頭上を飛んでいることもあった筈なのに今はサラサラで良い匂いがする。

 

「…ありがとう」

「気にしないで。それより体は起こせるかしら?お粥は自分で食べれる?」

 

シャーリーの言葉を受け、体に力を入れてみれば、意識を失う前までは思うように動かなかった体がちゃんと動く様になっていた。

布団を捲れば足の腫れが引いており、向きも直っている。

 

「大丈夫」

「そう、良かった。」

 

それから、シャーリーに見られながらご飯を食べた。

ちょっと恥ずかしいけど、不思議と安心したし、温かいご飯を食べたからなのか、胸がほっこりした。

 

☆☆☆

 

シャーリーが俺を拾ってくれてから半年が経った。最初は料理も掃除もてんで駄目、それどころか自身の体すらまともに洗えなかったけれど、シャーリーや他の子供達が親身になって丁寧に教えてくれたため流石の俺もこの家での暮らしに慣れて来た。

 

今日だってシャーリーよりも早起きしてご飯の仕度をしている所だ。

シャーリーきっと喜ぶだろうな~。

だって、今日は朝からシャーリーの好きな林檎パイを焼くのだ。

 

しかもこの前まで料理のリの字もまともに知らなった俺がだ。

きっと一杯褒めてくれる。

 

そんな妄想をしていると窯の中から焦げ臭い匂いが漂ってくる。

 

「あれ!?」

 

急いで窯からパイを取り出すも既に表面が真っ黒に焦げている。

 

「どうして?どうしよう…」

 

食材を勝手に使って焦がすなんて…。

シャーリーはなんていうだろうか?俺がショックと不安から途方に暮れているとこちらに向かってくる足音が聞こえてくる。まずい。そう思うもこのパイをどうすればいいかと右往左往することしか出来ない。

そうしている間にも足音の主は足を止めることは無く徐々に近づいて来る。

 

「誰か起きてるの?」

 

そして、遂にキッチンの扉は開かれ、今一番会いたくない人物シャーリーが扉の隙間から顔を出した。

 

「あっ、えっと」

 

なんと伝えればいいだろう?どうすれば許してくれるだろう。そんなことばかり頭の中に

浮かび肝心の言葉が中々口から出てこない。

ただただ目でアップルパイとシャーリーを往復してしまう。

すると、俺の視線を追ったのかシャーリーも黒焦げのアップルパイに視線を向けた。

 

「もしかして作ってくれたの?」

「…うん、でも上手くできなかった。」

「確かに表面は焦げているけど、作ろうとしてくれた事実がすっごく嬉しい」

 

そう言うとシャーリーは包丁を取り出しパイを六等分に切り分けるとそのうちの一切れを小皿に移し口にする。

 

「うん、とても美味しい。」

「…ほんと?」

「ええ中のコンポート、甘さだけじゃなくて林檎の酸味もちゃんと引き出されてる。頑張ったね」

 

皿とフォークを置くと俺の頭を優しく撫でてくれる。

膝を折り目線を合わせて、目尻を下げていうものだから、本当に美味しいと思ってくれていると信じられる。胸がポカポカと温かくなる。

失敗した筈なのに成功して褒められると想像をしていた時よりも嬉しいって気持ちが溢れて頬が自然と笑みを作ってしまう。

 

「…そう?…良かった」

「ふふふっ、もしかして照れてるの?」

「違う!…照れてないよ」

「そっか、でもこんなに美味しいと皆の分残しておけないな!隠れて私が全部食べちゃお!」

「あっ、食いしん坊だ!」

「そうだよ。知らなかった?私が体も一番大きくて一番食いしん坊なこと」

 

シャーリーはその宣言通りパクパクと林檎パイを細い体の中に納めていく。皆で食べれるようにと林檎パイのボリュームもそれ相応の物を作った筈なのに一体何処に消えているのかちょっと不思議である。

 

「ご馳走様でした。美味しかった。」

 

全てを食べ終えたシャーリーはお皿を片すと直ぐに俺達の朝食作りに移った。

 

「俺も手伝う」

「あら?でも、眠くない?朝早くから頑張っていたんでしょう?」

「大丈夫、それよりもっと料理上手くなりたい。」

「じゃあ人参切ってもらおうかしら?」

 

俺は人参を受け取ると転がっていかないようにがっちり掴み、包丁を振り下ろそうとする。けれど、それを見ていたシャーリーは何故か顔を蒼褪めさせて俺の手を止める。

 

「ちょっと!それじゃあ手を切っちゃうよ!!

少し見ててね」

 

俺から人参を奪うと先ず変な道具で人参の皮を向き、次に人参を二つに切る。

成程、確かにああすれば平面の部分が出来て自然と安定する。

けれど、シャーリーが伝えたかったのはどうやらそれだけではないらしい。

 

「包丁を使う時はこうやって手をグー、猫みたいな手にします。

そして、包丁は大きく振り上げなくても大丈夫。

切りたいものに当てて押すか引けば切れます」

 

人参を半分切り終わった所で包丁を渡して来たので俺もシャーリーの真似をして猫の手を作ると人参に包丁を当てて引く。

 

「ほんとだ。切れた。」

「ね。

料理は少し危ないからこれからは私と一緒に覚えていこっか」

「うん!」

 

シャーリーは笑顔を浮かべて俺の頭を撫でてくれた。

だから、俺も嬉しくなって笑顔を浮かべて頷いた。

 

その後はシャーリーに頼まれて色々な野菜を切った。今日の朝はポトフとパンとスクランブルエッグとソーセージだった。

火は危ないからって使わせて貰えなかったけど、次やる時は炒め物も手伝って貰おうって言って貰えた!

 

☆☆☆

 

シャーリーに拾われてから一年が経った。

最近では料理に関しても頼られることが増えた。

 

下処理とかも完璧!シャーリーにも『お昼ご飯とか任せちゃおっかな?』って言われた。

だけど、それと同時にこんな提案もされた。

 

「ノアールも一緒に買い出しに行かない?ご飯を作るなら食材も自分で選んだ方が良いと思うんだけど」

 

俺はその言葉に渋い顔で返した。

だって外は危険が一杯だ。食べ物を持っていたら殴りかかってくる人や無理やり奪おうとしてくるのは当たり前。

それに俺も前までは他の人から食べ物を盗んでいたから、きっと凄い恨まれてる。

見つかったら何をされるか分からない。

 

「大丈夫。私がついているから。それにあなただってずっとここにいる訳にはいかないのよ?いつかは外に出て働かないと…。

だから、私と一緒に外に出る練習しよう?」

「…分かった。」

「うん良い子だね」

 

何時もみたいに頭を撫でてくれる。

それに安心してちょっとだけ不安が無くなった。

 

そう言えばノアールっていうのはシャーリーがつけてくれた名前だ。

俺はそれまで名前が無かったから。

意味は黒、俺の髪と目の色、後はノアの箱舟っていう伝説上の乗り物にあやかってつけたんだって。

けど、俺からすればシャーリーがつけてくれたってだけですっごい嬉しかった。

名前で呼んでくれるのもすっごい嬉しい。

 

そんなシャーリーとなら買い物もきっとすっごく楽しい思い出になるよね!

 

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