「ねぇ、クシロ…どれがいいと思う?」
「んー……気に入ったのでいいよ、マナが。」
大小色々な銃がケースや壁に立ち並ぶガンショップ。
私とクシロは、進学に合わせて新しくする銃を選びに来ていた。
正直、どれがいいかはよく分からない。
練習で使っていた銃ですら私には大きかったから、小さいのがいいのかな……拳銃とか?
それともクシロと同じのにする?隣で棚に掛けられている銃を眺めているクシロの肩には
どこか直線的な見た目の銃が下げられてる。2人そろって商品棚を眺めていると、
初老の犬の店員さんがカウンターの向こうから声をかけてきた。
「お嬢ちゃんたち、何かお探しかな?」
「あっ、え…えっとその……銃を…」
わたわたと言葉を紡いでいると、クシロが私の代わりに答えてくれた。
「…銃が欲しいけど、どれか分からない。この子、マナの。」
「あぁ、なるほど…新入生かな?ふむ……」
店員さんは私を頭から爪先まで、視線を動かすと手を見せて欲しいと頼み込んだ。
少し不安に感じたけど、クシロが寄り添うように私の隣にいてくれてるのを
衣擦れ合う肩から感じた。
私はおずおずと手のひらを向けてカウンターに腕を置く。
店員さんは測るように私の手から腕を品定めすると、うん。と
ひと言だけ呟いて手を戻すように言った。
「少し古いが…これとかどうかな?軽くて扱いやすい…君の小さな手にもしっくり来る筈だ。」
カウンターの上に置かれたのは、銀色の回転式拳銃。店員さんが言うには
新品だけど古いモデルらしく通常よりもお安く提供できると言われた。
許可を貰って手に取ってみる……確かにクシロにさえ小さいと言われる
私の手でもしっかり握れる。重さもそれほど…これにしちゃおうかな…?けど、
銃弾がいくつ入るかも考えた方がいいかもしれない……
「ねぇ、クシロは……」
「…なに?」
思わずクシロにも意見を求めようとして…やめた。私が決めなきゃいけないから……
うーん、でも……悩んでいると店員さんが察したのかもう一つ銃を出した。
「なら、少し高くなるがこれもつけよう…単発式の散弾銃だ。
リボルバーだけじゃ不安なんだろう?これがあれば下手な腕でも関係ない、"お守り"だよ。」
「お守り……」
銃の腕には自信が無いし、持っておいて損はない……かな?
値段もそれなり、むしろお得かもしれない。うーん……
私はクシロに意見を求めようとして、止めた。
クシロにはいつも私の意思を汲んでくれる、私のお願いを支えてくれる……
けど、それだけじゃ駄目だから…
「マナ……」
名前が呼ばれた気がしたけど、気づかずに私は購入の手続きを進めた。
「どう?クシロ。」
「いいと思う。」
腰と背中に差した2丁の銃をアピールするように歩きながら、その場でクルリと回る。
ふわりと舞うスカートと共に被っていた麦わら帽子が目の前に落ちてくる。
塞がる視界ともつれる足をクシロは受け止めてくれた。
「大丈夫?」
「ごめん、ありがとうクシロ。」
私より大きな腕に抱かれて、彼女の髪からふわっと石鹸の様な香りが鼻をくすぐる。
クシロ……シャンプーとかに頓着しないのかな?今度お気に入りの勧めてみよう。
姿勢と帽子を直して立ち上がると、目の前にはアクセサリーを売っている露店が見えた。
私は、そのままクシロの手を引いて露店を覗きにいった。
「いらっしゃい。」
妙齢の猫の店員さんが低い軒先から顔を出して、好きに見ていって。と促す。
チェーンやネックレス、アンクルにキーホールダーが煌びやかな装飾や彩色を施されて
並んでいる。まるで露店1つが作品の様に思えた。
綺麗だなぁ、可愛いなぁ。と思わず呟きながら品々を見ていると商品の値札が見えてしまい、
さっきまで感じていた感嘆とした気持ちは、どこかへ消えてしまった……。
もしかして、この装飾は本物……クシロにあまり触らないように注意しておこう。
「ねぇ、クシロ。この商品……クシロ?」
クシロは1つのアクセサリーを手に取って、じっとそれを眺めている。
目を奪われるというのが正しいのかも…
彼女が眺めている物は、すべすべとした質感の装飾が付いた小さな十字(ロザリオ)
「気に入った?」
「えっ……あっ、あの…」
「ふふっ、なんでそんな安物がここに紛れてるか気になるでしょ。」
店員さんの発言に、ロザリオの値札を見ると「¥1,000」と書かれてる。
他の商品の1/5程しか無かった。
全然そんなことに気づかなかったけど、私はコクっっと頷く。
「それに使われてるのはね、真鍮とビーチグラス。ただのガラス片なの。」
「こ…こんなに、き…綺麗なのに……ですか?」
「えぇ、素敵でしょ。」
店員さんに言われなければ、この綺麗な装飾も本物の宝石かと思っていた。
それくらいに綺麗だから……たぶんクシロもそう思っている。
店員さんは視線を私からクシロに向けて、口を開いた。
「ここに並んでいる装飾と比べたらそれは偽物でしょうね。
けど……それを見て綺麗と思った感情は何よりも本物なの。」
「あの……私……」
クシロは十字を見ながら口ごもる。横目で私を見る彼女と目が合った。
私はクシロの手を取ると店員さんに言った。
「あ、あの…これ、くだ……さい。2つ。」
「マナ……うん…ください、これ。」
「ふふっ、毎度。2つで2千円ね。」
帰路についてる最中、露店で買ったロザリオを空にかざしてみる。
赤いグラスと真鍮色の十字…うん、良い。
クシロも大切な物を見つけたように、静かに十字を見つめてる。
「クシロ、お揃いだね。」
「……うん、お揃い。…マナと。」
暫くして、私とクシロは進学予定のルイスパリッシュ統合学園に体験入学に来ていた。
広大な学園に4つの科、観光地の様に巡ったオリエンテーションもいよいよ終盤。
この学園で新入生になると行うイベントの疑似体験が今から行われると私達参加者は、
校舎の前に集められていた。
「イベントって何だろう?」
「"献杯"って書いてあった…パンフレット」
「献杯?」
「持ってきたよぉ…献杯用の葡萄水」
「お、ありがとうございます副会長。」
「ぼくは会長のとこに行くからここは任せていいかい?」
「おっけ。向こうお願いしまーす。」
副会長と呼ばれた人が案内を担当してくれてる人に緑色に焼けた瓶を手渡していなくなった。
瓶から赤い液体が紙コップに注がれて参加者全員に渡される。
担当してくれてる生徒曰、入学したら祈祷と共にこれを飲むのが習わしと説明された。
今回は簡単に行くからねー。の掛け声のあとに鈴が2度3度鳴らされて、飲むように促される。
うッ……し、渋い…
「けほっ……ク、クシロ…これ渋くない?
……クシロ?」
「……あっ、うん。そうだね…」
クシロ、上の空……なにかあったのかな?
一株の不安を胸中に残して体験入学はつつがなく終わった。
その後、この不安は私に起きた1つの変化とともに起こってしまった。
それはたまたま、勉強途中に椅子に座ったまま伸びをしたとき
両手を前に突き出したら、目の前が夜みたいに真っ暗になってその奥に微かな光が見えた。
最初は何が何だか分からなくて椅子から転げ落ちたけど……見えるだけで特に害は無い
怖かったけど何度か試してみて、これは探してる物を見えるようにするのと
夜が少し身近になると分かった。
言葉にしづらいけど、あえて言うなら私は"夜目"が効くようになった……
このことをクシロには言えていない…心配させちゃうと思ったから。
いよいよ進学先を明確に決めなければいけなくなる時期に2つの報せが私を襲った。
ルイスパリッシュ統合学園の廃校と三木クシロの失踪……夜目が効くことに、
少しばかり自信の様な物が出来上がりつつあった私の目は真っ暗に染まっていった。
それから、私はトリニティ総合学園へと進路を変えた。
荘厳で壮大なこの大きな学園は私をちっぽけにひとりぼっちになった現状を
ありありと写している。それくらいこの学園に圧倒されていた。
でも、そんなのはすぐに気にならなくなった…
彼女をクシロを探さなくちゃいけないから……
最初はヴァルキューレに捜索願を出した。だけど、証拠も目撃証言も少なくて
消えたとしか言いようのない状況に捜査は難航してるって聞いた。
受験も進学も終わり、捜査も頭打ちを過ぎた頃、連邦生徒会長の失踪が起こった……
クシロの捜査は有耶無耶になった。
SNSでも聞き込みも人と上手に話せない私には情報を集めるなんて難しい……光が見えるまでは…
ある時、学校の知り合いの探し物を見つけた時に気づいた。
"夜目"を使えばクシロの場所が分かるんじゃ……すぐに夜を覗いた。
真っ暗闇の中に見える微かな光確信が持てたあの光にクシロがいる。
だって……私が最初に見たのと同じクシロがいることを示すオレンジの揺らめき。
すぐに、その方向を調べた。場所はブラックマーケット、
近づかないように言われている犯罪の温床……クシロに会うには行くしかない。
「これで何度目っすか……」
「あ、あの…わ、私、ちょっと友達に…」
「嘘つけブラックマーケットにいこうとしてたでしょ!」
「ほら、これ以上やると牢屋か一時停学にしなきゃいけないよ。」
何度もブラックマーケットに向かおうとしても、近場や学園内で
正義実現委員会や怪しまれた自警団に連れ戻されたのが続いた。
停学になるとブラックマーケットに行けなくなる…クシロに会えなくなる……それだけはいやだ。
力づくでここから逃げる…?けど、私にそんな力無い……
ぐるぐると夢物語な打開策を講じていると私を囲んでいる正実の後ろから
"大人"の人の声が聞こえてくる。やがて、正実の糸目の人と何か話した後、
危険な事しないように。と言葉を残して正実の方々は去っていった。
少しの間、私と大人の人は見つめ合う…この妙な空気を変えるようにその人は口を開いた。
"とりあえず、シャーレに行こう。ここだと話したいことも話しにくいと思う。
君の名前は……"
「ひ、日向マナ…です。」
シャーレの先生……この人とならクシロに会いに行けるのかな…。