乾いた針葉樹の隙間を白い二つの影が抜ける。
「あうう……な、なんですかー!あれ!」
「以前、補習授業部のみんなと見た映画に出てきたのに似てる……だが、銃で倒せないことはない」
「このまま相手してたら銃弾が尽きちゃいます!とにかく今は、逃げましょう!」
「わかった……しかし、ここはどこなの?」
何故、ここにいるのか。どうして自分たちに向かって湧いてくるのか
考える暇もなく2人は乾いた地を駆けて行った。
「ほんっとうに!ごめん!!」
真横から腕を振り下ろす歩兵の一撃を躱しバレルを頭に突き立て、リリは引き金を引く。
「少しは寝坊癖治ってると思ったらこれかぁ……
リリ、まだスズにお世話してもらってるのか……っと」
マナに引き付けられている異形
捻じくれた枯れ木のような外皮を纏った"装甲兵"を背後からサヨコが槍で一突きにする
リリが謝っているのには理由があった。
当初の予定では、私達は日の出とともに出発し早い段階で目的地に到着という予定だったのだが
リリが予定の時間を過ぎても全く起きなかった。
サヨコ曰く同級生の間ではリリが朝に弱いというのはある意味、有名だったらしい。
サヨコは学校変わったんだから少しは甘えず改善していると思っていたが結果としては…
「け、結構、陽が昇っちゃいましたね……10時くらい、でしょうか?」
移動もそれなりにかかったとはいえ大幅な時間ロスを起こしていた。
空砲鳴らされても起きづらいことってあるんだなぁと観測所でのやりとりを思い出していると
アロナから周辺の掃討が完了したと教えてくれる。
『先生、周囲に異形の気配はありません。
うぅ……いつもなら、もう少し広い範囲を索敵することもできるのですが……
ここはなんか、水の中にいるみたいで……動きづらいです』
"ありがとう、アロナ。無理しないでね。"
眉を下げてしょんぼりとしてるアロナに下がってもらい、みんなに異形が片付いたことを伝える
緊張が解けたマナは胸を撫でおろしていたがサヨコとリリは神妙な顔をしていた。
「サヨコちゃん」
「リリもそう思う?」
"どうしたの?"
2人は何かを感じ取っているみたいで、あくまで所感と付け加えたうえで答えた。
「別に統計とか取っている訳じゃないんだけど、異形の数が多い
オレ達がここに来るまでに相手したのでも歩兵が15、装甲兵が9、感染者が2、猟犬が6」
「ハッキリ言って、ここまで遭遇するのは普通じゃないかも……あくまで、あーし達の所感だけどさ」
確かに、昨日デルタ地区を抜けてきたときは数える程度しか異形の相手はしなかった。
それがセイブル地区、いや……マナが示す方向に向かうほど相手せざるを得ない状況が増えてきている気がする
思考の海に浸りそうなのを切り上げ、マナに改めて目的地を聞く。
「ひ、光は動いていません……あそこを、ずっと指しています」
マナが指さした先には倉庫の様な建物が山間を切り開いて線路を伸ばしていた。
「炭坑用の貨物倉庫だね。もしかして今回も……」
「いるね、ターゲット」
マナと一緒に暗視をしていたサヨコは考えてもしかたないとばかりに首を振り先頭を歩き始めた。
"はぁ……はぁ……"
「先生、大丈夫?」
"だ、大丈夫"
線路を辿りながら貨物倉庫まで歩いているけどデルタ地区と比べて、高低差があり不安定な地形はじわじわ体力を削っていく
運動する時間を作ったほうがいいのかな……シロコかスミレあたりに相談してみよう。
一度待ってもらい、息を整えるために深呼吸をする。深く肺を動かし吸う……瞬間、連続した発砲音が聞こえて思わず咽る。
"スゥー……ッ!ケホっ!ケホっ!"
「だ、大丈夫ですか!?」
"う……うん"
「音が軽い、オレ達のとこのじゃないな……?」
「報告にあった密猟者かな」
"スゥー、ハァー……ん?これ……、2人ともちょっといいかな"
冷静に分析している2人の足元を指さす。そこには、2人分の足跡が音の先に続いていた。
「こ、これって密猟者の……」
「いや、報告に合った足跡は目測で28以上って言ってた。それに比べるとこの足跡は小さい。」
「迷い込んだ子か別な密猟者か……まだどっちか判断できないね」
判断材料が少ないが迷い込んできた生徒なら前回の様にターゲットと遭遇するのも危険だ
密猟者ともなると鉢合わせてしまったらどうなるか分からない。
マナには悪いが一刻も早くどちらかを見つけなければいけないと思う
サヨコも同じ考えだったようでマナに探索の一時中断を申し出る。
「すまないマナ。観測所が近くにない以上、新たな足跡を無線で伝える事ができないから足跡を追うのに尽力したい」
「か、構いません。ここの危険性は始めて来た時に身に染みてますから……」
「ありがとう。マナちゃん、先生」
"うん、何か起きる前に私達で保護しよう"
足跡を辿っていくと、ある建物の窓辺で途切れていた。
「セイブル校の第二実習棟……あんまり入ったことはないな」
「アクセス悪いんだよね。ここ……」
先行して窓から乗り込んだサヨコに続きマナが入ろうとするが足をかけたとこで動きが止まる。
「待った……いいよ来て」
「んっ……っと、ど、どうかしました?」
改めて部屋に入った私達にサヨコは金属の筒に柄のついた物に巻き付いたワイヤーを手に持っていた。
「もしかして、ワイヤートラップ?」
「そ、うちの閃光弾を利用して作ったものだ」
「手榴弾を使わなかったのはなんでだろ?」
「時間稼ぎを優先したか、ここの状況を知らない……かな
迷い込んできたってのが有力そうだね」
「あ、あの……それだと、どうしてルイスパリッシュの
道具を使っているのに、迷い込んだと分かるんですか……?」
「異形が出てきたとき全部が全部持ち出せたわけじゃない。今でも探せば使える道具や銃は見つかる」
足元に注意して。と、サヨコは忠告して実習棟内を進む。
中はまさに荒廃と表すのが正しく、窓は垢に汚れ廊下も砂や土が入り込み隅には雑草が根を生やしていた。
『先生……微弱ですが生徒の気配を感じます。
それと異形の気配もすぐ近くにあります。気を付けてください!』
アロナの報告からやはりこの建物内に誰かが逃げ込んだみたいだ
それと異形も案の定徘徊しているらしい……すぐ近く、いったいどこに?
上下左右と視界を動かすと壁際に生えている雑草の中を黒い何かが蠢いている。あれは……ヒル?
口に出ていたみたいで私の言葉を拾ったリリは大げさに反応した。
「ヒル!?」
「え、ヒ……ヒルですか?」
「ヒル、先生……どこだ?」
私の言葉に三者三葉に同じ言葉が返ってくる。
"うん、そこの茂みに……"
指さした茂みには子犬に近い大きさの丸々としたヒルが這っている。
「先生、マナ、あのヒルには触らない近づかないを徹底して」
"倒さないの?"
「あのヒルは"肉頭"っていう頭の無い異形の頭の代わりをしてるの
接敵しても面倒だから極力無視するのが一番だよ」
全員で壁際を避けて、窓際をなぞる様に進む
エントランスに続く丁字路を覗くとリリは思わずと言った感じで忌避の声を上げた。
「うわ……!?さすがに気持ち悪い」
エントランスに続く道には何匹ものヒルがうようよと這っており道を塞いでいるようにも見える。
サヨコに聞いてみると肉頭は通常、数匹のヒルを周囲に従えているがここまででは無いらしい
彼女達が避けるのを前提に行動している異形が複数いるかもしれない事実に冷汗が伝う。
一度そこから離れて適当な部屋に入りサヨコは暗視を使用して
足跡の持ち主の居場所を割り出そうとするとコツコツと天井から足音が聞こえてきて私達は咄嗟に息を潜めた。
"迷い込んだ子かな?"
「違う……光は1階を示してる。おそらく密猟者だと思う
近くの階段はエントランス正面に続いていたはず、オレ達は足音に乗じて移動しよう」
気配を消しながらエントランスから反対の教室に向かう。
道中に現れる歩兵は極力避けていたが、それでも避けられないのはサヨコとリリが率先して白兵戦で音を立てないように異形を処していく。
マナも足手まといになるまいと、銃のストックで殴打してみたようだけど軽く仰け反らせるだけで倒すには至らなかった
適材適所ってあるから無理はしないように。と肩を落としたマナをフォローする。
サヨコとアロナが同じ場所を示し、私達は教室の手前で一度立ち止まる。
"この教室にいるみたいだね"
「こっちも同じ。それにしても先生のタブレット凄いね
オレ達もさすがに異形とかどこの誰までは暗視では分からない」
"優秀な秘書がいるからね"
シッテムの箱を撫でると画面のアロナが嬉しそうに顔を綻ばせた
サヨコは佇まいを直して作戦を伝える。
「オレとリリが教室に入るから、先生とマナは合図があるまで外にいて」
「密猟者でも行方不明者でも保護はしなきゃね。やり方に差はあるけど」
"私も、ここから状況は把握してるから気を付けてね"
サヨコとリリは、あえて同じ扉から教室に入る。
少しだけ開けた隙間を槍の穂先で上へ下へと動かし罠が無いかを確認していく
なるべく声を上げないようにしながら、誰かいないか呼びかけるが返事はなく変わりに教室内の教卓が揺れた。
2人はそっと近づくとカチッという何かが嵌った音とともに煙が噴出される。
「今だ!走れ!」
「は、はい!」
煙の中で二つの声が聞こえたのを逃さずリリとサヨコは動くが、それを一筋の銃撃が阻止しようとする。
「ちょ、ちょっと待って!
あーし達は危害咥えないから!」
混乱しているのか敵だと思われているのか今だ姿が見えない相手は、リリの言葉を聞こうとはしなかった。
サヨコは声の感じから少なくとも密猟者では無いと辺りをつけ、リリにもう一人の方を強引でもいいから止めろと指示を出す。
一瞬だけ暗視を使い、位置を特定したリリは左右の銃を器用に乱射し一瞬晴らした煙の先、
逃げようとしていた一人の足元へけん制し逃走を塞ぐ。
「きゃっ!」
一瞬見えた煙の先では白い制服の生徒が尻もちをついていた。
「ッ!」
煙の中から、もう一人がカバーに入ろうとするのを
銃撃に交じって気配を消していたサヨコの槍が制止する。
「視界をふさぐのは悪くないけど地の利はオレ達のほうが上だ
悪いようにはしないから、大人しくして」
「すまないがそれを信じる根拠が無い。Vanitas vanitatum──」
聖句を唱えながら尻もちをついた生徒と同じ白い制服が散りゆく煙に続き露わになる
後ろ手に回された手には手榴弾が抜かれようとしているのを、突如割って入った大人の声が遮った。
"待って!待って!"
「せ、先生……あ、危ないですよ。」
教室に入ってきた私に誰しもが動きを止め釘付けになる
いまもマナに止められているけど、聞き覚えのある声につい飛び出てしまった。
マナと同じ白い制服の2人は困惑と安堵が混じった声で私を呼ぶ。
「せ、先生!」
「先生、どうしてここに……?」
"無事でよかった……アズサ、ヒフミ"
資料:異形
装甲兵
丸まった枯れ木の様な固い外皮装甲に覆われた膨れた異形。
動きは遅いが、有り余る堅牢さを持っており頭部も外皮で隠れているため
高い破壊力を持つ武器以外では正面切って戦闘するのは正気ではない。
肥大した片腕のかぎ爪も特徴。
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活動報告にて修正してから投稿する。と半年ほど前に申しましたが
モチベを上げたい。という個人的な私欲から投稿を再開いたします
投稿範囲は本編最後と一部サイドストーリー迄の予定です
それに伴い本格的に修正版の目途が経ったら再度こちらは非公開とさせて頂きます
某所から見てくださってる方、笛から触れてくださった方
私の勝手な事情で振り回してしまい申し訳ありません。