ようこそ先生、呪われた地へ…   作:nr/成

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clue.10 暗闇に灯す一歩

サヨコとリリに武器を収めてもらい困惑しているアズサとヒフミ落ち着かせる。

 

"2人とも大丈夫?"

「うん、大丈夫」

「せ、先生、ここはいったい……それにあの人たちは?」

 

2人に紹介しようとした矢先、私達が入ってきたのとは違う扉から歩兵が数体なだれ込む。

気づいたアズサが銃を構えるよりも速く、シリンダーが回りグリップが後退する音が鳴った

サヨコとリリが撤退の為にカバーの姿勢に入る。

 

「詳しい話は後、2人を連れて早く出よう」

 

サヨコに促されアズサたちから先に窓の外へ逃がす

マナに続き、私も窓枠に足をかけると背後からひとつの銃声が響く。

 

「ッ!」

 

痛みを押し殺した吐息が吐き出され殿を務めていたサヨコは膝をついた

先ほど歩兵がなだれ込んできた扉から、4人のオートマタが警告をしながら侵入する。

 

「動くな。窓から足を下ろして、ゆっくりとこちらを向け」

「窓の外にいる奴らも、そこから動くなよ?此処にいる2人がどうなってもいいか」

「後方クリア、化物といい足元のヒルといいひでぇ場所だぜ……」

 

銃を私達に向けるオートマタの集団……彼らが入り込んだ密猟者なのだろう

私はひとまず彼らの言う通りにして足を下ろし、ゆっくりと向き直った。

 

「その腕章……この学園のガキか、商売敵め」

「見ないやつがいるな。俺らと同じ……って訳じゃなさそうだ」

 

「ッ……騒ぎすぎたかな」

 

密猟者達は、ひとしきり私達を一瞥した後リーダーと思わしき人物が提案をした。

 

「何もしてないのに撃って悪かったな

 俺たちは化物を倒してそっから出た物を金に換えるだけさ、目的を果たしたらすぐに帰る。

 お前たちも化物にはうんざりしているだろ?協力しろ、悪いようにはしない」

 

なんなら報酬を山分けしてもいい。と主導権はこちらにあるとばかりに自分たちの都合を主張する。

彼らに一時的に迎合して、生徒の安全を確保するということもできる……

けど、私の生徒を撃った時点でその考えは消えていた。

 

"悪いけど、貴方達に協力はできない。私達にも目的があるからね"

「なにか勘違いをしてないか?協力しろ。だ」

 

安易に拒否権は無いと宣言した密猟者に対しサヨコは挑発するように脅し返した。

 

「あなた達こそ、状況分かってる?この槍には穂先に爆弾が付けられている

 余計な体力を使いたくなかったら、回れ右をした方がいい」

 

片膝をついたまま、穂先を床に近づけさせるサヨコにもう一度銃弾が刺さる

 

「状況が分かってないのはどちらだったかな?田舎に籠っている内に、話し方も忘れたか」

 

密猟者がこれ見よがしに銃を揺らしながら呆れたとばかりに挑発し返す。

倒れ伏したサヨコに駆け寄ろうとするが、銃口が向ける視線が私に動くなと囁いた

奥歯を噛み締めながらも、サヨコと目が合った。彼女の目は私にじっとしててと訴えている。

 

密猟者達が銃を構えなおし、私達に提案の答えを促す。

文字通り今にも射貫かれそうな視線が私達を刺す……1秒、1分……圧をかけるように密猟者が半歩足を擦る

そして───

 

サヨコの足にヒルが纏わりついた

 

「ん?なんだ、足音……?」

「また化物か、それとも仲間か……おい、ちょっと見てこい」

「了解」

 

密猟者の一人が離れ、扉に近づいていく構えた銃身が扉の先をくぐる前に動きが止まった

気づいた瞬間、密猟者は吹き飛ばされる。

 

「お、おい!どうしt……!?」

「うわぁ!な、なんだ、コイツ!!」

 

扉を突き破って侵入してきたそれは、頭が無く青白く膨れたような体躯に

片腕からは水平にした鎌の様なかぎ爪を振り上げながら床を強く鳴らして襲ってきた。

密猟者達も突然の強襲で、統率が取れずにいる。

 

私は窓から伸びてきたマナ達の手に掴まれ、引きずられるように外に出される。

倒れていたサヨコは密猟者が異形に気を取られている隙に、握り直した槍の穂先でヒルを切り裂いて異形に向かって槍を向けた。

穂先の機構が作動して先端に装填されていたボルトが宙を割いて異形に刺さる。

サヨコはボルトが放たれた瞬間、すぐさま反転して窓に向かって走りだした

槍ごと抱きかかえるようにして外へ飛び込んでいくと入れ替わるようにアズサが室内に向かって手榴弾を投げ入れる。

 

二重に響く炸裂音が私達がいた室内を埋め尽くした。

 

"や、やった…?"

 

我ながら古典的な言葉を言い終わるとお決まりの様に煙の中から白い巨体が割れた窓に向かってくる。

アズサはまだ倒れないのか!?と驚愕しているなかマナが散弾銃を取り出し駄目押しの一撃を見舞った

真正面から攻撃を受け止めた異形は、ゆっくりと速度を落とし窓枠の下に沈んでいく。

 

「こ、今度こそ、倒せ……ました……?」

「はぁ……助かったマナ」

 

"ひとまず、ここから離れようか"

 

 

 

実習棟から離れ、林の中の作業小屋に私たちは避難した

アロナとリリが周辺と密猟者の状況を告げる。

 

『近くに異形の反応はありません。ここなら少しは声を出しても大丈夫だと思います』

「密猟者は逃げたみたいだね、ルイシアン方向に跡が続いてる

 あの様子だと、立て直すためにしばらく大人しくしなきゃいけないだろうしね」

 

生きてる人を暗視するのは疲れるなぁ。と眉間を揉みながらリリは呟く

ヒフミはおずおずと私達に現状の説明を求めた。

 

「先生、それでここはいったい何処なんですか?」

"ここはルイスパリッシュ統合学園のセイブル地区だよ、ヒフミ"

 

ルイスパリッシュ……?と言葉を咀嚼していくごとにヒフミの顔が青くなっていき、完全に理解すると驚愕の声を上げた。

 

「ル、ルイスパリッシュですか!?既に廃校になった、あの!?」

「なるほど、ここは先生が人探しをしているという学園だったのか。先生、大丈夫なの?

 ヒフミ曰く、疫病や鉱山ガスが蔓延していると聞いた」

「噂に尾ひれどころか、エラまでついて泳いでるね。もう……」

 

アズサが口にした噂にサヨコが呆れたようにぼやく。

どうやら、外から見たルイスパリッシュは怖い噂の伏魔殿と化しているのがヒフミとアズサの反応から見て取れる。

 

「それで先生、この人たちは?」

"うん、彼女達に人探しを協力してもらっているんだ"

「初めまして、あーしはルイスパリッシュ観光協会のリリ」

「同じく、オレはサヨコ。で、この娘が……」

「は、初めまして先輩……トリニティ総合学園1年のひ、日向マナって言います」

 

見知らぬ人たちの中に同門がいると知って2人の表情が少しだけ和らぐ、同じようにアズサとヒフミも紹介をした。

 

「初めまして、トリニティ総合学園の阿慈谷ヒフミと申します

 あの……助けいただきありがとうございます!」

「白州アズサだ。先ほどはすまなかった……助けてくれてありがとう」

「気にしなくていいよアズサちゃん。あんな目にあってるんだから、混乱しちゃうって」

 

アズサが攻撃してしまったことを謝るがリリとサヨコは気にしないでとなだめる

私はアズサとヒフミにルイスパリッシュの事情を説明し、何故迷い込んだのかを聞いてみた。

私の想像から外れてくれれば嬉しいのだが……

 

「あはは……その、非売品のペロロ様が売りに出されてると聞いて、ブラックマーケットに行ってました。」

"アズサ……?"

「すまない先生、私も止めたんだ。けど、終売品のスカルマンが気になっちゃって……」

 

予想は当たり、ヒフミに誘われブラックマーケットに足を踏み入れその後は私達と同じように

黒いモヤに襲われて気が付けばルイスパリッシュの中にいたみたいだった。

 

"無事でよかったけど、それはそれとして後でお説教だよ"

「あうぅ、はい……」

 

自業自得に肩を落とすヒフミを他所に、ずっと壁に寄り掛かってたサヨコが2人に提案をした。

 

「リリ、ヒフミとアズサを外まで送り届けて欲しい。こっちはオレとマナ、先生で対処する

 それでいい?」

 

壁に寄り掛かったまま言い切ったサヨコの申し出に対し私とリリは目を合わせ、お互いの考えをすり合わせた。

 

"いや、二手には分かれないよ"

「ごめん、巻き込むようで悪いけどアズサちゃん、ヒフミちゃん一緒に付いてきてくれない?

 大丈夫、安全は保障するから」

「ちょっと……リリ、先生!」

 

私とリリの発言にサヨコは否定的な反応を見せ止めに入りマナは予想だにしていなくて、うろたえている

止めようとしているサヨコだがそれとは裏腹にヒフミとアズサは快諾した。

 

「分かりました、皆さんに助けて貰いましたし私でも、お力になれるなら協力します!」

「私もヒフミと同じだ。それに、同じ学校の生徒が困っているみたいだから」

 

2人の想いにサヨコは折れ、指示に従うようにと言い聞かせ私達は小屋を後にし目的地へと歩き出した。

 

 

 

「マナちゃんは友達を探しにブラックマーケットに行って気が付いたらルイスパリッシュに?」

「は、はい……友達を、クシロを探しに……先生とサヨコさん達が手伝ってくれています」

「それにしても不思議、私とヒフミもブラックマーケットに行って気が付いたらここにいたんだ」

 

「……トリニティってお嬢様校って聞いてるけど積極的にブラックマーケットに関わろうとしてない?

 意外とアグレッシブだったり……」

「あーしが通ってるゲヘナは正反対の感じだけど、そうそう聞かないけどなぁ」

"そ、そんなことないよ普段は彼女達も近づかないからね!?"

 

サヨコとリリのトリニティに対する誤解が深まりそうな中、音もなく木の陰から歩兵が飛び出してきた。

突然の強襲にヒフミはともかくアズサまでも反応に遅れる。

マナは既に銃を構え次に備えて先頭のリリがすぐさま振り返りリボルバーの銃床で殴りつける

初撃を失った歩兵の頭をサヨコの槍が切り裂いた。

 

「ごめん、油断してた」

「だ、大丈夫です……すぐに撃てるようにしてました、から……」

"こういうことには本当は慣れてほしくないけど……慣れたね。マナも私も……"

 

倒れ伏す歩兵を見て、未だ処理しきれないのかポカンとしてるヒフミとアズサ

そのうち、ヒフミが小さな悲鳴を上げた。

 

「ひっ!い、今っ……え!?」

「落ち着いてヒフミ、もう大丈夫だから。

 それにしても、私とヒフミもここに来るまで何度か応戦したけどこれは人……なのかな」

「正直、オレ達にも分からない。ま、今じゃ面倒な害獣くらいだよ……ほんと」

 

私達に会うまで未知の恐怖に文字通り2人は晒されていた

その恐怖は、初めてここに来た時の孤独感に近い何かは……未だに私も覚えている。

 

ヒフミは唐突に、あっ。と何か思い出したのかルイスパリッシュの噂について話し出した。

 

「そういえば、ここは疫病や毒ガスが蔓延してると聞いてましたけどもしかしてルイスパリッシュが閉鎖された原因って」

「そうだよ。いま襲われた異形達によってね……どうにもできなくなっちゃったんだ」

「あっ、すみません!私……」

 

失言をしてしまった。と途中で口を抑えるヒフミにリリは大丈夫と気にせずふるまう。

 

「オレ達も噂に関しては耳にしないわけじゃないから気にしなくていいよ」

"噂って、いまヒフミが言ってたような事?"

「はい、私も友達から聞いたりSNSで見た限りなので詳しく知っている訳ではありませんが……」

「疫病や鉱山から毒ガスが漏れて人が住めなくなったとか言われています

 どれもが信憑性が高いという訳では無いみたいですが連邦生徒会が災害と発表を出したのもあって有力と捉えられていたらしいのですが

 あるインタビュー動画に映ったトリニティ生の発言によって、世にも恐ろしい化物が出たからって眉唾な説が一気に噂を押し上げたり……」

 

ヒフミの説明にサヨコとリリが呆れたというよりどこか疲れた表情をする。

 

「あのインタビュー悪いほうに知名度高めたね……」

「やっぱり……もう、イコ先輩は」

"イコ先輩?"

 

まだ聞いたことが無い生徒の名前が2人から出てきた。ルイスパリッシュの生徒だろうか?

 

「現トリニティの、ルイスパリッシュの広報担当の先輩。言葉に含みを持たせがちなのが玉に瑕……」

「というより天然のカッコつけなんだよね、イコ先輩」

 

やれやれといった風だが、2人の口ぶりからは軽んじている訳では無く付き合いの長さから来る親しみだと感じれる

ルイスパリッシュの生徒達の繋がりは想像よりも強いみたいだ。

 

道中、時折異形に遭遇しながらも踏み鳴らされた山道を進み私達はマナの導きで当初の目的地である貨物倉庫までたどり着いた。

 

「本当に探し物が見えてるのか?」

「は、はい……証明するのは、む、難しいですけど」

 

暗視を訝し気に思いながらもアズサとヒフミは、興味津々とばかりに手を突き出してるマナを囲み覗いていた

どことなく微笑ましい光景だけど、これから私達は闇の中の更にもう一歩深いところに踏み込むことになる。

 

「それじゃ作戦の確認をするよ。事前に言った通りこの中には"ターゲット"っていう

 外にいる異形よりも大型の奴がいるの」

 

リリが作戦の概要を説明し始める。山間に建てられていて一見気づきにくいがこの貨物倉庫は二階建てになっている

ターゲットは今のところ常に上下階を動き回っているらしいので機動力の高いリリとアズサが1階から、

私を含めたサヨコ、マナ、ヒフミが目の前の二階の扉から倉庫内へ入り交戦。

ターゲットは一体しかいないので戦力を分散させて視線を反らすのが基本とのことだ

実際、観光協会のメンバーは二人一組もしくは三人一組で通常行動するらしく、

私とマナが初めてこの地に迷い込んだ時、サヨコとニィナが一緒にいたことに納得する。

 

二手に分かれる直前、マナがアズサとヒフミに謝る。

 

「そ、その……私が言えたことじゃありません、けど……巻き込んでしまって、ごめんなさい」

 

頭を下げるマナに2人は一度顔を合わせマナに語った。

 

「マナ、私は一度大切な友達を自分のせいで無くすところだった

 無くさなかったのは、友達が私を信じてくれたのもあるけど……私が諦めなかったから」

「そうですよマナちゃん。もし、くじけそうになっても……それが私たちの、

 マナちゃんの青春を止める理由にはなりません。なってほしくありません」

「うん、いまこの瞬間がこの先が虚しくても諦める理由にはならない…私はそう信じてる。」

 

マナはゆっくりと二人の言葉を咀嚼してから改めて向き直る。

 

「はい……ありがとうございます。白州先輩、阿慈谷先輩」

「アズサでいい、マナ。それに後輩を助けるのも先輩の務めだ」

「私もヒフミでいいですよマナちゃん。」

 

お気をつけて。とマナが、一階に向かうアズサとリリを送り出す

私達は、先ほどの温かな雰囲気とは一変した底冷えするような静けさの鉄扉の前で息を整える

そして……重く軋む扉を開き、日が差し込む闇の中に足を踏み入れた。




資料:異形

肉頭
ぶよぶよと肥え太った頭の無い人型の異形と、周囲を這うヒルにより構成される異形。
異形は頭が無く、高い髄力と脂肪により強固で強い力を持ち相手取るのは非常に厄介である。
周囲のヒルは肉頭の頭部の代わりを担っており、下手にヒルに手を出すと
肉頭に伝わる可能性があるため、手を出すのは避けるのが良い。
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