ようこそ先生、呪われた地へ…   作:nr/成

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clue.13 Encount picnic

「っ……」

 

壊れかけのブラウン管テレビの様に現実と闇が無意識に切り替わる

マナは片頭痛みたいにもどかしく思いながら片目を抑えた。

その様子を見逃さなかった先生はマナの体調を何気なしに気遣う。

 

"昨日は眠れた?"

「は、はい……いえ、あまり眠れた気はしていないかも、ですね……

 ふふっ……ぜ、前回も同じ話を、しましたね」

 

そうだっけ?と先生はわざとらしくおどける

気を遣われているのをなんとなく察したマナは話を変えた。

 

「ヒ、ヒフミ先輩とアズサ先輩……探していたものが貰えてよかった、です」

"そうだね、これで暫くは危険な場所に近づかなければいいけど"

 

先日、迷い込んだヒフミとアズサをトリニティに送り届ける前にルイスパリッシュに迷い込んだ経緯を聞いていたスズが、現地調査で回収してきた幾つかの物資から

ピッチフォークを担いだ白い鳥のぬいぐるみとテンガロンハットを被りライフルを持ったデフォルメが効いた黒い骸骨のぬいぐるみをヒフミとアズサに渡した。

 

「あげる、本部にも同じのがあるし」

「こ、これは……牛飼いペロロ様!しかも、ルイスパリッシュの校章入りの地区限定品!!」

「スカルマンだ、こっちも校章が着いている……可愛い!」

 

ありがとうございます!と2人は目を輝かせながら、スズ含めたルイスパリッシュ観光協会員達にお礼を述べて先生、マナと共にトリニティに帰っていった。

 

線路の砂利を二つの足音がジャリジャリと鳴らす、回顧も終わり寂しい木漏れ日が先生とマナを包む。

マナはずっと片目を抑えていた手を下ろし、まばたきを数回した

瞼の暗闇から開けた視界には、光が色取り取りの景色を映している。

マナは暗視を使うことも無く、真っすぐ線路の先を見据えながら呟いた。

 

「お、おそらく、これが……さ、最後になると……思います。そ、そんな気がします」

"わかった……、会いに行こう。今日こそ、君の友達に"

 

呼ばれているのか、踏み入れるのか、それすらも曖昧なまま短くも馴染み深くなった駅舎に着いた

呪われた地の入り口……日常と異常の分水嶺に──

 

 

 

「ひ、光はこっちの方向に……見えます……セイブル地区の時よりは、大きい……です」

「ありがとうお嬢さん、やっぱり次はルイシアンだねぇ……」

 

駅長室にて、次の目的地をマナに示してもらった。

リコを含めた協会員達はすぐさま地図を広げて場所を絞る、それにしても……

 

"ここも、今日はなんか静かだね"

「リリが持ってきたディーゼル車周辺の調査や密猟者、それに……なんだか異形の数が活発になってねぇ」

 

協会員が多く出払っているんだよぉ。と温和な表情を崩さず、暗に異常事態とリコは伝える。

前回セイブルに向かった時から……いや、もしかしたらマナが来たことで確実に何かが動いている

 

サヨコは地図から顔を上げて、私とサヨコに呼びかける。

 

「ま、場所はだいたい絞れたかな……先生、マナ、準備が出来たら行こうか」

「リ、リリさんは……?」

 

マナの言う通り、これまで探索に付いてきてくれていたリリの姿が見えない。

 

「リリはスズと一緒にセイブルから戻ってきた時の機関車周辺の調査をしてる」

"そっか、なら今回はマナ、サヨコと私の3人かな?"

 

なんだか一株の寂しさと心細さを感じた

マナを見ると心細さを抑えるように手に力が入っている。

力が入り過ぎるのもよくない、力を抜かせないと……

 

 

「どうもー」

 

 

"うわっ!?"

「きゃっ!!!」

 

突如背後から現れた声になんとも情けない声を上げてしまう

意識が明後日に向いている間に、私達の後ろから声をかけてきたニィナは平坦な声と表情だけど、してやったりと雰囲気が語っていた。

 

「久しぶりー、マナちゃん、先生ー」

「ニィナ……ま、そういうことで今回はニィナも同行する」

「よ、よろしく…お願いします…!」

"よろしく、ニィナ"

 

挨拶もほどほどにマナ達は探索前の最終確認をする

ニィナのいたずらには驚いたけど、マナの表情が和らいでるのを見るにいい感じに力は抜けたみたいだ。

 

私も地図の確認をしておこうとすると、リコに小さく呼び止められた。

 

「先生、異常が起きているここは今日はいつにもまして騒がしい……だから、これを渡しておくよぉ」

 

リコから空き缶ほどの小瓶を渡される

少し曇ってるガラス面を目を凝らしてみると中では何かが蠢いていた。

 

"これって……蟲?"

「そう…感染者から採取した蟲だよぉ。ちょぉっといろいろやって生かしておいてねぇ

 それには、ぼくの血を覚えさせてる…いざとなったら小瓶を割って。すぐにそっちに行くからねぇ」

 

ふふ、と微笑みながらもリコの目は据わっているかのように笑っていない。それだけ、今日の事は異常事態ということらしい。

背後から準備を終えたサヨコ達から声がかかる

私はわかったと強く頷いて小瓶をしまい、彼女達と合流しに踵を返す。

 

「気を付けてねぇ。何かあったらすぐ連絡するんだよぉ」

 

リコの言葉を背に私たちは駅から出発した。

 

 

 

いつも以上に静謐なルイスパリッシュの地だけど、今日だけは銃声が時折聞こえてきていた。

 

「今日は騒がしいねー」

「異形の出現数が増えてるとの報告だ。前回、セイブルに行ったときの感覚は間違ってなかったみたい」

 

それにあの時の密猟者も……とこぼし、ルイシアンにある目的地までデルタ地区を迂回するように私達は進んでいた

時折、マナに場所を聞きながらサヨコとニィナは地図を見合わせて目的地の場所を確実にしていく。

 

「ひ、光は少し小さく……なっています。け、けど場所は……同じ、です」

「ありがとー、マナちゃんー。場所はチャーチで決まりかなー」

"チャーチってことは教会があるの?"

「そ、デルタ寄りのとこにあるルイシアンの名所……といっても、文化会館みたいなとこだよ

 礼拝堂が広いからイベントとかある時に……っと危ない」

 

危ないと呟きながらもサヨコは背後から現れた歩兵を肩で押し出し、ひるんだ瞬間を槍で突いた

未だルイシアンには着いていないが既に6回も異形に遭遇している。

 

「ほんとに多いねー」

「あ、あの、近いならここから最短で向かうのは……?」

「チャーチ周辺は開けてるから、ルイシアン側から回ったほうが身を隠せる場所も多くてまだ安全、それに──」

 

話の途中で入った無線をサヨコが取ると彼女の眉間が少し険しくなる

サヨコに尋ねてみると、複数の密猟者がルイシアン側で見られたそうだ。

 

「はぁ……嫌なことってのは」

「どうしてこうも重なるんだろうねー」

 

サヨコの言葉の続きをニィナはどこか楽しそうに代弁する

ニィナに冷たい視線を刺しながら、サヨコの先導で私たちはルイシアン地区に足を踏み入れた

 

「マナちゃん大丈夫ー?」

「は、はい……大丈夫です」

 

ルイスパリッシュに向かうとき同様、時折片目を抑えるそぶりを見せるマナをニィナは気遣う

それにしても……

 

"初めて会った時からマナを気にかけてるような……"

「気持ちは分からなくもないけど、ニィナがあんな態度をとるのはまぁ、珍しいことじゃない……何かしら思うところがあるんでしょ」

 

私が考えていたことはどうやら口に出ていたみたいでサヨコに聞かれていた。

サヨコによると、ニィナは良くも悪くも人を見ているそうでマナに構っているのもなにかしら感じるところがあるかららしい

実際、私から見ても目の前のニィナはマナを気遣いながらもルイシアンの様子を楽し気に伝えていた。

 

「お、大きいですね……この植物、それにいっぱい……ここは、は、畑ですか?」

「そうだよー、トウモロコシ畑ー。今は管理できないからー、好き放題伸びてるねー」

「えっ?こ、これって…とうもろこしなんですか……!?」

「あれー、生えてるトウモロコシって初めてー?」

 

マナは少し恥ずかしそうに頷く。

たしかに私もトウモロコシが茎から生えているのはテレビや写真でしか見たことが無い

大人の私以上の高さもあるくらい立派だとは思わなかった。

 

「良かったら食べてみるー」

「えっ、た、食べれるんですか……?」

「食べれるよー、家畜の飼料用だからあんまり美味しくないけどー」

 

その発言に私もマナも思わず苦笑いをしてしまう……

 

「ま、こんなやつだから、真に受けすぎるのもね」

 

先程のフォローを台無しにするような言葉を口にしなんとも言えない視線を受けても、ニィナはどこ吹く風と気にしてないようだ。

 

サヨコが呆れ、マナも愛想笑いで空気を誤魔化していると銃声が近くから複数響き渡る

この音、セイブルの時に聞いた気が……

 

「セイブルの時と同じ銃声……?」

「みんなー、ひとまずこっちー」

 

ニィナに促され、私達はトウモロコシ畑の中に身を隠す。

びっしりと生えたトウモロコシの群れは、視界を占有し少しでも気を抜けば平衡感を覚失ってしまいそうな感覚に陥る

 

「トウモロコシ畑の中で下手に動かないで。いま先生とマナを見失うと対処に遅れるから」

"分かった"

「は、はい……」

 

姿勢を低くしながら、トウモロコシの中を進む。

葉をかき分ける音と土のジャリつきが小さくなるが耳を澄ますと、かすかに私達以外がこの音を発しているのが聞こえてくる

異形か密猟者か……そのどちらかはサヨコ達ならわかるだろうか。

 

サヨコとニィナは暗視を使いながら私とマナを安全圏まで連れ出そうとしてくれているが

こちらが一歩一歩歩み進める度に、倍の速さでトウモロコシ畑の中を進む音が聞こえてくる

トウモロコシの隙間から光が漏れているのが見えてきた。

畑を抜けれるのだろうとした瞬間、目の前にオートマタが飛び出してきた。

 

「チッ!」

"ッ!?"

 

サヨコに抱えられ転がり込むように光の先に飛び出す。

同時に銃声が私達がいた場所を貫いた。

回る視界を頭を振って、無理矢理矯正すると隣に同じようにニィナ抱えられたマナが目を回していた。

 

"サヨコ、今のって……"

「密猟者、しかも……」

 

「お前、あの時のガキか……」

 

開けた場所に出た私達の目の前にはセイブルで出会ったオートマタの密猟者が私達に銃口を向けていた。

 

「あなたも……ところで一緒に来ている5人、前は見なかった。もしかして、セイブルにいた時の仲間は逃げ出した?」

 

サヨコの言葉に密猟者のリーダーは答えだと言わんばかりに足元に威嚇射撃を行う。

 

「ふざけるな!まったく金を得るだけなのに……邪魔も化物も多すぎる!

 悪いがお前らの会話に付き合う暇はないんでね!」

 

苛立ちながらも銃口はブレることなく私達を見据える。

どうする?サヨコ達を傷つけることなく、この場を収めるには……考える私を尻目にニィナは一歩前に出た。

 

「どうもー、ヴァルキューレです」

 

ニィナはヴァルキューレの警察証を見せながら私達と密猟者の間に立つ。

 

「は?ヴァルキューレ?」

「貴方たちはー、立ち入り禁止区域に不法侵入しているー。けどー、いまここから立ち去れば―、見逃してあげるー」

 

自身の立場を使って、ニィナは密猟者にルイスパリッシュから出ていくように促す。

 

「不法侵入?それはアンタたちも同じだろう?」

「俺らと同じ穴のムジナが何を偉そうに」

 

密猟者たちが吐き捨てるように反論する。ニィナは反論することも無く、静かに用件を続ける。

 

「みっつ数えるからー、その間にー回れ右してねー」

「何を勝手な……!オイ!」

 

「さーん……」

 

ニィナがカウントダウンを始めるが、密猟者達は知ったことかトリガーに指をかけ始める。

 

"ニィナ!"

 

私が叫ぶよりも先に1つの銃声が響いた……

 

「えっ……」

 

密猟者たちの手から銃が消えている

響く音が消えたころ、カランと地面に密猟者たちの銃が転がった。

 

「にーい……いーち……ぜーろー……」

 

ニィナの手にはいつの間にかリボルバーが握られており、銃口から煙を吐いていた。

密猟者の手から落ちた銃と煙を上げるリボルバー……あの時聞こえた銃声は、一発に聞こえるくらいの速さでニィナが6発の弾丸で密猟者の銃を打ち落としていた音だった。

 

未だ事態を飲み込めていない密猟者に、ニィナはゆっくりと弾を込め直しながら密猟者に再度促す。

 

「いますぐー、回れ右すればー……見逃すよー?」

 

密猟者はようやく銃が落とされた事実を認識する。

 

こちらを睨みつけた後、すぐさま銃を拾おうと手を伸ばす

だが、足元に転がった銃はどこかから飛んできた弾丸に弾かれてしまった。

 

"今のは……?"

「そこまでですよ、密猟者の皆さん」

「あっ、イコ先輩ー」

 

イコは私達にも気づかれること無く密猟者の背後に現れ密猟者も突如背後からの声に動くことが出来なくなる。

 

「貴方たちに既に選択権はありません。大人しくここから立ち去ることをお勧めしますよ」

「だ、誰がそんなことを!」

 

未だ抵抗の姿勢を崩さない発言をする密猟者にイコは肩に担いでいたバットを地面に数度当て、コツコツと音を鳴らす。

 

「あぁ……それでも別に構いませんよ。ただ、脅威をそのままにしておくのは危険なので私達は手段を奪います」

 

イコはバットで密猟者の足を撫でる。

 

「貴方たちにとっての脅威は私達、観光協会以外にもここにはたくさんいます

 いいんだぜ?誰かの声も、叫びも届かない場所で静かに口を噤みつづけるのも……」

「ッ!!」

 

密猟者は勢いよくイコに向き直り、その小さな体の頭めがけて横なぎに蹴りを入れる

イコは体を屈めて足元に入り込むとバットで軸足を刈り取り密猟者を転ばせた

頭を上げた密猟者の目の前に、ショットガンの銃口が刺さる。

 

「ッ……!!か、帰るぞ!こんなとこにいられるか!イカれた奴らめ!!」

 

リーダーの一括にいそいそと銃を拾い直し密猟者たちは一目散にイコの横を通り過ぎていった。

 

"ありがとう、助かったよイコ"

「気にしないで下さい先生、これも観光協会の仕事ですから」

 

イコは特に気にした様子もなく私からのお礼を返す。

 

「助かったー、ありがとー、イコ先輩―」

 

ニィナはおつかいを成功した子供を労うように、お礼を言いながらイコの頭を撫でようとするのをやんわりと止められている。

 

「イコ先輩、あの密猟者は……」

「私と近くで待機してる子達で見送るから安心してください

 先生、マナさん……既に把握してると思いますが予想以上に異形が活発になっています。

 くれぐれもお気をつけて」

 

イコは私達に一礼すると、密猟者達を追うように林の中に姿を消していった。




資料:観光協会

籔島(やぶしま) ニィナ
迷い込んだ先生とマナが最初に出会った協会員の一人
平坦で間延びした口調が特徴的な現ヴァルキューレ警察学校2年生。

使用銃器はアパーチャーサイト付きのウィンチェスターと

【挿絵表示】

コルトSAA

【挿絵表示】


一五呂(いちごろ) イコ
ルイスパリッシュ観光協会で広報を担当している、現トリニティ総合学園3年生。
丁寧な口調だが、言葉に含みを持たせがちな天然のカッコつけ。

使用銃器はショート仕様に改造されたスペクターショットガンと

【挿絵表示】

木製バット

【挿絵表示】


※画像は下地にしたゲームのスクリーンショットです。
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