ステンドグラスと共に降り注いだリコは周囲を一瞥すると、誰に言うでもなく呟いた。
「おやぁ?ずいぶんと愉快なことになっているねぇ……」
片手に刀をこさえたまま、反対の手でゆらゆらと水面に着水する落ち葉のように力ない指先で、リコは目の前の装甲兵をのんきに数え始めた。
「ひぃ……、ふぅ……、みぃ……」
リコの背後で再び動き始めたスクラップビークが手斧をのんきに数え唄を歌っているその背中に打ちたてんと斧を振りかぶり……投げた。
シッテムの箱経由で気づいた先生は知らせるように叫ぶ。間に合わないかもしれない、だが──
「よっ」
そんな不安もつゆ知らずリコは背後を見ないまま片手の刀で飛んできた斧を絡めとり、その勢いのままスクラップビークに投げ返した。
"危なっ……い?"
主人の元へ戻った斧は構えていたもう一つの斧を持つ腕に倍の速さで飛び込み、腕を扉に縫い付け動きを封じた
リコは踵を返し、床を強く踏みつけスクラップビークに強襲する。
いつの間にか抜刀していた刀を水平に構え、ターゲットに平突きを一閃──金属製の嘴を貫いた。
体を二度三度、小刻みに撥ねるスクラップビークを刀で抑え込みながら力任せに刃を上向きにする
背後に装甲兵が爪を振り下ろしながら迫る中、リコは刀を持つ手と反対の手を峰の真下に添え、掌底の要領で刀を自分事かち上げスクラップビークの上顎を砕くと崩れゆく体を足蹴に宙を舞い、装甲兵の一撃を躱して自身がいた場所にダイナマイトを落とした。
「せ、先生……」
"マナ、どうかしたの?"
「い、います……祭壇に、光が」
背後で爆風が巻き起こる最中、リコは異形達の前に降り立つと刀を祭壇に向けて投擲する。
投げられた刀は異形の隙間を一直線にすり抜け、祭壇近くの柱に出現していた感染者の胸部ごと頭部を貫き宙に放った蟲は飛び立つことなく、感染者と共に倒れ伏した。
リコは後ろ手に腰から、二つの銃身を持つ大型のリボルバーを引き抜き撃鉄の先端に備えられたピンを下向きに降ろす。
指の間に挟むようにもう一つの手は懐から3つのショットシェルを取り出した
ゆっくりと歩を進めるリコに、歩兵と装甲兵はそれよりかは速い速度で襲い掛かる。
切り裂こうと迫る鋭利な爪をぬるりとした足取りで躱し、背後にショットシェルを撃ちこむ。
すかさず体を屈め足払いをし迫ってきていた歩兵を転ばし頭を踏みつけ粉砕、正面から向かう歩兵の顔面にグリップを突き立てた勢いでヒンジを折り銃身を中折れさせると、ショットシェルを引き抜き再装填する。
引き抜くように歩兵の体を足で押し出し、その背後から迫ってきていた装甲兵に押しつけ二体あわせて散弾で吹き飛ばす。
散弾を装填しながら絡みつくように襲ってきた二体の歩兵にあえて近づき二体の腕が重なる瞬間、即座に上体を反らし同士討ちを誘発させ、ひるんだ歩兵を二つ目の銃身から放たれた轟音がかき消した。
手に残っていたショットシェルの弾数は0となった。
何事も無かったかのように、投げた刀の前まで来たリコはそれを引き抜くいた。常温のバターのように突き刺さる異形と柱を物ともせず刀はするりと抜ける。
刀身を確かめるリコの背後に大柄な影が迫る。
豚のような頭に肉かけフックと同化した腕。ターゲット"ブッチャー"がその凶刃を突き立てようとしたした瞬間、頭部にボルトが突き刺さり爆散。
ブッチャーは悶え苦しみだした。
「会長、遅れた」
「て、手助け……します!」
「第2ラウンドー」
「……じゃ、行こうかねぇ。先生?」
"うん!指揮は任せて!"
装弾数の多いサヨコとニィナの2人に周辺の異形を任せ、マナをカバーにリコがターゲットを抑える。
「せ、先生……光はターゲットの後ろ、です!」
"分かった、リコ!"
リコは刀を両手で構えるとブッチャーと真っ向から対峙しだす。
倍以上もある体躯を物ともせず右へ左へと腕を振り回すブッチャーと切り結ぶが技術だけで力の差を超えられるわけでもない
リコが競り負けそうになったその時、マナのショットガンがターゲットの頭部を捉えブッチャーの動きを止めた。
"マナ、今だ!"
異形の背後に隠れた光、暗視を使わずとも見えてしまったそれにマナはようやく手を伸ばす……今しかないと確信を持って。
「い、いい加減に……!姿を見せて!」
掴んだ光を強引に引き抜くと抱えきれない重さを感じてマナもろとも引っ張り上げられた"2人"は床に転がった。
"あの子が……!?"
「へぇ……」
「クシロ……」
丈が合わなくなってしまった古いボロボロの制服。それを隠すように、これまた古く色あせたボロボロの外蓑を着た少女が投げ出された姿勢のまま、色の無い瞳でマナを見つめていた。
クシロと呼ばれた少女は立ち上がると、霧が晴れるかのように姿が消える。
"き、消えた!?"
「いや、見えなくなっただけだよぉ……」
暗視を使い、消えたクシロを捉えるリコ。
その様子から先生はマナにしか見えていない光がリコにも見えていると推測する。
再びその背後に動き出したブッチャーの影が差す……だが
「よいしょー」
「ッ!!」
異形を倒したサヨコとニィナの2人はブッチャーの頭部に飛び蹴りを叩きこみ怯ませる
豚の頭部が巨体の上から転がり落ちた。
「あとはターゲットだけだ。会長、ここはオレとニィナが……」
「先生とマナちゃんはー、友達をー」
"だいじょう……いや、分かった"
「そうだよぉ先生。サヨコ、ニィナ、あとはよろしくねぇ……」
「お、お願い……します!」
リコが爆破した正面扉から三人はクシロを追いかけて教会から駆け出していく、残された二人の前に、激昂したブッチャーは片腕のフックを燃え上がらせた。
「あとは、いつも通りに……」
「やっちゃおうかー」
サヨコとニィナはお互いの得物を構えた。
マナを先頭に私達は不自然なほど何もいない道を走る。
雑草を踏み抜け、小枝が折れても異形や小鳥の一匹さえも飛び出してこないのが、いっそう不気味に思う。
息が荒くなるほど止まらず光を追い走り続ける、リコは何かに気づいたように独り言ちた。
「なるほどねぇ、偶然か必然か……」
マナが足を緩めたのに合わせ、私達はある建物の前で足を止めた。
"ここって……"
「が、学校……?」
「そうだよぉ。ようこそ、先生、お嬢さん。ルイスパリッシュ統合学園、新校舎に……」
「し、新校舎?」
「3校の地区の狭間にある。ルイスパリッシュ統合学園に移った時に出来たのがこの新校舎……
ぼくたちの学び舎だよぉ」
リコはどこか感慨深げに言うと一足先に校門の内側に入った。
「学校の案内は任せてよぉ」
リコの銃撃が連なった異形を同時に葬る。比較的に綺麗に見える校内は、それでも人がいなくなって久しいと感じさせる寂しさを感じさせた。
「一日千秋……とまではいかないけど懐かしいねぇ」
通いなれた校舎を懐かしみながらも、轟音を発するリボルバーを操りながらリコは迫りくる異形を撃ち抜いていく
身構えていたマナはリコの正確無比な射撃に出る幕を無くしていた。
セイブルの実習棟と違い荒廃している様子はあまり見られないけど扉から見える教室の机や椅子の塊、所々に散らばるなにかしらの道具。おそらく異形が出現したときに、ここを拠点にしていたのでは無いのか……聞くよりもリコの校内を見る目が物語っている気がした。
「ここが、目的地……第一講堂だよぉ」
「こ、ここに……クシロが」
リコがリボルバーからすらりと伸びた薬莢を排出していく。
「お嬢さん……改めて聞くけど、何があっても覚悟はできているかい?」
「はい。もう、決めましたから……」
"2人とも、準備はいい?"
マナは頷き返事の代わりにリコは撃鉄をカチりと起こす。
私達は扉を開け、中に踏み入った。マナの友達に会うために……
「変わってないねぇ……」
講堂の中は幾分か椅子が規則正しく並び、壇上にはマイクや垂れ幕が飾られている
その影からクシロが姿を現した。
「クシr……っ!」
マナが駆け寄ろうとした瞬間リコが前に飛び出し刀を抜いた。金属がかちあう音が講堂内に響き渡る。
「お嬢さんの友達にしては、随分と刺激的な挨拶をするんだねぇ」
「クシロ……」
クシロの手には白煙を上げる銃が握られ、その銃口はしっかりとマナに向けられていた
銃弾が防がれたことを知ったクシロはすかさず動き出す。
"来るよ、二人とも!"
トリガーガードにも刃が付いたレバーアクション銃を回しながら、クシロはマナに向かって弾丸を撃ちこんでいく
それを許すまいとリコは刀で銃弾を弾きながら距離を詰める。
「まったく、危ないねぇ……」
「ごめん、クシロ!」
リコの後ろから、マナが隙を見て銃弾を撃ちこむが回避されるか銃身にも備えられた刃で叩き落される。
リコはそこをリボルバーで狙うが、クシロは片手にライフルを構えたまま腰からリボルバーを抜き彼女に発砲した。すぐさまリコは逆手のまま抜刀し銃弾を防いだが思いもしなかった銃弾の威力に態勢を崩しかけが、リコは側転の要領で力を流し逆手のままクシロに向かって斬りかかる。
クシロはライフルの刃で刀を受け止め、二度三度と刃を切り結び鍔迫り合う。リボルバーの銃口が向いてることに気づきリコは即座に飛び退いた
それを狙っていたかのようにクシロはリボルバーをマナにライフルをリコに向け引き金を引いた。
リコはすぐさま片手のリボルバーを発砲、コンマ秒後に金属がちぎれるような音が響く。
リコの銃弾がクシロの銃弾を落とした。マナは守れたが、自身に放たれたライフルの弾は防ぎきれずリコは隙を晒した
その瞬間にクシロはすぐさまライフルをマナに撃ちこむ。
「痛っ……!」
異なる二丁の銃による連撃を受け、膝をつくが蹲りそうになるのを必死にマナは堪えた
マナに近づいたクシロは、鈍く光る刃を振り下ろす。
"マナ!"
振り下ろされた刃は、マナに届く寸前で彼女はリボルバーに備えられていたストックで受け止めた。
「どうして……何も言わないの?私の知ってるクシロは傷つけるようなことは……しない、絶対に!」
帽子が落ち露わになったマナの瞳がクシロの色の無い瞳……その奥を凝視する。不格好なまま鍔迫り合う2人の銃はカチカチと音を鳴らし、やがてマナが押し返し始めた。
「!?」
「答えて!いや……目を覚まして、クシロ!」
一気に力を入れて押し返すと仰け反ったその体にマナは散弾銃の一撃を叩きこんだ。
これまで顔色一つ変わらなかったクシロの顔が痛みに塗れる。だが、マナの銃口は我慢していた痛みにより直撃を外れ、クシロに行動を許してしまう。
クシロのリボルバーがマナを狙う瞬間、2人の間をリコが庇う様に滑り込む。
銃声と共に放たれた一撃にリコは仰け反り背中を晒してしまい再びの機会に今度こそ、クシロは刃を突き立てんとライフルの刃を背中に振り下ろす。
「会長さん!」
"リコ!"
刃が貫くその時、火花が散った。
「!?」
「はい、残念……素直な子は好きだよぉ」
リコは背面のまま刀で刃を受け止め、そのままゆっくりと押し返し始める。
そして滑らすように回転しクシロの刃を滑らすとリコは刀を一度鞘に納め空気が切れるほどの速い抜刀を剥き出しになった胴に一閃した。
「ッ!!」
「おっとぉ……」
倒れ伏すマナをリコは抱える。
「クシロ!」
"リコ、彼女は……"
「大丈夫、峰打ちだよぉ」
良かった。手を下してはいないようでホッとしていると
「ふむ……ほいっと」
思わず耳を塞ぎたくなるほどの破裂音が響く、リコはクシロの背中に張り手をしていた。
「ッ……!」
クシロはビクりと体が撥ね、またぐったりと倒れ伏した。
「ク、クシロぉ!?」
"り、リコ!?なにをして……"
「なぁに、悪いものは背中に憑くっていうしねぇ……ただのおまじないだよぉ?」
私もマナもリコの唐突な行動にあたふたしていると足音がこちらに向かってきているのが聞こえる。
講堂の扉が開き、サヨコとニィナが顔を出した。
「どうやら終わったみたいだね」
「みんな無事だったー?」
「は……はい」
"2人も無事だったんだね"
無事を喜んだ私達にリコが声をかける。
「ふふっ……じゃ、帰ろうかねぇ」
資料:異形
[ターゲット]
スクラップビーク
ペストマスクのような金属製の鳥の頭と義足を持つ人型の異形
バックパックに廃材や人の一部の様な物を収集しており
手斧等の武器で攻撃してくるほか、投擲、有刺鉄線を敷くなど
他のターゲットと比較すると高い知能を有する行動を起こす。
報告では、接敵時に落とした物資を拾い活用してくるといった行動も見られた。
ブッチャー
豚の頭部を持った屠殺者の格好をしている異形
巨体に見合ったタフネスを誇り肉かけフックとなっている片手で襲い掛かる。
何度か攻撃を加えると発火し、延焼を用いながら果敢に攻撃してくる。
ターゲットは占拠した建物からは出ないため危なくなったら
外に出るのも手だろう。