陽も暮れてきたなか駅舎の表で協会員達が大きな焚火を組み上げ始めていた。
異形の影響等は大丈夫なのだろうかと心配していると、サヨコが現在のルイスパリッシュの状況を教えてくれた。
「実はさ、マナの友達を保護してから駅舎を中心とした一部は異形の報告がない」
"それって……"
「うん。呪いがなくなった、でいいのか……少なくともこの二日異形は出ていないし、
半死半生の家畜達もちゃんと見送ることが出来たよ」
"そっか、ちゃんとお別れできたんだね"
「といっても、全体で見ればルイスパリッシュの1/4にも満たない。まだ課題は多いよ」
そう語るサヨコの表情は普段通りを装っているけど晴れ晴れとしている
進展も後退もしなかったこの学園に、ようやく兆しが見えてきたのが嬉しいみたいだ。
焚火に火がつけられたのと同時にニィナとリリに連れられて、マナとクシロが私とサヨコの傍に来た。
「マナちゃん、クシロちゃん、そして先生もルイスパリッシュのやり方に従ってもらうよ!」
「ル、ルイスパリッシュの……」
「やり方?」
「とはいってもー、やることはー焚火を囲んでー」
「「「絶妙に盛り上がりづらい曲をみんなで歌う(だけ!)(ことー)」」」
三人同時に発せられた言葉は私たちを何とも言えない感情にさせた
ちゃんと聞くと、いちおう伝統的な曲とルイスパリッシュ流の謝肉祭の始め方との事だ。
煌々と燃え上がる焚火を皆で手を繋ぎ円状に囲む。
隣の協会員が音楽に合わせて足を踏むだけでいい。と教えてくれた。その顔は自信に満ちているというよりは張り切っているようにも見える。
彼女達の今までを考えれば観光協会としてのちゃんとしたもてなしは今日が初めてになるのかもしれない
それなら私も全力で楽しむことにしよう。
『♪♪~♪~♪♪~♪~』
協会員達の鼻歌に合わせながら、クラップと足踏みをしていく。
たしかに盛り上がりにはかけるかもしれないけど、いわゆるノンバーバルのこの歌は一株の寂しさと染み入る一体感を持ち合わせていた。
「それでは……ルイスパリッシュの一部地域の解放とマナさんのお友達との再会を祝して、乾杯!」
「「「かんぱーい!!!」」」
曲も終わり、イコの音頭でパーティーが始まった。
普段の異様なほど静かなルイスパリッシュの影は鳴りを潜めて、そこには廃校になる前のありし日を想起させる生徒の楽しげな声とグラスがガシャン!と小突きあう光景が……ガシャン?
「やっべ!力入れ過ぎた」
「こんな時にグラス割るなよ!」
まぁ、怪我しなければそれくらい楽しんでいるのは良いこと、だと思う……
「今くらいは……といってもはしゃぎ過ぎるのもいけないですね、先生」
「楽しんでるー!先生!!」
「リリ、水だ。すこし落ち着いて」
料理が乗ったお皿を持ったイコ。少し興奮した様子のリリをスズがたしなめている
"うん、楽しんでいるよ"
「それは良かったです。どうぞ、鹿肉のステーキです」
"ありがとう、頂くよ"
手渡された紙皿にはサイコロ状に切られたステーキとザワークラウトが添えられている。
湯気が舞っている焼きたてと思われるお肉を一口齧る。うま味の強いシンプルな赤身肉にふわりとスパイスとオリーブオイルが香る……美味しい。
"とっても美味しいよ"
「でしょー?まだまだルイスパリッシュの魅力はこんなもんじゃないんだから!」
「同意、けどリリ……はしゃぎ過ぎだ」
スズはリリを連れて離れていった。
「騒がしくて申し訳ないですね。」
"そんなことないよ。それだけ嬉しいってことだよね?"
「はい、特にリリはルイスパリッシュに思い入れが強いので……私もですけどね」
楽しんでください。と言い残しイコは喧騒に紛れていった
行儀が悪いと知っていながらも、私も周りに倣って食べ物を持ちながらパーティーを巡る。
料理や会話を楽しみながら、時には感傷に浸る生徒たちの様子は微笑ましくも取り戻せない時間の無情さを感じ取れた
今だけは、それも忘れて楽しんで欲しいなと勝手ながら思う。
軒下のテーブルを囲んでいるリコと目が合いそちらに赴く。
「やぁ、楽しんでいるかい?先生」
"おかげさまで。ありがとうリコ、サヨコとニィナも"
「礼は良いよ。むしろオレたちが感謝するべきだ」
「そうそうー、リコさんの身勝手を止めてくれたからー」
ニィナの言葉に、リコは当分弄られそうだねぇ。と苦笑している
嫌では無い感じからして、笑い話になればいいと考えているんだろう。
私からしても、ここの生徒達にはわだかまりは似合わない。そう思えるほどの結束を感じる。
"楽しんでるのは良いけど、銃取り出しそうになったり食器壊してる子もいたから程ほどにね"
酔っているみたいだった。と加えると三人のジュースを飲む手が一瞬止まる
どうしたのだろうと思っていると、ニィナが私にグラスを持たせた。
「はい、先生ー。ルイスパリッシュで作られた百パーセント白ブドウジュースー」
「ま、今日くらいは大目にね……いちおう騒ぎ過ぎないように目を光らせておく」
「そういうこと、先生。よかったらそのジュース、お嬢さんたちに持っていってくれないかねぇ?」
"?……うん、わかった"
もらったジュースを味わいながら三人のテーブルから離れる
甘すぎないビターなジュースは舌に残ってた脂と三人の違和感をさっぱりと流した。
離れていった先生を見送りながらニィナは呟く。
「バレたー?」
「いや、大丈夫だと思う」
「ひやひやしたねぇ……今日はダメって伝えてるから大丈夫だとは思うよぉ」
「オレは肝が冷えっぱなしだったけど……セイブルの時はリリが言いかけたし
ルイシアンのときはあなたがね」
「えー、言う気は無かったよー」
「なんにせよ気づかれなくてよかったねぇ。ぼく達、ルイスパリッシュ生が……」
「「「お酒を造っていることにねぇ(な)(ねー)」」」
「ほんとに……リリはキャンティ*1って言いかけるし布と暗闇で見えなかったけど、
チャーチ地下には蒸留器置いたままだったから」
「危機一髪だったねー。じっさいバレちゃったらどうするー?」
「全力でごまかす」
「酵母舞ってるパン作りの横で、ブドウジュース仕込んでただけだから仕方ないねぇ」
「ワイン以外にもいっぱい造ってたけどねー」
リコはグラスを飲み干すと立ち上がった。
「会長、どこに?」
「ちょっと風に当たりにねぇ……」
「美味しい……」
「クシロ、こっちも美味しいよ。前に会長さんが振る舞ってくれたスープ」
"2人とも楽しんでる?"
私がホストではないけど、マナは元気よく答える
クシロはスープと返事どちらに反応すればいいのかあたふたしている。
"無理に返さなくて大丈夫だよ"
「クシロ、ゆっくりでいいから」
クシロは小さく頷くと料理に舌鼓を打ち始めた。彼女はずっと闇の中で一人きりだったと聞いている
それがどんな感覚か私には分からないけど、今はこの暖かさを堪能して欲しい
リコから渡されたジュースを2人に注ぐ。3人で乾杯して一息つくと、クシロが口を開いた。
「先生……?えっと、ありがとうございます。信じてくれて、マナを」
"礼には及ばないよ。生徒を信じるのが先生だからね"
「せ、先生が信じてくれなかったら……私もここにはいません。クシロにも会えませんでした
だ、だから私からも改めて……し、信じてくれてありがとう、先生」
"なら、私も君を信じなかったら今こうして困っている生徒に会えなかった。お互い様だね"
お礼合戦になりそうなのを強引に終わらせる
事実、彼女の話を聞かなかったらルイスパリッシュにも関わることが無かったのは事実だ
私とマナの間にどこか遠慮した空気が流れているとスープを飲み干したクシロがおずおずと話しかけてきた。
「聞きたいことがあるの……先生に」
"なんでも聞いて"
「シャーレの先生って……なに?」
「えっ?」
"あっ"
そうだ……クシロは私が来る前に失踪していたからシャーレを、今のキヴォトスの状況を知らないんだ。
私とマナは、クシロに今のキヴォトスの話をすることにした。
ルイスパリッシュの喧騒をBGMに──
騒がしさも静まり、宴もたけなわといった頃、私達の傍にやってきたイコは幾分か真剣な表情でマナとクシロにあるものを差し出した。
「マナさん、クシロさん……こちらを受け取ってもらえませんか。
私とリコからのお礼の品です」
イコが2人に差し出したのは、観光協会の生徒達が揃って袖に通している腕章だった。
「えっと……ど、どうして、これを?」
「先程も申した通り、お礼の品です。どんな理由であれ、風化する寸前だったこの学園に新たに芽吹くはずだった新芽が私達と共にしていた……受け取るだけで構いませんが
歓迎しますよ、私たちは」
言外に嬉しかったと含みを持たせてイコは語る。
既に無い学校、来るはずの無い新たな生徒。観光協会……いや、ルイスパリッシュ統合学園の時間はマナが来たときに再び動いたのかもしれない。
マナとクシロは、お互い目を合わせると答えと言わんばかりに受け取った腕章を袖に通した。
「「よろしくお願いします!」」
固唾を飲んで見守っていた協会員達が喜び沸き立つが全員という訳では無かった
サヨコが水を差すようにマナとクシロに口を出す。
「その返事は嬉しい、だが……ここが危険なのは変わっていない。それに……」
「歓迎したいけど―、心配なんだよねー2人の事―」
サヨコの歯切れの悪い物言いをニィナが横からフォローする
何人かの協会員も同じ表情をしていることから、まだ不確定な事実ばかりの現象……再びマナとクシロに何かが迫った場合を危惧しての思いやりなのだろう。
"2人はどうしたいの?"
「最初の一歩にしたいの……まだ、どれが私が選んだものかよく分からないけど」
「た、確かにここは……怖い場所です。け、けど私が憧れた場所を……私が知った皆さんを、風化させたくないって思ったんです」
それに……とマナはクシロに一度目線を寄越すと再び前を向いた。
「次は、私がクシロの願いを支えたいから……です」
その目は、既に決めた人の目だった。
サヨコは大きくため息を吐くと仕方ない……か。と観念したように呟く。サヨコの目は、マナと同じ目をしていた。
「じゃあ、新たな協会員の歓迎の式をやろうかねぇ」
話が一段落したのを見計らったように、リコは両手に荷物を抱えて私達の元に歩いてきた。
"リコ、その手にあるのは……"
「お嬢さんとお友達は、もともとルイスパリッシュに進学しようとしていたそうだからねぇ。
だから、新入生に新入生だった者からの最初の贈り物……"献杯"だよぉ」
リコはそういうと見やすいように両手に抱えた緑色の瓶と真鍮とガラスで出来たゴブレットを持ち上げた
そして、瓶とゴブレットをそのままサヨコとニィナに突きつける。
「えー、もしかして……」
「か、会長?」
「おやぁ?忘れたのかな、君たちもぼくらが献杯をしたのを。
さっき言ったよぉ……新入生だった者からの最初の贈り物って」
リコはこの場を借りて後輩たちに本来ならするべきだった事……廃校によって叶わなくなった入学式をサヨコたち2年生に贈ろうとしていた。協会員の中で3年生と思われる声が、2年生を囃し立てる。次第に二年生がおずおずと一歩前に出てくるとサヨコとニィナはリコから瓶とゴブレットを受け取った。
「会長、しかと受け取りました」
「うん、任された―」
焚火から火を幾つも燭台に別け辺りは少し暗くなる
忙しなく献杯の準備を進める2年生を見守りながら私も何か手伝えないかとリコに聞いてみた。
「んー……なにもないねぇ」
「えぇ、しいて言うなら先生のやるべきことは最後まで見届けることです。
観光協会の顧問として、そして……
"……そういうことなら、大人しく見守らせてもらうよ"
マナとクシロを中央に座らせ正面にゴブレットと瓶を持ったサヨコ、ニィナ、リリとその背後を囲むように残りの協会員が待機していた。いよいよ、献杯が始まる。
『汝、この地この門をくぐりし異邦の者……新たなる隣人とならん者よ。
その施しを受けるならば杯を……』
祝詞と共に鈴と香炉が揺れ幾つもの蝋の明かりと一緒に不安定で安心感のある小さな温かさのような空気が辺りを満たしていく。ニィナとリリが、一歩前に出て杯を差し出す
マナとクシロはゴブレットを受け取り胸の前で構えた。
『我ら、枝分かれした樹木なれど吸い上げる水を同じとする同胞よ
別たれたる異邦人、新たなる隣人よ、祝福を望み光を求め闇と共にするのならば、血を……』
サヨコが一歩前に出て、2人のゴブレットに葡萄水を注ぐ。
『光に靡き、闇を忌避する隣人よ
朝に過信することなかれ、夜に蒙昧することなかれ……
光と闇を共にし隣人とするならば、同胞の血を拝領しなさい』
祝詞が終わり、静粛が次の行動を促す
マナとクシロは注がれた葡萄水を飲み干した。
『新たなる隣人よ……しかして、怖れを忘れるなかれ──』
最後に鈴が一度揺れて、重く澄んだ音が終わりを告げた。
「けほ……や、やっぱり。これ、渋いね」
「うん……」
「クシロ?」
「いや……好きな味だよ、私は」
宴も終わりすっかり夜も更け月が沈みゆく駅舎の表で、2人の少女がベンチに隣り合って座っていた。
「なんだか不思議だね」
「うん」
「私とクシロ、入学式をしてもらった。私はもう、別な学校に行ってるのに」
「優しい人達……迷惑かけたのにな、私」
「これから返していこう、私も手伝うから……」
遠回りな言葉をお互い伝えながら、船をこぎそうになる頭を持ち上げる
マナの提案にクシロは、首を振った。
「駄目」
「なんで?1人でやってみたい?」
「そうじゃないよ……マナ」
「じゃあ……」
「気づいてるでしょ?気づかないふりしてる」
その言葉に、マナの表情が沈んでいく。
「クシロ……またいなくなる、でしょ?」
「うん、私はまだ夜から抜け出せていない。あの宵闇に囚われているの……まだ」
マナの声が震えていく。
「やだ。やっと……やっと会えたのに。まだ話したいこと、いっしょにやりたい事もあるのに……」
「うん。私も……まだ、マナと話していたい。いろんなことをしてみたい」
クシロはマナの袖に付いた腕章を指で掴む。
「だから……会いに行く、次は私から。選んだこの居場所を、この腕章を目印に……もう私は惑わない
私だけの光が視えるから」
「クシロ……うん、分かった。待ってる……信じてる、会いに来る時を」
2人の新たな約束を象徴するように地平線から朝日が顔を出した。
"……これでよかった、のかな"
「先生ともあろう人が、盗み見なんて感心しないねぇ」
駅舎の物陰からマナとクシロを見守っていた先生。その後ろからリコが顔を出す。
"それは、リコもでしょ?"
「おやぁ?バレてたんだねぇ」
お茶目な反応を取るリコに先生は一つ聞いてみた。
"リコは、どうして2人に献杯を?"
「あの時言った通りだよぉ」
"嘘だよね?半分は"
「……はぁ、敵わないねぇ。そうだねぇ、しいていうなら罪滅ぼし……だよぉ」
少し伏し目がちに言った後、リコは苦笑した。
「ぼくがあの時、体験用の葡萄水を間違えたからお嬢さんのお友達……クシロさんは闇に囚われた
仮に戻ってこれても時間は帰ってこない。だから、ぼくはマナさんとクシロさん、2人を繋ぎとめておけるようにしたかった。それだけの、ぼくのエゴだよぉ」
罪を告白するように本心を吐露したリコに先生はお礼をする。
"ありがとうリコ。君が居場所を作ってくれなかったら、2人はずっと離れ離れだったかもしれない
エゴでも結果論だとしても、リコは……ルイスパリッシュは2人を繋げたんだ。
私では出来なかったことだよ"
「……本当に、嬉しいことを言ってくれる人だねぇ。先生は」
2人はお互い突き合わせていた顔を反らして、外のベンチに目線を移す。
「想いは、強く願うがあまりいつか本質だけを残した呪いとなる……けど
呪いは、いつか誰かを想う呪(まじない)になり呪は、やがて祝福という願いになる……この学園の呪いが…いつか2人の祝福となるように」
先生とリコの視線の先、1人分空いたベンチに眠っているマナをルイスパリッシュから恵む朝日が祝福を落としていた。
あとがき
ここまで読んでくださりありがとうございました。
これにて本作の本編は完結となります。
途中で更新を停止したり非公開にしたり、挙句の果てに更新を再開したりと優柔不断な様を晒してしまい
以前から見てくださっている方、こちらで知ってくださった方には多大なご迷惑をお掛け致しました。
clue.9のあとがきで申した通り、いづれ修正版こと所謂リメイク作を書こうとは思っているので目途が経ちましたら
再びこちらの作品は非公開とさせて頂きます。
一応クロスオーバー物で原作の生徒も碌に出てこないオリキャラとオリジナルの学園が舞台と
原作ブルーアーカイブとする必要があるのか?と思われる内容だったと思われますが、
お気に入りや評価を入れて読んでくださりありがとうございました。
こちらではまだ公開していないサイドストーリーや設定はいくつかありますが、
ひとまず2つのサイドストーリーを公開して本作を完結とさせて頂きます。
何度目かの感謝になりますが、改めて『ようこそ先生、呪われた地へ…』を読んでくださりありがとうございました。