ようこそ先生、呪われた地へ…   作:nr/成

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在りし日のルイスパリッシュのお話


interlude. ドランクファイト

ルイスパリッシュ統合学園、4つの科からなる広大な学園には「カフェ」と呼ばれる軽食喫茶店が生徒の憩いの場となっており、その中でも、クラシックな喫茶スタイルが特徴の「Coffee Shop」と大衆的な飲食バルスタイルが人気の新鋭店「フレッシュオリンズ」が生徒間の人気を二分していると言っても過言ではない。

 

ここまで聞くとキヴォトスにも無数にある軽飲食店のひとつだが、ルイスパリッシュの「カフェ」は、この学園に属する生徒の間ではもっとも身近でもっとも秘匿すべき場所である。

何故そのような認識なのか、それは────

 

「マスター、最近……新しく入荷したお酒があると聞いてきました」

「見ない顔にしては目聡いね、お客さん……お連れの方も同じので?」

「よろしくー」

「あぁ、頼む」

 

"黄色いタイ"を付けた、カウンター向こうのマスターは背後の棚に向き直る。

ルイスパリッシュにおける「カフェ」それは、生徒間に脈々と受け継がれるキヴォトスでは禁止されている"お酒"を提供する場だからに他ならない。

 

棚から降ろされた瓶の蓋が回され、ロックグラスに透明な液体が注がれていく

マスターは3杯分のグラスを注文したピンク髪の生徒、隣の狼耳の生徒、挟まれるように座っている生徒の前にグラスを置いた。

 

「どうぞ、楽しんで」

 

マスターは簡素なラベルが貼られた瓶をそのままに、グラスを拭く作業を始めた。

3人はグラスを持って香りを嗅いだり、グラスを回して観察するようにお酒を眺めている。それを横目で見ていたカフェ内の客は怪しい物を噂するかのように、こそこそと話し始めた。

 

「こんな場末のカフェに何の用だ……?」

「まったく、冷やかしならさっさと帰って欲しいものね」

「もしかしたら、初めてなのかもしれないな」

「……あいつら、どこかで見たような。特に、あのピンクのチビ」

 

微かに聞こえてくる声などつゆ知らず、3人はほぼ同時にグラスを傾けた。

 

「ふむ、なるほど……」

「うえー」

「……」

 

三者三葉に味わってるが、まるで奥歯に物が詰まったかのような反応にグラスを拭いていたマスターは思わず声をかけた。

 

「……お気にめしませんでしたか。それとも、この手の場所は初めてで?」

 

ピンク髪の生徒は一拍置いて顔を上げる。

 

「いえ、そういう訳ではありません。

 ただ……正規に流通しているものと比べると随分と粗雑だなと思いまして」

 

挑発、いや……侮辱とも捉えられない発言をきっぱりと言い放った彼女に先程まで会話が続いていた空間がピタッと止まり視線だけが雄弁に突き刺さる。

壁際にポツンと置かれたジュークボックスが静寂の瀬戸際を食い止めている中、狼耳の少女が口を開いた。

 

「たしかに慣れないと、キツい味だ。無理もない、なにせ流通していないに等しいからな」

「普通に美味しくないー」

「お客さん、ケチつけに来たのなら今すぐ帰って貰いますよ」

 

怒気を込めて警告するマスターに突きつけるように少女は発する。

 

「怒らせてしまったのならすみません。この味がルイスパリッシュで造られた。と思われるのはどうにも忍びないので……そうでしょう?

 密造とその流通を行っているみなさん?」

 

マスター含めカフェ内の客全員の目が動揺で揺れるなか、1人が声を上げて3人を指さした。

 

「お前!!思い出した、生徒会の書記でしょ!!」

「そういえば……あっ!連れてる2人は賭けポーカーの胴元やってた1年のスズとニィナ!?」

「とっくに顔は割れてると思いましたが……案外気づかれないものですね」

 

ピンク髪の生徒もとい、イコは背後で騒ぐ生徒をあまり気にもせずカウンターの下から資料を取り出した。

 

「とぼけても意味はありませんよ。

 ここに流通経路から卸先、保管場所に製造所等揃っていますから」

「調べるの疲れたー、学園の外に出る前で良かったけどー」

「全くだ。俺達が胴元やってた時よりは隠れ方がおざなりだったのだけは褒めるべきか……

 それ以前に、生徒会の一員が来ただけで狼狽えるのは裏があると自白しているような物だ」

 

どうしますか?とイコがマスターに尋ねた……マスターは未だ動揺が続く目を隠そうともせず黙り込んでいる。

店内の動向がマスターに向く中、ニィナはカウンター席から離れてジュークボックスを覗き込む……その目は何かを期待しているようだ。

 

 

 

そしてマスターが何かを示すように片手を上げたのと同時に、客の何処かから引き金が引かれ、ニィナはジュークボックスの音量を上げた。

 

 

 

カウンターに置かれていた瓶が砕け散ったのを合図にスズは卓上を滑りカウンター裏へ身を潜め、イコは短銃身仕様のスペンサーショットガンをコッキングしながら、客たちの足元に滑り込む。

我先にと身を屈めたマスター以外の全員は大小の銃を正中線に構え撃つが、時すでにイコとスズは狙いから外れており、イコは屈んだ状態で客とラウンドテーブルの足を散弾で吹き飛ばした。

 

「ッ!」

「痛ってぇ!!」

「おい、下だ!」

 

やられたことに気づき下へ狙いを定めようとしたのを見逃さず、スズはカウンターから身を出してイコのカバーに入る。

一発二発とシリンダーが回り、客の肩や胴に無駄なく銃弾が突き刺さるが、数の差というのはスズが手にしているレ・マット・リボルバーの装弾数よりも多い。室内での荒事になると踏んだのは正解だったが、長物を置いてきたのはミスだったとスズはカウンター裏で弾を込め直しながら自戒する

そんなことは込め直した頃には彼女は気にも留めないが……

 

「ッ!……ったいですね。まったく、荒事は私の担当ではなくリコでしょう」

 

倒したラウンドーテブルを盾にするも、それは体躯が小さいから収まってるにすぎず近づかれるか銃弾で削れていく脆弱さにイコも冷汗が伝い始める。銃を向けている客たちも次第にスズとイコに対応を二分していき形勢逆転が為されそうな状況で──

 

「これは美味しくないー、こっちは好みじゃないー、次はー……あっ、割れたー」

 

ニィナは銃口と人の合間を器用に縫って、客が残したお酒を拝借していた。

火薬の炸薬とジュークボックスから大音量で流れるスウィングを手に取りながら、ニィナはカウンターへ迫る客の肩をぐいっと引き寄せるように掴み、自身はその勢いでステップを踏むかのように、カウンターの上に腰を下ろした。

スズは相も変わらずな友人が静かすぎると感じ疑問を口にする。

 

「ニィナ、銃はどうした?」

「なにー、銃ー?それならここにいっぱいあるよー」

 

ニィナの指には、マンリヒャー装填式の自動拳銃*1が引っ掛けられており先ほど肩を掴まれた客は、それを目にした途端慌てて自身のホルスターを探りだした。

 

「ちょっ!!それ、あたしのじゅ……ッ!!」

 

言い切る前にニィナは正面を向いたまま脳天を撃ち抜き昏倒させる。

カウンターの上を歩きながらニィナは拳銃を手前、奥へと発砲し客が銃を構えるのを妨害する。出来た隙を逃さずスズとイコは追撃し、ヘイローが次々と消えていった。

 

「慣れたのじゃないと使いづらいー」

 

ニィナが拳銃を投げ捨てカウンターから降りるのと同時に、スズもカウンター裏から飛び出して攻勢に入る。転がっていた瓶を蹴り上げ手に取ったスズの目の前には、背後からイコを狙おうとする2人組が見えた。

イコも背後の気配に気づいており、空になった弾倉にショットシェルを1発込めると肘を後ろに突き出すように銃を構えなおし、引き金を引くと同時に地面を軽く蹴った。

 

「なッッ!!??」

 

背後から銃床を振りかぶっていた客のどてっ腹に反動で吹き飛んできたイコの全体重が乗った肘鉄が突き刺さる。

苦しそうにくぐもった呻き声を上げ倒れる客とイコ、その背後でライフルを構えていたもう一人の客の額に水平に飛んできた酒瓶が激突した。

鈍い音を立てて、ヘイローが明滅しながら倒れる客に弾かれるように酒瓶が回りながら地面に落ちるのを床に転がっていたイコがキャッチする。

 

「クッションとしてはイマイチですね……それよりスズ、どんなお酒でも粗末にしてはいけませんよ」

「すまない、イコ先輩」

 

 

 

「ど、どうするよ…あんだけいたのに……」

「そ、外に助けを呼ぼう!こんだけ騒いでるんだ……時間的に通報してくれる1人や2人いるだろ!!」

「名案だけど、すっごく情けなくないか!?それ!」

 

本当に情けない助け舟が届くよう、わざとらしく発砲しだす客たち。

だが、それは既に対策済みだった──

 

「楽しそうだねぇ。いいね、学生って……私も若いころはファミレスを貸し切って身内と騒いだこともあったっけ……

 ふぅ……明日も早い、今日はさっさと帰るか」

 

カフェの前を通りかかったオートマタは、外にいても聞こえてくる音楽と時折混じる銃声に生徒の若さを感じながら、帰路に着くため再び足を進めた。

 

 

 

「な、なんでだれも来なッッ!」

「ちょっ……ちょっと、待ッッ、グヘっ!!」

 

スズのハイキックとニィナが振り回したレバーアクションライフルの銃床が2人の客のあごを穿つ。よたよたとカウンター裏から出てきたマスターが最後の一人となった。

 

「さて、お友達は全員寝てしまいましたよ?」

 

たった3人に制圧された店と客の惨状を見て、マスターは肩を震わせるとイコをキッと睨みつけ。いつの間にか握っていたナイフを構える。声を荒げながらイコに向かいナイフを突き立てようとするマスターの前にニィナはスッと躍り出た。

 

「ほいっ……とー」

 

レバーアクションのトリガーガードで刃先を絡めとり、勢いを殺すことなく梃子の原理で手を捻りナイフを弾き飛ばす。マスターはそのまま、前のめりに倒れこんだ。

 

スズがナイフを拾い上げると、マスターは倒れた体を正面に向き直し感情のままに叫んだ。

 

「な、何がいけないんだ!?お前らだって酒を造ってる。この学園自体が酒を密造してる!

 秘密裏に卸してる!!私達も同じことをしただけだ!おなじ連邦生徒会法違反を犯してる同族だろ!?

 ルールの外で行われていることだ!何故!無法を犯してる同士、取り締まられる謂れは無いはずだ!」

 

肩で息をしながら、マスターは言ってやったとばかりに3人を睨む。

イコはため息よりかは軽い息を吐いた。

 

「確かに、我々がしていることは連邦生徒会……キヴォトスでは御法度です。

 ですが、あなた達はそれを外にも持ち出そうとした。ルイスパリッシュというルールの外側にです……

 ルールの外だから何をしてもいいと思いました?

 それは違います…法の無い自然にも生態系という掟があるようにルールの外には、また別のルールがある」

 

イコは一歩近づき、マスターの額に銃口を押し当てた。

 

「無法ってのは……案外難しいんだぜ?」

 

頭上に浮いていたヘイローがゆっくりと消えていった。

 

 

 

「どうするーイコ先輩ー?」

「証拠はあらかた確保しましたし、あとはこのお店と寝ている彼女達の処分でしょう」

「事情を知らない大人に見られたら面倒ー」

「保安係の生徒を呼ぶにしても時間がかかりますね……」

 

2人が後始末に悩んでいると、スズが何かの配線を持ってきた。

 

「なら、こうしちゃえばいい」

 

そう言って、スズは片手で蕾が開くジェスチャーを行う。

 

「スズ、頭良いー」

「なるほど、それなら一石二鳥ですね」

 

意図を理解した2人は、すぐさま店の外にマスターと客を運び出しスズが持ってきた配線と仕掛けをガス管に仕掛けた。

 

カフェから離れた位置で、見守るように立つ3人と無造作に放られ気絶している生徒達という異様な光景なぞ露知らず、イコが音頭を取った。

 

「では、行きましょう……」

 

「「「せーのっ!」」」

 

 

 

 

 

ルイスパリッシュにおける「カフェ」それは、もっとも身近でありもっとも秘匿すべき場所である。

 

バーカウンターの向こうで、どこか納得していない顔をしている"黄色いタイ"を付けた3人のバーテンダー。テキパキと給仕をこなす中、意気揚々とした声と共にカフェの扉が開かれた。

 

「ちゃんとやってるみたいで感心したよ。功労者諸君?」

「労っているのなら、私達をあなたと同じ席に着かせてくれてもいいのでは?

 生徒会長」

「まったくだ……」

「そうだよ、横暴ー」

 

側頭部に羽根が生えた鴇浅葱色の髪をした生徒。ルイスパリッシュ統合学園の生徒会長に、3人は文句を垂れるがその意見は生徒会長が放った言葉に封殺される。

 

「賭けポーカーの胴元やってた罰を軽くするから密造者を探り当てろとお願いしたけどさ……拠点ごと爆破しろとまでは言ってないんだけどなぁ」

 

途端にイコとスズはサッと顔を背け、もっともらしいことを言い始める。

 

「今日はお客の入りがいいので忙しいんです。冷やかしなら帰っていただけませんか」

「おっと、注文が滞ってる……すいません、ただいまお作りします」

「サシーブ*2の盛り合わせ注文の方ー、そこのカウンターからどうぞー」

 

「こ、こいつら……」

 

太々しい態度を取る3人に苛つくも、雑に提供された水を飲んで生徒会長は頭を冷やす。

 

「なんだ、せっかく労いを込めて3人分……酒を"注文"しようと思ったのに」

 

溢された言葉にイコ、スズ、ニィナの目の色が変わる。

ルイスパリッシュの「カフェ」において、"黄色いタイ"を付けた従業員は、反省と奉仕の意味を込めたペナルティの証。

もっとも身近でもっとも秘匿すべき"お酒"を享受することが出来ない……ただ一つだけ享受する方法がある。それは誰かに奢ってもらう事だ。

 

「3人とも、飲みたい酒を言いな」

「いいのー?」

「もちろん、実際3人のお陰で密造者達を一網打尽に出来たのは事実だからね」

 

3人はわざとらしいくらいに姿勢を正し、それぞれ飲みたい銘柄をバックバーから取り出した。

 

「私はウォッカ・マティーニをスイート・ベルモットで」

「じゃあ、俺はこのウィスキーを」

「ブドウサワー」

「ここぞとばかりに高い酒取り出したね……」

 

「ハァ……とりあえずカプレーゼ、トマト抜き」

「会長、いい加減普通にチーズだけで注文しないか?」

「チーズだけだと、オリーブオイルしかかかってないじゃん。私はジェノベーゼがかかったモッツァレラが食べたいの」

「野菜食べなよー、会長ー」

 

なんだかんだ言いつつ、イコとニィナは自身の飲みたいお酒をグラスに用意しスズはカプレーゼを盛りつけていく。

 

「カプレーゼと……」

「ウィスキーとブドウサワーとウォッカ・マティーニです」

 

カウンター上に肴と3つの色を見せるグラスが並んだ。

3人は乾杯をしようと、それぞれのグラスに手を伸ばすが引き寄せるように会長の腕がそれを阻む。

 

「おっと……私は"3人分の酒を注文する"。と言っただけで奢るとは一言も言ってないよ?」

 

にやつきが抑えられないといった表情で会長は3人からお酒を取り上げる。

 

「なっ……」

「してやられましたね」

「リコールしてやるー」

 

「ふふふっ、なんとでも……ほら、バーテンのお三方。お客様が注文をお待ちだよ」

 

まんまと謀られた3人は滞りかけた注文を再開するよう動き出す。

生徒会長は勝利の美酒を見せつけるように、注文を受ける3人の前でじっくり、ゆっくりと……それぞれが飲みたいお酒を味わっていった。

*1
クリップ装填の自動拳銃

*2
クレオール料理。ローストポークに近い




資料:ルイスパリッシュ統合学園

生徒会長
人と仲良くなることが得意な食わせ物な人物。普通科出身
みんなのお陰が口癖で人に頼ることに躊躇いや憂いの無さが
生徒達と上下関係ない関係性を築けてると裏腹に本心等を理解され辛いという弱点もある
戦闘は苦手

使用銃器はマルティニヘンリー

【挿絵表示】


※画像は下地にしたゲームのスクリーンショットです。



ルイスパリッシュ生徒お酒早見表

強い                           弱い
前生徒会長>>>>スズ≧サヨコ>>イコ>ニィナ≧リリ=モブ>>>リコ


ルイスパリッシュ生徒のアルコール耐性はニィナ、リリやモブが平均値

前生徒会長 なんでも好き(ウワバミ)

スズ 度数の高いお酒(主にスピリッツ)を好む

サヨコ ビールやハイボールが好み

イコ カクテルを筆頭に甘いお酒が好き

ニィナ 飲みやすいチューハイ類が好み

リリ ワイン党、特に赤が好き

リコ 舌に合えばなんでも(ただし誰よりもアルコールに弱い)
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