ようこそ先生、呪われた地へ…   作:nr/成

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clue.6 噂の先触れとひしゃげた時計の針

「最近トリニティでよく会うな、先生。

 なにか頼まれごとをされているのか?」

"やぁ、アズサ。うん、生徒の頼みでね。

一緒に人探しをしているんだ。"

 

今日もルイスパリッシュに向かうため

マナを迎えにトリニティに来ているとアズサに出会う。

人探しをしていることを伝えるとお疲れさまと労ってくれた。

 

「しかし、トリニティで人探しは大変そうだ。

 私にも手伝えることがあったら言って欲しい。」

"ありがとう、けど気持ちは嬉しいけど

ここには生徒を迎えに来ているだけで探しているのは別の場所なんだ。

ルイスパリッシュ統合学園っていうところなんだけど…"

「ルイスパリッシュ統合学園…聞いたことがない。

 すまない先生、力になれそうになくて。」

 

申し訳なさそうに言うアズサをそんなことは無いと諫めて

逆にアズサは何をしているか聞いてみる。

 

「ヒフミと一緒に販売終了してしまったペロロを探しに行くんだ。」

"そうなんだ…"

 

その時、ヒフミと…というアズサの言葉。私が言ったルイスパリッシュという言葉。

二つの要素がどこか不安な気持ちを覗かせる。

私は一応…一応、アズサに忠告をした。

 

"アズサ…分かってはいると思うけど

ブラックマーケットには近づかないようにね。

最近、危ない噂があるから…"

「?。あぁ、分かった先生。」

 

不思議そうな顔をしながらアズサは頷く。

うん、とりあえず大丈夫かな…

 

「せ、先生~…お、お待たせしました…」

 

声の方に振り向くとマナが駆け寄ってくるのが見える。

私はアズサに、またね。とお別れをしマナと共にルイスパリッシュに向かうことにした。

 

 

 

 

「アズサちゃん、お待たせしました。」

 

先生が去った数分後入れ替わるようにヒフミがアズサのもとにやってくる。

アズサは先ほどまで、先生と居たことを告げそういえばと思い出し、ヒフミにとあることを尋ねた。

 

「先生はトリニティの生徒と人探しをしているらしい。」

「人探しですか、トリニティで?」

「いや、ルイスパリッシュ統合学園というとこらしいんだ。」

 

ルイスパリッシュ統合学園、その言葉を咀嚼した

ヒフミの顔がサッーと青ざめた。

 

「る、ルル…ルイスパリッシュ統合学園!?」

「どうしたんだ?ヒフミ。」

「せ、先生は本当にそこで人探しを…!?」

 

ヒフミの様子にアズサは不思議がるが驚愕を隠さないままヒフミはアズサに

ルイスパリッシュ統合学園の事を教える。

 

「アズサちゃん、ルイスパリッシュ統合学園は既に廃校になっているんです。

 その理由は疫病が流行ったとか、鉱山から毒ガスが漏れたとか

 様々なんですが、実際は人を襲う化物が出てきたらしく…

 と、とにかくルイスパリッシュ統合学園は土地ごと入れなくなってる

危険な場所なんです!」

 

鬼気迫るような勢いにアズサは気圧されながら分かったと返す。

多少落ち着きを取り戻したヒフミにアズサはもう一つ

先生から言われたことを思い出した。

 

「そういえば、先生がブラックマーケットには近づくなと言っていた。

 最近危ない噂があるらしい。」

 

先生からの忠告を告げた瞬間、ヒフミの耳と眉がピクリと動いたのを

アズサは見逃さなかった。

 

「ヒフミ?」

「……あ、あはは…。」

 

 

 

もう見慣れてしまった駅長室に集まった私とマナを出迎えてくれたのは

リコ以外難しい顔をしている協会員だった。

 

"えっと…みんなどうしたの?"

「な、なにかあったんですか?」

「いやぁ、そういう訳じゃないんだけどねぇ…」

 

こちらに目を合わせないままサヨコと黒い獣耳の生徒は

テーブルに広げた地図を睨んだままその理由を語る。

 

「セイブル地区までの道がね…遠いんだよ。」

「正確にはマナが言う光までだね。

 大体セイブルのどこかという予測は付いたんだけど…」

「オレ達が全力疾走しても陽が傾く内に着くかどうか…」

「という訳でねぇ、危険だけど先生とお嬢さんには

夜を越してもらう必要が出てきたんだよぉ。」

 

私とマナは目を合わせ、問題ないと返そうとしたのを勢いよく開いた扉が遮る。

 

「ついに来たね…この時が…セイブルまで遠い?大丈夫!

 こんな時の為に整備していたんだから!

 あーし達、鉄道復旧委員会のバーミリオン号にまかs…」

 

 

「却下。」

「駄目。」

 

 

「えっーー!!??」

 

意気揚々と鉄道を使うことを提案したリリは地図を見つめたままの二人に

食い気味に否定され流れるように床に崩れ落ちる。

リリはそのまま、ずるずると獣耳の生徒に縋りつく。

 

「えー!なんでよー!?

 今こそ、バーミリオン号を起こすときでしょ!

 ねぇ、スズー!」

「リリ、気持ちは分かるけど機関車を動かすのはリスクがある。

 異形が駆動音に引き寄せられることもあるし

 仮にセイブル地区まで行ったとして帰路はどうする?

 最短の路線は、まだ調査していないから分岐点が生きているかも分からない。

 異形や密猟者に知られて壊される可能性もあるんだ。

 片道だけ使うにしても、対価が合わない。」

「ま、そういうことだね。」

 

スズと呼ばれた生徒によって取りつく島も無く

丁寧に機関車を動かせない理由を聞かせられたリリは

むぅと口を尖らせ、むくれてしまった。

 

「…リリ、バーミリオン号を動かしたい気持ちは私も同じだ。

 だけど焦ってはいけない、今一番してはいけないのは

 動かせないことじゃない、バーミリオン号を失うことだ。

 大丈夫、あなたの気持ちは、鉄道復旧委員会みんなの気持ちだ。」

「…うん、分かってる、ごめん。」

 

スズはリリに目線を合わせ軽く抱きしめながら諭す。

やれやれと言った様子で、リコとサヨコは生暖かい視線を送っている。

 

理由も由来もどうしようもなくなってしまった一端を見てしまい

私は一刻も早く事態の収束に近づけるように手を貸そうと、心の中で誓いなおした。

 

 

 

「あ、あははは、恥ずかしいとこ見せちゃったね…」

 

気を取り直して、セイブル地区に向かうため前回と同じメンバーで

私達はデルタ地区内を進む。リリは駅長室でのやりとりを恥ずかし気にしていたが

私もマナも、協会のみんなもそうは思っていないのは確かだ。

 

「そ、そんなことないと思います。

 リリさんが、学園を、鉄道を大切にしていることは伝わりましたから…」

"うん、リリの想いがいつか実るよう私も改めて応援したくなったよ。"

「あー!もう、止めてよ!恥ずかしい!」

 

リリは顔を赤くして、声を潜めながらも叫ぶという器用な真似をこなす。

 

「先生、マナ、その辺で…それにリリは動かせる機会を知ったら

 すぐプレゼンしてくるから、いつもの事だ。」

「サ、サヨコちゃん!」

 

サヨコからのフォローに見せかけた追撃でリリは撃沈寸前になっている。

こんな楽し気なやりとりも、彼女達の日常だったのだろうと

勝手ながら感傷に浸っていると、くぐもった言葉にならない

呻き声がどこかから聞こえきた。

 

"今の声…異形?"

「な、なにか聞こえますね…」

「あー…そうだな…」

 

歯切れの悪い生返事をサヨコは返す。

辺りを見渡していると、おそらく畑だった場所の柵のそばに

倒れている物体を見つけた、音の発信源はあれだったようだ。

 

"あれって…牛?"

「う、牛ですよね…?怪我をしているんでしょうか…」

「・・・」

「・・・うん。」

 

ついてきて。と先ほどとは打って変わって静かになったリリは

大きく迂回して私達を倒れている牛の正面に誘う。

 

「えっ…。」

 

力なくだらんと横たわっている牛は苦しそうな声を漏らしている。

ただ、声の理由が異質だった。

牛の腹は抉られ、肉は愚か骨すらも剥き出しでピクピクと隙間から内臓と筋肉が動いている。

今にも息絶えてしまいそうな痛々しい生傷…

 

「学園に異形が出てきたときにさ…あーしたちは身を守る事が出来たけど

 育ててた牛や馬までは手が回り切らなくてさ。」

「改めて調査した時、この目の間にある光景が既にあったよ。

 無視することなんてできないから、近寄ったら文字通り泣くんだ。

 その声に引き寄せられて異形がやってくる…」

「だからさ、そんなことに使われるならって

 あーし達は眠らせてあげることにしたんだ、けどさ…」

「次も同じ場所に行ったら、鳴いてるんだよ…眠らせた時と同じ、抉った腹を晒しながら

 苦しげな声を上げてさ。それを見てオレ達の誰かが言った…ここは時間が止まった悪夢だって。」

 

いつの間にか、サヨコとリリは目を瞑っている。祈るように。

憤りが虚しくなるくらいに、残酷で理不尽に成り果ててしまった環境で

彼女たちは、ずっと何を見続けてきたのだろう…

私は、サヨコとリリに倣うように黙祷する。

どうか彼女達の頑張りが少しでも光ある方に進めるように…。




資料:異形

[ターゲット]
スパイダー
人よりも大きい蜘蛛の異形。
建物内に巣を張り、こちらの動きを制限させたうえで
素早い動きと毒の牙で仕留めようとしてくる。
巨体以外にも、胴体が抉れた人の頭部の様な異様な形をしている。
火が有効。
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