ようこそ先生、呪われた地へ…   作:nr/成

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clue.7 2斤1本のひととき

陽が地平線に隠れるギリギリまで歩き続け

私達は最初の目的地であるセイブル近郊の観測所まで来ていた。

 

"なんというか、植生が変わってきたね。

 背が低くて葉が厚い植物が多くなってきた。"

「セイブル地区は、乾燥してて日中は暑いし夜は寒い。

 デルタやルイシアンと比べると時間での差は一番激しいかな。」

 

サヨコの解説に耳を傾けていると、

無線が入ったらしく、私達の傍を小さく離れる。

 

「こちら、サヨコ。…はい。

 そう…、応援は?うん、了解した…オーバー。」

"なにかあった?"

 

途中から神妙な顔つきになったサヨコに

無線の内容を尋ねてみたが、その前に完全に暗くなる前に

観測所に入ろうと言われ従うことにした。

 

 

 

全員が入ったことを殿を務めていたリリが確認すると

リリはすぐさま鍵をかけ、サヨコはカーテンを全て閉めきった。

 

「ど、どうしました?」

 

灯りの準備をしながら、サヨコは先ほどの無線の内容を話した。

 

「セイブルに密猟者がいるかもしれない。

 しかも、複数の足跡を確認したって報せが入った。」

「だから、こうやって戸締りを厳重にして

 居るのを悟らせないようにしてるんだ。

 あーしたちだけなら無線や合図でなんとかなるし

 異形達はあんまり明かりには反応しないから。」

「今は大きい音を建てる以外は心配しなくて大丈夫。

 密猟者の報告もどちらかといえばルイシアン側からだ、ここからはかなり離れてる。」

 

オレ達はオレ達の事を優先して大丈夫みたいだ。と最後に付け加え

サヨコは備え付けてあったランプを灯した。

これからを表すように不安定に光が揺れる……

けど、この光が同時に安心を伝えてきてもくれている。

 

「よし、じゃあ、明日に備えて早めにご飯食べちゃおう!

 多分、鉱山側に行くことになるから、またかなり歩くことになるだろうしね。」

「そ、そうですね…駅舎で見た時よりは光が大きい…けど

 まだ小さいです。」

 

暗視を解除したマナの表情は、多少不安が見えるがその目は強く前を見つめている。

 

1人でもブラックマーケットに行こうとしたり

手掛かりがあるなら危険とわかっていても進んでいこうとするのは

見ていて危なっかしくもあるが、誰かの為に迷わず行動できる…

マナは思った以上に強い娘だ。

 

「保存食新しくしたって言ってたよな、あっ、あー…」

 

コンロ下の戸棚を漁っていたサヨコの言葉尻が下がっていく。

もしや保存食が駄目になっていたのだろうか?

リリがサヨコの傍に近づいて棚の仲を覗き込む。

 

「どうかしたサヨコちゃん?……うわっ。」

 

リリさえも気分が下がった動揺を口にする。

 

"大丈夫?もしかしくて食べ物が腐ってたとか…?"

「いや…そうじゃないんだ先生。」

「うん、ちゃんと食べられるんだけど…

 はぁ、よりにもよって105ブロートかぁ…」

「い、105ブロート?」

 

うんざりとした表情でサヨコが取り出したものは

通常お店で見るよりも小ぶりな1本の食パンだった。

 

"食パン?"

「そ、なんていったらいいのか…」

「悪い意味で有名なご当地名物…?でいいのかな。」

「この、105ブロートは、ルイスパリッシュ全域で販売されてて

 名前の通り105円で2斤1本っていう破格の安さと賞味期限の長さが売りなんだけど…」

「逆に言うと、それ以外で買う必要がないってくらいに酷評されてるの…

 いやホント…あーしも興味本位で買って1枚食べた後処分に困ったし…」

"そ、そんなに…"

 

カリギュラ効果というか、そこまで言われていると逆に気になってきてしまうが

2人の口ぶりと表情から余程の物と推測する。

まさか彼女たちはこんなところでも不条理を味わっていたのか…

マナも違う意味で生唾を飲み込んでいる。

 

「とりあえず…チーズとハムも用意して置いてくれたみたいだから

 炙ってサンドして食べようか。」

「栄養だけはあるからね…それに食べて少しでも体力をつけておかないと

 この先大変だからね、マナちゃん。」

「は、はい。」

 

ため息を付きながら、サヨコはナイフでパンを切っていく。

ズッズッと重く入っていく切っ先と敷かれた布巾に倒れるそれは

重力に弾む様な感じも無く見るからに固そうだ。

同じように、リリはナイフで器用にハムとチーズをスライスしたのを

コンロで直火に当てながらハムに熱を入れる。

決して広いとは言えない室内に脂が焼ける香ばしい匂いが漂ってくる。

リリもそう思っていたのか小さく美味しそうと呟いたのが聞こえた。

 

「はい、挟んだだけだけどサンドイッチの完成!」

 

明かりを囲み、リリから出来立てのサンドイッチが手渡される。

薄っすらと感じる小麦の甘い匂いと挟まれた隙間から漂うハムと

ハムの熱で溶けたチーズの濃厚な香りが食欲をそそる。

デルタ地区で凄惨な光景を見たのに、こう感じるのは

生き物に対して申し訳ないと思うけど、本能の欲求には抗えそうになかった。

だからこそ、みんなで言葉にして頂く。

 

「「「"いただきます"」」」

 

前評判とは裏腹にハムの香りに釣られて一口。

予想通り固かったけど、思いのほかさっくりと噛み切れたパンを咀嚼していく。

ハムとチーズのみ、強い塩気と濃厚なまろやかさだけなのに

充分と感じる、素材がよほど良いんだろう…

ただ噛んでいくごとに、105ブロートの神髄を味わうことになる。

 

決して美味しくないとは言えないのだが、すぐに無くなる薄い甘み

唾液と混ざってダマになったかのように重くなる触感…

 

無味ではない…まずいという訳でもない…そう、疲れる…

 

咀嚼するごとに飲み込めるようなそうでもないようなという微妙な判断が続く。

そして喉を通るときには口の水分も幾分か減って飲み込みづらい。

 

「お、美味しいです…ハ、ハムと…チーズ…」

 

小さな一口を飲み込んだマナは感想を口にする。

パンに関しては触れず…正直、私も同じ感想を言いたくなる。

目の前の二人は、不満を隠そうともせず口を動かしている。

 

「これ用意したのさ、誰だと思う?スズかイコ先輩か…」

「多分…スズちゃんだと思う…

 セイブルに行くのを決まったって伝えたら保存食更新したって言ってたから…」

 

リリを説得していた狼耳の生徒を思い出す。

あの子がこれを?好んでいたのだろうか、会話の中に出てきたイコという人物も…

まだまだ知らないことがあるなぁと咀嚼を続ける。

 

「あー…、せめていっしょにキャンt…」

「リリ?」

「キャ、キャンディとか甘いもので口直ししたいよねー…」

「キャ、キャンディはないですけど…

 栄養補給に良いかなって、キャラメル持ってきたんです…

 い、いります…か?」

「いいの!ひとつちょうだい!」

「オレもひとつ。」

"私も貰ってもいいかな?"

「はい、ど、どうぞ。」

 

ポケットから四角に包まれたキャラメルを取り出して私達に一粒ずつ配られる。

食後の楽しみができたことが、こんなに喜ばしいのは初めてかもしれない。

 

その後、黙々とサンドイッチを食べ終え

お茶と共に、食後のキャラメルをみんなで味わった。

日の出とともに出るとのことで、私は布の仕切りの向こうで体を横にする。

 

 

そういえば、リリが何か言いよどんでいたような…と頭の片隅に浮かぶが

肉体的にも精神的にも疲労していた体はすぐに私を微睡に誘った。




資料:人物

[ルイスパリッシュ観光協会]
山城(やましろ) リリ
ルイスパリッシュ観光協会で鉄道復旧委員会をやっている
グラマラスな体型とシルバーブロンドの髪が特徴的。
明るく快活な人物だが、鉄道復興の想いは強い。
現ゲヘナ学園2年生、友人のスズと共にゲヘナでも小さな鉄道を営んでいる。

仕様銃器は、2丁の金属薬莢仕様のコルトコンバージョンリボルバー

【挿絵表示】


※画像は下地にしたゲームのスクリーンショットです。
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