イドラ・アーヴォルンの依頼が終わって数日後の冒険者ギルド、そこで浅垣灯悟はクエストを物色していた。すると誰かが灯悟へと声をかける。
「レッド。」
「おう、イドラ!それに執事のセバスドン。」
『ポセイドンだろ。』
「その通…今の声はどこからで?」
『後ろだ。』
イドラとポセイドンが後ろを振り返ると窓からドラグレッダーが顔だけを出しており、2人の目が丸くなる。
「ドラグレッダー…貴方もここにいたのね。」
『流石にこれ以上はそっちには出ていかないぞ。その…狭いからな。』
ドラグレッダーが周りを見るとヒソヒソと話す他の冒険者たちがいて…慌てて顔を引っ込めた。
「まぁ、慣れてくれ。それでどうだ?マナメタルの研究は進んでいるか?」
「まぁ、ボチボチよ。」
「今日はどうしたんだ?新しい依頼か?」
「…いいえ、その…今日から私も冒険者になることにしたから…貴方たちとパーティを組んであげようと思って…」
「本当か!?俺は勿論大歓迎だぜ!ドラグもそうだろ?」
笑顔で喜ぶ灯悟。窓にいるドラグレッダーにも同意を求めるが…ドラグレッダーは引きつった顔になっていた。
『あ、あぁ…俺も嬉しいのだが…本気かイドラ?』
「でなきゃ、こんなこと言わないわよ。」
「パーティメンバー、もっと欲しいと思ってたんだが…何故か誰も加入してくれなくて困ってたんだぜ!」
「そりゃ、ドロップアイテムを全部黒焦げにする奴とは組たかないでしょう。」
『…何よりも俺の存在があるからな。』
「いや!ドラグは何も悪くないだろ!」
『悪いだろ…お前と出会う前にここにいる連中を何人もケガさせていたんだぞ?』
「誤解を解いて一緒に冒険して許してもらっただろ!」
『それはそうかもしれないが…アイツら、未だに俺を見るたびに震えているぞ?』
「気のせいだぜ!」
『そんな訳ないだろ!?』
「仲が良いのね貴方たち…」
ドラグレッダーが気落ちした顔で言うも、灯悟がすぐに否定する。少しイドラの頬が緩む。
「で、イドラ。何で急に冒険者に?」
「貴方たちの力を間近で研究するためよ。」
「俺達の…」
『力だと?』
「それを研究してどうするつもりだ?」
「異世界の力と魔法を組み合わせれば全く新しい魔法を生み出せるかもしれないでしょ?例えば…"異世界転移魔法"とか。」
『転移…か…』
イドラの言葉にドラグレッダーの顔が沈み、影で黒く覆われる。しかし、すぐにイドラの方へと向き直した。
「私の夢を叶えるついでに…元の世界に帰れず困っている異世界人を助けてあげられるかもしれないってことよ。」
『良かったではないかレッド。』
「…」
『…レッド?』
灯悟はドラグレッダーの言葉に反応せず、ただ固まっていた。
「どうしたの?こういう時は"キズナに感謝だぜ!"とか言うと思ったけど…」
「いいや…感動したぜ!この世界に来たのはイドラに出会うためだったんじゃないかってくらいにな!!」
「─!?」
『…え?レッド?俺は…!?』
灯悟の真っ直ぐな言葉にイドラは顔を赤くして固まり、ドラグレッダーは焦り始める。
「イドラだけだぜ!俺を元の世界に帰す手伝いをしてくれるって言ってくれたのは!」
『レッド!?俺もいるだろ?なぁ、おい!?』
「…」かあっ
「ってイドラ?おーい?」
『……俺を無視するなぁ!!』ボッ
「熱っ!?髪がっ!俺の髪がぁ!?」
「…」
そこには照れて顔を赤くするイドラと文字通り燃えている灯悟がいた。なお、灯悟の火はイドラの魔法によりすぐに鎮火した。
………
『これが俺の牙と爪だ…背中のヒレは触れるだけで危ないから諦めてくれ。』
「十分よ。これは帰ってから調べさせて貰うわ。少し血が欲しいから口を開けてくれる?」
『…血?ミラーモンスターにあるのかソレ?』
「いいから開けて!」
『…こうか?』
「中は…あら?牙はあるけど舌が無い?唾液もなく、触ると何か金属みたいに硬いし…針が通らないわね。」
窓から再び顔だけを出して、口を開くドラグレッダー。イドラは杖を発光させて口内を観察し…注射針を刺すも中には貫通せず、血の回収は出来ずに終わる。
「ありがとうドラグレッダー。貴方のような生物は初めてだから今は何とも言えないわ。」
『構わぬ。俺も自身のことはよく知らんからな。』
「…血は採れてなかったけど…貴方から魔力を感じないわね。だから、どうやってあの炎を出してるのかが気になるわ。他にも私たちにどうやって話しかけているのか……ま、これも後で調べさせてもらうわね。次はレッドの番。」
「了解だぜ!」
「じゃあ、口を開けて…あーん!」
「あ、あーん…」
ドラグレッダーと同様に灯悟の口内を観察していくイドラ。
「あんな姿に変身するのに見た目や身体の構造はこっちの人間と変わらないのね。」
「
「大きな違いは魔力の有無かしら?とりあえず、採血を…」
『ぺっTURN』
そこには変身しようとする灯悟の姿があった。さらに灯悟は大量の汗を流し、その場でガタガタと全身を震え始めてもいた。
「頼む…注射だけは勘弁してくれ!」
「嘘でしょ?背中を抉られながらも私を庇った漢気はどこに行ったの?」
『ククク…』
「笑うなよドラグ!戦いの痛みは覚悟を持って耐えられるが注射は別なんだよ!」
『なら、俺がお前の腹を少し食う…イドラはそこから垂れる血を採る……それでどうだ?』
「そ…それで…」
「良い訳ないでしょ!!レッド!注射くらい我慢しなさいよ!『イドラの研究の為ならなんだってするぜ!』って言ってたでしょ!」
両手を上げて虚ろな目でドラグレッダーのいる窓の前へと移動する灯悟…それを慌てて止めるイドラ。結果…
「…お前ら、そういうことは家でやれ。」
イドラが灯悟を押し倒す体勢になってしまい、ギルドマスターに怒られた。