いにしえ三国志   作:匿名希望

12 / 12
勉強しながら書いてる分、今回の話、滅茶苦茶難産でした。


12.三方面攻撃

 匈奴の襲撃を受けて滅びた東胡という国がある。

 しかし東胡の民族は烏桓山と鮮卑山に落ち延びて、各々で独自の発展を果たす。

 四百年も昔の話、春秋時代と呼ばれる頃の事である。

 

 両者は貿易等で交流を持つ事はあっても協調路線を取る事はなかった。

 というのも全てを失った両者が一から築き上げた現体制は、両者が互いを認知した時にはもう国家として機能し始めていたし、烏桓山と鮮卑山は中途半端に距離が遠かったので両山を繋ぐ連絡路を占領し、維持し続けられる程の力もなければ人手も足りていなかった。

 時には、敵対関係になる事も多かった。

 過激な淫魔族つるぺた種は、烏桓に棲息する淫魔族ボイン種を不倶戴天の敵と見做していた事もある。また鮮卑山に逃げたボイン種は東胡の少数部族が中心であり、つるぺた種は東胡の淫魔族の中でも最下層に位置する人種である。対して烏桓山に逃げた淫魔族のボイン種は歴代単于に連なる血筋がおり、他の淫魔族も単于を支えて来た大部族の者が多い。故に鮮卑と烏桓の淫魔族だと血筋に格差が存在しており、鮮卑の方が烏桓を嫌っていたというのが認識としては正しかったりする。

 そんな訳なので鮮卑と烏桓が手を取り合う事は不可能とされていた。

 

 故に今回、張純の仲介で開催された鮮卑と烏桓の会合は歴史的な快挙と云える。

 鮮卑と烏桓が漢王朝に攻め入るのは、慢性的な食糧不足が原因である。元が遊牧民族という事もあり、家畜の飼育を得意としている。しかし北方の寒冷地である鮮卑と烏桓は、決して農業に適した土地だとは呼べなかった。東胡が滅びてからの四百年で鮮卑と烏桓が思うように勢力を伸ばせないのは、食料が自給出来ず、余所を攻め込んで略奪する道しか取れず、思うように人手を増やせなかった事が一番の原因になる。

 温暖で広大な土地を手に入れる事は、モンゴル高原を生きる者達にとっての悲願である。

 

「ぬるま湯育ちの漢朝相手にひよってるやついる!? いねぇよなあっ!!」

 

 総数五千の鮮卑軍を前に大人(たいじん)の軻比能が声を張り上げる。

 かくして共同作戦は決行される。

 幽州の西から鮮卑軍。

 北から攻め込むのは、楼班が参軍を務める総数七千の烏桓軍。

 東胡の時代から継承する馬上弓を携えた両軍は、各々で橋頭保となる砦の確保を急ぐ。

 軻比能と丘力居が生きた時代では初めてとなる土地の占領を目的とした襲撃だ。

 

 彼女達の幸運は、時を同じくして南からも幽州を攻め込む第三勢力の存在にある。

 

 

 冀州より黄色の布を頭に巻いた集団が幽州南部に向けて進軍を始める。

 総数三万にもなる集団を率いるのは眉を赤色に染めた少女、庶民の中から名乗り上げた人物の一人で太平道が主導する黄巾党に合流し、めきめきと頭角を現した若者である。

 彼女の反骨精神の始まりは、とある老女との出会いにある。

 老女の息子は県庁に勤めていたが、軽い罪に問われて処刑されるという理不尽な仕打ちを受ける。息子を裁いた県の長官に恨みを抱いた老女は、家財を投げ打って、数年に渡り集った若者を厚遇した。資産が尽きて困窮し始めた頃、恩返しを申し出た若者達に老女は、自身が抱き続けた復讐心を語り、苦しい時を助けてくれた老女の為に若者達は立ち上がる。

 その若者の中に徐次子と呼ばれる勇士が居た。

 前世の話である。

 今生での彼女の名は、程遠志。紐で吊るした大太刀を背に、彼女は漢王朝の不正を両断する為に三万の群衆と共に行進する。

 

 

 幽州遼西郡、赤い髪色をした二人の少女が慌てた様子で政庁に駆け込んだ。

 

「お姉ちゃん、お姉ちゃん! 北から西から烏桓が鮮卑が攻め込んで来たっ!!」

「南からも恐らく青州の黄巾賊が三万! 数だけは多いっぴ!!」

 

 政務室の代わりに利用する県長室の扉を開け放たれるや否や、ほぼ同時に伝えられる連絡事項に公孫賛は筆を動かす手を止める。

 

「異民族が黄巾賊の同時侵攻だって!?」

 

 思わず、声を荒げた公孫賛は、従妹達に軍議の開催を指示する。

 部屋に駆け込んだ勢いのまま二人は「あいあいさ!」と扉も閉じずに飛び出した。

 一人残された公孫賛は、軍議に必要になる資料を纏めながら小さく溜息を零す。

 

 漢王朝は、北方の異民族に対して、異常な程に警戒心を抱いている。

 故に大陸北部にある三州、幽州、涼州、併州は異民族に対する漢王朝としての盾としての役割があり、公孫賛もまた幽州軍を率いる者としての矜持を抱いている。異民族退治の専門家として、異民族に対する知識は、ある程度、身に付けている。故に今回の共同路線に、公孫賛は違和感を抱いていた。

 烏桓と鮮卑は、同じ東胡の源流とする民族である。更に匈奴という共通の敵が居るにも関わらず、烏桓と鮮卑の仲は良いとは云えず、民族が再統合される事はなかった。

 今日まで受けて来た襲撃も散発的で、連携してると考える事は思えない。

 今更、両民族が共同戦線を張るとは考えられず、もし仮に両民族が方針転換し、協調する路線になったとすれば、外部からの手引きがあったと考えるのが妥当である。

 公孫賛が真っ先に思い付いたのは、黄巾賊の存在。

 黄巾賊、当人は黄巾党を名乗る集団の教祖に大賢良師と呼ばれる得体の知れない存在が居る事を知っている。

 

(……もしかすると黄巾賊と異民族が裏で繋がっている可能性がある?)

 

 公孫賛は思い至った可能性に首を横に振る。

 発想が飛躍し過ぎている。

 しかし全てを偶然で片付ける事は出来ない。

 公孫賛は、持ち前の小心さで軍議が始まるまでの間、頭を悩ませるのである。

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 軍議室と銘打たれた部屋の机に地図を広げられている。

 部屋には、幽州軍の主要人物が集められており、公孫賛の隣には田豫の姿もある。公孫賛の従妹、公孫越と公孫範の姿もあり、従姉と同じ赤い髪を揺らし、せっせと地図の上に将兵を模した駒を配置する。幽州の三方向から攻められる現状に公孫賛は眉を顰める。漢王朝が大陸を統一して以後、幽州は異民族に対して防備を固めていた。冀州と州境の防衛を強化する事は、漢王朝に対する反発を意味するので何百年もの間、防衛に力を入れる事が出来なかった過去がある。

 あるのは春秋時代に燕国が斉国に対する防衛の為に残した廃城が幾つか残っているだけだ。

 

 公孫賛が苦境を前に思い悩んでいると軍議室の扉が開け放たれる。

「連れて来ました!」と部屋に入り込んで来たのは、桃色の髪をした劉薫。賊を相手に将兵を率いる事もあれば、公孫賛の補佐として政務を手伝う事もある彼女は、今となっては立派な幽州軍の主力の一人である。

 

「いやはや申し訳ない、市場で民草の言葉に耳を傾けていたらつい熱が入ってしまってな」

 

 劉薫の背中より笑い声を上げながら部屋に入って来たのは、空に似た色の髪をした少女。

 名を趙雲、字は子龍。神槍と称される程の武芸の達人である彼女は、幽州軍筆頭の実力者である。

 その彼女が周囲の注目を浴びている内に、ひっそりと部屋に潜り込むのは簡雍。

 二人は頬を仄かに赤く染めており、酒精を帯びている事が見て取れる。

 警邏に出ていた筈の二人に公孫賛は苦言を零したい気持ちを飲み込んで「早く入れ」と睨みを利かせるだけに留める。

 趙雲は肩を竦めて、空いた場所に身を寄せる。

 

「改めて軍議を始める」

 

 公孫賛の言葉に、趙雲と簡雍を除いた皆が襟を正す。

 公孫越と公孫範の報告によると、敵兵の数は、北の烏桓が七千。西の鮮卑が五千。南の黄巾賊が三万である。

 対する幽州軍の将兵の数は二万であり、数の上では、圧倒的に劣っている。

 

 今回の軍議で先ず決めるのは、誰が何処を担当するかである。

 敵兵の数に合わせて将兵を決めるのは愚策である。烏桓と鮮卑は精鋭の弓騎兵を有しており、対して黄巾賊は烏合の衆である。

 しかし黄巾賊の数は三万と侮る事は出来ず、己の決断が全てを決定付ける瀬戸際に公孫賛は頭を抱える。

 

「……黄巾賊には、私が直接、出向こうかと考えている」

 

 先述したように幽州と冀州の間には、必要最低限の防衛設備しかない。

 耐える事は難しく、可及的速やかに黄巾賊を排除する必要がある。

 普段より、騎馬戦術に長けた異民族を相手に打ち破って来た公孫賛は、機動力には自信がある。

 異民族に対する防衛設備もあり、耐え忍ぶだけであれば、自分でなくても出来る。

 黄巾賊を倒した足で東の鮮卑、北の烏桓を退治するのが公孫賛の策である。

 

「民草の被害を考えれば、公孫賛殿と従妹の御二人方には北の烏桓に当たるのが良いかと」

 

 公孫賛の案に異を唱えたのは田豫、彼女は豊満な胸を揺らして言葉を続ける。

 

「幽州に名を轟かせる公孫賛殿の率いる白馬義従は、異民族に対する圧力であると同時に内部に対する抑止力でもあります」

 

 彼女は言って、幽州軍が拠点に据える遼西郡よりも更に東、遼東郡に視線を向ける。公孫度が治める幽州東部、公孫賛と同じ姓を持っているが特に親戚関係にある訳ではない。漢王朝の中心である洛陽から遠い事を良い事に、公孫度は独自で統治を進めており、匈奴を始めとした異民族と独自に交渉する動きを見せている。幽州刺史の劉虞は劉虞で前線で戦う自分達に事前通知もなく、異民族との交渉を始める事も思い出し公孫賛は深く、深く溜息を零す。

 

「西には、指揮官に劉薫殿を据えて、配下に趙雲殿を付けるのがよろしいかと」

「えっ?」

 

 急な抜擢に劉薫が思わず、声を零す。

 劉薫よりも武功のある趙雲が何も語らず、意味深く笑みを深めてみせる。

 公孫賛も、劉薫が指揮官を務める事に口を挟むつもりはなかった。

 

「南はどうする?」

「私が兵の一万も率いて向かおうかと」

 

 田豫の言葉に「本気か?」と公孫賛は彼女を疑念を込めて見つめる。

 

「冀州刺史の韓馥殿と交渉する権利を与えて頂ければ、と」

 

 田豫は続けて伝える。

 

「黄巾賊も所詮は野盗。州境に留め置けば、冀州軍も他人事では済まされません」

「止められるのか?」

 

 公孫賛の繰り返される確認に田豫は笑みを浮かべて答える。

 

「幽州の地は私にとって庭のようなものですよ」

 

 田豫は快活に笑ってみせた。




趙雲子龍(星):幽州軍の将、武芸の達人。
公孫越(??):幽州軍の将。公孫賛の従妹、公孫範の姉。
公孫範(??):幽州軍の将。公孫賛の従妹、公孫越の妹。

程遠志(??):黄巾党所属、前世は徐次子。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。