魔法戦記の戦記もの【リリカルなのは】   作:ヤドリ

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クラナガン暗闘1

 ……一張羅なんていつ以来だ?

 

 大半は局員制服で十分だったし、最後の明確な記憶はまだ女房が存命だった頃だ。

 さすがに以降は一度も着ていないという事はなさそうだが。

 背広を着込んだゲンヤ・ナカジマ三佐はそこで思考を目前の相手に切り替えた。

 

「いや、大変待たせて申し訳ない。私がアレス・デューラー、上院の末席を務めさせていただいている者です。長年エルセアを護ってきた方とお会いできるとは光栄だ」

 

 デューラー議員は大柄な男性で、政治家としてはかなり若い部類となる。

 発音も明快で、常に率直を好む……ように見える。少なくとも、そういうイメージを意図して形成している人物ではあった。

 

 ただ、末席とは謙遜も過ぎる程で、彼は野党勢力の主要人物と見なされている。

 

「詳しい自己紹介はいらんみたいですね。ゲンヤ・ナカジマ三等陸佐、陸士第108部隊長を務めてるもんです。粗忽もの故、無礼があったら申し訳ない」

「はは、私も若輩ですから。お互い様という事になりそうですな」

 

 ミッドチルダ、特にクラナガン近郊では地球からの文化流入は著しい。

 和風の店は大半、居酒屋といった風情だが探せば本格的な料亭も見つかる。ゲンヤがデューラー議員と対面したのも、そういった店の一つだった。

 

 最初から友好的なやり取りではあった。しかし、やや砕けた敬語で、互いにどう振舞うか腹の探り合いという面も濃い。

 出世を断ってきたツケというべきか、ゲンヤもある程度は対応できるが得意分野とまでは行かなかった。それでも礼儀に則り、会話は進行していく。

 

「それで、そちらの貴婦人も紹介していただけるのですかな」

「はい、こちらはフェイト・T・ハラオウン執務官。時空管理局の今回は執務官の立場でこの場に立ち会っていただいております」

 

 ゲンヤが紹介すれば、フェイトは一礼して長い金髪を揺らした。

 

「この度はよろしくお願いします」

「おお、貴女が高名な……こちらこそ。ミッドチルダの一住民として最大限の敬意を表します」

「あ、いえ、職務でしたので……」

 

 デューラー議員の歓迎に、フェイトは大真面目に謙遜して応じていた。

 おいおい、議員なんて連中は口が上手いから気を付けろよ、とゲンヤは言いたくなるが、その辺りはさすがに弁えた上だろう。

 

 紹介を終えた所で、デューラー議員は改まった表情を見せた。

 

「さて、交友を深めたいのは山々ですが、ご用件を窺った方がよろしいですかな?」

「助かります。今回、法改正の審査にあたって少なくとも首都内の警備は強化したいと上からの方針がありまして、まず顔合わせと……それに」

 

 ここでゲンヤとフェイトはデューラー議員の顔を確認したが、動揺の色はない。

 もっとも仮に裏があった所で、この程度で動揺していては議員は勤まらないが。

 

「もし何か心当たりがありましたら、是非にと」

「ふむ……」

 

 ゲンヤからの質問に、デューラー議員は思案気に腕を組んでいた。

 

「まずカレドヴルフ・テクニクス社、大きな声では言えませんが、あそこには勝たせすぎましたな。私どもとしては調整が要りますが、それだけでは済まない可能性も」

 

 通称、CW社。民間最大手でその管轄は多岐にわたるが近年、特に注目されているのがAEC武装だろう。すでに魔導機器では巨大なシェアを有している企業だが、管理局への採用実績は乏しく、今回を皮切りにシェア拡大を狙っているという噂だ。

 

 だが、それを競合企業が座して見守るとは限らない。

 巨億の富が動く以上は合法、違法共に様々なアプローチがあるだろう。

 

「……というと企業間闘争があると?」

「可能性です。あくまで可能性の話だと留め置いていただきたい」

 

 ゲンヤの直接的な問いに、デューラー議員は首を左右に振った。

 

「管理局が巨大すぎる問題ですな。正規採用されるか否かで製品や独占技術はもちろん、後のメンテナンスや資格系の価値まで大きく変わってしまう。もちろん、一本化しなければコストが霞むので、そこは各次元世界で吸収せねばならん点ですが……」

 

 デューラー議員が語るのは、管理局にとっては不可避の問題だった。

 巨大組織に付き物の巨大な利権。皮肉にも統一された組織である事自体が、分断や争いの種になってしまうケースだ。

 

「おっと、話しすぎましたな。とにかく私どもの調整には限界があるかも知れない、私の心当たりとしては、ここまでですね」

 

 政治的な調整が限界を迎えたら、巨大な権益で生じた歪みは民間企業に向かう。それで何が起きるかは懸念事項ではあったが。

 ゲンヤは冷静に質問を続けていた。

 

「……では、企業間の利害を除けば懸念はないと」

「ええ。真っ先に私などの所に話を伺いに来られた理由は分かっているつもりです。お飾りとはいえ最大野党の代表という事になりますからな」

 

 デューラー議員は朗らかに笑った。

 事実、彼は若すぎるうえ、利害調整の上でこの地位にあるという評論もよく聞く。

 

 しかし、どうも実態は違いそうだというのが、ゲンヤの心証だった。

 

「ただ両武装、特にAEC武装の規制緩和は与党側、もっと言えば時空管理局が主導ですし、どうしても通したい改正なのでしょう。バーターなどで十分に支持者の方々に良い報告ができそうな状況となっております」

「飾り気をなくした物言いをすれば、十分おいしい思いはできていると」

「いかにも。ただ、私欲のような表現をされるのは心外ですが」

「おっと失礼」

 

 現時点で引き出せる情報はこの辺りだろう、とゲンヤは見切りを付けたし、デューラー議員もそれを察したようだった。

 その後は、無難に歓談して解散する流れとなった。

 

 帰路、クラナガン首都高速道路。

 同行していたフェイトに運転は任せて、ゲンヤは臨時の隊舎への帰路に付いていた。

 

「で、フェイト嬢ちゃんは今の話はどう見るんだい?」

「順当な推測だと思います。ただ、それだけに事前に用意していた話かも」

 

 フェイトは口元に手を当てつつ、執務官として見解を述べた。

 要するに、あれが腹の底とは思えないという事だ。

 

 ゲンヤは厄介な探り合いが増える事を予感して、肩をすくめた。

 

「まあ、令状もなければ黙秘権もある。お話じゃあ限界はあるか」

「はい。捜査の基本は足を使う事ですし、これから……!?」

 

 不意にフェイトが言葉を途切らせ、ゲンヤは不審げに眉を潜めた。

 

「どうしたんだ?」

「いえ、今すれ違った車。少し物々しい感じがしたので」

「ありゃ、どっかの警備会社だな。この時期だと出入りも多い」

 

 合点しつつもゲンヤは首を傾げた。

 フェイトはすでに十分な経験を積んだ執務官だ。そこらの警備車両に、いちいち反応するというのは違和感がある。

 むしろ、より危険な兆候を無意識に感じ取ったのではないか。

 

 とはいえ、現時点では予感以上のものでは無かった。




Stsが無料配信なので3話を見たのですが、中央議事センターがめっちゃデカくて驚きました。高層ビルの数十倍? 山よりデカい……?
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