首都クラナガン、雑多なビル群の間を縫うように高速道路が張り巡らされている。
ブラウ達が走らせていたのは輸送用トラック。そういう触れ込みだが、少なからず戦地で用いられている機種だった。
運転は
もちろん、裏で用いられる秘匿回線付きの代物だ。
『話のあらましは以上だ。いや、さすがは管理局だ。迅速で的も射ている』
「嗅ぎ付けた訳でもなく挨拶程度だろう。迂闊な真似は控えるように」
『もちろんだとも。君も準備を滞りなく進めてくれ』
ミッドチルダ上院、野党派代表アレス・デューラー。
大柄で快活、政治家としては若年だが威風堂々という言葉が相応しい程度には風格がある。そしてブラウやハーディスと同じく、計画参加者の一人。
ブラウとしては読みにくい男、という印象だ。
ハーディスの行動原理が冷酷と傲慢で形成されているなら、デューラーの場合は計算と無邪気。どこか矛盾や破綻を匂わせていた。
そこまでブラウの考えが及んだ所で、不満の声が聞こえた。
先日、実質的に傘下に収めたグレンデル一家の面々だった。リーダーであるカートが警備会社の制服を引っ張って、不満げに毒づいている。
「……つーか、なんで俺らを連れまわしてるんだ。制服もダッセーし」
「あんたの普段着の方がダサいし。ってか、あんたが負けたせいでしょ」
カートに応じているのが、グレンデル一家の狙撃手マリーヤ・ラネスカヤ。
髪を纏めた少女で左目の下に星のペイントを描いているのが特徴的だった。
ブラウとの交戦では、自らの能力で質量弾を撃ち込んでいたのも彼女だ。質量弾の確保手段が豊富なブラスリッターとは相性が良いのだが、あまり協力的ではない。
「次は負けない……なんか納得いかないし」
クインに至っては、敗北に不満があるらしく事あるごとに敵意を燃やしていた。
ブラウとしては前途多難だが、元からそこまで期待していた訳でもない。
やがて、カートはブラウに探るような視線を向けた。
「だいたい、あの黒マッチョはどうした?」
「外せない下準備がある。柔軟な対処ができるのは俺の方だから、こっち受け持ちだ」
ブラスリッターの副将であるマケランは現在、別行動中。
事の大きさを考えれば、各地での下準備やその確認は必須であり、信用して任せられるのは彼しかいなかった。
これを聞いて、カートは挑発的に首笛を吹いていた。
「ほーう、つまりテメェは一人って訳だ。一家でフクロにすりゃ潰せるな」
「勝てると思うなら、騒ぎにならない所でな。景品に悪趣味な自壊ユニットは外してやるよ」
即座に、ディバイダ―に手をかけるクインだったが、カートが気だるげに手を挙げてそれを制していた。
ハーディス・ヴァンデインは臨時で活用する犯罪者に、自壊ユニットという一種の爆弾を頭部に埋め込んでいる。情報を暴露するなど、何らかの形で裏切った瞬間、頭部が脳ごと弾け飛ぶという寸法だった。
最新技術によるもので、外す手段は決して多くない。
つまり、ブラウは垂涎の報酬を使って挑発した事になるが、カートは却って冷静になったようだった。つまらなそうに、シートに深くもたれ掛かる。
「ケッ、いずれ街の王になる俺様が、こんな奴の手先かよ。落ちぶれたもんだぜ」
「ヘッドの野望はいつ聞いても、微妙にみみっちくてロロさん好きだよ」
「ほっとけ」
運転手の運び屋、ロロがハンドルを取りながらカートに反応していた。
ブラウ達との闘いでは未参戦。能力も不明だ。
一家の保護者、あるいはサブリーダー的な役割のようでカートを
「街の王か、ギャングスターの夢だな」
「あン!?」
「暗黒街の帝王なんて表現があるように、史上でも高名なギャングスターは街の規模で実権を握って多大な影響力を行使した。議会制の国では最も王様に近いかもな」
元より、何となしに呟いただけなので、ブラウはそのまま続けた。
当面のアポイントを除けば急ぎの案件はなし。目的地まで車内で特にすべきことがある訳でもなく、ブラウは派手にアクセルを吹かすトラックの座席で目を閉じていた。
その様子をミラーで確認したのか、ロロが意外そうに言った。
「ロロさんの運転で寝た人、初めて見たよ」
「簀巻きにでもしてやるか。どうせ、忌々しいドローンがでてくるだろうがなァ」
マリーヤとクインは乗り気なようで頷いていたが、カートは口では文句を言いつつも自分達の立場は弁えていた。
ブラウは彼にとって敵ではあったが、一方でヴァンデインに生殺与奪を握られた今、唯一の命綱でもあった。
「ついてねぇ、心底ついてねぇな」
ぼやきつつも、カートはトラック内の天井を仰いだ。内心で吐き捨てる。
ロマンってものが分かる奴に初めて会ったと思ったら、こんな奴とはな。
■ ■ ■ ■
「そ、それはあり得んよ。実質的に死文になってるんだ」
「こちらの分析では賛成多数の見込みです。信じがたい事は分かりますが、保険が必要になるのではないかと思い、お伝えさせていただいた次第です」
デューラー議員紹介、末端議員の秘書という立場で使って、ブラウは小心そうな与党議員にひとしきり毒を吹き込み続けると、適当な所で切り上げて一礼した。
彼の部下に見送りられながらもブラウは子飼いの警備、実質は私兵といえるグレンデル一家の面々に迎えられ、運送用トラックへと乗り込んだ。
見送りの態度から、不透明なものを感じたか、カートが探りを入れてきた。
「……七面倒くさい事やってるみてぇだが、今のは取り込めたのかよ」
「さて、どう説明するかな。木組みパズルとかやった事あるか?」
「生憎。あたしら、育ちは良くないんでね」
端的に応じると、マリーヤはガムの風船を膨らませた。
ストリート出身、なのだろう。もっともマリーヤ辺りは良い所の家出娘というのも十分にあり得そうだ、というのがブラウの見立てだったが。
「図形をパーツに分解する遊びだよ。ただ、部品によっては抜き取るんじゃなくて、ずらしたり押し込んだり、色々な過程が必要になるんだ」
彼らの内輪事情を詮索する事は無益だろう。
いくつかカギとキーホルダーが取り付けられた鍵輪を指先で回転させる。
「組織をバラす時も同じだ」
控えめにいって、その時、ブラウはぞっとするような笑みを浮かべていた。
鍵輪を手の平で包み込み、一瞬で分解して見せる。
鼻白むグレンデル一家の面々だったが、まだ活動は始まったばかりだ。
ロロの運転するトラック内でも、次々と通信を繰り返して、布石を増やしていく。
「アァッ!? 娘さんの治療費にいくら掛かると思ってんだ! 億だぞ、億!」
「レジアス中将の遺志を無駄にしてはなりません!」
「ああ派手な花火を上げるつもりだ。お前も腕は錆びちゃいないだろ?」
「ええ、それが魔導社会における高貴な義務であるかと」
「CW社もヴァンデインも相当、動いてくるからな。零細なりの立ち回りが……」
暗記していたタスクを全て終えると、一呼吸だけ整えるとブラウは次の標的のプロフィールを確認していた。
グレンデル一家からの反応は、と言えば『油断ならない奴』を通り越して、ややドン引きといった段階に至りつつあった。
「うわ~、この人めっちゃ人格切り替えるタイプだよ」
「どういう環境で生きてたらこうなるんだろうね。知りたくないけど」
空気を変えるように、ロロが冗談めかして言えばマリーヤが面倒そうに目を逸らす。
普通に罵倒されているような気がしたが、ブラウは横目で睨むに留めた。
「通信越しの恫喝じゃ限界がある。一応、言っておくがお前たちも片棒を担ぐんだからな」
「でもまあ、俺らに権謀術数は求めてない、違うか?」
カートが賢しげに一家の面々に視線を送れば、マリーヤは不服そうにではあったが、黙って発言を譲っていた。騒がしい一家だが、どうも有事の時にはカートが頭脳を担当する決まりは出来ているらしかった。
「そうだな。荒事がないうちは、俺に付いて相手を威圧してくれればそれでいい」
特に訂正する点もなく、ブラウは首肯していた。
もっとも、管理局の対応次第では、それも長くは続かないだろう。
何気なしに原作:リリカルなのはのSSを漁っていたら、知ったタイトルが年内に更新されていて驚き。10年選手のSSかぁ……