魔法戦記の戦記もの【リリカルなのは】   作:ヤドリ

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グレンデル一家3

 少なくとも、EC感染以前のグレンデル一家はありふれたストリートギャングに過ぎなかったし、今でも集団戦のノウハウはその程度だ。

 ブラウ・クラレンスは彼らを巧みに活用した。

 つまりは、武力というより威圧行為において。

 

 大小の抗争において、ナメられない、というのは意外に重要なスキルだ。

 この手の振る舞いは公権力の権威とはニュアンスが異なり、近年の時空管理局ではお行儀が良すぎるのか、あまり身に付くものでもなかった。

 

 物々しい雰囲気で睨みを利かせ、時には直接的に警護を叩き伏せた事もある。議員の私兵もそれなりに手練れではあったが、EC感染者への対応は限界があった。

 とはいえ、暴力沙汰まで行くのは少数で、さらには威圧すら不利になる事もある。

 

 ブラウが単身で対話に向かうのは、そんな時だった。

 そういう時を見計らい、グレンデル一家の面々は密かに現状について話し合うのだった。

 もちろん盗聴程度はされていそうだが。

 

 一家で最も慎重派のマリーヤは痺れを切らしたように、不満を訴えていた。

 

「てか、このまま付き合って本当に大丈夫なの? あのタコ助、あたしらと同じくらいの年齢だけどさ。何日か見た所、相当ヤバい奴だよ」

「ああ、それだけにヴァンデインのおっさんと対等に取引出る、ってのはマジかもな」

 

 不安を正面から受け止めたうえで、カートは歯を見せて笑った。

 マリーヤは息を呑んで、カートの顔をまじまじと眺める。

 

「あんた、それを確かめる為に……」

「俺らは爆弾を埋め込まれてるからな。このままじゃ、どうせ使い潰されて先はねぇが……ブラウの奴は少しはマシな雇い主になるかもな」

 

 カートの物の見方は現実的だった。つまりは他人に命を握られている限り、未来はなく、そこから挽回する為には相応にリスクを冒さなければならない。

 

 とはいえ、それでマリーヤや一家の不安が収まる訳でもなく。

 (ヘッド)は見かけ以上に物を考えている、考えてはいるのだが……途中から野となれ山となれ、と無茶を好むのも一家にとって周知の事実だ。

 

「でも、あいつが信用できるか分からない」

「まあまあ。頭には頭の考えがあるのよ~」

 

 いつもの仏頂面で不信を表明するクインを、ロロが宥めていた。

 ロロは一家の潤滑油的な役割を心得ていたが、カートへの信頼も本物だ。

 

「考えつっても、大したもんじゃねーけどな」

 

 特に気負う事もなく、カートは欠伸で応じていた。

 信頼に応える、先を見据えて頭を使う、という素養がない訳でもないが、それは本来、カートが好む生き様(スタイル)ではなかった。

 一家の面々で愉しく無茶ができればいい、夢はその延長線上だ。

 

 とにかく、細かい考えは抜きで、その形がグレンデル一家には合ってる、そう思うのだ。

 

 そして、逆に模範的なリーダーの素養に恵まれ、そう望まれた人間が一人。

 一仕事を終えて、一家が待つトラックに戻ってきたようだ。

 

 ブラウ・クラレンス、やや癖がある暗灰色の髪で今は警備会社の制服姿だ。

 一般人程度には立ち振る舞いは柔弱、そう見えて徹底的に隙がない。

 

 カートの印象としては本人に告げたように『嫌な奴』だった。

 常に大量の手札を抱え、決して隙を見せない。どんな相手にもフェアな態度を取る。

 

「そーいうとこが嫌な奴なんだぜ」

 

 当人には聞こえないように呟く。

 他人を、というか俺たちをそんな一律な正解で測るな、と思うのだ。

 

 最近は同時に完全な機械でない事も分かってきた。

 そんなブラウも私情で迷い、苛立ち、そして楽しむ瞬間はあるのか。あるとしたら、是非とも拝んでみたかった。

 

 ■ ■ ■ ■

 

 グレンデル一家が待っていた運送用トラックに乗り込むと、成果については言うまでもないのか、ブラウは開閉一口に実務的な事を告げていた。

 

「ここも終わった。次は急の案件に対処する」

「おーい、雇い主さんよ。全体の進捗はどうなってるんだ? 引っ張り回すのもいいが、そこが見えてねぇと一家の士気にも限界が来るぜ」

 

 カートからの唐突といえば、唐突な質問にブラウはグレンデル一家の表情を読んだ。

 

 クインはいつもの無表情、合格だ。

 ロロも穏やかな微笑み、一種のポーカーフェイスで百点をやれる。

 マリーヤは慌てていた。赤点。露骨に聞くな、という本人が露骨なタイプだ。

 

「そうは見えなかったけど……まあ、いずれ必要になるか」

「って今、あたしらの表情を見て判断しただろ!」

 

 いきり立つマリーヤだったがカートは微妙な顔で肩をすくめて、ノーコメント。

 確かに、これは口に出してはコメントし難い。

 ブラウも適当に首を左右に振っていた。主にダメだなぁという意味で。

 

「うっざ!?」

「あ、続けていいか?」

「お構いなく~」

 

 明らかに空気を読んだ笑顔で、ロロが続きを促していた。

 

「大方、察しは付いてるだろうが、重要案件審査に向けてミッドチルダ議会の部分的な掌握を戦略目標としている。進捗としては……」

 

 ブラウは座席に深くもたれ掛かっていた。

 上等な席ではなかったが、その方が慣れている。

 

「現時点で中立派、浮動層をほぼ全て押さえられる見込みだ」

「は?」

 

 率直に事実を告げたつもりだが、グレンデル一家の一同は揃って意外そうな声を上げていた。

 

「あんだけの動きで……いや結構、激務だったがそいつは無理があるだろうが」

 

 代表して、という訳でもないだろうがカートが常識論を述べていた。

 無法者ながらミッドチルダ議会の巨大さ、政治的な強固さを理解できているのだろう。

 

 激務の中でブラウたちが働きかけた議員の数は決して少なくないが、それでも全体に影響を及ぼすレベルだとは、到底思えないのが普通だった。

 

螻蟻潰堤(ろうぎかいてい)、だな。俺たちは穴を穿った。そこから先は実働部隊じゃなくて、大量のバックアップが役割を担ってくれる」

「その一つがヴァンデインって事かよ」

 

 つまり、より上位のパワーゲームで有効な隙をいくつも作ったという事だ。

 明らかに面倒そうな物言いでカートが吐き捨てた。

 

 ヴァンデインは彼らをEC感染者に仕立て上げ、自壊ユニットを埋め込んだ張本人。

 それを抜きにしても、彼らのようなストリートギャングは独立独歩を誇りとして権力に反抗する傾向がある。好かないのは当然だろう。

 そこは堪えてもらうしかない。

 

「そして悪いニュースだが……」

「今の良いニュースのつもりかよ。どっちを先に聞くか選ばせろ」

「そこは別にどうでもいい」

 

 カートの突っ込みを、苛立ちを抑えて冷静になったマリーヤが切って捨てた。

 リスクに配慮を巡らせるのは本来の彼女らしい態度だった。

 

「陸から面会の要請が入った。名義は陸士第108部隊、ゲンヤ・ナカジマ三等陸佐。あくまで表向きの身分に対してだが」

 

 表面上、穏便といえば穏便なブラウの報告にマリーヤは顔をしかめた。

 

「最悪。嗅ぎ付けられてるでしょ」

「断ったよ。まずは通信で話すが、事の次第では次に強制連行が来るかもな。準備と覚悟は先に済ましておいてくれ」

 

 ブラウは至って冷静で、世間話をするような態度だったが、その要求は重い。

 つまり交渉と恫喝の真似事を続けていた時と状況が変わってしまったのだ。

 

「覚悟って……」

「要するにひと暴れするって事だろ。分かり易くていいじゃねえか」

(ヘッド)が暴れるなら、私は特攻する」

 

 マリーヤが緊張する横で、今まで退屈そうにしていたカートとクインはどことなく、気力を滾らせているようだった。

 

 しばらく待てば、その時を告げる通知音がトラック内に響き渡っていた。

 応対したのは当然だが、ブラウだった。

 

「こちら警備会社オルクス・サービス、安全保障部門のルード・オルランドです。陸士第108部隊、ゲンヤ・ナカジマ三等陸佐でお間違いありませんか?」

 

 ルード・オルランドは合法的な軍事、傭兵業で利用している名前だ。

 最近のブラウ・クラレンスは身内か極秘活動用の名前、という事になる。

 

『ああ、ゲンヤ・ナカジマ三佐だ。忙しい所、申し訳ないが二、三、確認したい事がある』

 

 グレンデル一家の顔が割れるのは避けたいので、映像はオフ。

 通信越しに飾り気のない、しかし十分に経験を経た男の声が響いていた。

 

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