魔法戦記の戦記もの【リリカルなのは】   作:ヤドリ

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グレンデル一家4

 ゲンヤ・ナカジマ三等陸佐、部隊長とはいえ至って地味な局員に見える。

 しかし、主役とは言い難いが聖王のゆりかご事件に関わった人物の一人であり、ブラウは抜かりなく彼についても調査済みだった。

 

 ブラウの印象は色々あったが、まずは一つの感慨がまさった。

 指揮においては、この人が八神はやて二佐の師匠か……と。

 

 とはいえ現状は素性を隠していたし、向こうもそんな事を構うはずもない。

 ゲンヤ・ナカジマは実直な語り口で本題に入った。

 

『単刀直入に言うぞ。こちらじゃ、ずいぶんと逸脱した動きがあると見てるが、あんたら自身はどう考えているんだ?』

「従来の法慣習に則った範疇ですよ。少々、激しい動きですが重要案件の直前となれば、逸脱しているとも言い難いでしょう」

 

 完全に抑制された声色で、ブラウは静かに反論していた。

 さすがに現状の活動を逸脱していない、というのは無理があったが本来、行政府は司法を委託された時空管理局とは線を引いている。

 こちらの常識はこうだと強弁すれば否定は難しいのだ。

 

「たしかに議員方は根回し、接待、政治資金パーティー……それに恫喝もあるだろうな。やりたい放題、不透明な貸し借りや線引きを作っては世界を動かしている。だが……」

 

 ブラウのそれは知識に基づく、空々しい演技に過ぎない。

 それに対して、長年、陸士をやっているゲンヤの言葉には実感が籠っていた。

 上の政治的判断、というやつだろう。グレーな領域に踏み込み、白黒付ける事は許されない。そういった経験には忸怩たる思いがあったか。

 

 それだけに続く言葉には、断固とした響きが存在していた。

 

「そいつは法慣習ではなく、ただの悪習だ。管理局の立場としては正さなきゃならん」

「それもよろしいでしょう。しかし……」

 

 一方、ブラウの声に感情は乗らない。

 ただ凄腕の勝負師が最善のカードを切っていくように、言葉を選ぶ。

 

「次の重要案件は時空管理局にとって、かなり有利なものである事は否定できませんよね? それを目前に慣習を改めると称しての介入、恣意性を否定できないのでは」

「そこを突かれると痛いが……」

 

 音声通話を通して、頭を搔きむしる音が聞こえた。

 ゲンヤとしては痛い所を突かれたのだろう。ブラウというよりも、一連の計画を組み上げた黒幕は管理局が手を出しにくい事を承知で、この時期を選んでいた。

 

 それでもゲンヤは譲らなかった。

 

「局にも目を瞑れねえ事情がある。何なら現状でもやり過ぎなぐらいだ。どうだ、この辺りで手を引けば、余計な嫌疑も受けず丸く収まるとは思わねえか」

 

 ここで初めて、ブラウが返答をためらった。

 談合。いや、カマかけだろうか。ゲンヤの言動に不透明なものを感じて、しかもそれを上手く分析できなかった。

 

 こうして、返答に悩む時間も相手に取られる情報の一つだ。

 ブラウは数秒ほどで努めて冷静な声を出していた。

 

「余計な嫌疑とは? 議員間で何か明確な不正行為でも?」

「捜査上の機密ってやつだ。公僕は縛りが多くてな」

 

 カートが、しれっと返しやがったなと邪魔をしない声量で囁いた。

 どちらの事かは分からないが、両方だろう。この辺りは狐と狸の化かし合いだ。

 

「ひとまず、忠告は承りました。こちらも事を構えるのは本意ではありません。可能な範囲で自制させていただく、という事で」

「今日の所はそれでいい。だが、一線は守ってくれよ?」

 

 どちらも会話の終わりを察していた。形式的な返答を交換して通信を終える。

 

 今までブラウは常に冷静で、当然のように状況と方針を判断してきた。

 しかし、ここでグレンデル一家は初めて彼の熟考を眺めていた。

 

 それでも十数秒程度の沈黙で、ぽつりと結論をこぼした。

 

「今のは読み違えたな……痛み分けか」

「いや、意味分かんないだけど」

 

 即座にマリーヤから指摘されて、どう伝えたものかとブラウは思う。

 率直に伝えるべき、かと思うがグレンデル一家の流儀に合うかは怪しそうだ。

 

「えーと、マリーヤだったか。一家の……ツッコミ役?」

「おうよ」

「おうよ、じゃねえ! 狙撃手!」

 

 真顔で肯定するカートに、マリーヤは即座に肘鉄を入れていた。

 彼らも心得たもので、一瞬で場の空気が弛緩する。ブラウは口を開いた。

 

「まず、不利な点として、想定以上にこちらの計画の実態が知られていた。せいぜい、武装の規制緩和を阻止して、どこぞの企業や組織が利得を得る……管理局にはその程度だと思わせたかった」

 

 カートとマリーヤがアイコンタクトして頷ていた。

 彼らには何らかの役割分担があるらしい。

 

「……計画の目的、あたしらは知らない方がいいんだろうね」

「君たち自身が知る必要があると思わない限りは、そうだ」

 

 ブラウは可能な限り、誠実な返答を選んでいた。

 深入りは避けた方がいいが、知る事が自衛にならないとも言い切れない。

 

 その辺りを察したか、マリーヤは切り替えるように手先を一振りしていた。

 

「じゃあ次、あんた達の目的だけど、管理局にはもう知られている?」

「いや。だが、より大規模かつ計画的な動きがある事は想定しているらしい」

 

 ブラウがそう想定したのは、武装の規制緩和に言及したにも関わらず、ゲンヤがそこについては深く言及をしなかった事だ。

 もしかすれば、相手の意識を逸らすつもりが、隠れ蓑として計画を進めている事を追認してしまったかも知れない。

 確証ではないが、捜査には十分な疑いを得た可能性がある。

 

 問題は時空管理局が情報を得たルートだ。

 ブラウたち、いやその背景にある組織群は無限書庫に相当な対策を取っている。情報を蒐集されてるとしても、暗号を復号できないはずだ。

 

「情報流出、の線はないな。曖昧な代わりに広範なレアスキル……たとえば予言のような。そういうルートから決め打ちしてる可能性が高そうだ」

「なにそれ。どうしようもないじゃない」

「本来、管理局にはそのぐらい地力がある。ただ戦略を誤ってるだけでね」

 

 圧倒的な戦力を持つ魔導師や戦艦、保有する数多くのレアスキル。

 構造的に不可能だが、もし仮にリソースを集中する事ができれば、各次元世界の政府も含めて抗える勢力など存在しないはずだ。

 

「有利な点は、計画の進捗が知られていないという事。さっきも言った通り、中立派や浮動層を抑えれば、結果を確約とまでは行かなくとも成果としては十分。ここから与党まで切り崩すなら、大幅にリスクが増大する事になる」

 

 裏の目的を嗅ぎ付けられた、しかし進捗を隠し通す事には成功した。

 つまり、痛み分けだった。少なくとも現時点では。

 

「嫌な予感がするんだけど……じゃあ、さっきの話で引かなかった理由は?」

「ここから攻めないと、計画の進捗も概ね分析されてしまう、と考えていい」

 

 逆に不安が描きたてられたか、眉を潜めるマリーヤにブラウは正直に告げていた。

 管理局の分析班は優秀だ。完璧ではなくとも、実働には問題ないぐらいの精度でこちらの事情が解析されてしまう、と想定できる。

 

 それを避けるには、議員の切り崩しを続けるのが最も簡単だ。

 黙って、ブラウとマリーヤの話を聞いていたカートが意を得たように笑う。

 

「つまり、だ。ここらで深入りするか、解散するか選べって事かね」

「正解。察しがいいな」

 

 マリーヤやクインは、そんな話あったかと視線でやり取りしているように見えた。

 この辺りは、リーダー同士の直感みたいなものだ。力づくで従わせたものの、働きには報酬を支払うという前提で雇用している面もある。

 報酬と聞けば、その額面が気になりがちだが、どのタイミングで報酬を得て足抜けが許されるか……その重大事項をカートは見失っていなかった。

 

「ついでに言えば、俺が管理局だったら問答無用で勾留に動くね。無実だろうが何だろうが、理由を付けて重大案件の審査が終わるまで拘束する。それで大事件が防げるなら、万々歳。違うか?」

「そうだ。管理局の部隊とは、ほぼ確実に衝突する」

 

 ブラウは相槌を打った。この辺りは現状の再確認でしかない。

 重要なのはカートがこの段階で会話の主導権を握って何が言いたいのか、だった。

 頃合いと見たらしく、カートは本題を切り出していた。

 

「一家の(ヘッド)として決めるが、てめぇに付いてやるよ。だが、報酬が全額後払いってのは、こっからは割が合わねぇな」

「……何が欲しい?」

 

 ブラウのそれは話を進めるために、言わされた台詞ではあったが。

 この瞬間に限っては、カートが一枚上手だったと言えるだろう。ニヤリと歯を見せて笑い、首元を軽く指で叩いて見せた。

 

「この場で自壊ユニットを解除してみろ。俺以外の一家、全員だ」

 

 カートの申し出に、グレンデル一家の面々は独特の反応を示した。

 クインは無表情ながら素直に驚いていたし、マリーヤは頭を抱えていた。唯一、ロロだけは妙に嬉しそうにニヤけていた。

 

 彼らの服従を保証する、ヴァンデインが埋め込んだ爆弾の解除。

 この要求は想定していた。ブラウは軽く内心で再計算を済ませて言う。

 

「……ふっかけ過ぎだな。無理があるのは分かってるだろ」

「ま、最悪、一人犠牲に逃げられるんじゃ、困るんだろうがな」

「仲間は見捨てない! ……一人は除いて」

「誰の事か、言ってみろよアホ」

 

 本題をそっちのけで、クインとマリーヤが火花を散らし始めた。

 あまりブラウの前では見せなかったのだが、この二人は深刻でないにせよ仲が悪い。

 

 ブラウの困惑も含めて、どこか面白かったのかカートは爆笑していた。

 こうなるとグレンデル一家のペースなのだろう。ブラウは自覚して肩をすくめた。

 

「分かった、分かった。折り合おう。情報を開示すると、まず俺にできるのは一時的に爆弾の機能を停止する事ぐらいだ。外科手術は別途必要になる」

「そこは俺様のハイパー能力で賄える! 貸しにはならねぇぜ?」

 

 考えてるじゃん、とはマリーヤからの評。

 EC感染者は、自らの個性や精神性に根差した能力を発現する事がある。

 カートは身内以外には頑なに能力を見せようとしないが拘りの他、いざという時の切り札という側面もあった。今回はその思惑が上手くいった例だ。

 

「いいだろう。二人だ。先に自壊ユニットを外す二人を選んでくれ」

 

 ブラウは素早く再計算を終えると譲歩を決めた。想定外だが許容内だ。

 それを聞くと、カートはパンと手を打って、クインに向かって拝むように頭を下げた。

 

「悪ぃ、クイン! 俺と一緒に命を張ってくれ!」

「ナメんな。こっちは元より命張って前衛してる。最初からそのつもり」

 

 ぶっきら棒に、しかし確かな矜持を込めてクインは言い切っていた。

 つまり、彼らを除くマリーヤとロロが自壊ユニット解除の対象という訳だ。

 

 その選択に、驚いた様子を見せたのはマリーヤだった。

 

「ちょっ……ロロはともかく、片方は普通リーダーだろ!?」

「新参のクインにリスクを負わせるんだ。一緒に背負わねぇ頭には誰も付いてこねぇだろ」

 

 カートが珍しく穏やかに言い聞かせると、マリーヤはそれ以上、何も言えない。

 だが、納得できた訳でもないだろう。

 

 ここで取りなすように、ロロが間に入っていた。

 

「頭が決めた事だし、こういう時に限って頑固だものね。一緒に頑張って、一家全員の解放を目指そう? ま、最悪、ブラウくんが払い渋るかもだけど~」

「そこは先払いの時点で信用してもらうしかないが」

 

 ロロに横目で牽制されて若干、ブラウは居心地の悪さを覚えていた。

 身内への無条件での信用。それはブラウは必要としなかったものであり、どこか聖域に土足で踏み込んでいる感触があったのだ。

 

 だが、彼らの在り方は不愉快ではなかった。

 

「なんというか、いいチームなんだな」

「当然!」

 

 グレンデル一家の面々は各々が異なる態度で、しかし揃って応じていた。

 




・ブラウからのゲンヤ・ナカジマの調査印象
1.八神はやて二佐の師匠か
2.それはそうと、めっちゃ養子いるな、この人……
3.まだ増やすの!?
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