陸士装甲車両、とくに指揮官用として改装された車両は通信機器や電子防護を中心に強化が為され、臨時の司令室としては十分な機能を有している。
首都クラナガンの一角において、陸士第108部隊は要所への配備が進み、指揮官用車両へと入ってくる報告は全てが順調だった。
しかし、部隊長たるゲンヤの年月を感じさせる顔に浮かんだ表情は憂鬱だった。
「不本意な大捕り物になりそうだな……」
彼と敵対するカートの推測は正しく、本局統幕議長のミゼット提督の意向により、勾留により容疑者たちの動きを抑える方針が決定された。
敵方の隠蔽と慣習の壁は厚く、現時点で刑事事件にするのは不可能だろう。
ゲンヤとしては難色を示したものの、正道を貫くには時間も力も足りなかった形となる。
その背景には、JS事件の二の舞は何としても避けるという堅い意志があった。
また同レベルの被害、地上本部の壊滅でも起ころうものなら、今度こそ管理局システムの崩壊を招きかねないだろう。
次に届いた報告は通信ではなく、部下からの口頭だった。
「部隊配置、避難と封鎖、全て完了しました」
「おう、いつも助かるぜ」
娘であり、部下でもあるギンガ・ナカジマ准陸尉。
蒼い長髪が特徴的な女性、穏やかだが強い意志がその視線には宿っていた。
亡くした女房に似てきた、とは思っているが、彼女たち姉妹と遺伝上の母親との関係は複雑で、あまり口に出して言う気にはなれなかった。
単純な上司と部下以上に付き合いは長い。
ギンガはゲンヤの憂鬱そうな様子を察して、気遣うように言葉を掛けた。
「……相手の事、気になりますか」
「グレーな手を使う事になるのが半分、残りは……そうだ。珍しい事じゃないが、息子のような年代とやり合うのは因果な話だな」
最近、ナカジマ家は養子を迎える予定があり、それが保留となった。
トーマ・アヴェニール、過酷な孤児生活が長いからか、どこか影があるものの十分に身元を保証しても良いと思えるぐらいには善良な少年だった。
もっとも未だ故郷や元の家族の事もあるのか、結論は半年ほど先送りにする事になったが。
その話題になると、ギンガはくすくすと楽しそうに笑う。
「新しい子たちが来てから、せめて息子も一人ぐらい、なんてぼやいてたものね」
「騒がしいのも楽しいがよ……って、こら。業務中だろうが」
職場での口調を崩して微笑むギンガに、ゲンヤはしかめっ面で注意していた。
ナカジマ家がいくつかの事件を通して何人かの少女を養子に迎えた事は、そこまで話題にされないものの、有名な話だった。
「さて、大人しく捕まってくれる事を祈るぜ」
半ば、まだ見ぬ相手の事を気遣いつつもゲンヤは呟いていた。
■ ■ ■ ■
陸士第108部隊に動きあり。その報を受けたブラウの判断は早かった。
廃棄都市での戦闘以降、分散して潜伏していたブラスリッターおよびヴァンデインのコネクションで雇用可能な傭兵に招集を掛けたのだ。
端末を通して、管理局が先の道路を封鎖している事を知ると運送トラックを停車し、そこを仮初の本陣として防御を固めていく。
この状況、戦力の集結は急務だが、一方で急ぎ過ぎてもこちらの総力を知られていないという情報アドバンテージを捨てる事になる。判断力が問われる時間だ。
グレンデル一家の切り込み隊長、黒のセーラー服に身を包んだ少女、クインはしびれを切らしたように奇妙な刃を持つ剣状のディバイダーを握りしめていた。
「それで、戦闘はいつ始まる?」
「もう始まってるよ」
「なんだとっ!?」
慌てて立ち上がるクインに、ブラウは適当に手を振って制した。
無表情ながらも、苛立った様子を見せたクインに、ロロがのんびりと割って入った。
「まあまあ抑えて。ブラウくんも、うちのクインに回りくどい言い方が通じないって、そろそろ分かってくれてもいいと思うのにな~」
ロロ・アンディーブ、グレンデル一家の運び屋。今回は彼女の特異な能力から、運送トラック、つまりは本陣の管理を任せているに等しい。
一家の中では、精神的に成熟している点もこの場を任せている一因だ。
ブラウは見かけより結構、年上なのではないかと疑っているが、その辺りは詮索するべきでない事も心得ていた。
「善処するよ。それと首の調子は?」
「ちょっと違和感が残った感じ。うっかりヴァンデインの事、口を滑らせたら一家全滅、なんて事がなくなって、だいぶ気楽になったけどね」
ロロは長い茶髪をかき分けて、首の付け根辺りを撫でて答える。
ヴァンデインが埋め込んだ自壊ユニット。本来は脳を破砕できる位置に埋め込まれていたが、一家の首領カートの能力で首に移動し、そして先日ブラウの助けもあって完全に解除された。
不調でなければ十分、ブラウは頷き返すと端末を操作し地図を開いた。
3Dで周辺の地形が描画され、陸士第108部隊の本陣と蒐集した味方の位置情報が点々と記されている。
「よーい、ドンがあるスポーツじゃないんだ。向こうは集団的な抵抗ができない内に叩きにくるし、こちらがどう戦力を集結させるかも戦闘の一部だよ」
状況が呑み込めていない様子のクインに、ブラウは説明を続けた。
「ここから前方で検問を敷く管理局の陸士部隊はこちらの拘束を目的としている。指揮官は大隊指揮資格を持つナカジマ三佐……確実に部隊総出の作戦行動だろう」
「なんで確実なの?」
「完全に警戒されてるうえ、部隊長自らのお出ましだものね~」
ロロが捕捉するようにブラウの話を受け継いだ。
つまり、まだ今で回りくどかったらしい。身内の感覚というのもあるのだろうが、ブラウは分かりやすく話すという事の難しさを実感していた。
「方針も読める。手堅くやるなら別働隊による挟撃だ。こちらの対応は--」
グレンデル一家の残り二名、カートとマリーヤはすでに動いている。
それを前提に、ブラウは今回の戦術を語り始めた。なるべく分かりやすく。
5月中、PCがネットに繋げなくなるのでどうするか模索中……
ゲンヤ・ナカジマに大隊指揮資格があるか言及はなかった気がするのですが、部隊長かつ佐官で持っていない事はさすがに無いんじゃないかなと。