魔法戦記の戦記もの【リリカルなのは】   作:ヤドリ

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事後処理

 警備会社オルクス・サービスと陸士第108部隊の衝突は管理局査察部の介入により、事態は収束という結末に至った。記録上はその程度のものになるだろう。

 しかし、現実は追い切れないほどの点と点が線で結ばれ、全貌を形成している。

 

『すまない。こちらでも査察部の動きは追っていたんだが、完全にしてやられたようだ』

「いえ……」

 

 この一時の決着を察知し、フェイトの元に通信を入れてきたのは、ヴェロッサ・アコース査察官だった。緑の長髪に白いスーツと目立つ青年で、やや勤務態度に問題があるものの機微に聡く、機動六課時代以前からも世話になってきた。

 

 聖王教会繋がりではあるのだが、フェイトにとっては義兄の親友という印象が強く、比較的、遠慮もなしに頼れる人物だった。

 

「査察が動くとしたら、ミッドチルダ政府か各企業からの出向だと思っていました」

『こちらでの分析でもそうだった。裏を掛かれたのだろうね』

 

 査察部は管理局にとって正当性の根幹となる自己監視機能だ。それだけに、そこに介入されては強く出る事はできない。

 十分に想定はしていたはずだが、今回は相手が上手だった。

 

 理屈はこうだ。規制緩和に疵が付き、第五世代デバイスやAEC武装の採用が遅れる事になれば、それだけ古代遺物による甚大なリスクを管理局は背負う事になる……

 ひとまず介入を許してしまった以上、反省よりも次の一手を探るべきだろう。

 

「正式に監視者が置かれるとの事ですが……」

『経緯が経緯だ。残念ながら君自身が配属される事は難しいだろう』

「それは分かります。アコース査察官自身か、ティアナ・ランスター執務官が配属される事になれば、こちらとしては安心できるのですが」

 

 不本意ではあるが、揉め事の当事者であるフェイトは遠ざけられるだろう。

 フェイトは通信相手本人であるヴェロッサ当人と、最も信頼できる執務官の一人の名を挙げていた。直属ではないが機動六課時代の部下で、今は自分の道を歩んでいる仲間だ。

 この提案にヴェロッサも異存はないようだった。

 

『カリム姉さんと合わせて、内外から働きかけてみよう。ただティアナも多忙のようだからね。もし彼女の負担が増えたら、君の方からも埋め合わせをしてあげて欲しい』

「はい、承知しました」

 

 ヴェロッサらしい気遣いに頷きつつも、フェイトは通信を終えようとして。

 そこで彼の義姉、カリムの名前を聞いて思い至った。

 

 今回はカリムの希少技能、『予言者の著書』(プロフェーティン・シュリフテン)も絡んでいるのだ。

 

「それで予言の事ですが……」

『今回の一件、管理局としても一応の面目を保つことはできたが、重要人物である彼を拘束できなかった事実は重い。おそらく本会議が荒れる事は避けられないだろう』

 

 その点に触れられると、ヴェロッサは重々しく首肯して現状を語った。

 予言はそもそも的中しない場合や、解釈ミスの可能性を孕んでいる。だが、現状で楽観できる要素は何もない。

 

 フェイトの傍らで一部始終を聞いていた、陸士第108部隊の隊長、ゲンヤは老いが見える顔立ちにさらに深いしわを刻んでいた。

 

「すまねぇな。俺たちの段階で身柄を抑えとけば……」

「いえ、残念ながら結果は変わらなかったと思います」

 

 応じつつも、フェイトは嫌な予感がしていた。執務官にあるまじき根拠のない直感ではあったが、上位のメタゲームで後れを取ったまま事態が進行している気がするのだ。

 それが水面下の陰謀か、より深刻な政治問題か。今まだ、闇に包まれ見渡す事はできない。

 

 ■ ■ ■ ■

 

 苛烈な戦場にある種の幻想を抱く者は多い。しかし、後処理にその余地はない。

 撤収しつつも人的、物的、金銭的なコストに向き合う段階だ。

 

 実の所、派手に市街戦を繰り広げたといっても、被害を拡大しないという互いに暗黙の了解があったため、都市へのダメージはさほどでもない。

 人的被害も同様で、魔力によるダメージは長くても数日の休養で復帰できるだろう。

 

 この点は魔法文明の利点といえるだろう。合意に依存した脆いものではあったが。

 そうなれば、主な損害は物的なものになる。デバイスの自己修復機能にも限界はあり、激しい集団を経たのなら猶更だ。この辺り、時空管理局のそれと比べて、ブラウたちの経済面が恵まれておらず、どうコストと折り合いを付けるかは頭の悩まし所だった。

 

「それに……だ」

 

 一戦の結果は、味方陣営での立場も左右する。

 今回は勝つ必要はなかったとはいえ、万事スマートに事を運べたとは言い難い。

 

 ブラウは報告された各種データのスクリーンを閉じえると、傍らの女性を横目で見やる。

 黒髪の美女、エリクシル査察官が冷酷な微笑みを湛えて尋ねかけた。

 

「さて――無駄に手札を晒した言い訳を聞いておきましょう、ブラウ・クラレンス」

「認めるよ。少々、感情的になり過ぎた。だが、計画に支障が出るような事はない」

 

 ブラウは肩をすくめて、熱を振り払うように首を左右に振っていた。

 本来であれば。合理的な選択を取るのであれば、フェイト・ハラオウン執務官と戦闘を行うべきではなかった。拘束を受け入れて、時間を稼げば同じようにエリクシル査察官による干渉が発生し、結果は現状と変わらないかったはずだ。

 

 フェイトの姿が見えなくなった途端に、態度を豹変させたエリクシル査察官をみて、状況を察したのはグレンデル一家の面々だった。

 

「結局、局の連中とお友達かよ」

 

 カート・グレンデルは話は終わったと言わんばかりに、手をひらひらさせた。

 元より負け筋のない出来レースだとは先に言ってあったはずだが、いざ目の当たりにすればつまらなくは思えるのだろう。

 

 ブラウとしては、それなりに押し引きのある一時の同盟に過ぎないのだが。

 

「この女とお友達というのは、かなり心外だが……まあいい。それよりも自壊ユニットは全て取り除いておくから、君たちはそろそろ降りるといい」

 

 野良感染者がヴァンデインにより脳に取り付けられた小型爆弾。

 その取り外しは陸士第108部隊との交戦前からの契約であり、正当な報酬だった。

 

 しかし、カートは意外そうに眉を上げて、車内の天井を仰いだ。

 命を握ったのだから理由を付けて、その状態を維持すると。そう考えたか。

 

「そろそろ、お役御免ってか。ま、約束を守るってなら助かるがよ」

「危ない橋ってレベルじゃなかったからね」

 

 マリーヤは無頓着を装って、ガムで風船を膨らませていたが、どこか安堵した雰囲気までは隠せていなかった。

 

「せいせいする。赤の他人の為に体を張るのは柄じゃない」

「ま、私は少し楽しくなってきたんだけど実際、もう深入りしたくないラインよね~」

 

 クインはギンガ准陸尉との交戦で、終始翻弄されていたのが気に障ったか、どこか拗ねた様子で目を背けていた。

 一方で半ばブラウの補佐的な役割をしていたロロは好意的ではあったが、さすがに危ない橋を渡り過ぎた事は無視できないのだろう。

 

 ブラウの申し出に彼らグレンデル一家には共通して、どこか安心した様子ではあったが、エリクシル査察官は水を差すように悪戯っぽく囁いた。

 

「あら、ヴァンデインに黙っておいて良いのかしら」

「あえて報告する気もないが、元よりヴァンデインの奴からの紹介だ。この程度の事は折り込み済みだろう」

 

 ブラウも淡々とそれに応じていた。

 

 それを聞いたグレンデル一家の面々は、カート・グレンデルを中心に渋面を作った。

 クインだけは言外の含みが理解できず、仲間を顔を不審げに見回していた。

 

「……どういう事?」

「自壊ユニットの保険がなくなれば、ヴァンデインのオッサンに消されるかも知れねえ。自力で対処できなけりゃ、こいつらに頼るか管理局に逃げ込むことになるってこった」

 

 うんざりとした口調で、カートがクインに現状を語り聞かせた。

 もちろん、時空管理局に保護してもらうなど論外だ。つまり最初からどう転ぼうと手を切る事はできないという事だった。

 

 この辺りの駆け引きに疎いクインが状況を呑み込むのには十秒近くの時を要したが。

 理解した瞬間には、狭い車内で立ち上がり、一気に感情を噴火させていた。

 

「それは……結局、自由じゃないって事か。ズルいぞ!」

「正直このタコ助が悪辣なのは分かってたけど……」

「あのな……アウトローの自由が無料(ロハ)じゃないのは常識だからな」

 

 クインに珍しくマリーヤも同調してなじってくるのだが、無法者にあるまじき純情さにブラウは半ば呆れて応じるだけだった。

 

 その後は設備のある隠れ家に移動すると、まだ残っているカートとクインに取り付けられていた自壊ユニットの処置を済ませた。

 バイオ技術も無ければ、正規の解除法を得ている訳でもなかったがブラウの病化能力(・・・・)を用いれば、後は単純な外科手術だ。

 

 無事に彼らの施術は、少々の包帯を残して成功し……

 

「それで実際の所、ヴァンデインの事はどうするんだ? 言っておくが狙われる件は冗談でも何でもないぞ」

 

 早々に立ち去る事を選択したグレンデル一家の面々に、ブラウは忠告を交えつつも尋ねかけた。利用はしたが、それはそれだ。

 アフターケア不足で協力者に死なれても後味が悪い。

 

 ただ、それなりの目算はあるのか一家の頭目であるカートは小さな欠伸で、表面上は暢気な態度で応じていた。

 

「ま、しばらくは俺ら一家だけで上手くやるさ。お前さんとつるむにしても、こっからは本気で荒れそうだしな」

「そーいう事。でも、爆弾外してくれたよしみで運びの依頼なら受けてもいいけど。もちろん、適価でね~」

 

 こちらで用意した逃走用の車両に乗り込む間際に、ロロはそんな事を言い残して手を振っていた。取引相手程度には信用してもらえたか。

 その程度の話だが、当初の間柄を思えば結構な収穫ともいえた。

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