ただ、一筋の砲撃。それだけで計略と結界は粉々に打ち砕かれた。
白いBJの女性魔導師はその姿を見せつけるように、一定速度で飛行すると宣言した。
「時空管理局です。公務執行妨害および質量兵器の不法所持の現行犯で逮捕します――これ以上の抵抗は無意味です。投降してください!」
個人名は名乗らなかったが、あまりに有名すぎる人物だった。
高町なのは一等空尉の名声はブラウも知る所だ。
(エースオブエース……! さすがにオーバーSランクは手に余る)
管理局も恐怖政治がしたい訳ではない。都市を瓦礫の山にしかねない戦力を平時から運用する事は控える傾向がある。
甘いといえば甘いが、このレベルの戦力はデスクワークか教導隊で飼い殺しだろう、というのがブラウの認識だった。
最悪の形で想定を崩された事になるが、それでも事態を投げ捨てる訳にはいかない。
「マケラン!」
「承知……!」
完全に制空権を奪われ、次々と後続の局員魔導師たちが射撃の適性空域を占めていく。
こうなればブラウ達、ブラスリッターは防戦一方に陥ってしまう。互いに万全で撃ち合えば、局員の地力が上回るのだ。
総崩れとならないのは、ドローンが発生させる対魔導フィールドの影響が大きいが、それも高町一尉の砲撃で一騎ずつ潰されていく。
このまま白兵戦に持ち込まれれば詰み。
しかし、ブラウも無策のままではない。
「文化レベルAAの武装を解禁。魔力反応粒子を少量散布!」
後退するブラスリッターを追うように局員たちの砲撃が直進するが、それらの魔力砲撃は標的に到達する事なく爆散、炎熱と煙が拡がった。
煙と独特の臭気……魔力による爆発でない。
何らかの科学的な作用によって引き起こされている。
「……っ! 質量兵器、いやグレーな劇物かな」
管理局法では質量兵器は厳しく規制されるが、たとえば火薬のような兵器転用可能な物質については、その限りではない。
そして次元世界は広い。
管理世界に限っても未知の物質は存在するだろう。
「魔力砲撃は控えて、クロスレンジの戦闘に切り替え!」
それでも、なのはは魔法に反応して起爆する物質が散布されたと想定。
即座に切り替える形で戦術を指定する。
ゆりかご事件当時とは異なり、管理局員たちも慣れたものでフィールドを二重に展開してデバイスを強化、対AMFの構えを取った。
BJが強制解除されない例の通り、フィールド系魔法はこの手の物質を刺激しない。
管理局の蓄積があるからこその即時対応だったが。
「それが通るほど、今の戦場は甘くはない。召喚――」
ブラウは落ち着き払って、タクトで魔法陣を描いていた。
もう一つ、魔法が制限される状況での有効戦術として。シンプルに召喚魔法で魔法以外の手段を呼び出してしまえばいい。
召喚生物は希少だが、拘束具程度なら管理局でも使われる戦術だ。
「火の庭に響くは獣ならざる咆哮」
詠唱と術式が完成すると同時に魔法陣から飛び出したのは、巨大な鉄塊だった。
銃器ではあったがサイズは人体を大きく超え、明らかに個人携帯の規模ではなかった。
艦載用の機関砲……マシンガンならぬマシンカノン。
「弾代の確保も整備も楽じゃないが……よく味わってくれよ」
さすがに鼻白んだ様子の局員たちだが、ブラウに躊躇する理由は一切なかった。
単体で地面に固定、体重を掛けた程度で旋回できるよう砲台として改造されている。
「
マシンカノンは前衛の管理局員を銃弾の嵐で文字通り薙ぎ払った。
フィールド魔法でそれなりに強化されているはずだが、砲弾の直撃を受ければ容易くデバイスに亀裂が入り、BJの上から人体を吹き飛ばしていく。
ブラスリッターの面々も指揮官に続いて、各自が介入部隊への反撃を始めていた。
あらかた敵の前衛を掃除した所で、ブラウは指示を続けた。
「魔力反応粒子を通常量散布し、撤退! 各班は予め定められた逃走ルートへ、合流地点はYポイントを指定! マケラン、準備は?」
「出来ていますとも――病を運ぶ黒き翼、千の剣を隠す闇の帳よ、我が元へ来たれ! 空艇召喚ブレードクロウ!」
長時間の影響による召喚によって、呼び出されたのは鋭いフォルムの空艇だった。
自動管制の機能もあるのか、空中で浮遊しながらも介入部隊に向けて砲門を開く。
即座に発砲はしない。
その意図を悟って、なのはは表情を険しくした。愛用のデバイス、レイジングハートに通信回線を開くように依頼する。
「小型艇……三尉、戦闘続行の可不可の判断を」
「我々の任務はあくまで廃棄都市の巡回。現状の戦力で、次元航行艇を相手取る許可は下りないでしょう」
「……それが正解だね。小型艇は行かせて、残存勢力の処理を! せめて他の逃走ルートを選んだ犯罪者は逃がさないで!」
小型艇ブレードクロウが砲撃を放ち、地表を抉る。あくまで威嚇攻撃だ。
ブラウの意図はこうだ。『今回は痛み分けにしよう』、それに尽きる。
今回は互いの指揮官が敵の戦力を見誤っていた。
続けても被害は増すばかりだ。
提案を受け入れたか、介入部隊による追撃は明らかに鈍っていた。
「今回は心臓に悪い一戦でしたな」
「たまには刺激も悪くない。いや、嘘だ。管理局が道理を知った連中で助かったよ」
戦闘はここで終わりだとブラウもマケランも悟っていた。
もちろん、無数の残処理は依然として存在している。
味方の逃亡のために時間を稼ぐと、ワイヤーや転送を介して人員を回収。
小型艇ブレードクロウは廃棄都市を飛び立つと、さらに次元を超えて航行し――そのステルス性と戦艦を大きく超えた機動は時空管理局の追跡を許さなかった。
実際、BJなどフィールド系がAMFに強いかは不明。
剥かれる時は剥かれるのに強制解除されないのは作劇的な都合かも。