魔法戦記の戦記もの【リリカルなのは】   作:ヤドリ

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褪色の戦場4

 時刻はすでに夕方から夜間に入り込みつつある。

 ミッドチルダ中央区画、数ある隊舎の一角にて。

 

 休憩時間中、高町なのは一尉は音声通話を行っていた。男性局員、三尉が見た所では通話の相手は子供扱いされた事をやや煙たがっているようだ。

 それでも、会話は和やかに続き通話が終了する。

 職場のものとは違った笑顔が印象的で、つい三尉は尋ねかけていた。

 

「……娘さんですか?」

「はい、今日は少し遅くなるって。今回の報告を早めに切り上げるのは無理だから連絡をね」

 

 プライベートの詮索は褒められたものではないが。

 ゆりかご事件において、なのはが一人の少女を保護した事は有名な話だ。

 管理局からこの事件を広報に利用する任務を提示されたのも一度や二度ではなく、注意するにもあまり正当性を感じられなかった。

 

 その代わり、という訳でもないが、なのはは話題を変える事にした。

 

「結局、本命は取り逃がしたみたいだね……」

「想定を超える相手でしたから仕方ありません。局員全員が大した負傷もなく、帰還できたのは高町一尉の尽力があってこそですよ」

 

 なるべく力強く見えるように、なのはは頷いた。

 完璧な結果なんて得られる事の方が稀だという事は痛いぐらいに知っている。でも、成し遂げられた事も決して軽視してはいけない事も学んできた。

 

「敵対勢力が使用した小型艇は、局のデータに一致があったよ。次元航行艇ブレードクロウ、新型のシステムを積んだ改造艇。今は武装解放連盟『ブラスリッター』を自称する犯罪者達によって運営されている」

「たしか広域次元犯罪者ですね。という事は引き続き、海の管轄ですか」

「そうなるね……彼らの内の二名を捕縛する事に成功したんだけど」

「何か情報でも?」

 

 三尉からの話の流れとしては当然の質問に、なのはは一瞬だけ口淀んだ。

 それでも伝えない訳にはいかない。なのはは続けた。

 

「ううん、何も。捕縛直後に両名とも服毒による自殺だって……」

「それは……」

 

 返す言葉を見出せずに、三尉は口を噤んだ。

 思考操作や他の希少技能のように、訓練ではどうにもならない情報奪取には自害による実質的な人格と脳の破壊が最も有効だ。

 管理局員としては殺し合いをしているつもりはない。だが、それが一方的な押し付けに過ぎない事を時折、思い知らされるのだ。

 

「でも、こんな簡単に実行できてしまうなんて。押し付けるようで悪いですが、関係者のメンタルケアの手続きは……」

「本来は私の管轄です。任せてください。こちらで手配しておきますよ。それと……貴女自身も少し休んだほうがよろしいのでは?」

「ありがとう。でも、こうして話せただけで気分は紛れたから。それにここでしっかりしないと、他で頑張ってくれた局員に申し訳ないですから」

 

 敬意と共感を込めて、三尉は一礼していた。

 仕事の話ばかりになってしまったが、そろそろ休憩時間も終わりだ。

 

 なのはの気分が紛れたという言葉に嘘はない。だが、端末から映像資料を開いて、なんとも言えないやるせなさを感じていた。

 次々とプロファイリング結果が表示され、やがてまだ幼さを残した少年の横顔で止まる。

 

「ブラウ・クラレンス、か。聞いてはいたけど、やっぱりヴィヴィオより少し年上で……トーマと同じ年なんだね」

 

 ■ ■ ■ ■

 

 反管理局組織にも事後処理というものがある。

 もちろん法的な制約は皆無に近いが、公機関とは異なり予算はかなり限られるのだ。

 小型艇ブレードクロウのモニターに表示されたのは人員と備品、それにミッドチルダ脱出に伴う活動費への諸影響。

 

 それらを統合してブラウが出した結論は単純なものだった。

 

「ふう……見事に赤字だ」

「戦術的には勝利、経済的には敗北、というやつですな」

 

 マケランは無難に応じた。

 高町なのは一尉に破壊されたドローンがとにかく痛い。

 裏市場でもAMF搭載機は決して安くないというのに。

 

 もちろん、問題は単純な損失だけではない。ブラスリッターがミッドチルダで活動していた背景には相応の意味が存在していた。

 

「おまけに戦略的にも痛み分けだ。下準備は進んでいるとはいえ、こうしてミッドから追い払われたのは結構な痛手になる」

「では、例の話については降りますか?」

「まさか。もう後に引けないのは分かっているだろう? ヴァンデインからの連絡が来るまでは大人しくするが、そこからが俺達の本懐だ」

 

 ブラウは静かに応じると、指揮棒を軽く宙で揺らしていた。

 このリーダーは副将的な立ち位置のマケランから見ても若すぎる。実力も実績もまだ足りてはいない。その点、先ほど遭遇した高町なのは一尉の方が遥かに上だろう。

 

 それでも、人を率いる才というのは無関係に実在するのだ。

 決断の数、意志の強さ、あるいは時代に求められているか。そのどれかは分からないが、時に少年の声は魂を揺さぶるような力を持っていた。

 

「――新暦から続いた次元世界のあり方を根底から覆す」

「はい、私達『ブラスリッター』の杖はただそれだけの為にあります」

 

 未熟なはずの少年の一言に、侵しがたいものを感じて。

 マケランは視線を正した。

 その様子を知ってか知らずか。

 半ば、上の空でブラウは先ほどの遭遇に想いを馳せていた。

 

「それにしても、高町……なのは一等空尉か。まさか、こんな所で顔を合わせるとは思わなかった。いや、会ったというには距離があり過ぎたか」

 

 因縁、と呼ぶにはささやかなものだったが、ブラウの声色には複雑なものがあった。




Forceの自壊ユニットはめっちゃ合理的。
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