魔法戦記の戦記もの【リリカルなのは】   作:ヤドリ

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会話録:ハーディス・ヴァンデイン

 武装解放連盟『ブラスリッター』を自称する犯罪組織は主に、質量兵器や蓄電式のデバイスの密造、密輸を行うことで知られている。

 管理局法によって、一部の人間に独占された武力を、非魔導師や資質に恵まれない人々に対して解放する、との触れ込みだ。

 

 テロリズム、と呼ぶには管理局や各世界政府への要求は動的ではないが、武装の普及によるなし崩し的な黙認、あるいは合法化を狙っているものと推察され、ひとまずは広義のテロリストと呼んでも過言ではないだろう。

 

 その旗艦、高速艇ブレードクロウの艦橋にて。

 極悪非道の集団を率いる少年、ブラウは暗い灰色の髪を揺らしながら世界を恨む呪詛を吐き出していた。

 

「ああ、金がない。金がない。金がない」

「ぼやいた所で資金が湧いて出てくる訳ではないでしょう」

 

 冷静に窘めたのは副官的な立場にあるマケランだ。

 黒い皮膚を持ち筋肉質。ミッドチルダを中心とするベルカ系の人種には、あまり見られない特徴だった。

 彼がブラスリッターに属する理由に関係している、とブラウは踏んでいるのだが、付き合いとしてはビジネスライクで、あまり踏み込んだ事はない。

 

「方針を考える必要があるって事だよ。思想の啓蒙もいいが、活動を続けていくつもりなら、もう少し営利も考えなくちゃいけない」

 

 ブラウは説明する。マケランに限らず、この組織は思想優先の気があるが、とくかく先立つものが無ければ何も為すことはできないのだ。

 マケランはリーダーの苦悩を知ってか知らずか、鉄面皮を動かさない。

 

「余所の下請けでもやりますか?」

「金持ってるならな。ただ金持ってる所は、だいたい武装に困ってないからなぁ」

 

 ブラスリッターの戦力的なアドバンテージは裏社会に出回る質量兵器と、魔法を混成した戦術を確立している事にある。

 特異性はあったが所詮、戦力とは質と量だ。個性が高く買われるケースは稀だろう。

 

 それでもAMF対策は管理局のそれを上回る。そこに活路を見出すしかないが。

 思考が纏まりかけた所で、高度な秘密回線から連絡が入った。

 

 発信先は厳重に秘匿されているが、利用者は限られる。

 すなわちヴァンデイン・コーポレーション。正確にはその第八企画室か。

 

 暗号化から復元された不鮮明な声は、やはり元の不敵な声色を残していた。

 

『久しぶりだね。「ブラスリッター」の諸君。景気の程を尋ねても良いかな?』

「死んでしまえ」

 

 間違いなく嫌みだったが、機嫌が最悪なブラウは付き合わずに切って捨てた。

 ハーディス・ヴァンデイン。ヴァンデイン社の専務取締役。

 不本意ながら、ブラスリッターの最大の資金源であり、同盟者でもある。

 

『娘を悲しませたくはないなぁ……君たちにそんな事を言われると震えあがってしまうね。善良な一市民を脅かすのは控えてくれないか』

「なーにが善良だ。いいから、さっさと本題に入れよ」

 

 ブラウに言わせれば、ハーディスは道化ぶるにはプライドが高すぎる、という事になる。

 到底、付き合う気にはなれない。

 牽制もそこそこにハーディスは本題に入った。つまりはブラスリッター単独では収まらない、次元世界の現状を覆す程の大事業の話だ。

 

『首尾は上々だが……やはりミッドチルダ政府の基盤は強固というべきかな。勢力はまとめ上げたが、あと一押しか二押しは欲しい、というのが現状だね』

「必要ならいくらでも押すさ。ミッドチルダに入り込めれば、だけど」

『君たちが放逐されたのは痛手だった。なにせ、計画の第一段階では要なんだ。必死で穴を埋めた我々の努力も評価して欲しいね』

「想定の範囲内だ。管理局の規格外戦力(イレギュラー)から妨害は常に発生しうる」

 

 ブラウの返しは強がりだが事実ではあった。

 メディアで取り扱われる事が多い、聖王のゆりかご事件の英雄達は元より、航空戦技教導隊のエース達、魔導師ランク試験SSSランク突破者、現状で五つ確認されている特務部隊、平時から回収を続けているロストロギアも運用の余地があるだろう。

 全てを活用できる訳ではないにせよ本来、時空管理局の総戦力は計り知れない所があるのだ。

 

 イレギュラー抜きに管理局は相手取れない。

 それを分かっているか、ハーディスは肩をすくめた。

 

『まあ、身分なら偽造できるし、今度は合法的に入管してもらおう』

「それはそれで行動や武装に制限が出来るけどな……で、どういう身分を用意してくれるんだ?」

『うちのダミー企業所属、こちらに取り込んだ議員の護衛、というはどうかな?』

「それなら色々と融通が利くか……どうせ決行日まで尻尾を掴まれなきゃいいだけだし」

 

 両者のそれは示唆でしかないやりとり。

 だが、もし管理局員がこの会話を聞けば顔を青くしただろう。

 すでに行政に食い込み、しかもそれは先の計画を進めるための手段に過ぎないのだ。

 

『この件では色々と楽しみにしているよ』

「テロ屋としての活躍をか?」

『いや、あくまで私は企業人だからね。ビジネスの面での見解さ』

 

 ハーディスは韜晦を控えて、やや真面目な声色を作った。もっとも、それが分かりやすくこの男の本性という訳でもないのだろうが。

 

『管理局による統治は限界に近付きつつある。管理世界という巨大な構造を維持するのに必要なリソースが多すぎるからね。皺寄せが各次元世界の治安に跳ね返っている……これは巨大なビジネスチャンスだよ』

「その原因が人材不足、さらに言えば個人的な資質に左右される魔導に依存しているから。つまり、先鋭化に過ぎない第五世代デバイスより、質量兵器の規制解除に賭けた訳か」

『第五世代デバイスの件では、管理局と競合他社の癒着が酷いというのもあるけどね。とにかく君たちは世相の反映とも言える存在だ。だから、私は投資の価値があると判断した』

 

 つまりは管理世界が患う不治の病。

 魔法の資質を持つ者、持たざる者の間で拡がる潜在的な武力を背景とした格差だ。

 質量兵器がそれを是正し得る可能性を否定できる者はいない。もっとも、相応の量の血を代償とするに違いないが。

 

 ブラウは世辞をそのまま受け取ったりはしなかった。

 

「でも、お前の目的はその『先』だろう?」

『なんの話かな』

 

 ハーディスは穏やかなポーカーフェイスを崩さない。だが誤魔化す気もなさそうだった。

 ヴァンデインの第八企画室が秘密裏に進める事業はブラウもある程度は把握している。

 

「質量兵器が普及すれば、対魔導に特化したエクリプスウィルスの制御も容易くなり、次世代技術の中枢に据える道も開けてくる」

『次世代技術を迎えるにあたって、幅広く視野を持っているというだけの事だよ。多くの企業人がそうであるようにね』

 

 表面上は模範的な言葉を並べ、ハーディスは朗らかな笑顔を作った。営業などに見られる信用できない笑顔だ。

 多くの違法実験に手を染めた上で、その顔ができる、というのがこの男の異常性ではあった。

 

『それに仮にそうなるとして、君にとっては都合が良い話だろう。ゼロに迫る資質の保有者である君ならば――』

「口が過ぎるぞ、ヴァンデイン。生憎と子飼いのモルモットの仲間入りをする気はないからな」

『それは残念だ。長期的に見れば互いにメリットのある話なのだがね』

 

 事実、捨て駒の扱いは大概だったが一方で相応の待遇は与えている、虎の子といえる切り札も存在している、というのがブラウの見立てだ。

 EC(エクリプス)ウィルスの全貌と同じく、現状ではその詳細を探る事はできていないが。

 ハーディスは作り笑いを消すと、その視線を鋭いものへと変えた。

 

『この計画の第一段階では、君がメインプレイヤーだ。次は手札の出し惜しみは控える事だね』

 

 言いたい事は言い終えたか通信が終了する。

 ブラウは無意識に身構えていた事を自覚すると肩の力を抜いて、指揮官用のデスクに頬杖をついていた。

 

「今のは刺激し過ぎたのでは?」

「織り込み済みだよ。ああいう手合いは牽制するぐらいでいい。それにヴァンデインの戦略は見え透いている」

 

 マケランの形式的な諫言に対して、ブラウは淡々と返していた。

 

 結局の所、現状のヴァンデインの方針だが。

 散発的に違法実験を繰り返し、ECウィルスの解明に迫るゼロ因子適合者(ドライバー)を探す、というやり方は偶然に頼った最悪に近い戦略だ。

 柔軟性もなく、時間切れか感染が拡大する事で時空管理局と敵対が本格化し潰される……この未来図まで完全に一本のレールが敷かれている。

 

 では逆に勝算があるかといえば、ゼロ因子適合者の発見に限らず実験で免罪せざるを得ない程の成果を出すか、その過程で得た絶大な武力と裏社会への影響力を活かすか。

 どちらにせよ、戦略構想の悪さを補える程のものではないように思えた。

 

「ゼロ因子適合者か……さて、今代に実在する事すら怪しいけど」

 

 ブラウは呟いてみるものの、この時代においてECウィルスが跳梁している事実に、偶然以上の運命じみた何かを感じているのも事実だった。

 




眉毛がチャーミングなハーディス氏登場。
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