ミッドチルダ首都クラナガン南東――ホテル・アグスタ会員制のバーにて。
適度に調整された照明がテーブルの木目を際立たせ、古風な内装を引き立てている。
首都でも騒がしさが程々の適度な立地、という事もあって政治家や経営者の利用も多いが一般の知名度は皆無に近い。つまりは、そういう場所だった。
バーに用意された個室の一つに、一際目を惹く美女たちが訪れていた。
場に即した色とりどりのドレスに身を包んでいる。
著名な三人ではあったが世間的には仕事服のイメージが強く、一瞬ではこの場の当人たちと結びつける事は困難であったかも知れない。
「お久しぶりやね。なのはちゃん、フェイトちゃん!」
八神はやて、女性で最近では髪をセミロングまで伸ばしている。若くして二等陸佐。
かつては聖王のゆりかご事件において機動六課を率いた人物だった。
仕事柄、威厳を見せつける事も多いが、今は私用という事もあって砕けた様子だ。
「ご無沙汰しております、八神司令――というのは、ちょっと早いかな?」
「なのは、そもそもプライベートで職場の呼称は通さなくてもいいよ。傍目に見ても、私たちはそういうのは慣れてるようには見えないだろうし」
堅く気取った表情で、なのはが一礼すると、すぐに表情を崩して微笑む。
その傍らではフェイトが困ったように眉を潜めた。金髪のどこか儚げな女性だが、あらゆる法務を取り扱う執務官でもある。
ただ、この集まりにおいては元機動六課の分隊長という立場の意味合いが大きい。
しかし、それでも目を泳がせているように見えて、バーの個室が防音性に長けている事を見抜き、はやてに向かって。
「それで、いかにも密談向けな場所だけど……」
「あー、グレーゾーンの乱用はもう卒業したから、その辺は心配せんでええよ。今度は筋を通して、局の足並みも乱さへん。ずいぶん遠回りも多くなったけど」
と、はやてが区切ったのは演出でもなく、本当に感慨深かったからだが。
「……その分、”特務”六課は強いチームになる」
はやての真っすぐな眼差しからは、どこか生き急いだ雰囲気も薄れていた。
すでに設立が決まっている
フェイトは静かに微笑み、なのはも小さく頷いていた。
「それなら、現段階では表に出せない共有事項かな。それとも個人事情がからむ?」
「色々あるけど、まずはこれを見てや」
魔導書型のデバイスを展開し、表示されたのはシンプルなテキストデータだ。
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理より授かりし、剣と杖に触れし時
数多の光と闇を背負い、央の地に新たなる旗が翻る
悲痛に染まりし法の刃により、秩序は二つに裂かれ、
大いなる焔が再演されるだろう
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ただの文面。しかし、なのは達にとっては、かつての記憶を思い起こすには十分だった。
この手の四行詩は教会の予言によく用いられる文体だ。
「詩文……まさかカリムさんの預言?」
「しかも『央の地』はミッドチルダを指している可能性が高いね。ううん、それよりもこの予言が指しているのは……」
なのはとフェイトの反応は鋭敏だった。
というのも、かつての機動六課は秘密裏にカリム・グラシアの希少技能、予言者の著書で綴られた管理局の崩壊に対応する事を目的として設立されていた。
「規模までは分らんけど治安崩壊、もしかすれば管理局の自滅――なんて先走りそうになるけど、それはちょっと置いといて……フェイトちゃんなら例の法案、もう知っとるよね?」
はやてはある程度、深刻さが伝わった事を察すると、すぐにフェイトに水を向けた。
当然、話題の法案程度は知っていなければ執務官は勤まらない。
「次の上院で注目されている法案はいくつかあるけど……荒れそうなのは新装備に関わる規制を緩和する法改正かな?」
「魔力結合を高速化するAEC武装、外装により魔力結合を保護する第五世代デバイスだね。
どっちが剣で、どっちが杖なのかまでは分からないけど」
フェイトが思い当たった法改正に言及すれば、なのはが続けた。
というのも、すでに設立が内定している特務六課に配備される新装備のテストはすでに開始されており、その業務にあたっているからだ。
テスターとして研修は受けているので、専門外の話でも付いてはいける。
「前回の予言は阻止できんかったけど……今度は時期も場所も明確」
そう告げる、はやての表情は堅かった。
世間的には機動六課は華々しく、ゆりかご事件を解決して首謀者を捕らえた事になっている。それは必ずしも間違ってはいないが。
だが、元の目的である予言、つまり地上本部の壊滅を阻止できず甚大な被害を受けたのは、はやてはもちろん機動六課の面々としては苦々しい経験だった。
公に言いにくい事ではあったが、なのは達を英雄的に扱う広報は情報を掴んでいながら抑止に失敗した事実を糊塗する一面も存在するのだ。
次もミッドチルダの中心部で、法改正か装備の実用化の段階で事は起きる。
「六課としてのリベンジって事だね」
なのははグッと胸元で拳を握りしめると、自然と場を鼓舞していた。
フェイトも静かに頷こうとして、そこで気付いた。
「え、ちょっと待って。もし予言されてる事態に法案が関係しているなら……これはミッドチルダ中心の行政法。管理局法じゃないんだけど」
微妙にあわあわとしながら、フェイトは指摘していた。
普段、お堅いのにプライベートだと隙多いなぁと、はやては思う。
基本的に次元世界は管理局法の元に統治されているが、かといって
各世界が司法を時空管理局に委託している一方、各世界の行政機関もまた小さくない権限を有しているのだった。
「そう。管理局の内輪では済まへんし、そこから探りを入れるならデリケートな所に切り込む事になる。それでフェイトちゃんへのお願いになるんやけど」
「わかった。執務官権限が必須の案件だね、これは」
民事と違い、行政事件は時空管理局の介入対象とはなる。
しかし事件ですらない行政の分野に立ち入るのは、いくつも慣習や繊細な問題の壁が存在しているのだ。その辺り、法務案件の処理を専門とする執務官は立ち回りやすい。
「元々、政治は黒からグレーな懐柔や根回しも珍しくない伏魔殿。今回はミゼット提督も陸士108部隊に依頼して動いてもらってるから、そこと連携して」
「ギンガやゲンヤさんの所だね。了解」
陸士108部隊は、かつての機動六課と縁の深い組織だ。
特に隊長のゲンヤ・ナカジマ三佐は、はやての研修先、部隊指揮の師でもあり階級が逆転した今でも頭が上がらない所がある人物だ。
娘のギンガは機動六課に出向していたし、さらにその妹は六課のフォワードだった。
次はやる気を滾らせた目付きで、なのはが尋ねかけた。
「それで、はやてちゃん。わたしは?」
「なのはちゃんは教導隊の業務と新装備のテスト頑張ってな」
「いつも通り!?」
笑顔で流されて、なのははガクリと姿勢と表情を崩していた。
「うん、黒幕ぶっ飛ばす段階になったら真っ先に呼ぶんやけどね」
「いやいや。私だって教導を通して成長してるんだからね? 人望とか!」
「なのは、語彙に説得力がないと思うけど……」
熱意はあるものの、いまいち弁護しがたいものを感じてしまうフェイトだった。
二人の様子に笑いを誘われて、はやては堪えつつも手を振っていた。
「いや冗談。真面目な話、有事に備えるのが教導隊では最重要の業務やし。いざ予言通りの盤面になったとして、エースオブエースが他事で忙しかったです、はちょっと洒落にならんと思うんよ」
「う……それはそうだけど」
航空戦技教導隊は平時、エースの腕を鈍らせないための部隊ともいわれる。
逆にいえば有事の切り札とは普段からは動かしがたいものだ。
なのは自身の前線で飛び続けたいという希望とは少しずれていて、高すぎる資質はそれを許してはくれないのかも知れない。
「いざという時になったら、飛んで助けに来てくれる……そういう希望になるのが、なのはの役割だよ」
気取った様子もなく、そんな事をフェイトに言われて。
「……了解。有事に備え、平時の任務を全うします!」
なのはは照れ隠しに敬礼すると、すべきことを宣言するのだった。
地味に調べる事が多い会話パート。ちょっとForceで成長した描写が見られるところは結構、好きだったりします。
挿絵、はやてちゃん。ホテル・アグスタの時の衣装。髪型も服装も変わってるので誰か分かるよう、あえて十字イヤリングを髪止め変え。
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