魔法戦記の戦記もの【リリカルなのは】   作:ヤドリ

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グレンデル一家2

 粒子の刃が迸り、弧を描いて襲い掛かる。

 

 実際、マケランはグレンデル一家の少女に押されているようだ。

 地力で劣ると思わないが、装備も十全でない今、管理局の強力な魔導師以上に魔力分断の影響を受けてしまう。

 

「ハッ!」

 

 一方、カートも攻勢に出るつもりらしい。

 銃剣を掲げて、真上に魔力弾。一見して、無意味な行動に見えたがブラウは即座に射手への合図だと見抜いていた。

 

 高台から質量弾、付近からは魔力弾による二方向の乱射がブラウに浴びせられた。

 未だ、ブラウは無傷。しかし、張り巡らせた防御が一つ、また一つと潰されていくのを座視している訳にもいかない。

 

「狙撃手と組んで、手数で突破する気か?」

「バレたか? だが、数はどうしようもねェだろ! お前の防御はストックに限界があるタイプみてェだからな!」

 

 カートの分析は正しかった。

 ブラウの防御陣は、不可視かつ無数の糸を展開する形式だ。糸が断ち切られれば、その分だけ防御が薄くなる。

 

「ああ、同感だ。寡を以って衆を撃つは悪手だからな」

 

 ブラウは片手に魔法陣を展開、知識があれば召喚魔法の類だと読めただろうが。

 どちらにせよ、カートに見逃す理由はなかった。

 

「させるかよ! 分断(ディバイド)!」

 

 魔法には、魔力の集結、発露という段階が存在する。

 発露してからも完全に物理現象と同質という訳でもなく、集結した魔力を何らかの力で断ち切ってしまえば、魔法現象は無に還ってしまう。

 それがEC感染者が得意とする分断の仕組みだった。

 

 カートは強引に踏み込み、銃剣を一閃させれば魔法陣が破壊される。

 逆転の一手を潰された形となるが、ブラウは澄まして手先で指揮棒を一転させた。

 

「はい王手(チェック)、躱せるか?」

「なに……って、ぐおぁ?!」

 

 魔法は囮だった。

 

 完全に廃屋の屋根を破壊して、不可視の大質量が上部からカートを圧し潰していた。

 一瞬だけ光学迷彩が剥げて、巨大で鋭い虫の足のような形が瞬いた。

 

 強烈な一撃と共に激しい揺れは、もう一つの戦いにも影響を及ぼしていた。

 マケランは敵の一瞬の隙と動揺を見抜いて、召喚魔法を行使する。

 

「生命なき鎧よ――」

 

 瞬時に、全身を覆うタイプの巨大な機械鎧がマケランの全身を覆っていた。

 カレドヴルフ社製、旧式のパワードスーツ。魔力駆動タイプで兵器搭載が可能。

 

 分類上は魔導兵器で本来なら、EC感染者による分断が通るはずだが。

 

「ちっ……左腕関節、骨盤、顎部!」

 

 金髪の少女が鋭く宣言し、強化鎧に対して刃を突き立てた。

 しかし、その連撃も純粋な強度によって金属音と共に弾かれていた。

 

「喧嘩慣れしていますね。それに視界フィルターも使えている」

 

 実際、関節や接合部、それに顎を撃って脳震盪狙い、全身鎧への狙い所は良い。

 感染者特有の視界フィルターの影響か、一撃一撃が正確に放たれていた。

 

「しかし、せいぜいその程度だ」

「……分断、できない!?」

 

 魔力に近い何か。一瞬だけ違和感を覚えつつも、思考は許されない。

 機械鎧のアシストによって強化された殴打が唸りをあげて、金髪の少女に叩きつけられた。ディバイダーで防御するも、身体負担は低くない。

 たった一撃に吹き飛ばされ、形勢は逆転したかのように見えた。

 

「おまえ……」

 

 だが、彼女は一家の切り込み隊長。一家の誇りにかけて、怯む事はなかった。

 

「さては、下に見てるな!」

「ん?」

 

 マケランは吠えられて意外に思った。

 彼女は無表情、一見して感情が乏しいように見えるが実際は逆。その声はかなり感情的で、激情家らしい怒気が込められていた。

 

「そうそう下に見るなよ。一発目の出力次第で重傷だったからな、お前」

「あなたはどっちの味方なんですか……」

 

 ブラウが便乗して、マケランが呆れて応じると、完全に爆発した。

 

「馬鹿にするなっ! あと、うちのヘッドを離せ! ――リアクト・オン!」

 

 金髪の少女は宣言すると、ディバイダ―を自らの腕に走らせ傷つけた。

 単なる自傷ではない。リアクター内蔵型のディバイダ―は血液による認証によって連結され、その形状を完全に変化させる。

 

「一家の特攻、クイン・ガーランド! これから、お前らを……全殺すッ!」

 

――ディバイダーVG4 リアクテッド グラディオン

 

 そのノコギリ状の刀身上から、さらにエネルギー刃がモーターソーの如く回転。

 今までよりも、さらに強く獲物を求めて、その破壊力を発露させていた。

 

「カッカッ! うちの切り込み隊長もギアを上げたようだし、こっちも第二ラウンドと行こうじゃねえか。おら――」

 

 カートもまた愉しげに笑うと、自らを押さえつける兵器の足をミシリと抉る勢いで掴んだ。そのまま激しく揺らしながら、ゆっくりと力を込め……

 

「よっと!」

 

 凄まじい怪力で、一瞬だけ兵器の足を持ち上げ離脱。

 地面を転がる形で移動すると、素早く跳ね起きて、銃剣で斬りかかる。

 

 この場合、恐いのは実体の刀身よりも、そこから伸びる粒子刃だ。

 ブラウもまた指揮棒を翻して、粒子刃を発生。刃が衝突し、閃光が瞬いた。

 

「大した身体能力だ」

「ケッ、てめぇも感染者か。それなら、こいつはどうだ!?」

 

 カートはさらに追撃。銃剣の形状を活かして、魔力弾の乱射と粒子刃による連撃を放っていた。その手数は決して、侮れなかったが。

 空中に無数の線を引くように、ブラウは粒子刃を複雑に変形させていた。

 カートの猛攻を全て、真っ向から防ぎ切る。

 

「これも無傷かよ。澄ました顔で喧嘩慣れしてやがる」

「堅気じゃないからな。最後にものを言うのは暴力だろう」

 

 戦況は硬直――というより、互いにリーダーかつ手札を晒すことを嫌っている、というのがブラウの見立てだ。

 感染者特有の特殊能力、それに後衛の狙撃手に、もしかすればあと一人ぐらいは退路の確保に回しているのかもしれない。

 

 それらをフル投入すれば、まだ状況は動くかも知れないが採算が合わない。

 この戦闘の本質は格付けであって、殺し合いではないのだ。

 

「もう手札は見せてくれないらしいな。それなら、こちらから一手――」

 

 ブラウが虚空で紋様を描けば、不可視の機動兵器を隠していた光学迷彩が解除される。

 

AD-12(エージェント・ドローン)、ハングドマン」

 

 吊るされた男、という名に反して姿を表したのは金属製のクモ型ドローンだった。

 かなりの大型で糸状の防御膜を張り巡らせていたのも、このハングドマンの機能だ。

 

 何より、特筆すべき機能は――ブラウが指揮棒を突き出すのと、完全に同時に脚の一つが動きカートに強烈な一撃を加えていた。

 

 質量の暴力に曝され、カートは派手に吹き飛び、その胴体からは歪な音がした。

 もっとも感染者ならまだまだ軽傷だが。

 

「ドローンとの同期か!?」

「量子脳制御、魔導と最新技術の併用はうちのお家芸でね」

 

 カートの危機に反応したか、高台からの援護射撃がハングドマンに集中する、

 しかし、その装甲に加えて、糸状の防御を再展開。質量弾はその表面に火花を散らしただけで有効打とはならない。

 

 ハングドマンは大質量で追撃を行い、カートを圧倒していた。

 エクリプスウィルスは感染者の肉体を兵器化し、魔力を分断する力を与える。

 しかし、合法性を別とすれば、人体ベースの制約から解き放たれた機動兵器は極めて有効な解となる。

 

「こちらは非魔導兵器の専門家、EC感染者の優位性は半減だ。現に――あちらはさっさと決着がついたようだ」

 

 クイン・ガーランド、グレンデル一家の特攻。

 リアクトにより粒子剣の威力は飛躍的に上昇していた。

 しかし、マケランの機械鎧の強度は高く、奇妙な事に魔力の分断さえも通用しない。

 

 彼女はすでに襟首を掴まれ、瘴気にも似た黒い力がその精気を奪い取っていた。

 

「クイン!」

「手荒に扱うなよ。せっかくの協力者だ」

「感染者に手加減は難しいですよ」

 

 ブラウに窘められ、マケランはクインの襟首から手を離した。

 瘴気から解き放たれ、床に崩れ落ちる。意識はないが無事に呼吸はしている。

 

 これで前衛に限れば、二対一。状況の悪化を察したカートの判断は早かった。

 

「チッ!」

「退くか。判断はいいが」

 

 カートは飛び退いて、崩れ落ちた廃屋の壁から離脱を試みていた。

 いわゆるビジネスライクな関係ではなく、身内のように見えたが仲間を見捨てる事に躊躇がない。あるいは召喚魔法のような回収手段でもあるのか。

 

 だが、仕切り直しを許すほどブラウも甘くはない。

 指揮棒から粒子刃を伸ばし、カートに向けて高速斬撃を放っていた。

 

「させるかよッ!」

 

 カートもまた同じく銃剣から粒子斬撃を放ち、迎え撃つ。

 その狙いは成功し、ブラウ側の粒子攻撃を的確に逸らしていた。しかし――

 

 ハングドマンが張り巡らした糸に弾かれ、跳弾の如く粒子の刃が不規則に舞った。

 ブラウが無造作に指揮棒を振れば、クモ型ドローンが糸を調整、粒子の刃が軌道を変えてカートの左脚を引き裂き、鮮血を散らせていた。

 

 もちろん、EC感染者なら戦闘続行は可能。しかし、大勢は決した。

 倒れて動きの止まったカートに、ブラウは指揮棒を突き付ける。

 

「さて、腕試しなら、そろそろお開きでいいだろう。俺はヴァンデインと違って脅しだけで従わせる程、ケチじゃない。報酬は弾むつもりだ」

「……うちに金がないと言っていたの、まさか忘れていないでしょうね?」

 

 気前の良い話を持ち掛けるブラウを、マケランは機械鎧の内側から睨んでいた。

 カートはその二人を睨みつけ、しかし肩を抜いていた。

 

「俺も一家にアホアホ言われるが……てめぇは嫌な奴だな」

「……どうしてそう言われるのか、よく分からないんだよな」

 




分断があまり怖くないという相性勝ち。
でも、一般局員が交戦していたら普通に地獄だったと思われる。
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