ここは雄英高校サポート科開発工房。
サポート科の生徒が様々なサポートアイテムを開発する場所である。
「フフフフフフ…なんてことでしょう…!すごく困りました…!」
その工房で一人の少女が悩んでいる。
「何も思い浮かびません!」
「静かにしろ…しかし見事にスランプだな…俺にはどうすることもできんな。」
掘削ヒーローパワーローダーもお手上げのようだ。
「あれだけの開発してきた発目がこうなるとは…」
「どうしましょう!このままではドッ可愛いベイビーを企業に見てもらえません!」
異常にピロピロ震える発目にパワーローダーは声をかける。
「…発目、スマホなってるぞ?」
パワーローダーに指摘され発目は電話にでる。
「もしもし!どなたでしょうか!助けてください!何も思い浮かばないんです!」
「お前は本当に自分本位だな…」
工房の扉が勢いよく開く。
「発目ちゃん!?スランプなの!?」
発目がスランプだと聞いて慌てて駆け付けたのは西村英堵であった。
「はい!全く!何も!これっぽっちも思い浮かびません!」
発目は自信満々に答える。
「自信満々に答えるな。…非常に勝手で申し訳ないが…」
「それじゃあさ、発目ちゃん、気分転換しない?
俺、発目ちゃんとデートしたかったんだ。」
「…は?」
英堵の突拍子もない言葉にパワーローダーは言葉を失う。
英堵は説明する。
「きっと発目ちゃんはこの学校に来てほとんどを工房で過ごしたと思うんです。
今の発明ちゃんには新しい刺激が必要なんです。だからデートに行くんです。」
「なるほど…発目、行ってこい。」
「分かりました!いつ行きましょうか!」
「明日休みだから行こう!」
「どこ行きましょうか!」
「不死級ハイランド!」
「何時集合でしょうか!」
「9時ちょうど!開園から閉園までデートしよう!」
「そうしましょう!」
こうして発目のスランプを治すデートが始まったのである。
「やっべ…早く来過ぎた…」
シンプルな黒いジャージに大きめの黒いリュックを背負った英堵は
緊張のあまり30分早く到着してしまった。
「おや、西村さん!随分お早い到着ですね!西村さんの時計もずれていましたか!」
ゴーグル、グローブ、作業服、顔に若干の汚れ…
これからデートするとは思えない姿の発目が横から英堵の顔をのぞき込む。
「おわあ!?発目ちゃん!?びっくりしたなーもう…急に天使が来たのかと思ったよ…」
「西村さん!早く私のスランプを治してください!」
「その前に…あったあった。」
英堵はリュックからウェットティッシュを取り出す。
「おや!それで治すのですか!」
「そうじゃなくて…目を閉じて動かないでね…」
「んぐぐ!な、何でしょうか!」
「ほら、見てみて!キレイになったでしょ!」
英堵は手鏡を取り出し汚れが落ち、綺麗になった発明の顔を映す。
「せっかくのデートだからキレイにしなきゃ。」
なぜそんなことをしたのか全く分からない発明は少し不機嫌そうに言葉を返す。
「そんな暇があったら私のスランプを治してください!」
「まあまあ、そろそろ開園時間になるから。フリーパスで遊びまくるぞ!」
「本当に私のスランプ、治せるんですよね!?」
それから二人は、いや、英堵はアトラクションを楽しんだ。
121度で落ちるジェットコースター、滅茶苦茶回転するジェットコースター
高度50mを超える回転ブランコ、52mから落下する塔、
赤い館から脱出する攻略アトラクション…
しかし、どのアトラクションでも発目の表情は晴れなかった。
「いやー…死ぬかと思った…この間の巨大化する敵よりも怖かった…」
「いい加減にしてください西村さん!なんであなたは楽しんでいるんですか!?
私はスランプで困っているんですよ!?」
英堵の意図が理解できない発目はついに英堵に怒鳴りつける。
「…楽しくなかったの?」
「はい!全く!何も!これっぽっちも楽しくありません!」
「おっかしいなあ…これで治るはずなんだけどなあ…」
英堵は不思議そうに頭を掻く。
「…よし、それじゃあおまじないを教えてあげよう。」
「そんな非科学的なことで治るんですか!?」
「発明ちゃん、1+1は?」
「馬鹿にしてるんですか!?」
「1+1は…にっ。にっと笑えばどんな時も楽しくなるよ。」
歯を見せにっと笑う英堵をみて発目の堪忍袋の緒が切れた。
「あー!!もう!!何なんですか!?西村さんに期待した私が馬鹿でした!!!」
発明は当てもなく走り出した。
人気の少ないところまで走った発目は息を切らし立ち止まる。
「はあ、はあ…
こんな無駄な時間を過ごすぐらいなら工房で考えていたほうが…きゃっ!」
「痛えなあ…あ?なんだこのガキ…?」
何かにぶつかり倒れた発目の前にいたのは銀色の半魚人のような男だった。
「ご、ごめんなさい!考えごとを…ひっ!?」
男は発目の胸ぐらをつかみ片手で持ち上げる。
「むかつくなあ…殺すぞ?」
「…っ!…!」
発目は恐怖で声が出なくなる。男は大きく口を開ける。
「その子から手を放せ!」
何者かが叫び声ともに飛び出し、半魚人のような男を殴り飛ばす。
「誰だあ…殺す…ぞ…?」
「に、西村…さん…」
発目の危機を救ったのは英堵だった。
その拳は血が滲まんとするほどに強く握られていた。
「それ以上その子に近づいてみろ!俺はお前をぶちのめす!」
「…はっはっは!どのアトラクションよりも楽しかったぜ!…満足したから帰るわ。」
半魚人の男は二人に何かするそぶりもなく去っていった。
「…発目ちゃん?」
「いえ…その…大丈夫…」
英堵は発目を優しく抱きしめる。
「大丈夫なわけないでしょ。とっても怖かったはずだよ。
でも、もう大丈夫。だって…『俺が来た』から。」
発目は英堵の腕の中で震える。
「うわあああん!!!にしむらさん!!!とってもこわかったです!!!
もうにどとかいはつできなくなるっておもいました!!!しんじゃうっておもいました!!!」
大声を上げ、大粒の涙を流す発目を英堵は優しく撫でる。
「こんな時でも開発のことを考えるなんて…発目ちゃんは発目ちゃんだね。」
落ち着くまで泣いた発目は普段からは想像できないほどしおらしくなっていた。
「そ、その…西村さん…先ほどは…」
「おっと、もうこんな時間か!発目ちゃん!こっちこっち!」
「え…いや…先ほどのことを…」
英堵はあたふたする発目を引っ張りながら走る。
「すみません!まだ乗れますか!?」
「おやおや…もちろん乗れます、いや、乗せますよ。」
「よかった…それじゃあ、発目ちゃん乗ろうか。」
「え…あ…その…」
二人を乗せたゴンドラが上昇していく。
「いやー…夕日がきれいだねえ。まあ、発目ちゃんには劣るけどね。」
「…西村さんはこの夕日を私に見せたくてここに来たんですか?」
「いや、違う…ねえ、発目ちゃん。発目ちゃんの正義って何?」
「私の正義…?ご、ごめんなさい…よくわからないです…」
「…発目ちゃん。下にいる人たちの顔を見てみて。」
「え…?は、はい…」
発目は個性『ズーム』を使って下にいる人たちの顔を見る。
楽しそうに笑う学生、楽しそうに笑うカップル、楽しそうに笑う家族…
「みんな楽しそうな顔をしているよね。」
「…西村さんにも見えるんですか?」
「見えないけど…分かるよ。
だって、遊園地は『楽しく笑ってもらうため』に作られたんだから。」
「楽しく笑ってもらう…ため…」
「この遊園地を作った人はきっとそういう思いで作ったと思うよ。
…金儲けのためもあるかもしれないけど、根底にあるのはそれだよ。」
「はあ…」
「それじゃあさ、発目ちゃんは何のためにベイビーたちを作ってたの?」
「それは…企業に見てもらうため…」
「…本当にそうかな?それじゃあ、発目ちゃんは企業に認められたらもう開発しないの?」
「ち、違います…!企業に認められてもベイビーを作ります…!
私の…私の正義は!『私のベイビーで誰かを助けること』です!」
「…正義は絶対勝つ。諦めない限りね。…1+1は?」
「…にっ!です!フフフフフフ!」
いつもの発目に戻ったようだ。
突如発目が頭を抱える。
「うおおお!?あ、アイディアが!アイディアが流れてきます!早く下ろしてください!」
「いやいや、観覧車だから!?早くできないよ!?メモ帳なら持ってきてるから…!」
「は、はやく!早くベイビーを作りたいんです!」
「男女二人きりの密室でその発言はよくないよ!?ほ、ほら、メモ帳…」
「うおおお!それを私に!いや!じれったいから奪います!」
「うわあ!?発目ちゃんあぶな…」
英堵のメモ帳めがけて発目が飛び掛かる。
英堵は飛び掛かってきた発目を受け止めきれず倒れる。
互いの顔と顔が近づく。避けれない。
ちゅっ、と何かと何かが触れ合う柔らかな音がした。
二人はぎこちなく座り直す。
「あの…メモ帳…」
「いえ…大丈夫です…アイディアが飛んでしまいましたから…」
「…明ちゃん…」
「…何でしょうか、英堵さん…」
「や、休み明けたらサポートアイテムの開発依頼してぃえもいい…?」
「も、もちろんです!英堵さんのためなら何でも作りましゅよ!」
二人の顔は沈む夕日よりも赤くなっていた。
戦え、西村英堵。超えろ、西村英堵。
Episode13
「二人一組でここにいる教師一人と戦闘を行ってもらう!」
「ここで勝ってミッドナイトとミッドナイトを共に…!」
「ヒーローグレープジュース、本名峰田実!」
「「行くぜ!新必殺!」」
次回、プラクティス・イグザム 君のハートにターゲットロック!
はい。発目ちゃんはこんな子じゃないという意見は甘んじて受け入れます。
でも私の中の発目ちゃんはスランプになったらこうなるんだ!
で、いい雰囲気になったらこうなるんだ!