「「新必殺!『脱兎逃走』!逃げろ!」」
二人はミッドナイトに背を向けて走りだした。
「…あら?」
意表を突かれ、ミッドナイトは言葉を失う。
「ミッドナイト先生の個性はやばい!近接戦を仕掛けたら絶対負ける!」
「つーか、入り口に居座られるだけでもやばい!
オイラのもぎもぎで固定しちまったらその場所次第で詰みだ!」
一見、勝負を捨てたように見える逃走であったが驚くほど合理的であった。
「…案外がっつかないのね。焦らすのもテクニックの一つよ。
さあ、私を楽しませて頂戴!」
ここはリカバリーガール出張保健所。
演習試験が終わった者は必要に応じてここで治癒を受ける。
「なんで峰田君と西村君がチームになったんだろう…
確かに西村君の個性『緊急変身』はモードによっていろいろな性能がある。
だからどんな個性と組んでもそれなりの連携は取れるはず。
峰田君の個性『もぎもぎ』だってかなり強力な個性だ。殺傷力がなくて拘束力が高い。
もぎもぎの性能を理解出来たら強力な連携だって…」
「『仲がいい』ことと『連携が取れる』ことに因果関係はない。」
「…え?」
ブツブツいう緑谷にリカバリーガールが答えを出す。
「…彼らは職場体験で一緒に活動していたね。
ちょっと激しすぎるところもあるけど…学校でもいいコミュニケーションをしている。」
「でしたら問題ないのでは…?」
「チームで大切なのは『互いの思い通りに動くこと』じゃなくて、
『力を合わせて困難を超えること』なんだよ。あんたたちみたいにね。」
「なるほど…」
緑谷は英堵と峰田の戦いを目に移す。
建物内で英堵と峰田は会話している。
「峰田、戦いにおいて重要なのは…情報だ。」
「どうした急に?そりゃそうだけどよ…」
「正直俺はミッドナイト先生の情報があんまりない。峰田ならなんか知ってないか?」
「そりゃあ、めっちゃ知ってるぜ?身長、体重、年齢、スリーサイズ…」
役に立たなそうな峰田の情報を英堵は聞き流すことにした。
「…とりあえずミッドナイト先生を見てみるか!緊急変身、3Sモードオン!」
英堵は腰につけていたゴーグルを装着する。
そのゴーグルは発目がいつも着用しているものそっくりだった。
「明ちゃんベイビー第765子『スペシャルサーチスコープ』
縮めて…『3Sスコープ』だ。」
「それだとSの数が足りなくねえか?スペシャル、サーチ、スコープで3Sだぞ?」
「それは…サーモグラフィ、ソナー…セキガイセンの3Sということで…」
「赤外線はインフレッド(infrared)じゃなかったか?」
3Sスコープそれは
「ということで3Sスコープのついてご説明します!
ゴーグルを正面から見て右側、着用した際には左側になりますね!
三色のボタンがあります!これでモードを切り替えられます!
一番上の赤色のボタンは赤外線カメラ!赤外線だから赤色!分かりやすいですね!
続いて真ん中の黄色のボタンは熱感知!
暖色系で赤色は使ってしまったから黄色!分かりやすいですね!
一番下の青色のボタンはソナー!赤、黄ときたら青ですよね!
ズーム機能もあります!ゴーグルを正面から見て左側、着用した際には右側になりますね!そこにあるダイアルで倍率を変えられます!
1から10倍、都合に合わせた倍率でお使いください!
倍率によっては私の個性を体験できます!
説明は以上になります!
何かご不明な点がありましたら1年サポート科、発目明にご連絡ください!」
…ありがたい説明だが、私の仕事が一つ減った気がする…
「今使えるのはズーム機能だな…」
英堵は右のダイアルをカチカチ鳴らしながらミッドナイトを見る。
「…手を振ってるな。この拮抗状態をどうするか…」
「ここから見れるのか!?オイラにも見せてくれよ!」
「ん?ああ、どうぞ。」
峰田は英堵から3Sスコープをもらい覗くや否や大騒ぎする。
「お前お前お前!最高じゃねーかよ!うひょー!」
「あのなあ…」
「でも、ミッドナイトも老けたなあ…目元の小じわが増えてるぜ。」
「…おい、失礼だぞ?」
英堵が釘をさす。
「写真に比べておっぱいも垂れ下がってきてる…ヒーロー業務激務なんだなあ…」
「…ハイブリッドマグナム…」
峰田の後頭部に指先を向ける。
「こりゃあMt.レディーに鞍替えするかあ…」
「…!今なんて言った!?」
チャージしたエネルギー弾の発射を止める。
「え?Mt.レディーに鞍替え…」
「それだ!いい作戦が思いついた!」
英堵は峰田の珍発言からグリーンモードにならなくとも名案を思い浮かべたのだ。
「…あら。やっと来たわね。女性を待たせるのはよくないわよ?」
「待ちすぎて婚期のがしそうな人がよく言うぜ。」
「…は?」
峰田の口からとんでもない発言が飛び出す。
「そうだそうだ!小じわも増えておっぱいも垂れて!ヒーローである前に女であれよ!」
続いて英堵もとんでもないことを言う。
流石のミッドナイトも動揺するが平然を装う。
「な、なにを根拠にそんなことを…」
「このスコープのズーム機能でばっちりよ。
…おい峰田、タイツ越しにムダ毛が見えるぜ!」
「うーわマジで!?ミッドナイトも落ちたなあ…そういや太ったようにも見えるなあ?」
「18禁ヒーローもここまでか…そうだ!
あんなおばさんからMt.レディーに鞍替えしようぜ!」
「そうだな!若くてかわいいし!おばさんなんかポイだ!ポイ!」
「「お・ば・さ・ん!お・ば・さ・ん!!お・ば・さ・ん!!!」」
二人から幼稚なおばさんコールが響く。
「あんたたちいいい!!!言って良いことと悪いことがあるでしょうがあああ!!!」
タイツを破き、爆豪のような形相でミッドナイトが迫る。眠り香も全開だ。
「「おばさんが怒ったー!逃げろ逃げろー!」」
ミッドナイトから逃げるように二人は走り出す。
「これでもくらいなおばさん!ハイブリッドマグナムー!ドーン!」
「くらうものですかあああ!!!」
鞭でエネルギー弾を対処する。
「これならどうだー!グレープラッシュー!」
「こんなものおおお!!!」
鞭でグレープラッシュを対処してしまった。
「はっ!?」
峰田のもぎもぎがミッドナイトの手と鞭を、鞭と地面をつないだ。
それを確認した英堵と峰田は立ち止まり、ミッドナイトの方を向く。
「…ひどいこと言ってすみませんでしたミッドナイト先生。」
「えっ?」
ミッドナイトはきょとんとした顔をする。
「なあ英堵…!オイラ心が痛えよ…!オイラミッドナイトの大ファンなんだぜ…!
いくら勝つためっつっても、ミッドナイトにひどいこと言っちまうなんてよ…!」
「な、何…どうしちゃったのよ急に…」
急に変わった二人の態度にミッドナイトは混乱する。
「俺たちはミッドナイト先生を心から尊敬しています。
18禁ヒーローなんて言われていますけど…
その美しさを保ちながらヒーローと教師を両立させる…
どれだけの努力をしてきたのか想像もつきません。
そんな努力の賜物である体をウソとは言え貶し、罵倒したことを謝ります。」
「「本当に申し訳ありませんでした。」」
英堵と峰田は深く頭を下げる。
その様子を見てミッドナイトは笑いだす。
「アッハッハッハ!何言ってんのよ!本気で怒るわけないじゃない!
生徒たちが心を痛めて演技をしたから私も本気の演技をしただけよ!
ヒーローたるもの罵声の一つや二つで簡単に怒ったりしないわ!ほら、早く行きなさい!
時間切れになったらあなた達が心を痛めた意味がなくなっちゃうわ?」
「「…!はい、それじゃあ、失礼しました!!!」」
ミッドナイトは息を止めながら走っていく二人を見送る。
「…そうよね。生徒が先生に向かってあんなことを本気で言うわけないじゃない。
本気になって受け止めた自分が情けないわ…あの二人ほんとに鞍替えしないわよね?」
「リカバリーガール…あれってほんとにいい連携なんですか…?」
緑谷は苦虫を食い潰し飲み込んだような顔で聞く。
「手段や見た目はともかく…
互いの持てる力を合わせて困難を突破したんだ。
褒められても馬鹿にされる筋合いはどこにもないさ。」
こうして演習試験が終わった。
果たして結果はどうなるのか。
戦え、西村英堵。超えろ、西村英堵。
Episode15
「ほう、我ーズブートキャプに着いてきているとはな…」
「俺は…宇宙一のヒーローになりますから…!」
「飯食ってないだろ?うまいぜ?」
「だって…俺と君は似ているからさ。」
次回、ビコーズ・ビー 君のハートにターゲットロック!
全国のミッドナイトファンの皆さん本当に申しわけありませんでした。
でも、英堵と峰田で勝つならこういうくだらない戦法しかなかったんです。
原作の番外編でもMt.レディーとミッドナイトは対談で争っていたから
引き合いに出されたら流石に無反応は無理だと思ったんです。
ちなみに次回はシリアス回(予定)です。