ある日のことである。
英堵の家で美洲華、トガちゃん、来牙、香山の四人が話している。
「なあ、兄弟子…俺達に外出許可とか下りないのか?」
「美洲華くん、流石にそれは図々しいと思うのです。」
「トガちゃんの言うとおりだ。そもそもこの家にいられることが奇跡なんだぞ?」
「うーん…でも、芽楼ちゃんのことを考えてのことじゃないかしら?」
「うー。」
芽楼ちゃんのために色々と勉強をし、かなり丸くなった美洲華とトガちゃんだが
凶悪犯であることに変わりはない。現在も英堵の家にいることは極秘で
月に1度、オールマイトが特別な車で外の景色を眺めさせるぐらいしか許されていない。
「いずれ芽楼ちゃんも大きくなって外に出る…
その時に俺たちのことを説明したら色々大変じゃないか?」
「芽楼ちゃんのパパとママは誰、なんて質問は間違いなく来そうです。」
「その時に両親は極秘で監視している凶悪犯ですなんて言ったら…
芽楼ちゃんが可哀そうよ。」
「それは…確かにそうなんだが…だが…しかし…ウーム…」
来牙は唸りながら悩む。
二人の罪は決して消えない。
簡単に償えるものでも、まして許されるものでもない。
しかし、その二人の間に生まれた芽楼ちゃんにそのことは関係ない。
むしろ、関わらせてはいけないことである。
親の因果が子に報う、など理不尽でしかない。
そうだとしても、人間は理不尽な生き物である。
間違いなく芽楼ちゃんに何か起こる。
「…ここで考えていても仕方ない。明日、上司に相談してみる。」
「いい報告待ってるぜ、兄弟子。」
「できればオムツも買ってきてほしいです。」
「トガちゃん、来牙さんは買い物に行くわけじゃないのよ?…でも買ってきてあげてほしいわ。」
「…分かった。このメーカーのMサイズだな…」
こうして来牙は重大なミッションを二つ抱え出かけることになった。
来牙は警察の上司の下にたどり着く。
「おはようございます。『彫巣 沼尾(ホルス ヌマオ)』『警視総監』。」
仰々しい椅子の上には神々しい鳥のような人物が座ってる。
「…弩木井…私と話をするということは…分かっているな?」
その一声で場の空気が締まる。まるで首輪をつけられたと錯覚するほどである。
「…こちらを…」
その来牙の手には…明太味の駄菓子が握られていた。
「ありがと来牙君!いやー!これだよコレコレ!いただきまーす!」
彫巣はにぱっと笑いおいしそうに駄菓子を貪る。
「嫌なんだよ…品位とか見た目とか正装とか…
僕がジャージで働いてもいいように法律変えてもらえないかな…」
「…冗談ですよね、総監…?」
「『ぬまっち』でいいよ、来牙君。君のポリシーだろ?」
彫巣はオンとオフの差が激しい人間なのである。
来牙は少し困ったような顔をしながら彫巣に相談する。
「例の二人の件ですが…」
「あー。ビス君とトガちゃん?芽楼ちゃんかわいかったね…秘書にほしい。」
「び、ビス…外出許可が欲しくて相談しに来ました。」
「芽楼ちゃんの為にほしいと。いい親子愛じゃないか。もちろん…」
「駄目に決まっているだろ。弩木井…司法を舐めすぎだ。」
再び空気が張り詰める。
「あの二人は凶悪犯…様々な人間が頭を下げてなんとか現在の状況だ。
それを子供のために外出させてください?
二人の被害にあった人にそう言えるか?それで納得してもらえるか?
当然、許可は下ろせない。次、舐めたことを抜かしたら…いいな?」
彫巣は来牙の首に人差し指を当てる。
「…確かにあの二人は凶悪犯です。簡単に外を歩いていい身分ではありません。」
それでも来牙は言葉を続ける。
「しかし…それで芽楼ちゃんは健全に育つでしょうか?
両親から離されて育ち、両親のこともろくに知らされず
いつか突然『君の両親は凶悪犯だ』と打ち明けられる…
それをきっかけに…芽楼ちゃんが犯罪者になってもおかしくありません。」
「弩木井…随分と都合のいい話をするな?」
彫巣の圧が強くなる。
「我々警察官が目指すべきは『犯罪者がいない』社会ではなく
『犯罪者が発生しない』社会です。そのためにも…二人の外出許可は必要です。」
来牙は彫巣の圧に屈さず言い切った。
「よし、第一テスト合格。ここで折れてたら二度と出さないつもりだったよ。」
彫巣はにぱっと笑い手を叩く。
「ただ…流石に無条件で出すのはマズい。社会が大混乱する。
いくつかの条件の下外出許可を出すとしよう。」
「最初からそのつもりです。どんな条件でも二人に納得させます。」
彫巣は条件を提示していく。
「一つ目。『北点美洲華』と『渡我被身子』の犯罪歴を公表する。
二つ目。『いかなる状況にあっても』『いかなる犯罪行為をしてはいけない』。
三つ目。『条件を破ったら』『両者ともに投獄』並びに『親権はく奪』。
この三つの条件で外出許可を出そう。…またあちこちに頭下げないとな…」
「彫巣総監…ありがとうございます…」
来牙は深々と頭を下げる。
「君のためじゃなくて芽楼ちゃんのためだ。そこは勘違いしないでくれ。
…あ、そうだ四つ目の条件があった。
…ただし、四つ目の条件はくれぐれも二人に言わないように。
二人の本性が見たいからね。」
来牙はオムツを抱え家に到着する。
そして二人に条件を説明し、外出許可が出たことを話す。
「…彫巣総監でもこれが限界らしい。すまなかった。」
「十分だ兄弟子。なんと言われようと俺はトガちゃんと芽楼ちゃんを守る。」
「美洲華くん…かっこいいです。芽楼ちゃん、おしりキレイキレイしましょうね。」
「トガちゃん、オムツ交換やらせてくれないかしら?練習したいのよ。」
前代未聞の事態の前とは思えないほどの穏やかさであった。
「あの二人…本当に出歩いてるわ…」
「いくら条件があるからって…不安だわ…」
「わー!かわいい赤ちゃん!なでなでさせて!」
「こら!ダメよ!こんな危ない人に近づいちゃいけません!」
美洲華とトガちゃんには非情な現実が待っていた。
「び、美洲華くん…」
トガちゃんは今にも泣きだしそうな顔で芽楼ちゃんを抱えている。
「大丈夫だ、トガちゃん。言わせておけ。…否定できないからな。」
美洲華はあきらめ気味にトガちゃんと芽楼ちゃんを守ろうとしている。
「おい、犯罪者さんたちよぉ?ちょっとこっちまで来てくれねぇかぁ?」
いかにも柄の悪そうな男たちが三人を囲む。
「無視して通っていってもいいけどよ…俺達にぶつかったら犯罪だぜ?」
「そしたらさあ…分かってるよな?ぎゃははは!」
男たちは下品に笑う。
「…ついていこう、トガちゃん。」
「美洲華くん!?こんな人たちについていったら危ないです!」
「…俺たちはこれを受け入れて…生きていかなきゃいけないんだ。
芽楼ちゃんのためにも…避けることができないんだ…」
「美洲華くん…何があっても一緒です、ついていきます。」
男たちは三人は路地裏に連れて行く。
「おらあ!この犯罪者風情が!出歩いてんじゃねえぞ!」
「これは犯罪者に対する制裁だ!俺達が正しいからな!」
路地裏では美洲華が男たちからひどい暴行を受けていた。
「ぐっ…!がっ…!かっ…!」
「美洲華くん!やめてください!美洲華くんが死んじゃいます!」
トガちゃんの叫びもむなしく美洲華への暴力は続く。
「犯罪者には何してもいいんだよ!特にお前らみたいな凶悪犯にはなあ!」
「…それしてもよお…奥さん美人だなあ?俺らにも貸してくれよ?」
「…!それは…やめろ…!俺だけでいいだろ…!」
芽楼ちゃんがトガちゃんの腕から奪われ、トガちゃんが壁に押さえつけられる。
「やだあ!芽楼ちゃんを返してください!」
「おぎゃあ!おぎゃあ!」
芽楼ちゃんが大声で泣きだす。
「お前達は『許されない』んだよ!まともに外を歩くことも!
まともに子供を育てることも!まともに生きていくこともなあ!」
「トガちゃんと芽楼ちゃんに手を出すな!」
「美洲華くんと芽楼ちゃんに手を出さないでください!」
その叫びはただ路地裏に響くだけだった。
「ロッド『シリウス』!」
その叫び声と共に男たちに警棒が振り下ろされる。
「いてえ!?何もんだてめえ!?」
「貴様たちのような外道に…名乗る名などない!」
「兄弟子…」
「来牙さん…」
そこには地獄の業火のような怒りを宿した来牙がいた。
「手前…!こうなったらこの子供…だけでも…」
芽楼ちゃんを抱えた男から力が抜けていく。
誰かがするりと芽楼ちゃんを取り戻す。
「…怖かったわね。芽楼ちゃん。ゆっくりおやすみなさい…」
抱きかかえられた芽楼ちゃんはすやすやと眠った。
「…子供を愛する親から子供を奪う…許せないわね…!」
ミッドナイトが芽楼ちゃんを抱えていた。
「手前ら…!むかつくぜ!やっちまえお前達!」
男たちが"個性"を使って襲い掛かる。
「『光速拳 ライトニングフィスト』!」
辺りに閃光が走り、いつの間にか男たちは倒されていた。
「これでも仮免なんでな…緊急時の"個性"使用は許可されている!」
エイドモードのヘロスが男たちを制圧した。
「大丈夫ですか、美洲華さん?『救済拳 エイドフィスト』…」
ヘロスの手によって美洲華が修復されていく。
「何で…皆がここにいるんだ…?」
「そうです…何も言ってないのに…」
二人の疑問に来牙が答える。
「彫巣総監が言っていた…四つ目の条件だ。」
「…あ、そうだ。四つ目の条件があった。
『最高の護衛を付ける事』。多分…彼らは悪い奴らに狙われる。
世の中には犯罪者に何をしてもいいっていう間違った奴らがいるからね。
そんな奴らから彼らを守れる人物に護衛を任せるといい。
…ただし、四つ目の条件はくれぐれも二人に言わないように。
二人の本性が見たいからね。」
「彫巣総監はお前達が本当に変わったか知りたかったんだ。
…子供に手を出されても何もしないというのは想定外だろうな。」
「流石にあんな状況になったらぐらい出してもいいのよ。
子供を守るのは親の義務なんだから。…でもよく我慢したわね。」
来牙とミッドナイトの激励に美洲華とトガちゃんは涙を流す。
「…ここまで子供のことを思える親とお前ら…どっちが犯罪者だろうな?」
ヘロスは男たちに問いかける。
「…そいつらは…犯罪者なんだぞ…!」
男達はズレた反論をする。
「『犯罪者には何してもいい』んだろ?だったら『助けて』もいいだろ。」
ヘロスは彼らに言い放った。
「あと…暴行、傷害、強姦未遂…お前達は立派な犯罪者だ。
『何をしても』いいよな?まさか自分たちは違うなんて言うなよ?」
男たちは怯え切った眼をしている。
「ひ、ヒーローが…そんなことをしていいのか…!?」
「まさか。『俺』の経歴にそんな汚名残せないね。
だから…そういうやつらの制裁は…『彼ら』に任せる。」
ヘロスは自身の背後を指さす。
「『へロスの護衛をライブ撮影していたら』…『たまたま事件が起きてしまった』…」
「これじゃあ、流石の私も『モザイク編集』を入れることはできないわね。」
ジェントルとラブラバがカメラを回していた。
「…まともに外を歩くことができなくなったのは…お前達の方だ。」
後日、美洲華とトガちゃんは芽楼ちゃんを抱えて街中を歩いていた。
「おう!お二人さん!元気にやってるかい!」
「あの時はごめんなさいね…私も怖くて…」
「いいんだ…俺が犯罪者なのは間違っていないからな。」
「わー!かわいい赤ちゃん!なでなでさせて!」
「こら!ごめんなさいね…うちの子が」
「いいですよ。私の芽楼ちゃん、かあいいですから。」
「きゃっきゃ。」
二人は街の名物夫婦となっていた。なぜ三人は受け入れられたのか?
それはGentleの怪傑浪漫チャンネルに投稿された
『許された家族』という動画を見れば明らかになるだろう。
Ex10
「これで美洲華さんとトガちゃんも胸を張れて立派なパパとママになるな。」
「うう…よかったです…!お二人とも幸せになってください…!」
「…英堵がこうなる日もいつか来るといいな。」
「その時が来たらオイラ…泣いて死んじまうかもしれねえ。」
「きっと来ますよ。私が"見る"までもありません。」
次回、ナイトアイ・ミーティング パート2 君のハートにターゲットロック!
今作において美洲華とトガちゃんはいくらでも幸せになってもいいものとします。
二人が仕打ちを受けるシーンはどうしても入れなければなりませんでした。
例えどれだけ変わろうと二人が犯罪者であることに変わりはありません。
故にそれなりの報いを受けなければならないと考えました。
そして報いを受けたので幸せになってもらいます。
彫巣沼尾の元ネタはデカレンジャーに登場するホルス星人ヌマ・Oです。