ヒーローと敵の第二次決戦の後、妙な事件が起きていた。
刀で切られたような傷があり、ほとんど血を抜かれた死体が各地で見つかった。
事件性はあったが、これと言った目撃情報もなく、進展がなかった。
でも未解決の事件なんていくらでもあるし、
ヒーローがいるから、いつかは解決するだろうと思っていた。
俺は雄英卒業後、ナイトアイ事務所に入ってミリオ先輩と一緒に活躍してた。
『宇宙一のコメディアンコンビ』なんて言われてたっけ。ともかくすごい活躍だったさ。
5年かけて、ビルドボードランキングの1位2位をミリオ先輩と俺で取った。
その日に俺は明ちゃんにプロポーズした。
「『宇宙一のヒーロー』として…一生をかけて、明ちゃんを守りたい。」
「No.2だったじゃないですか…でも…一生かけて守ってくださいね。」
初夜は激しかったよ。うん。なにせお互い責任取るって言ったからな。
それでも子供ができなかったのは…運が良かったのかもしれないな。
それから5年経ったクリスマスの夜、俺の目の前にある男が現れた。
「お前、西村英堵だな?」
サンタのコスプレをした北点美洲華だった。奴は突如俺に襲い掛かってきた。
もちろん"緊急変身"して対抗した。でも、奴は恐ろしいほど強かった。
なにせ…『光速拳』を身体能力だけで見切った。
そして、異形系ということもあって攻撃のほとんどは無効化できない。
俺はあっという間に追い詰められ、両手両足を斬られて動けなくなった。
「情けないなあ…『宇宙一のヒーロー』がこの様とはなあ…
…真利名、プレゼントの準備だ。」
「ええ、もちろんよ、パパ。」
奴の娘である真利名が…明ちゃんを連れてきたんだ。
「助けて!英堵さん!」
泣きながら叫んで助けを求める明ちゃんは…今でも夢に見る。
「まずは私からよ。プレゼントを受け取りなさい。」
真利名はそう言って明ちゃんの首元に噛みついた。
「ちうちう…若い子の血は最高ね…一番エネルギーになるわ…」
真利名が明ちゃんの血を吸い始めたんだ。
明ちゃんの体からどんどん力がなくなっていった。
「ひっ…あっ…ああ…」
叫ぶ力もなくなった明ちゃんに美洲華が近づいていった。
「メリークリスマス…坊主、プレゼントだ。受け取れ。」
美洲華が明ちゃんの首を撥ね飛ばしたんだ。
その首はゴロゴロと俺の目の前に転がってきた。
「アッハッハッハ!!!最高のクリスマスだなあ!!!」
「アッハッハッハ!!!最高のクリスマスね!!!」
高笑いしながら二人はどこかに行ったんだ。
その後のことはよく覚えていないが、3日経っていた。
明ちゃんの殺害事件が大々的に発表されていて、世間は大騒ぎだった。
「ヘロス…失ったものを考えるよりこれからのことを」
「今は何も言うなミリオ。…私が未来を"視る"べきだった、すまない…」
ミリオ先輩とナイトアイが俺の心配をしてくれたが…気が気じゃなかった。
退院した俺を待ち受けていたのはマスコミだった。
「あの現場にあなたがいたという話ですが!?」
「敵と戦い敗れたというのは本当ですか!?」
「被害者とあなたは婚約関係だったんですよね!?」
「『宇宙一のヒーロー』としてどうなんですか!?」
酷い言葉だったけど…その通りだった。
一生かけて守ると言った人を守れなかった。
俺はクズのヒーローだった。
だから、そいつらの前で宣言したんだ。
「俺は…ヒーローを辞める…」
それからの俺は美洲華への復讐に燃えていた。
自宅で体が壊れるような鍛錬に明け暮れていた。
来牙さんは心配していが、止めようとはしなかった。
「俺のせいでエイはこうなってしまった…俺に止める権利はない…」
俺が鍛錬に集中できるように、来牙さんは俺へのバッシングを止めていた。
だが、美洲華と真利名の策略は誰にも止められなかった。
奴らはヒーローを嘲笑うように人を殺し、
果ては凶悪犯の脱獄までやってのけた。
何時しかのようにヒーローへの不安が募って行った。
そんな中、警察でとある男が名乗りを上げた。
『鹿角九玉(かづのきゅうぎょく)』という男だった。
なんと、美洲華と真利名を自身の手で殺したという。
その証拠にと二人の死体を公表した。
誰が見ても間違いようのない二人の死体だった。
DNA鑑定でも99.99%一致していたから本人で間違いなかった。
「ヒーローが人を守る時代は終わった!
これからは我々警察が絶対的な秩序を以て、人を守る時代だ!」
凶悪な敵二人を仕留めた男の発言は絶対的なものだった。
鹿角は圧倒的な権力で『絶対秩序制度』を施工した。
簡単に言うと、不穏な動きをした者、制度に反対したものを処刑するというものだった。
見せしめに黒い騎士が警視総監の彫巣さんを殺し、大半の人間を黙らせた。
これに対し、ヒーロー達は歯向かった。鹿角は紛れもない敵だったから当然だ。
だが、奴を守る黒い騎士が強すぎた。
ありとあらゆる物を作り、ありとあらゆる事象を引き起こした。
もはや神のような存在を前に、多くのヒーローが散って行った。
残された俺と来牙さんは鹿角に従う以外の打開策を考えた。
来牙さんが『鹿角の実力で美洲華と真利名に勝てるのはおかしい』と言った。
言われてみれば、俺ですら勝てなかった相手だ。
ただの警察官が勝てるとは思えない。
しかし、死体は間違いなく本物だ。来牙さんも検査に立ち会った。
本人を殺さず、本人の死体を持ってくる。そんなことは不可能だ。
同じ世界に同じ人物が2人もいない限り。
「…平行世界…?確か、霊道の奴の研究テーマがそうだったな…」
来牙さんは過去に逮捕した人間に思い当たる節があった。
来牙さんの話はこうだった。
脱獄した凶悪犯の中に霊道武例羅というマッドサイエンティストがいた。
平行世界に関する研究をし、その観測に成功したとんでもない奴だった。
ただ、倫理観のなさから人体実験をし、来牙さんに捕まえられた。
もし脱獄したら、平行世界に関する機械を使って何かをしてもおかしくない。
とんでもない話だが、辻褄は合うし、何よりそれ以外の手掛かりがない。
俺と来牙さんはその線で調査を始めた。
すぐに手ごたえがあった。鹿角の手下が俺達を狙いに来た。
俺達は逃げながら、手がかりを探していった。
美洲華と真利名の事件が凶悪犯の脱獄以降起きていないことから、
その付近できっと何かあると考えた。
調査の結果、鹿角の手下が警備している山があった。
手下をぶちのめし、俺達はその機械を見つけた。
ただ、機械を起動させる燃料に人間が必要だった。
「エイ…お前が行くんだ。お前が平行世界に行って…助けを求めるんだ。」
俺は来牙さんの言葉に…甘えてしまった。
「…エイ。誰が何と言おうと…お前は『宇宙一のヒーロー』だ。」
その言葉を胸に、俺は平行世界へと旅立った。
平行世界はこうなっていますね。地獄かな?
ちなみに鹿角九玉の元ネタはビリヤードです。