英堵達から初めて事情を聞いた三人は頭を抱えていた。
「信じがたい話ですが…平行世界の西村さんが大変な目にあったのは分かりました。」
「しかし、これから24時間どうするつもりだ?長時間身を隠せる場所など」
「とりあえず公安で匿うのは確定ね。適当な事件の参考人ということにしましょ。」
公安という言葉を聞いて二人の英堵の顔が引きつる。
「え、マジ?お二人ってそういうことできる立場の人間なの?」
「事件の参考人…VIP待遇になるのは違いないだろう…」
英堵達を見て終がにやりと笑う。
「泣く子も黙って失禁する『レディコンビ』よ?」
「よく失禁するのはコイツだがな。月一ペースでしているぞ。」
よく分からないやりとりに創と八百万が説明する。
「お二人の"個性"があっても、終姉さんの"個性"の対策は難しいと思います。」
「そもそも、"個性"がなくとも…終さんの体術は常人のそれではありませんわ。」
「なるほど…って結局よくわからないじゃん…」
「論より証拠、百聞は一見に如かず…公安で見せてもらおうじゃないか。」
「えっと…私も同行するほうがよろしいでしょうか…?」
ナガンが運転する車に乗って、一同は公安へ向かう。
公安に到着し、一同は情報を整理していく。
「…ですのでナガンさん。この機械を預かっていてください。」
「平行世界を移動する機械です。厳重に秘匿して扱ってください。」
「簡単にとんでもないことを言うようになったな…終のせいだな。」
「平行世界の私はこうなってしまっているのですね…複雑ですわ…」
「二人の百様に攻めてもらうのは後にするとして…二人の英堵君の"個性"が見たいわ。」
「…今とんでもないことを言わなかったかこの女?」
「式抜け出してイチャつく女ですから、今更じゃないですか?」
終に連れられて二人の英堵は公安の訓練施設にたどり着く。
「じゃ、"個性"を使ってちょうだい。」
ドーナツを頬張りながら出された指示に、二人の英堵は困惑する。
「公安ってこんな感じなのか…?」
「この世界の公安だけだろ。とにかく…」
「「緊急変身、エイドモード!」」
二人の英堵が『エイド』スーツに身を包む。
「なるほど…あたしと同じように宣言して発動するタイプね…それから?」
終はフムフムと興味深そうに注目している。
「では、俺が披露しよう。エイドマグナム!」
平行世界のヘロスがエネルギー弾を連射する。
「遠距離攻撃もできると…でも、本気って感じじゃないわね?」
「当然だ。エイドライフルによる狙撃も」
「それは火伊那さんがいるからいいわ。
貴方にしかできないことをみせてちょうだい。」
ふてぶてしく言う、終に対し、平行世界のヘロスが逆立ちをする。
「…こうすると思考能力が上がるんだ。あと心が読める。」
「じゃああたしの考えていることをあてて」
「このドM女が。俺たちのできること次第で、自分を攻めてもらうつもりだろ?」
平行世界のヘロスの発言に本来のヘロスが驚く。
「何言ってるんだ俺!?そんな訳ないだ…ろ…」
(ああ…本当に読めてるのね…!ゾクゾクしちゃうわ…!
火伊那さんや百様には申し訳ないけど…たまには味変もいいわよね…!)
平行世界のヘロスの言っていたことはドンピシャで、
本来のヘロスは力なく崩れ落ちた。
「…俺が相手してやるから、こっちの俺には手を出さないでくれ。」
「もちろんよ!さあ、あたしを満足させて頂戴!」
「…俺、皆のとこに戻りますね。」
色々と諦めた本来のヘロスは変身を解き、皆の下へ戻って行った。
不可解なものを目の当たりにしたような顔をした英堵に、二人の八百万が質問する。
「まあ、西村さん…何があったのですか?」
「えっと…俺の方のヤオモモか。いや…平行世界の俺に押し付けたんだ。」
「押し付けた…?終さんが何か面倒なことでもしましたか?」
「今度は百姉さんの方か。あの人…いろいろ終わってる人だな…」
英堵の反応を見て、終の弟と嫁が何かを察する。
「西村さん…もしかして"個性"を披露しました?」
「ああ…俺の"個性"は色々できるからな…」
「まさか…『あたしを攻めてほしい』とか言っていたか!?」
「言ってはいませんでしたけど、思っていましたね…
それを読んでしまって…今、平行世界の俺が対応しています。」
その言葉に、終の嫁と義妹が怒りを爆発させる。
「あの馬鹿!見境がなさすぎるだろ!私がいながら!」
「あの雌豚!見境がなさすぎますわ!私がいながら!」
二人が勢いよく飛び出していく。
残った三人は、呆然とその光景を眺めていた。
「…すみません、僕の姉が…」
「…平行世界の私はあんな風になってしまっているのですね…」
「ナガンさんもあんなんになっちまうんだな…奇想天外、驚天動地。」
しばらくして、ズタボロにされながらも満面の笑みを浮かべる終がやってきた。
「は、創…あんたと百様は帰りなさい…二人の西村君と西村君の百様は…
公安に泊めておくことにするわ…明日になったらまたお願い」
「こら終!まだお仕置きは終わってないぞ!逃げるんじゃない!」
「この雌豚が!まだまだ躾が足りないようですわね!」
「久しぶりに滾っちまったよ!もっと付き合え!」
そして、怒れる三人衆に引っ張られていった。
「なんていうか…あそこまでストレートだと、逆に感心するよな。」
「…アレが私だなんて…信じたくありませんわ…」
「無理に受け入れなくて大丈夫です、平行世界の百姉さん…」
今度は簀巻きにされた終と共に、嫁と義妹と平行世界の英堵がやってきた。
「とりあえず…創はこちらの八百万と帰ってくれ。二人の西村は終の部屋に、
そちらの八百万は私の部屋に泊まってくれ。このバカは外で寝させる。」
「ああ…火伊那さんもついにSに目覚めてくれたのね…嬉しいわ…」
「男同士、女同士で寝た方が安全だろう。このバカは除いてな。」
「一度死んだほうがいいと思いますわ。できる限り苦しみながら。」
心底申し訳ないという顔をし、創が部屋を出ていく。
「それじゃあ…また明日会いましょう、西村さん達、平行世界の百姉さん。」
「お、おう…また明日色々話そうな、創…」
「お、お気を付けてください、創さん…」
「私はまだ収まっていませんわ!創さん!今晩は覚悟してください!」
創はすべてを受け入れた顔をして、恋人に引っ張られていく。
「…昔の俺と明ちゃんの関係を思い出すぜ。」
「…奇遇ですわね。私も思い出しました。」
「時間も時間だ。それぞれの部屋で過ごすとしよう。」
「西村達。お前達は一応女の部屋に泊まるんだ。変なことはしないようにしろ。」
「一応って…これでもミス公安には選ばれる美女なのよ…」
それは見た目だけだと思いつつ、一同はそれぞれの部屋に行く。
終の部屋で二人の英堵は語り合う。
「なんというか…二度とないだろうな。こんな事って。」
「あってほしくないな。それだけの非常事態が起きているということだからな。」
「それはそうっすね。ところで…平行世界の俺は事件を解決したらどうするんですか?」
本来の英堵の質問に平行世界の英堵は困ったように笑った。
「まあ…前向きなことは考えていない。具体的なことを言うと…死ぬつもりだ。」
想像もしていなかった発言に本来の英堵は大いに驚いた。
「な、何でですか!?何も死ぬことはないじゃないですか!?生きていれば」
「生きている限り…失った事実を引きずって生きていかなければならないからな。」
平行世界の英堵の目には、新月の空のような闇が広がっていた。
相変わらず終姉さんは終姉さんですね。