ドームがなくなり、塩導が四人に近づく。
「さて、これで残りは三人、張り切って」
「なに平然としているんだよ!?自分が何したかわかってんのか!?」
本来の英堵が塩導の胸ぐらをつかんで詰め寄る。
塩導は何が何だか分からないというような顔をして答える。
「なにって…人を殺しただけじゃない。そんぐらいで取り乱してたら」
「人を殺した『だけ』だと!?それがどれぐらい罪が重いことなのか分かってるのか!?」
「じゃあ、どうすればよかったのよ?アタシが殺さなかったら、あたしが死んでいたのよ?」
「そ、それは分かっている…でも…だからと言って…!」
狼狽える本来の英堵に、塩導が現実を叩きつける。
「あんたはヒーローでアタシは敵、価値観が違うのは当然よ。
でも、あんたは愛する人の為に助けて、あたしは愛する人の為に殺す…
手段が違うだけで目的は同じでしょ?なら、アタシの糾弾は後にするべきよ。」
堂々と言い放つ塩導に気圧され、本来の英堵は手を離した。
「…分かり合える敵と分かり合えない敵か…」
一同は先へと進む。次の部屋には金髪のウルフカットの男性、土口がいた。
「えっ、モトちゃん裏切ったの!?マジか…裏切り者には縛り乳首だな…!」
「殺す。」
土口の品のない発言に、塩導は明確な殺意をもって襲い掛かる。
「一対一ならなんとでもなるね。モトちゃんの"個性"は触れなきゃいいだけだし。」
塩導の奇襲をゆらりと避けた土口は、見えない何かで一瞬で塩導を縛り上げた。
「はい。ここから乳首を攻めれば縛り乳首だね。でも…」
土口は縛り上げた塩導を蹴り転がし、八百万を指さす。
「そこのおっぱいのでかい子!俺と『自主規制』しない!?」
とんでもない発言に一同は吹き出した。
「ド、『自主規制』ですって!?なんて破廉恥な!?」
「言っちゃダメです百姉さん!そういう作戦です!多分!」
「あ、相棒みたいなこと言ったぞアイツ!?」
「変態って…本来の意味でか…これは厄介だな…」
「だからさっき言ったじゃない…!」
動揺する一同に土口はたたみかけるように発言する。
「『自主規制』でこの反応か…それじゃあ『自主規制』とかどうよ!?」
「な、『自主規制』!?何なんですのそれは!?」
「それ以上百姉さんに卑猥なことを言わせるなあああ!!!」
黒い鎧を"想像"した創が土口に襲い掛かる。
「おいおい、口上言ってないだろ?言わせてくれよ?」
再び土口が見えない何かで縛ろうとする。
「『黒よ、切れ(シュバルツ・シュナイデン)!』」
鎧の全身にカッターが生え、何かをブチブチと切る。
「おっと…なら、愛刀ティラミス!」
土口の刀と、創の剣がぶつかる。創の剣が弾き飛ばされる。
「ぐっ…!?純粋な力で飛ばされた…!?」
「なんだ、力は大したことないな?オラオラ!」
土口の刀が創の鎧を滅多打ちにする。
「創さん!創さんから離れなさい!」
八百万が土口に大盾を持って駆け寄る。
「だから、口上まで待ってほしいって!」
土口は八百万を飛び越しながら何かを手から放つ。
その痛みに八百万は思わず盾を離してしまった。
「痛っ…!?今、何をしましたの…!?」
「種も仕掛けもある手品だぜ。」
土口が手を握ると、八百万が何かに縛り上げられた。
「きゃあ!?なんですのこれ!?」
「見えにくい糸ですわ。奴に振舞うチャーシューを煮る時によく使いますの。
ちょっと力を入れれば肉が切れますわ。これでおっぱいのでかい人質の完成ですわ。」
ふざけた口調と言い回しに反し、土口はとんでもない実力を持っていた。
「…これで実力差が分かっただろ?でも、むやみに人を傷つけたくはない。」
土口は八百万の拘束を解きながら話し始める。
「いいか、お前達、取引をしよう。俺はこの子と『自主規制』したい。
だが…そこの黒騎士はこの子のことが好きなんだろう。流石に俺でもわかる。
で、多分、その黒騎士とこの子は色々作れる"個性"だろ?
だから、この子の『自主規制』を作ってくれ。そしたらこの子を離す。」
とんでもない要求に一同は再び吹き出す。
「わ、私の、だ、『自主規制』だなんて…サイッテーですわ!」
「だから言っちゃダメですって百姉さん…!」
「なんか…懐柔できそうじゃないか?」
「奇遇だな。俺もそう思っていた。」
「強いけどエロイのよこいつ…!だから、簡単に取り込めるはずだわ…!」
塩導の発言に四人は、創と八百万に期待の眼差しを送る。
「…いや、絶対に嫌ですよ!?彼女の体を差し出す彼氏が何処に」
「私が許可しますわ!私の体でこの危機が抜けられるのならば!」
「抜けるのは危機じゃなくて君の体だけどね!」
「やかましいですわ!創さん!私の手を握って!」
「そ、それじゃあ…ええっと…どうぞ!」
創と八百万が手を握る。
「『私の『自主規制』』!!!」
八百万が叫ぶと八百万の『自主規制』が出てきた。
「うひょお!マジで作ってくれた!一生ついていきます!けど、まずこれを試させて!」
土口は八百万の『自主規制』を抱きかかえて部屋を出て行った。
「アイツと相棒を組ませたらマズい気がする…」
「確かに、峰田さんと組ませたら碌なことにならなさそうですわ…」
「『秩序の三柱』がこうもあっさりと崩れるとはな…」
「所詮、ただの寄せ集めなのよ。実際、黒騎士だけでどうにかなっていたし。」
「じゃあ、何で呼んだんだろう…目的があるのかな…?」
晴れやかな顔になった土口が戻ってきた。
「俺の名前は土口精!『金色の狂犬』だ!とある島に住んでいたんだけど攫われた!
『帰りたかったら協力しろ』って言われてしばらくは協力してたけど…
あんた達の"個性"なら元の世界に帰る道具を作れそうだ!協力するぜ!」
意外とまともな笑顔と動機に、本来の英堵が質問する。
「お前は…敵じゃないのか…?」
「敵じゃないさ。何だったら治安を守る側だ。こっちの世界で言うヒーローだよ。」
「何がヒーローよ。人質とって、性犯罪まがいのことして。」
「ためらいなく人を殺したあなたが言うことではありませんわ。」
「なんというか…良い人なのはわかるんだけど…方向性がなあ…」
「なんにせよ、これで残りは鹿角と黒騎士だけだ。」
先に進もうとする一同に、土口が待ったをかける。
「鹿角はともかく…黒騎士はやばい。危険日に中出しするぐらいやばい。」
「その言い方だと…対策をしないとやばいって言いたいのか?」
「的確ですが…もう少し言葉を選んでほしいですわ。」
「意識を失わせればいいんですよね?だったらそこまで難しくないです。」
「対策を知っているならやりようはあるだろう。気を引き締めていくぞ。」
「おら、鹿角!黒騎士!とっととアタシを元の世界に…!?」
勢いよくドアを開けた塩導の視界には、とんでもない光景が広がっていた。
鹿の顔をした男と、赤い髪の少年が無残に切り捨てられており、
その部屋の中心には紅白の鎧を着た何者かが立っていた。
「我が名を騙り理を超える者…神を騙り理を超える者…
大きすぎる…修正が必要だ…」
紅白の鎧の人物が一同に紅の剣を向ける。
「我が名は『九玉』、理を司る者…
世を超えし者達よ、理の内に修正してやろう…」
180cmにも満たないその存在は、まるで一つの世界のような存在感を放つ。
一同は、瞬時に臨戦態勢をとった。
この土口君は本物です。あの島からやってきました。
そしてここにきて唐突なボスです。
元ネタはアマードコアシリーズの『ナインボール』です。