ネームドから逃げたら三冠がいるなんて聞いてない 作:アウラセイヴァー
──この世界がアプリゲームのものだとは、生まれたときから知っていた。
女型の人間が馬の耳、尻尾を携えたようなフィクショナルな種族『ウマ娘』として新たに生を受けた自分──デュアルバインダーは、かつてコマーシャルで見た姿を重ねそう直感したのだ。
解像度としては前述の映像きりだったので、さほどあの世界の流儀に精通していたワケではない。
何をするでもなく歩んでいた人生だったものの、ひょんなきっかけから特に打算も覚悟もなくレースの道へと進み、ついにはアスリート育成機関の最大手となるトレセン学園へ足を踏み入れるまでに至ってしまった。
しかし幸か不幸か、間もなく自分は思いもよらない選択を突きつけられることになる。
きっかけは些細な出会いだった。同級生となった幼少以来の友人によって引き合わせられる形で会った人物たちが、ただひとつしかないこの世界への手がかりとなった記憶に当てはまってしまったのだ。
「どうも! ラインクラフトです! 憧れのトリプルティアラのレースを、ぜーんぶ獲るのが目標! そんなウマ娘です!」
星を瞳へ携えるそのウマ娘の表情、声色が、かつて目にした一幕へはっきりと重なる。
──夢を、憧れを、運命を──!
それひとつしかない故に強烈に思い出された記憶は、和気あいあいとしていたはずのこの空間を、一瞬でアウェーへ変えた。
相対しているのが、この世界の物語の主人公だと察したからだ。
目配せしてみればその両隣のウマ娘も──思えば自分を彼女らに引き合わせた友人もだった──同類だと思い出した自分が、気圧されて後ずさったのみで済んだのは幸運だったのだろう。
クラフトが口にするのは、国民的スポーツ・エンタテイメントであるトゥインクル・シリーズを代表する称号のひとつ。
桜花賞・オークス・秋華賞の3つのレースを制する者へ与えられる栄誉であり、同時期に開催されるクラシック三冠と双璧を成す道だ。
(……勝てるワケがない)
腰が砕けそうになりながら、脳みそが何かを独りでに演算していく感覚を味わう。
自分、というよりこの肉体に宿る才能には、そこそこの自信があった。しかし、創作上で争うような
後になってこの選択の成否を問われれば、どうとも答えることはできない。たとえ結末を知っていたとしても、決断を翻した自分を想像できないからだ。
一方で、決断
『先頭───プ───クト圧勝ゴールイン! なんとこのダービーで、後ろへ5バ身の差をつけ勝ちました!』
もう片方にも、魔境は待っていたのだから。
序章とはいえ文章絞りすぎたかな、と思う今日この頃。
次回は現在執筆中。
お読みくださった方々へ、格別の感謝を。