ネームドから逃げたら三冠がいるなんて聞いてない 作:アウラセイヴァー
新しいウマ娘って誰なんだろう……?
最初に謝っておくと本話ではまだ有馬記念に行きません。
「──では、本日の授業は以上となります」
担任の教師が放課を告げる声が教室に響く。続けてクラスメイトたちとともに一礼を行ったあと、アルバはそそくさとスクールバッグに引き出しの荷物すべてを放り込んだ。
「──デュアルバインダーさん!」
すぐさま席を立とうとしたとき、机の向こうからこちらを呼び止める声がひとつ降り注いだ。視線を持ち上げた先にいたのは、クラスメイトのひとりだった。
話しかけてくるとは珍しい、と思いながらアルバは、どうかわしたものかと思案に耽る。菊花賞以来、クラス内での自分の扱いは腫れ物に触るかのようだったからだ。尤も、そのおかげで終始難しい顔をしていれば事情を根掘り葉掘り訊かれるまでもなく他人を遠ざけられるのだから、望むところでもあったのだが。
「えっと、うちのトレーナーさんがチームに誘ったって聞いて、その……」
その切り出しを聞く限り、彼女は先日アルバが声をかけられたトレーナーのチームに属するウマ娘のようだった。彼女はこちらの手を両の掌で包み取ると、こう言い募ってきた。
「クラスメイトのあなたがチームに入ってくれたら、すごく嬉しい! 最近、そっちのトレーナーさんとうまくいってないってよく聞くけど……わたしでよければ力になるから!」
はあ、とアルバが生返事をして間もなく、かのクラスメイトはこちらへ手を振りながら教室を出ていった。
(……なんだったんだ)
あまり深い交流のなかった人物だっただけに、困惑の方が先に来る話であった。だが、彼女の口振りからして、自身のトレーナーとの確執の噂は同業者間のみの俗説に留まらない規模に発展していると判断した方がよさそうだった。
学園を後にする前に、それにケリをつける必要がありそうなのが気がかりだ。まずは──。
「……ねえ、アルバさん」
──
クラフトに話しかけられるのも久方ぶりだな、とアルバは内心でため息をつく。今までホームルームが終わるなりこちらがすぐさま教室を離れてしまうので、声をかけるにかけられなかったのだろう。聞こえてきたのはクラフトの声のみだったが、加えて後ろからはこちらを意識する3つの気配も感じ取れる。
席順の都合上、背で受けたクラフトの声へ、顔を向けないままこう応えた。
「……なにか?」
「その……アルバさんと最近お話できてなかったなぁと思って……調子はどうなの?」
突き放している身としては耳が痛いことを言われ苦笑を浮かべながら、アルバは当たり障りのない返事を組み立てた。
「……今はとても充実していますよ。問題は山積みですが……前に進んでいると感じられますから」
「そうなんだ、よかった……」
表情は視界に入れていないが、クラフトは安堵しているようだった。だが、今の自分と話す機会を一度でも得たのであれば、あの件に触れずにはいられないはずだ。もしアルバがクラフトの立場だとしても、それとなくにでも探りを入れているだろうから。
「その、この前の菊花賞をシーザリオと見に行ったとき、アルバさんが思い詰めたみたいに走ってたから……さっきの子が言ってたみたいに、わたしも心配してて……」
あまりにおっかなびっくり話すので焦れったくなったが、返す言葉は変わらない──アルバは、先日の年配トレーナーとの問答を経て作り上げていた
「……心外ですね。まるで私が無理やり走らされていたような言い方ですが」
そういうわけじゃ、とクラフトが慌てる声が聞こえたが、そこにアルバが取り合う気はなかった。ここにきてようやくクラフトの方へ振り向くと、やはりいつもの4人の姿があった。
「あれはトレーナーさんにも秘密にしていた……私の考えですよ。ただでさえ大逃げを宣言しているウマ娘がいる中で、さらに前を行くウマ娘が現れたなら、他のメンバーは否が応でも脚取りを逸らない方向に考えを持っていかれる。そうしてスローペースになれば、末脚勝負のドリップさんには不利なレースにできるはずだった」
頭に浮かべたまんまを読み上げているそれは、あの大逃げの後付けの理由だった。
「ですが、終わってみれば結果はあの様です。迷惑をかけたとすれば、明らかに……相談もなく逃げた私の方ですよ」
そこで言葉を打ち切って様子を伺うも、クラフトたちの心配げな表情は変わらなかった。付け焼き刃の言葉ではこんなものか、と仕切り直す腹を決めたアルバは、話を強引に切り替えた。
「……それよりも、クラフトさんは自分の心配をした方がいい。聞きましたよ? 次はあのアドマイヤグルーヴさんのラストランになるレースに出るのだと」
この間のスティルインラブの退学騒ぎのあと、彼女の動向を調べ直していたら、その同期であるアドマイヤグルーヴの話題も飛び出してきていたのを見つけていたのだ。マイルのGIIレースであるその舞台にはクラフトの名もあったので、体よく使ったまでのこと。
「せっかくティアラの憧れの先輩方と渡り合えるのでしょう? 私に気を取られていては損ですよ」
そう告げると、アルバは今度こそ教室を立ち去った。ほかの面々が二の矢を放つことも想定していたのだが、結局呼び止められることはなかった。
「アルバさん……」
足早に教室を去るクラスメイトの背へ、漠然と呼びかけるクラフト。間もなく肩に手を置かれる感触を覚えたのは、物言わぬまま隣に並んだシーザリオによるものだろう。
「本当だと思う? アルバの言ってたこと」
そう問いかけてきたのはハートだった。彼女が言及したのは、アルバの菊花賞回顧についてだろう。クラフトやシーザリオと違い、ハートが先日の菊花賞を観戦したのは映像越しであったそうなので、アルバが大逃げを打った意図を掴みかねていたのかもしれない。
やがてゆっくりと首を横に振ったクラフトに、Hmm、と考え込むハート。続けて口を開いたのはシーザリオだった。
「逃げウマ娘が菊花賞を勝つのは……何も今までまったくなかったわけじゃない。キングヘイローさんや、スペシャルウィークさんが走った菊花賞で、セイウンスカイさんがそれをしてたから」
けど、と言葉を止めたシーザリオは、その先を口にすることをためらった。前例があると示しながらも、彼女が言及したセイウンスカイの例とて、振り返れば同レースでは当時39年ぶりの逃げ切り勝ちだったからだ。それもマヤノトップガンが保持していたレコードを1秒あまり更新してのことだったので、逃げウマ娘と一概に括るよりは、セイウンスカイといういちウマ娘の勝利と評した方が正確とすらいえた。
「私には……ヤケを起こした、って方がまだわかりやすい気がするけど」
第二のセイウンスカイになろうとしたように見えない、とアルバの走りを評するハート。あの長距離でキャリア初の逃げを打った末にバ群へ沈み自滅、というシナリオを見れば、確かに無難な結論だろう。だがシーザリオの脳裏にあったのは、それ以上に自棄的な──あのアルバの走りを直接見た者であれば当然浮かぶ結論であり、そしてこの場の誰もが言い出せずにいた結論だった。
「メサイア? あなたもレース場に行ってたんでしょ? Old friendの走りはどう見えたの?」
するとハートの視線は、ここまで会話に参加していなかったメサイアに向けられていた。席を立たないまま俯いていた彼女は、痙攣を起こしたかのように身を震わせると、より深く首を傾けて黙り込んでしまった。
「メサイア?」
「っ……」
ハートが不思議がって呼びかけると苦しげに洩らしたメサイアは、視線を左右に振り乱したのちこう語り始めた。
「……あの日、アルバさんと話をしたのです」
その事実自体は、ほか3人にさほど驚きなく受け止められた。アルバとメサイアの付き合いの古さは一行の知るところだったし、クラフトやシーザリオにとっては、かの日の京都レース場で共に観戦することを断られていた立場だったので、旧友のアルバのもとを訪れることを優先したのだろうと想像がついていたからだ。
「ですが……アルバさんは、あの舞台で散ることを望んでいるかのようでした」
その言葉を受け、クラフトらの目は見開かれる。そのあとメサイアは例の地下バ道で、そして夏合宿にて星なき星空の下でアルバから聞いたことを一字一句誤ることなく伝えた。回想が進むたびに、3人の表情は深刻なものに変わっていった。
「あとの気掛かりは散り様のみ……そう告げて、あの人はレースに向かっていったのです」
まさか大逃げをするつもりだったとは知らなかったのですが、と小さく付け加えると、メサイアは口をつぐんだ。
「じゃあ、アルバさんは最初から負けるつもりで菊花賞を……?」
心底信じられない、といった声色で口にするクラフトの横で、シーザリオは生唾を呑み込んでいた。さすがの彼女でも、アルバの影の部分に驚愕しているようだった。
「……ねえ。もしかして、このままバイバイとかないわよね?」
この場の誰に向けてでもないのだろう、ハートの問いかけが教室へ響く。アルバが菊花賞を走るにあたって
「アルバ、最近トレーニングにも来てないみたいだし……」
そう続けたハートに、彼女のひとつ前の質問に応えたかのような気まずい沈黙が広がる。
「アルバさん……」
友人が去っていった方向へ向け、クラフトは再びそう溢した。
「……アルバ」
栗東寮の玄関へ入るや否や、ジャージ姿でこちらを出迎えるウマ娘の声が鼓膜を揺らす。どうやら今日は、話しかけられたくない相手にばかり話しかけられる日であるらしい。
「
バッグにしまい込んでいる封筒へ向け放ったのだろうその言葉にぎょっとしながら、アルバは沈黙という回答を選んだ。だが、こちらを射抜く視線は、心の内のすべてを見透かしていそうでどうにも心地が悪い。
──名をクリエクールというそのウマ娘は、アルバの同室である生徒だった。学年では高等部の先輩として、トゥインクル・シリーズにおいてはこちらより1年早くデビューしたシニア級ウマ娘として、どちらもアルバの先を往く者だった。
「……いや、答える必要はない。そこにあるままということは……先送りにされたということだろう」
「……そうだとして、クールさんにどんな関係が?」
返答を得るまでもなく正解を導き出されたことに感心と恥ずかしさを覚えながら、アルバは若干棘のある物言いで問い返した。それを意に介する様子もなく、クールはこう言い放つ。
「俺は……有馬記念に出る」
な、と洩らし、アルバは目を瞠った。クールが口にしたのは、今やさほど未来のことではなくなった年末グランプリの名。だが、アルバが驚いたのは、そのレースに出ること自体ではない。
「どなたが出走するのか、知ってのことですか」
それは形だけの問いかけだった。GIIとはいえ既に重賞のトロフィーを手に収め、今年は春シニア三冠を初めとした数々のGIレースを争ってきた身分のクールが、まさか暮れのグランプリに現れし大本命の襲来を耳に入れていないと思えなかった。
「ああ。そこで俺は……お前を縛る衝撃を下す」
「無理です、だいいち──」
想定通りの答えに言葉を紡ごうとして、アルバはその先をためらった。あとに続くのは、クールにとって間違いなく侮辱となる事実だったからだ。
「お前の心配していることなど百も承知だ。だとして、有馬記念での俺に何の影響がある?」
またも見透かしたように口にするクールに、アルバは今度こそ黙っているしかなかった。
クールは未だGIレースで勝利を収められていないウマ娘だ。前走であるジャパンカップ、そして去年にも挑んだ有馬記念──ほかクラシック三冠競走などを含むそのすべてで、彼女は頂を掴むに至っていないのだった。そんな事実を口にしようとしたアルバの内心を汲んだ上で、クールは何でもないと言い放ったのである。
「かの衝撃が打ち砕かれるのを見れば、お前のしけた顔も少しはマシになるだろう?」
そこまで聞いてアルバは、ようやくクールが有馬記念で勝利を期す訳を理解することができた。彼女は自分を勇気づけようと、宿敵であるドリップを下さんとしているのだ。無論、ドリップに挑むのはそれだけが理由ではないのだろうが。
「なんで、そこまでして私を……」
「自分を見くびるのはやめておけ。戦う意思を持たない奴を相手にしているほど、俺は暇じゃない」
同室のよしみ、とみるには無茶が過ぎる挑戦に溢してみれば、クールはそう返してきた。
「戦う意思? あんな独りよがりな大逃げを使った私のどこに、そんなものが眠っていたというのです?」
どうにもこちらを買い被っているらしいクールの物言いが不可解で、アルバは半ば投げやりにそう問いかける。
クラフトたちに語った
「笑わせる。ならなぜ、あのレースのお前はシンガリにいなかった?」
は、と洩らしてアルバは、朧げな菊花賞の記憶をどうにか手繰り寄せようとする。だが、勝敗など端から投げ捨てていた自分が、あの日に着順を頭に入れているはずがなかった。
故に真っ先に引っかかったのは、食事という名の作業を行っていたいつかのカフェテリアで聞き流した番組の一節だった。
──ブービーまで着順が沈んでしまいましたから──
そんな物知り顔なコメンテーターの発言を思い返したことで、ようやくアルバはクールの問いかけの意味を噛み砕くことができた。尤も、噛み砕けたとて答えをすぐに用意できる問いではなかったのだが。
「なぜ、って……」
「あのとき、お前がもし戦う気がないというなら、ゴールなど待たず脚を止めれば済んだ話だ。だが、お前はそれをしなかった」
さほど猶予を与えないまま言葉を次いだクールに呆然としながら、アルバはもはやどう評せばよいのかもわからない菊花賞での自分を思い起こそうと必死だった。
「お前はまだ、レースに臨む者としての自分を諦めていないはずだ」
「諦めていない……私が?」
もうアルバには、クールが言っていることが半分も理解できなかった。勝つ気もなく3000mを走ったあの日の自分を、「諦めた者」以外にどう表すのかわからなかった。だが、それで片付けられる話ではないと思ったからこそ、クールはこんな問いかけをしているのであって──。
「……その、クールさん……」
もはや否定する気力は起こらなかった。してよいものなのかもわからなかった。確かにあの日の自分が望んだのは、ただ試合放棄をすることではなかった。だが、それに近いことをしようとしていたのも事実なのだ。その二律背反への苦しみが、自分に過去を塗り変えることを許さなかった。
「私は……」
今までどおり、あのレースを忌まわしき記憶として置いておけばよいのか、そうでないのか──。
「どう思えばいいんですか……」
正面のクールは、表情を微塵も変えないまま佇んでいるだけだった。
「……その答えのうちのひとつを、お前に与えてみせる。だからこそ、目に焼き付けに来い」
ここに来てはっきりと要求を示したクールへ、アルバはイエスとノーのどちらも示すことはなかった。だが、頭によぎらずにはいられない
「……私のせいで挑むのではない、というのであれば止めはしません。ですが、あの人は他とケタが違う。それだけは覚えておいてください」
忠告はした、という事実を作るためだけの言葉を投げかければ、クールは「ああ」と平坦な声色で返してきた。やがて彼女は、夜間のトレーニングを控えているのか、アルバと入れ違うようにして寮を出ていってしまった。
「有馬記念……か」
呆然と呟きながら、アルバはふとバッグの中の封筒を取り出して視線の先に持っていった。
「……」
出せない理由がまた増えた、と思った。
振り返れば、自分がトゥインクル・シリーズに飛び込んでからというもの、世代は違えど同じ舞台で争うクールにしてやれたことなど何ひとつなかった。ならば、今がそのときなのかもしれない。もしあとで退学する決意が変わるにしろそうでないにせよ、ああも請われた以上は、自分に観ないという選択を採れるとは思えなかった。
「どう言い訳しておけばいいんだろう……先生にも、トレーナーにも、母さんたちにも……」
有馬記念までの期間、封筒の中身を知る面々に対する言葉を考えておかなければならない。まだ自分は、これを破棄すると決めた訳でもないのだ。
「おや、ポニーちゃん? そんなところで立ち往生なんて、どうしたのかな?」
キザっぽい声色が聞こえ顔を上げてみれば、寮長のフジキセキがやって来ているのが目に入った。
いえ、とかわして笑顔を作りながら、アルバは封筒をバッグへしまう。フジには退学届が受理されてから話を通そうとしていたので、彼女に封筒の正体など知る由もない。しかし、フジはひとつ笑みを溢すと、クールの去っていった方を向いてこう語りかけてきた。
「戸惑ったんじゃないかな? クールが突然レースを見に来い、って言うものだから」
「え、その……」
図星を突かれしどろもどろになると同時に、フジは先ほどのやり取りを聞いていたのかもしれない、という心配が顔を覗かせてきた。退学という決定的なワードは出しても出されてもいなかったはずだが、フジは出自や立場からして他人の表情の機微を見るに敏なウマ娘であるので、思惑が露呈してしまっている可能性を否定できなかった。
「ははっ! まぁ、それはそうだろうね! あの子はとっても不器用だからさ」
大げさに振る舞うフジに苦笑いを溢しながらも、では、と別れる言葉を切り出そうとしたとき、彼女は一足早くこう言葉を繋いできた。
「けれど、あの子は本気だよ。自分自身の誇りのため……そして、背中を見せるべき後輩のためにね」
そう言ったフジは、アルバが見ているより少し遠いところを見ているような気がした。それは物理的に、という話ではなく、アルバが知らない間のクールを見ていた故の視野の違い、といったような遠さだった。
「……わかりません。あの人が、なんで私に背中を、だなんて……」
「見ている人は、ちゃんと見ているものさ。……少なくともクールは、君がただ投げ出しただけじゃないことを知っている。だからこそ、自分の走りという『答え』を君に見せようとしているんだ」
え、と洩らしてアルバはフジの横顔を見やる。
そのとき、何やらクールの「なぜシンガリにいなかった?」という問いが、フジの言葉と重なって胸を突いてきた気がした。
「……もし、それで私がレースについて何か思い直したとして、私は今さらどう取り繕えばいいんですか?」
クラフトたちに告げた身勝手な後付けの理由、トレーナーについた嘘、そして何より、己自身に「もう終わりだ」と言い聞かせて抱え込んできたこの決意──そうして手放しかけた手綱を今さら握り直そうとするなど、支離滅裂な無法者と見られても言い訳できない。
「人生はドラマだけど、ドラマじゃない……何もかもに辻褄を合わせる必要なんてないものさ」
そう言ってフジはゆっくりと歩み寄ると、アルバの隣という位置で足を止めた。フジのわずかに下がった視線が、アルバのバッグの隙間ともいえない隙間から例の封筒を見つめてきた気がしてぎょっとした。
「意地を通して身を引こうとする君の想いは大したものだけれど……そんなこと関係なく、無条件に君に走ってほしいと想う人もいるってことを、忘れないでほしいな」
すべてを知ってのことか、そんなことをのたまったフジは、ふとアルバの耳元というところまで顔を近づけるとこう囁いた。
「君の答えは、そのあとに聞かせてくれよ?」
寮の廊下へと去る間際に投げかけられたその言葉に、アルバはまたも心臓を跳ねさせる。
バッグを閉じる1対のファスナーに挟まる、覚えのないロリポップに目をやる余裕もなく、去り行くフジの背を見つめているしかなかった。
菊花賞逃げ切り勝ち──その数十年後()に新たに達成者が現れることを、シーザリオたちはまだ知らない。
本話を投稿するにあたって、27話の「届か『ない』あの想い」にてもうひとりの大逃げウマ娘(シュバルツドア)に言及するのを忘れていたことに気づいたので修正を加えています。さらっと触れるだけではあるのですが。