目指せ人生一発逆転~アラサーがネット小説書いてみた   作:kuroe113

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第11話ウサギってさみしいと死んでしまうんだよ

 ネット作家あるある。

 自分の作品に適切なアドバイスをしてくれる人はなかなか見つからない。

 

 

 

20XX年1月〇日。

 10月に自信満々にプロットが完成したと口にした。

 だというのに、僕の執筆速度がナメクジみたいに遅いので、全く進まなかった。

 10月の半ばどころか、終わりごろにどうにか調子を取り戻して、いくつかのパターン法に手を伸ばした。

 そして、新年の少し前。

 正月休みを利用してラストスパート。

 一気に作品を最後まで書き上げていく。

 今回は自信作だ。

 プロットはしっかりと練ったし。

 これなら人気まちがいなし!

 

 

 

20XX年1月〇〇日

 

 新作。

 投稿二十話越え。

 

 書く前。

「この話は絶対受ける。大人気まちがいなし」

 現在。

「誰か助けてクレメンス」

 

 

 

 もちろん、現実で助けてくれる人がいないので、ネットで助けを求めた。

 軽い口調で助けを求めたのは、自分の暗い雰囲気を周囲に漏らさないための抵抗だった。

 

 

 

読み専1

 誠意が感じられないな、誠意が。

 

読み専2

 おら! もっと全力を出すんだよ。

 

読み専3

 頑張れ頑張れ!

 

読み専4

 読んでみたけど、もっと評価されてもいい程度の出来だった。

 

読み専5

 そうそう、人気出ないけど、もっと上に行けると思う。

 

Kore117

ありがとう、ありがとう

 

読み専6

 この作品読んで、な〇うで人気作以外適当に読んだけど、完成度高いよな

 

読み専7

 分かる。ランキングに乗ってない作品でもレベルが高い作品て多いよな

 

読み専8

 ぶっちゃけそんな作品がどうして人気が出ないのか不思議。

 

読み専9

 やはり投稿頻度か。

 

読み専10

 ジャンルじゃないか。特定のジャンルじゃないと読まれないのとか結構あるし。

 

読み専11

 でも、な〇うの文章って文庫本と比べるとちがうよな。

 

読み専12

 分かるわかる、大体中学レベル

 

読み専13

 文章もだいぶ短く区切っとるよな

 

読み専14

 後……

 

 

 

「まるでまとまりがない! どいつもこいつも好き勝手に話を進めやがって!」

 

 分かっていたけどさ。

 ネットの声なんてこんなもんだしね。

 質問に真面目に答えてくれただけでも感謝しないと!

 

 でも、これだけはいわせてほしい。

 

「誰か、マジでだれか僕の作品を読んで感想を言ってくれる人はいないのか」

 

 知っているか、ウサギってのはな、寂しいと死んでしまうんだぜ。

 

「誰か、誰でもいいから助けてくれぇ」

 

 でも、自分ボッチだから助けてくれる人いなぁい!

 

 

 

20XX年1月〇日

「疲れた、休憩しよう」

 

 お! よくやり取りをしているエリアン先生の新作があるな。

 

 

 

『ミステリーサークル』

          著者エリアン

 人類にとって未踏の大地、生命が存在しないはずの虚無。そのはるか先から、一つの光が地上に降り立った。

 

 その輝く光はふらふらと空中を浮上しながら、紋章を刻む。

 

 

 それはいまだ人類が到達することすらかなわない未知の原理によって刻まれたものだ。

 目的はさまざま。

 仲間に送る伝言。地球人への啓蒙活動。仲には、単なるいたずらというくだらないものまである。

 

 

 

 人類では遠く及ばない彼ら。その彼らの予想を地球人は大きく超えた。

 ただし下の方に。

 

「見て! 見て! これって、ミステリーサークルだ」

 

「やっぱり宇宙人の仕業」

 

「そんなわけないでしょ、どうせどこかの暇な学生の悪戯よ」

 

 あまりにも人類の知能が低すぎたのだ。

 

 

 地球人には再現不可能な技術を使っているというのに、見た目だけは人力で再現できた。

 彼らが残したミステリーサークルがどれほど高度な技術で作られているかをサルは認識できないのだ。

 

 ゆえに、これらはすべて人の手で作られたと誤認した。

 

「これでは人類への試験にならない」

 

「どうする」

 

「新しい課題を出すか」

 

「だが、其れでは人類の歴史を……」

 

 

 宇宙人たちは話し合う。

 この停滞をいかにすれば打ち破ることができるのかを。

 

 

 最終的に彼らは……』

 

 

 

「ああ、やはり面白いな」

 

 この後は設定集みたいに理屈ばっかりになるけど……。

 この作品が好きだった。

 

 自分の作品のどこが悪いのか分からない現状、他の作品のいったいどこが悪いのかを考えてしまう。

 

「この作品も文が良く書けている」

 

 なので、無名の作品を調べていく。

 人気がないということは悪いところがあるはずなのに、素直に面白いと思ってしまう。

 

「上位作品とはどこで差がついたんだ?」

 

 自分の作品の欠陥を知りたいのに、読めば読むほどにこの作品ももっと人気が出ていいはずと、より疑問が大きくなっていく。

 

「開始してすぐに主人公が出てこないのはマイナスかな」

 

 ミステリーサークルでも、自分のクトゥルフ系の作品でも、これは明確に欠点だと思う。

 

 ……でも、これはこれで味があると思うんだよな。

 

「会話文が少ないところかな」

 

 もっと、文体を軽いものにしてもいいかもしれない。

 

 

 ダメだ、考えても答えが出てこない。

 他人の作品を批判するのは精神的にも面白くないし、僕には向いていないな。

 

 

「自分が好きな作品でも、大衆がそれを好きだとは限らない」

 

 しいて答えを口にするならばこれだろう。

 

 

「感想、感想さえあればな」

 

 その差を是正するのが感想だ。

 

「やはり、執筆の最中でも感想を見れるのがネット小説の強みだよな」

 

 読者の声をすぐにフィードバックできるのだ。これほど小説家にとってありがたいものはない。

 

「でも感想がなくたって悲しくないし」

 

 そう、あんなもの邪魔なだけだ。

 

「批判や荒らしはもちろん、返信にだって時間を食う。小説を書くにはマイナスのほうが多いからね、あれ」

 

 と、力なく反論してみるも、そこに実感が生まれることもない。

 

「はぁ」

 

 生まれたのは虚しい溜息だけだ。

 よし、感想乞食でもするか。

 

 ちなみにこの感想乞食というのは小説の前書きかあとがきに直接感想をくれとお願いするものである。

 

 時々、マナー違反と批判されるのであまりやりたくないが、こうなっては仕方ない。

 

 

「誰か、感想を! プリーズ!」

 

 散々見苦しく言い訳したのにこれである。

 情けなし。

 

 もちろん、お願いしたところで人との付き合いがない僕に感想をくれる人などいるわけもない。

 よ……な!

 それに、あまりにも批判的な文章だとサイトにアカバンされる可能性がある。

 一番楽なのは妹に頼むことだが、あいつに小説の良し悪しなど分かるはずもない。

 

「そういえば、一人いたな」

 

 必死に誰に頼めそうかと考えれば、条件に該当する人物が一人いた。

 一度しか会ったことがないが、行けるか……?

 

「確か雫さんの連絡先は……」

 

 自分にプロットのありがたみを教えてくれた女性、雫さんなら……。

 

 

「だけど、迷惑かも」

 

 タップする指がもしかしたら迷惑かと震える。

 でも、背に腹は代えられない。

 

 

 

「はい、わかりました」

 

 ごくごく普通の公務員、雨宮雫は今日も電話対応をしていた。

 

「はい、それでは」

 

 しばらく通話したのち、電話を切るとき目の前に誰もいないのに、お辞儀をする。

 

 相手に見えていないのだから、こんなことする必要ないのにと思うのだが、どうにも幼いころからの癖というのは消えないらしい。自分のドジに雫は一人苦笑した。

 

 

「あ! もう正午」

 

 長電話になってしまい、改めて時刻を確認すればちょうどお昼時を5分過ぎたところだ。

 これでタイミングがいいのか悪いのか。どうにも彼女には判断できなかった。

 

「雫、今日一緒にご飯に行かない」

 

「私お弁当作ってるから」

 

「え! そうだったっけ」

 

 さぁ、休むぞと立ち上がれば、これは仕事を片付けたのだなと嗅ぎつけた友人が食事を誘ってくる。

 雫はカバンの中からお弁当を取り出してみせた。

 

「インフレのせいで、いろいろと値上がりしたでしょう。

 少しでも節約しないとね」

 

「同感。特に食材がね……。

 私も節約しようかな」

 

 と、彼女は指を折って、家計の計算を初める。

 

「じゃあ、もう行くね」

 

 と、一緒に食べることを約束していたわけでもないのでごくごく普通に歩きだした。

 

 

「さて、やりましょう」

 

 一人になった雫は休憩時間なのに、頬を軽くたたき気合を入れる。

 彼女はネット作家だ。

 少しの時間でも資料集めに費やしたいと、右手に箸を、左手にスマホを持つ。

 こうした一人での昼食時は執筆時間に当てると昔から決めていた。

 

 

「あれ、だれだろ」

 

 さあ、始めるという思いを燃やすが、すぐにその思いに冷や水がかけられた。

 連絡があったのだ。ラ〇ンの。

 

 予定を狂わされたことに若干苛立つが、よくある事でもあるので、すぐに怒りは沈静化した。

 きっと、友人たちだろうと思ったのだが……。

 

 

「本当に、誰!」

 

 送り主に見覚えがなかった。

 悪戯か間違いかと思ったが、メッセージに自分の名前が書かれている。

 つまり、知り合いに違いないのだが、送信元に心当たりがない。

 

「読めば分かりますよね」

 

 知恵熱からくる頭痛を押さえるように額に手を当て、雫はメッセージを開いた。

 

 

<実は最近長編小説を執筆しているのですが、あまり人気が出なくて

<もしよろしければ感想を

<これが今使っているユーザー名です

 

 ラインだから、細切れな文章が続く。

 

 

「Kore117さん!」

 

 名前を見て、誰だこれという疑問は消えた。知っている名前だった。

 

「でも、どうやって私の連絡先を知ったの!」

 

 納得したも、それですっきりすることはなく、新しい疑問が生まれた。

 

「……もしかしたら、酔った勢いで」

 

 酒に飲まれて、とんでもない失敗をしたことが雫には数度あった。

 感想のやり取りをしているネット上の知り合いが自分の連絡先を知っているのも、酒に酔った自分のうっかりだろうと結論づけた。

 

 すぐに、な〇うのサイトに情報漏洩がないか確認したが、大丈夫だった。

 

(まったく覚えてないから不安だけど)

 

 彼女には多分大丈夫だと信じる以外の選択肢しかなかった。

 

 

「これはやはり、作品について情報交換し様って約束したのよね」

 

 記憶がないから、自分がやりそうなことを文章から推測するしかない。

 

 

>作品はいつも読んでいます、私としては面白いと思います。

 

 

 と返信する。

 

「でもこれだと……」

 

 相手の立場になって考える。

 きっとKore117が求めているのが、ただの感想ではなく、文章の良し悪しを語ってくれる場だということを理解したからこそ、再び頭を悩ませることとなる。

 顔が見れないからこそ、断言はできないが、今日の空模様と同じくKore117の表情が曇っていることを雫には容易に想像できたからだ。

 

 

「ねぇ、もしかして男でもできた」

 

「ふぇっ」

 

 

 そんな風にスマホに釘付けになっているからこそ、雫は友人の接近に気がつかなかった。

 

(というか、さっき外にご飯を食べに行ってたよね)

 

 どうやって、こんなに早く戻ってきたんだろうという疑問は、スマホの画面を改めてみることで解消された。

 

(もう40分。だらだらとご飯食べてたから、もうこんな時間に)

 

 改めて時計を見ることで、自分がいかに時間を浪費していたのかを雫は悟った。

 

 

「な、何でそんなことを思う訳」

 

 予想外の状況と質問だが、それでもいつも通りに返答した。

 

「だってさ、それを読んでいるときのあんた、異常なまでにニヤついてるんだもの」

 

「そんなことないよ」

 

「あるわよ、で、誰なの」

 

「ネットで知り合った友達、実際にはまだ一度もあったことない人」

 

「なんだ、つまらない」

 

 これで誤解がとけたと雫はほっとするのだが、

 

「でも、そうやって向きになって反論してるの見たら、なおさらそれっぽい」

 

 誤解はまだ続いていた。

 

「はいはい、もうそれでいいですよ」

 

 ここにきて反論するのも面倒だと思い、スマホに視線を戻した。

 

 無視されたことで、相手の怒りを感じた彼女はすぐに謝罪して、すぐにいつもの世間話に話題を戻した。

 

 

 

 そして時刻は夕方。

 仕事終わりにスマホを覗けば返信に気がついた。

 

 

 

>あなたの作品いつもご拝見させていただいています。私はあなたの作品好きですよ

 

 

 

「そうかそうか、僕の作品は面白いか」

 

 嬉しいけど、欲しかったのはもっと踏み込んだ意見だった。

 

>とはいえ、私の意見では小説にそこまで詳しいわけではないので、一人紹介したい人物がいます。

 

「と、名前が。メスガキ千尋」

 

 変わった、ユーザー名だな。でも、この名前どこかで……。

 

 

 10秒20秒と考えて答えが出なかった。つまり大したことじゃないってことだな。

 

 

 

 >紹介してもよろしいでしょうか

 

 という質問にYesと答え、スマホを閉じた。

 

 

「さぁ、まずはそう座禅を組んで心を無にするトレーニングだ」

 

 突然始めた意味の分からないトレーニング。何してるんだこいつと自分でも思う。

 

 このトレーニングの目的は心を落ち着かせ、どんなに暴言を言われても耐えきるための物。

 

 売れてないんだし、相応の理由がある。絶対、いろいろ言われるぞ。

 

 そういわれても耐えきるために、心を無にしているのである。

 さぁ、暴言ダメだし、批評。何でも来い。少なくとも無反応よりかは数段ましだ。

 でも、集中できない。

 

 

>居酒屋で偶然出会って、ここまでしていただいてありがとうございます。

 

 その心のもやもやがしっかりとお礼ができないからだ。

 

 どうせ返信は先だろうなと、だったら座禅組んだの無駄じゃないかと思ったところで、意外にも返信は想像より早かった。

 

>直接会えませんか。

 

>もちろん、居酒屋で。

 

「え! まじ」

 

 ここまでやりとりして、最後の最後でこの発言のやばさを再確認した。

 

 いやマジで。

 生まれて初めてじゃない、女の子に限らずだれかと食事行くの。

 

 そのボッチ気質で中学生の頃の仇名がはぐれメタルだったのを思い出した。

 

 

「行きたいのかどうかと聞かれたら、行きたくない」

 

 ごめんね、人と話すことの何が面白いのって真面目に言っちゃう痛い子なの。

 でも、この人となら。

 友達いないので予定もないし、いつでもいいというのですいすい時間が決まった。

 

「さて、小説の話題だけで食事会をしのぎ切れるものかな」

 

 目下の課題はそこだった。

 




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