目指せ人生一発逆転~アラサーがネット小説書いてみた 作:kuroe113
ネット小説家あるある。
自分が思っているよりも、感想に
20XX年1月〇〇日
「え! まじ! まじで!」
涼子の叫びが狭い部屋の中で木霊する。
「部屋の中で叫ぶなよ」
キンキンと鳴り響く
どうにか手で、鼓膜を保護するも、
『口を滑らせたな』
と、僕は後悔していた。
始まりはそう、
「兄貴がこんな時間に出かけるなんて珍しいね、どこに行くの?」
「居酒屋。雫さんと食事を食べに行くんだ」
ほほえましい日常会話からだった。
その反応がこれである。
いくらなんでも、大げさすぎやしないか。
「念のために確認したいんだけど。そのダサい服で女の子と食事に行く訳?」
「いうほどダサいか?」
返答に、涼子は信じられないと天を仰いだ。
何か間違えたのかと思うけど、それが具体的に何かまでは分からず、首を斜め45度に傾けた。
「ダサいよ!
もう分かった、兄貴のセンスが壊滅的だってことが!」
「ダメ出ししているとこ悪いんだけどさ。デートに行くわけでも無し、服なんてどうでもいいだろ?」
「ダメだから! 将来のことも見越さないと!」
「将来って……」
あまりにも
「と・に・か・く! 着がえろ! 髭をそれ! シャワー浴びろ!」
その態度が悪かったのだろう。
涼子はお
「はいはい、分かった分かった!」
鬼のような形相に、逆らうという選択肢は消えていた。
言われるがままにシャワーで汚れを落とし、電動の
「これ便利だよな」
と、最近買った髭剃り機を評価する。
散髪屋では未だに泡と
そしていつの間にか置かれていた服。
恐らく、妹セレクションに身を包む。
「うん、まぁ……これはこれで」
財布なり眼鏡なりの貴重品を取りに戻れば、待ち伏せしていた涼子がぐるぐると回りながら、頭のてっぺんからつま先までじっとりと眺めてくる。
ミスコンの審査員でもここまではしないだろう。
「それで、採点するなら何点くらいだ?」
さぁ、審査員。僕の点数は?
「そうね、65点」
「100点満点中の65点か。まぁ、赤点は回避できたってことでいいよな」
「違う違う! 1000点満点での65点よ」
「おい! いくらなんでも僕の点数低すぎるだろ!」
「冗談よ。100点満点中の65点。じゃあデー……」
散々無茶な要求をした罪悪感があるのだろうか、涼子がわざわざ部屋の扉を開けてくれた。
そのまま送り出そうとしたところで、突然、その動きが止まった。
まだ何かあるのか?
時間に余裕があるとはいえ、いい加減めんどうなんだが。
「もしかしてだけど、この靴で出かけるの!」
「ああ」
愛用している黒のスニーカーに何か問題でもあるのだろうか。
もしや、値段だけで判断し一番安いのを買ったのだが、それが気に障ったとか?
「兄貴、これ土汚れがついているんだけど」
「よく見ればそうだな。でもさ、靴なんてそんなに気になるか」
「気になるから!
おしゃれに敏感な女子はそんな小さなことでも見つけて好感度が上下するの!」
男の僕には関りがない、女の世界にそういうこともあるのかと感心する。共感はできないけど。
感心する僕を置いてきぼりにしたままに、涼子は靴をびしっと指差し、
「今すぐ洗って!」
命令してきた。
それからも、スイッチが入ったのか、服に糸くずがだの、もっと髪を整えろだの
もう勘弁してくれぇ……。
最終的に、この香水が人気だからつけていきなよと言われた時はラベルも、匂いも確かめることなく拒否したものだ。
どうにも、強烈なにおいを身に纏《まと》うという行為が好きになれない。
「じゃあ、デート楽しんできてね」
それからしばらく問答は続いたのだが、ようやく合格点を貰えたらしく、笑顔で手を振って来る。
散々注文なり
というかさ、
「食事っていっても、デートでもなんだもないぞ。雫さんの友達も来るらしいし!」
「……」
僕の発言に妹は絶句した。
「それ! 本当!」
「嘘つく理由がこっちにはないだろ」
「それを先に言いなさいよ、バカ兄貴!
デートだと思って張り切った私がばかみたいじゃない!」
「こっちは、はじめからデートじゃないって言ってたよな」
「それはそうだけど」
このやり取り。
最新の人気キャラ、ツンデレ系妹ヒロインと同じだ。
ツンツンとした言動をとりつつ兄を心配する姿。これは小説の題材になるかも。
そう思えばこれまでのやり取りは決してムダではない。
色々と思うところはあるけれど、最終的に妹への感情は感謝で固定された。
「こっちは、兄貴が女とデートすると思って、友達とかみんなに連絡したのに」
「お前何してんの!」
ということはなく。
ぶん殴ってやろうか、こいつ。
今、分かった。
ツンデレキャラのお節介ほど迷惑なものはない。
物語の中ならほほえましいかもしれないが、現実でやられたら、ひたすらに面倒なだけだ。
そもそもの話。この手のキャラは、登場させるにしてもヘイトコントロールが面倒なのだ。
頭の中で作り上げていたツンデレヒロインのキャラシートをゴミ箱に捨て去った。
「おい、新字! 彼女と食事って本当か」
「あ、大兄……貴?」
一番上の兄はこの時間いつも外に出歩いている。
だからだろうか、涼子は少しだけ戸惑っているように見える。
というか、どうしてか息が乱れていた。
何が目的で、そんなに急いで帰って来たんだよ。
「お前、女とデートするんだってな」
「それがさ、デートじゃなくて友達との食事会だって。
知り合いの女の他にも、もう一人来るらしいよ」
「なーんだ、つまらんな」
たったいま判明した真実を知るや否や、兄貴は肩を落として、もうここに用はないと、庭先に斜めで止めていた車に乗ると、エンジンをふかし、またどこかに出かけて行った。
「おい! お前がデートなんてでたらめいいうから危うくストーカーができるとこだったぞ」
「まじでごめん。でも、こんな事態になるなんて想像できないって」
「確かにそうだけど、これが仮にデートだとしたら大惨事だぞ」
「分かってる。これからはSNSに他人の交際関係は書かないことにするから、それで許して」
書いたのSNSに!
個人情報漏洩《こじんじょうほうろうえい》してない!
急いで確認したが、身内以外に情報は流していないということで、どうやら大丈夫そうだ。
「じゃあ、いってらっしゃい!」
あれほどエネルギッシュに僕のことを呼び止めていた涼子が、兄の奇行を見て頭が冷えたのか、静かに送り出してくれた。
「あとで、話聞かせてね。あと、何でもいいからおみやげもね」
「なんで、地元の居酒屋に行くだけでおみやげ要求されるんだよ」
訂正、やっぱりこいつ元気いっぱいだ。
がめつさは相変わらず健在だった。
まったく、ただ送り出すこともできないのか、こいつは。
車から降りれば、ビュービューと北風が吹き荒れる。
「あーさむっ!」
と、反射的に寒さを和らげようと腕で体を抱きしめた。
店内を見るが目当ての人物はどこにもいない。
時刻はまだ10分くらいの余裕はある。
騒がしいのがあまり好きではないのと、先に飲み食いするのは相手の心証を害するのではないという遠慮があり、あと5分くらい待ってもいいかなと、北風に身をさらすことを決めた。
いつもなら、こうした
すぐに、
「やはり、店の中で待っていよう」
と、歩きだしたところでおっと目を開いた。
車の窓からお目当ての人物の姿が見えたからだ。
スマホを確認すれば、僕が到着して3分後だった。
「すいません、待ちました」
「そんなことないよ、今来たところ」
それはまごうことなき事実だ。
「それにしてもこの会話、ラブコメのワンシーンみたいですね」
「僕も思った。
初デートを楽しみにしている恋人が予定の時刻よりもだいぶ早く目的地にし来て、じっと待っているのは鉄板だしね。
でも、本当に今来たばかりだから気にしなくてもいいよ」
「ならいいけど。
でも、この経験を小説に落とし込めるかな?」
「いや、日常の経験全てを小説に落とし込む必要はないと思うけど」
「それを聞いて安心しました。恋愛は人気ジャンルですが、どうにも私は苦手で……」
「僕も苦手ですね。
でも意外。女性は恋愛物が得意というイメージがあったので」
もっとも、男性でありながら恋愛ものが得意な人間というのは少なくない。
具体的には太宰治とか。
「ネット小説で男女の差が出る題材といえば悪役令嬢じゃないかな。あれを書いている人物のほとんどが女性だそうだし」
信じられるか、この色気のない会話。
さっきまで、この展開ラブコメで見たいとはしゃいでいた男女なんだぜ。
だらだらと始めた会話であるが、いつの間にか高速でボールを投げあうキャッチボールに発展。
話を少し広げすぎたな、どうやってこの会話を終わらせようかと少し悩んだところで、ビューッと北風が。
雫さんは
僕はもう寒さに耐えきれないと、いそいで店の中に入っていく。
店の中に一歩入れば、温かな空気にほっと息を吐く。
冷風によって、ラブコメについて語ろうという思いが、文字通りに吹き飛んだ。
とりあえず、何か食べて温まろうと、女将に向かって注文を口にする。
雫さんは生ビールのジョッキを。
僕は酒が飲めないのでウーロン茶だ。
ついでに、つまみだが……。
雫さんとの
なら、
「焼き鳥、タレのモモ肉、ねぎま。お願い」
雫さんと出会った後も、たまに兄とここを訪れるている。
もっとも、その回数は2、3回だが。
そのせいか、女将はこちらの顔など憶えておらず、他の客にやるように形式ばった話し方でこちらに対応してくる。
しばらく雑談でお茶を濁しつつ、ようやくやって来たそれ。
いつもの調子で手を伸ばしたのだが、
「あ!」
と声を上げてしまう。
塩なら問題ないが、タレは、砂糖による粘つきで手を汚してしまう。
その汚れをどうにかしようと舌で舐めれば、口の中にやってくるのは塩気と甘みだ。
刺激の強さだけで語るとすれば、指先だけでも、塩より味の
再度串に手を付ければ、もう、指先が汚れる程度のことは空腹でどうでもよくなった。
これが慣れかな?
隣にいる、雫さんはもう塩の焼き鳥を口の中に放り込んでおり、この場では小説よりも食い気が優先されるようだ、と思った。
おいしそうにご飯を食べている姿を見ると、僕も我慢できなくなった。
「まずは一口」
大きく口を開き、その中に串を放り込んだ。
まず感じたのはタレの滑らかな舌触り。その次にモモ肉が持つ弾力だった。
続いて甘く、そしてどこか香ばしいにおいを
「甘い、でもうまい」
あちちと、今さらながら肉に息を吹きかけ、それでも歯を立てれば、
これだけの
『旨い』
小説家ならば、もっと私的な表現でこの味を表現すべきだろうが、このシンプルさを極めた料理の前では凝った表現はその味の表現の心理から遠ざかってしまうのではないかと思える。
「次はねぎま」
モモを食べ終え、次に注文したねぎまの小さな串を手に取った。
先ほどはぺろりと平らげたが、少し味覚に変化が欲しいなと思い、串の下半分に七味を二度三度と振りかける。
そのまま口に含めば、ジュルリと歯と歯の間から爆発するように汁がこぼれだす。
カリッと焼いて中に肉汁を閉じ込めた鶏肉だけではなく、香ばしく焼き上げられたネギからも旨味とともに水気がやって来る。
そしてもう一口。
「やはり、七味は正解だった」
口の中に、トウガラシの少しひりつく辛みが広がり、味をピリリと引き締めていく。
ああ、もう辛抱《しんぼう》たまらんと、僕はお茶碗を手に取り、この焼き鳥をおかずに白米を食べ進んでいく。
やはり日本人ならこれだよなと、白米を食べると感じる懐かしさを焼き鳥と共に噛みしめた。
空っぽになったお茶碗を机の上に置く。
箸を手放し、女将に新しい注文をして。ようやく一息ついた。
横を見れば、雫さんもまた皿の上に串を置いている。
「……」
「……」
おたがいに満腹だからだろうか、どこか心地よい静寂が二人に訪れた。
「紹介したい人がいるって言ってたけど。まだ来ていないのか」
席について食事を始めている。
事態が進行している現状で、今さらながら、やって来るであろうもう一人のことを思い出した。
「ああ、それは……。
すいません急用が入ったみたいで」
「単なる飲み会だしね。
こられないなら仕方ないよ」
「でも、少しくらいなら話できます。どうか、自分の作品に役立ててください」
『ごめんね、あたし顔出しNG何だ、お兄ちゃん』
雫さんのスマホの向こうから、合成音声がやって来た。
――また、変なのが来たな。
今、鏡を見ればすごい顔になっていただろう。
雫さんが無言で手を合わせ、頭を下げているおかげで、その顔はさらされることはなかった。
それだけが、この不運の連続の中で癒しとといえるだろう。
『お兄ちゃんの作品読ませてもらったよ』
「ありがとうございます、それで……、もしかしてこのままお話しされるので……」
もしかして突っ込み待ちだったかな。それだと悪いことしたかも。
『もう、知らないの。私には中の人なんていないんだぞ☆』
『うぜえ』
おっと、つい本音が。
でも、本人がそれでいいなら、もういいかな。
「えっと、確か。メスガキ千尋さんでしたよね。
いつも動画投稿サイトを見ています」
雫さんから名前を聞いた時聞き覚えがあったんだよ。
今ようやくだれか思い出せた。
この人物は僕が良く視聴しているネット小説のレビュー動画を上げているVTuberさんだった。
『え! お兄ちゃん私のファンなの。そっかぁ、ありがとね』
「いえ、忙しい中、時間を作ってもらって、こちらこそ」
なぜか丁寧かつ文化的な会話が進んでいく。
それに本当にこのまま話を進めるのかと、雫さんがスマホと僕との間で視線を動かしまわっている。
その気持ち、分かるよ。
「それで、僕の作品は面白かったですか」
ほら来いよ。
もう、当たり障りのない言葉で改善できないところまで来てるんだよ。
どんな言葉であろうとも、受け止めて見せる。
「そうだね。小説は良く書けてた。
キャラに関しても大きな矛盾はなかった。
話の流れも工夫されていたと思う」
あれ、意外にも好評だぞ。
「ただし、ネット小説としてはきついね」
……! 悪いところなんて一つも語っていないのに、なぜ?
「手始めに、雫ちゃんのいいところを5つ語ってくれないかな」
「やだよ」
僕は、ひたすらに
「ぶはっ――」
と、男らしい声を上げながら、机にジョッキを打ち付ける女性を眺めた。
「どうしてそんな恥ずかしい話をしないといけないんですか」
「はぁー」
拒絶に、向こうは大きなため息。
「それができない、おまけに否定の言葉が恥ずかしい!」
思ったよりも数倍は不評を買ったな。でもどうして。
「断言するけど、お兄ちゃんにはネット小説家の才能がない」
絶句する僕を気にも止めずメスガキは畳みかける。
「それでお兄ちゃんは私がどうしてそう思ったかわかる?」
「……」
答えは沈黙だった。
答えが分からないからこうして話を聞いてもらっているのだ。
回答があるなら、そもそもここには来ていない。
「なら、どうしてお兄ちゃんの作品は人気がないと思う」
「それは……、観客が悪い!
僕の作品は面白い。なら最大の原因はそれだ!」
速く答えないといけないという焦りから、僕はとんでもない返答してしまった。
「ふーん」
無機質な機械音声。感情が見えないが、どうしてか今は沈黙が怖かった。
「つまり、お兄ちゃんは、自分の作品は完璧で、読まれないのは読者に見る目がないと、そんな無責任で、ダメダメな、それこそゴミ屑みたいなこと思ってるんだね」
「ああ」
酷い言い草だが、もうここは突き進むしかない。
「分かった、訂正するよ。お兄ちゃんには……」
次に来る
「ネット作家としての才能がある」
「はい!」
急な手のひら返しに僕は呆然とすることしかできなかった。
いや、マジでどうなってるの。
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